あきない世傳金と銀特別巻下 幾世の鈴 高田郁
暖簾 明和九年 1772年
桔梗屋の番頭から五鈴屋高島店の支配人になり、今は五鈴屋八代目徳兵衛となって十八年になる周助。九代目を考える時期になった。 周助は、元桔梗屋の旦さん95才を看ている。
六代目の智蔵の息子が、紙屋伊吹屋の息子・貫太として生きていることが判った。紙屋三つ峰で手代をしている。五鈴屋縁の者だけが持つ小風呂敷を持つ貫太だか、伊吹屋を継ぐ、自分の父親は伊吹屋文伍だという貫太。周助は、九代目は賢輔にと思うが、賢輔は、幸と一緒になると言ってきた。周助は、九代目に譲ったあと、桔梗屋の暖簾を揚げ、太物商いをしようと思っている。
菊日和 行人坂の大火で、「菊栄」も五鈴屋江戸店も、惣次こと保晴の井筒屋も蔵だけを残して被災した。菊栄も井筒屋も再建した。蔵の中の物を売って売り上げた。菊栄は、惣次から助言を受けている。今の惣次には情があった。菊栄はまた新しい物を考え出す。五鈴屋も協力し、売り出す。
五鈴屋の再建をせず、御救小屋の施しをする五鈴屋に、隣の商家から値引きされた土地を提供された。店は大きく再建された。
幸と賢輔は大阪へ旅立った。菊栄の実家・大阪の紅屋が潰れた。
行合の空 播磨の国、赤穂郡の東端、揖西との堺に、結と忠兵衛と、桂・姉・十、と茜・妹・七が、旅籠「千種屋」を営んでいた。忠兵衛が重追放になって十年。子宝に恵まれたため生き抜いた。忠兵衛は病気から立ち直った時、執着を手放していた。結は、姉・幸にそっくりな桂を見ながら姉への嫉妬や憎しみに捕らわれ続ける。
桂は泊まり客にお守りを作る。桔梗屋の白地に藍の浴衣地の話が聞こえてくる。結は唯一の財産・型染の枠を持ち出し見せる。仲買人は一笑に。やってきた忠兵衛は、貶めた限りは制裁をと昔の顔を覗かせる。商いの息の根を止めることなぞ、案外、造作ないことだと言った。
茜と桂が麻疹に掛かった。生き長らえるのは難しいと言われる桂。桂と茜を、自分に照らし合わせて考える。桂は助かった。結は姉さん幸せでと願う。
幾世の鈴 天明五年 1785年
三兄弟に嫁いだことを意に介さず幸を慈しむ賢輔。九代目徳兵衛。 開店から百年。
御上からの御用金の話は無くなった。しかし、賢輔は、尼崎藩に五百両を貸し付けることにした。手代や番頭が集まった時、何故出すのかという話になった。一人が、色々な縁が結ばれ商いは成り立つ。人さんに手貸せる時は貸して、借りる時は借りる。「万里一空」と言った。
背負い売りをしている者が、伊勢に行く賢輔と幸に、播磨で手に入れた泊まり客のために作られたお守りを出した。良く守ってくれると噂で泊まり客が絶えないと言う。ひとつ鈴がついた可愛いお守りだった。
伊勢での旅で、賢輔は百年後の店のために百年の店の来し方を書き残そうと話す。
「商い世傳」