2022年1月31日月曜日

若鷹武芸帖⑨  五番勝負

若鷹武芸帖⑨  五番勝負 岡本さとる

 八月、「番方の武芸の腕を調べよ」このところ武芸場で剣術の稽古に汗を流していた公儀武芸帖編纂所頭取りの新宮鷹之介は、久しぶりに将軍・家斉から命を受ける。
 武芸優秀なる者を数名、日頃の稽古、いかに鍛えているかを確かめて武芸帖に記し家斉に上書するという趣旨だった。
  
 第一番 小姓組番衆・増子啓一郎 鷹之介より二才年上で、小姓組番衆であった五年の間、好敵手と言われた二人だった。
 増子の通う撃剣館に行く。館長は岡田十松吉利、師範代は斉藤弥九郎だった。 
 増子は以前と同様、立ち居振る舞いが大仰でどこか芝居かかっていた。慇懃無礼な様子も変わらなかった。師範代との型稽古のあと弟弟子との稽古をしたのを見た。増子の武芸への心得、こだわり、稽古内容を記した。若年寄・京極周防守に提出後すぐ登城命令がくる。将軍の前にて上申せよということだった。編纂方・水軒三右衛門、松岡大八、家士・高宮松之丞も庭先の隅に付き従うことが許された。
 家斉は増子との立ち会いを命じた。鷹之介は倒す剣ではなく相手の技を引き出す剣を使う。充分渡り合い鷹之介は右肩に袋竹刀を乗せた。家斉は両名とも天晴れであった。増子啓一郎への聞き取り確と受け取った。武芸編纂所を頼んだぞと声を掛けた。増子は二人の飾らぬやり取りに驚いた。
 増子は後日、編纂所を訪れた。家斉の鷹之介は啓一郎にどうしてやさしいのだろうという質問を持ってきた。道場に通い始めた頃啓一郎は頼りになる兄弟子だった。とこたえた鷹之介だった。

 第二番 書院番衆・子上礼藏 抜刀術、馬庭念流 変わり者といわれている。婿養子で義母が口うるさいにもかかわらず、屋敷内では家来を相手に古の武芸者のような稽古を積んでいるという。
 屋敷に行くと、隠れていた家来が子上に討ちかかる。子上は竹光で彼を押さえ込む。隙があればいつでもかかって参れという稽古。庭での抜刀の繰り返し。座して抜き、立ち上がって抜き、片膝立ちで抜き、尻餅をつきながら抜き刀を横に薙ぐ。身体を連動させながら抜刀した。庭に義母の目があった。
 馬庭念流の道場へ行く。馬庭念流は守りの剣、子上は敵を知ろうとする稽古をしていた。
巻き藁で据物斬りを見た。立ったまま、座して、片膝たちから起き上がる間に、片膝になる間に、尻餅をつきながら抜いた刀が、巻藁を真っ二つにしていた。見事だった。武芸帖にまとめ上申する。酒食の席で義母に子上が上様からお誉めに与ることになると伝えたが、義母は、武芸編纂所も大したところではないのでしょうというような気持ちで答えたようだ。
 この度も吹上の庭で仕合をすることになった。二人の前に藁人形が飛び出してくる。それを抜き技で斬る。何体目か、鷹之介は斬らなかった。赤い帯を巻いた女官に見せてあった。家斉は母から受けた慈しみが深かったからだろうと言った。
 子上をちょうきちに誘った席で、子上ははればれとしていた。上申した武芸帖に「姑殿の信をえられればさらに稽古が充実するだろう」と書いておいた。この度のことは縁者から義母の耳に入り、人が変わったように慈しんでくれております。子上の言葉になった。

 第三番 大番組頭・剣持重兵衛 35才 小野派一刀流 老中からの話し。28才の番士が、剣持の屋敷内道場で稽古中に亡くなった。他にも早く隠居する者も多数出て、武芸鍛練が度を越しているのではないかという声があるという。実態を明らかにしたい。
 屋敷道場に赴く。早い間合いの組太刀から始まる。この早さでは危険極まりない。怪我をする者が出てくるのではないかとの質問に、それを恐れる者は一人もいない。怪我人が出れば勤めに障りが出るのではないかとの質問に、いくらでも代わりがいる。と答える。覚悟を持って厳しい稽古に臨まれている。と書き留める。ここの稽古は強制となり少しでも違う考えを持ったり行動したりすると異端と捉え許さぬ方向へ進んでいくようになってしまっている。亡くなった番士は、剣持の気に入らぬ者えの制裁だった。と鈴木又右衛門は言った。
 次の稽古の時、重兵衛は又右衛門を弄ぶように、籠手と胴を打ち据え足払いをかけた。立ち上がれなくした。鷹之介は、武芸帖にはいざという時のため型、組太刀、立会いにいたるまで日々厳しい稽古を己に課し、命を賭する覚悟で励んでおられると記させていただきます。と帰った。
 家斉の御前に召された。二人は白鉢巻に白襷。袋竹刀で立ち合った。鷹之介は重兵衛の早間の組太刀よりももっと早い間で小手の三段打ちをする。重兵衛は不甲斐なく一刀も返せず袋竹刀を落とされ足払いに倒され、額すれすれに鷹之介の竹刀はぴたりと止まった。命を賭しての稽古に励むが、命を落としては勤めに障りましょう。代わりなどいくらでもいるとは思いたくないと鷹之介は言う。
 己が腕におごり将軍家の家来を徒に損うのは不届き。己を鍛え直せと家斉に言われる。組頭の代わりを見つけねばならぬ。

 第四番 新番衆・連城誠之助。25才 手槍。上様が鈴を嫁がせると聞く。
 鷹之介と誠之助は似ていた。剣は直心影流だが、父から鹿島神流の槍を学び、棒術を槍術に組み込み自分の手槍の術を編み出した。創意工夫の楽しさに目覚めた。連城流槍術。誠之助は仕合用の手槍を拵えていた。三人の剣士と誠之助の仕合を見る。鷹之介は手槍に勝方法を見いだせない。
 吹上のお庭に召された。今回は御簾が下ろされ家斉の妻妾がいた。そこに、男装姿の藤波鈴がいた。仕合はとたんぽ槍と袋竹刀の大小。ふたりはにこやかにうなずき合った。鷹之介は誠之助の技の素晴らしさをみせねばならぬと思っていた。両者の凄まじい動きと交錯による攻防は感嘆させた。二人は、おもしろい、楽しい。鷹之介は二刀流になった。小太刀を投げ、誠之助が払い落としている間に彼の懐に入りたんぽ槍ははねあげた。槍の柄を持って引き寄せ首筋に竹刀を押し当てた。
 誠之助に鈴のことを聞くが、何も知らなかった。
 父親の日記に柳生の水軒三右衛門らしい人物のことが書かれているのを見つけた。亡くなる前に書いていた。
 
 


2022年1月30日日曜日

医療 時代小説傑作選 いやし

医療 時代小説傑作選 いやし 細谷正充編

 藪医 ふらここ堂 朝井まかて
 いつもいい加減な医療をする三哲に娘・ゆんは振り回されていた。大店の子供の診療に行き、三哲は子供の状況を見抜き、適切な指示を出し処置をする。
 
 春の夢 あさのあつこ 
 呉服問屋で働く春、若旦那の子供を身ごもり堕胎医・ゑんを訪ねる。春は産む気になり帰るが、若旦那に階段から落とされる。死にそうになりながらゑんの家まで辿り着く。子供は亡くしたが春は助かる。ゑんは若旦那を呼び出し春が亡くなったと告げ、毒薬と毒薬が入っていない茶を出しどちらかを選んで飲ませる。若旦那は飲み気を失う。どちらにも毒薬は入っていなかった。若旦那は駕籠で運ばれる。春はゑんのところで働くことになった。
 
 菊姫様奇譚  和田はつ子
 藤屋桂助は萩島藩の桃姫の歯の治療に行く。桃姫は菊作り職人だという菊吾に騙されていた。歯の治療をしなければいけないのに桃姫は菊吾に連れ出された。菊吾の仲間だと思われる美沙をつける。香炉や掛け軸を持ち出した。美沙は荒れ寺に行った。棺桶に姫は入れられていた。当て身を喰らわせさるぐつわを縛って桃姫の代わりに棺桶にいれた。桃姫の歯の治療をした。
 
 仇持ち 知野みさき
 石川凛、凛の兄は勘定方だった。横領を咎められ自死とされた。石川家は取りつぶされ妹と母は病で亡くなった。兄の形見の文箱から訴状を見付けた。兄の友人・竹内に橋渡しを頼んだ。凛は竹内に嵌められ犯され売り飛ばされた。凛は仇を討つために一年耐えた。凛は望月要に請け出された。刀匠であり伊賀者であった。武芸と医術を教えられた。二年後、要は消えた。竹内は辻斬りに斬られて死んだ。もう一人の仇・山口は江戸定府になっていた。
 江戸へ出、津藩に出入りの町医者栗山千歳に目を付けた。千歳の目前で、永代橋から大川に飛び込んだ。助けられ家に運ばれ住み込む。医術をかじっているので役にたつ。
 津藩中屋敷へ行った。山口に会った。山口は病気だった。次の機会があれば毒薬を飲まそうと思った。山口は生ける屍と言った千歳の言葉を思い出し、山口の耳元で石川忠直の妹だと名乗り、兄の仇討ちに来たことを告げただけで止めた。
 凛の師匠・要は千歳の友だった。

 寿の毒 宮部みゆき
 小間物屋の女将・きちが毒で亡くなったようだ。きちは離縁になった蝋問屋辻屋の隠居の還暦の祝いの宴席で食事をした夜だった。食あたりと思われたが検視した成毛良衛同心は福寿草の毒だと言った。
 夜、気分が悪くなったきちを診療した評判の良い売り出しの若い医者・安川だった。きちは火事で家族を亡くした安川に言い寄っていた。上手く払いのける方法を知らなかった。

2022年1月29日土曜日

昨日がなければ明日もない

 昨日がなければ明日もない 宮部みゆき

 絶対零度 2011年 11月3日 杉村探偵事務所十人目の依頼人。筥崎静子さん。結婚している娘・佐々優美が自殺未遂で入院して一ヶ月以上になるが会わせてもらえない。娘が会いたくないと言っているということしか聞いていない。一度会って話しがしたいと相談にきた。杉村は、クリニックやフェイスブック優美の夫のことを調べる。大学のホッケーチームのOBに横暴な俺様的な人・高根沢輝征がいることがわかった。また、優美が自殺未遂をした二日前に自殺し亡くなった、メンバーの奥さんがいることも判った。優美がクリニックにいないことがわかった。優美は高根沢の別荘にいる。閉じこめられているのかと心配したが、優美自身が隠れていることがわかった。
 高根沢が殺された。仲間の重川がいなくなった。優美が、トモ君も殺されると言いながら母親の元に帰ってきた。
 杉村が連絡を付けようとしていた奥さんが亡くなったホッケー仲間の田巻康司が事務所に来た。二人を殺したと言った。杉村はこちらの経緯を話した。彼は殺した理由を話した。二人は殺したが、佐々夫婦は殺すつもりはなかったと言う。生き証人が必要だ。二人には生き地獄を味わいながら長生きして欲しいと言う。
二人でホットサンドを食べコーヒーを飲んで、証拠品を乗せた車を置いてタクシーで目黒警察署に行った。
 田巻夫婦は、高根沢たちから距離を置こうとしていた。9月30日 優美が相談に乗って欲しいと田巻の家に来ることになった。高根沢たちを連れて来た。逃げようとした奥さんを優美が止めた。奥さんは強姦された。次の日、田巻の妻は飛び降りた。十日後、佐々は集団強姦容疑で手配された。佐々夫婦は被害者意識的な弁護発言をした。

 田巻から聞いたと警視庁刑事部捜査一課継続捜査班の立科警部補が事務所を訪れる。十三年前の暴行絞殺事件の犯人が高根沢だったようだ。高根沢を殺さないで欲しかったと言う。杉村は十三年前にあなたが捕まえていれば、田巻夫婦は今も幸せに暮らしていたはずだと言った。
 
 華燭 2012年 事務所のオーナー竹中さんと一緒に、駅前のバイクショップ小崎の奥さん・佐貴子の姪の結婚式に行く中二の加奈ちゃんの付添をすることになった。佐貴子は二十五年前、結婚式の日に、結婚相手と妹に駆け落ちされていた。妹のお腹は三ヶ月だった。妹の肩を持つ両親と妹と絶縁していた。結婚するのは妹の娘・その時お腹にいた子・静香だった。妹は二年後離婚し、再婚している。佐貴子は十年後結婚した。加奈が入った学校の事務職員に静香がいた。
 三人が会場に行くと、礼服の人が群れている。竹中さんはホテルの一室にチェックインする。
 同じフロアの結婚式は二組、一組目の花嫁がいなくなっていた。二組目の結婚式は静香。だが、二股だった彼の所に彼女がきてこそこそしているのが見付かってしまった。真相だ。
 杉村は逃げた花嫁を見付け部屋に伴った。花嫁は21才、相手は62才だ。親に借金があった。全部を粉々にぶっ壊すには大勢に知られるように隠したり出来ないタイミングでしようとした。竹中さんは関係者が引き挙げるまで時間を潰し、化粧も落とし服も替えて出て行きなさい。ウエディングドレスを残していかないでねと言って会場へ行く。
 一ヶ月後、一人で挨拶回りをしていると静香が竹中家にやってきた。杉村もおじゃまする。静香は破談になり仕事も辞めて神戸へ行く。
 杉村は竹中夫人と話す。静香と21才の花嫁・菅野は計画を立てた。花嫁の着替えを静香が用意し、静香の新郎側の控室でもめ事が起こって居る隙に菅野が逃げる予定だったのだろう。それが新郎は誰も寄らないよう静かに事をしていたものだから菅野が逃げられなくなってしまったのだろう。やっと荷物を受け取った時、杉村たちと会ってしまったと言うことだろう。二股の彼女に知られないようにしていた結婚式の詳しい内容を元かのに教えたのは、静香に頼まれた菅野だったのではないだろうか。当たっているか確かめられないけれど。

 昨日がなければ明日もない 2012年ゴールデンウィーク。竹中家長男夫婦の長女・有沙中一    の友達の母親が来る。次男・竜聖が殺されると言う。
 杉村は調べ始める。朽田美姫は16才で長女・漣を産んだ。美姫の両親が育児を引き受けた。A氏と東京に来た。一年で終わり、B氏と生活、鵜野一哉と交際、鵜野の両親に結婚を反対される。鵜野の子・竜聖を産む。結婚。美姫の借金が数百万になり、鵜野家が借金を払い離婚。竜聖は鵜野家が引き取った。漣が五年生の時、串本憲章と生活するためこの町に来た。竜聖は養子縁組みを考えている夫婦・浜本家で暮らしている。
 竜聖は交通事故だった。美姫は竜聖の養子を認めない。鵜野家の遺産相続の権利があると言う。鵜野一哉も再婚が決まる。美姫の妹・三恵と会う。
 報告書、動画は朽田家に送る。美姫は串田と別れ漣を連れて実家に帰っていた。
 
 竹中家の長男のお嫁さんの話を聞く。普通の格好の美姫と漣が連れ立っているところに行き合わせた。漣が「あんた私に逆らえると思ってんの」と言っていた。美姫さんも逆らわないで目をそらしているだけ。杉本は串田に会う。美姫は実家にもいない。
 朝食に侘助に行くと、立科吾郎警部補がいた。私と一緒に来ませんか。どんな探偵か判りますよ。と誘う。たぶん人が死んでいます。
 朽田家に着いた。三恵は自分が殺したことを自白した。遺体は父が運んだので何処にあるか判らない。杉本の報告書を見ている時、美姫が竜聖を引き取って鵜野と復縁しようかと言った。思わず鵜野の再婚を言ってしまい美姫がヒステリックになるのを止められなかった。思わず硝子のスノードームで殴ってしまった。
 


2022年1月26日水曜日

それでも江戸は鎖国だったのか

 それでも江戸は鎖国だったのか 片桐一男
 〜オランダ宿 日本橋長崎屋〜
 鎖国と呼ばれた時代、江戸にオランダ人の定宿、長崎屋があった。
 将軍謁見に出府したカピタンの宿、杉田玄白、平賀源内等が訪れ、そこは異文化交流のサロンであった。
 江戸は本当に鎖国だったのか。

2022年1月25日火曜日

京のオランダ人

京のオランダ人 片桐一男
 〜阿蘭陀宿海老屋の実態〜

 海老屋 河原町通三条下  現在 京宝・駸々堂のあるところ。

2022年1月23日日曜日

大河の剣〈四〉

大河の剣〈四〉 稲葉稔 

 大河は武者修行中、山口から九州に渡る。舟が転覆し腕を骨折する。

 江戸では、奇蘚太郎が亡くなった。
 地震で家屋の倒壊があった。玄武館も潰れた、西隣の瑤池塾の土地を買い大きく建て直す予定。鍛冶橋の道場は桶町に移り大きくした。
 水戸で周作が亡くなった。

2022年1月21日金曜日

栄次郎江戸暦〈26〉 幻の男

栄次郎江戸暦〈26〉 幻の男 小杉健治

 船宿に賊 が押し入り人質をとって立てこもった。塚本源次郎を探しだせ。捜し出さないと人質を殺すと言う。通りかかった矢内栄次郎は事件に関わって行く。

 立てこもりの最中、役人が屋根から進入しようとして、人質一人が殺される。人質三人を連れてどこかに移動した。塚本を探せと人質の一人が殺される。
 塚本を探すが十年前に切腹していた。塚本は結婚したばかりの妻が、以前から上司と関係があったことを知り、妻を殺し、上司を殺し、自身は切腹した。塚本家、上司の家も断絶していた。
 贋の塚本源次郎を仕立て人質と交換する。人質は助かった。細かく調べ贋の塚本・冬二の捕らわれ場所を見付け助け出す。
 殺された二人の身元が判らない。何処の誰かわからなかった。
 冬二が恨んでいる旗本が殺された。
 栄次郎は、殺された二人をお庭番だと考えた。お庭番を殺すために人質事件が仕組まれた。二人が探っていた大名に頼まれた弥三郎が、狙いをカモフラージュするために十年前に死んだ主家の名前を出した。新しく人質になった冬二に頼まれ、旗本を殺したと考えた。
 冬二の許嫁が、旗本の無体にあい、自殺していた。
 弥三郎の隠れ家に侍が入っていき、弥三郎を殺そうとする。栄次郎は助けるが、弥三郎は大名の関与を認めない。塚本家の再興のため塚本家を思い出して欲しくてやったと言う。旗本を許せなくて自分が殺したと言う。侍は二十万石瀬尾伊勢守の屋敷に入った。
 弥三郎が全てを背負った。
 栄次郎はきっと真相に迫ってみせると思った。

 栄次郎に縁談が持ち上がっている。兄の許嫁・美津と親しい二千石の旗本織部平八郎の娘・容。栄次郎は三味線弾きとして生きたいと思っている。

 栄次郎は大御所治済の庶子。母は旅芸人。治済の近習番だった矢内が引き取り、矢内栄次郎として育てられた。矢内家は二百石の御家人。兄・栄之進は御徒目付。

2022年1月20日木曜日

武士の家計簿

武士の家計簿 磯田道文
 〜加賀藩御算用者の幕末維新

 「金沢藩士猪山家文書」という武家文書に、精巧な「家計簿」が例を見ない完全な姿で遺されていた。
 天保十三年(1842年)七月から明治十二年(1879年)五月まで。欠けているのは一年二ヶ月
信之→直之→成之

 前田家家臣・菊池家の家政から享保十六年(1732年)前田家直参になる。
 御算用者ーーー隠居前田重教の「御次執筆」ーーー改作所定役、御下行定役ー加増ーーー退職。
 御住居向買手御用ならびに御婚礼御用主付 
 溶姫君様御住居付御勘定役  知行地を貰う 信之
 中納言御次執筆役   直之
 御算用者 御守殿様御用人衆執筆役加人(江戸) 兵站事務(京都) 新政府軍「会計棟取」 兵部省「会計司出仕」 「兵部省会計権少佑」 「会計少佑」 海軍掛  尚之

 

2022年1月18日火曜日

無事 これ名馬

無事 これ名馬 宇江佐真理 

 春風ぞ吹く の続きらしい。

大伝馬町の鳶職・吉蔵宅に七才の村椿太郎左衛門が、男にして下さい。とやってくる。
この子が、春風ぞ吹くの五郎太と紀乃の息子らしい。太郎左衛門と吉藏の付き合いが始まる。

 吉蔵55才 は組の頭取、三人の内の一人。もう一人の頭取は吉蔵の甥・金次郎35才。もう一人は姉の夫・金八61才。太郎左衛門は大頭と呼ぶ。金次郎は若頭。吉蔵は頭だ。
金次郎と吉蔵の娘・栄は所帯を持つ予定であったが、金次郎が水茶屋に勤めていたけいとわりない仲になり子供ができたため栄は泣き泣き諦めた。栄は金次郎の弟分・由五郎と一緒になり、くみ4才が生まれている。
 吉蔵と金八の他愛もない話しを太郎左衛門は聞いている。家の者が火事場に向かう時、家の留守番をしている。
  
 吉蔵は太郎左衛門の剣道の紅白試合を見に行く。屋敷に行くと母親に怒鳴られていた。試合の相手は道場主の娘・琴江7才だった。始め!の声で竹刀を突き出され棒立ちの太郎左衛門は竹刀を落とし、面を打たれて尻餅を搗いた。あっと思うまもなく勝負がついた。
 次の日、気力がない太郎左衛門にいらいらしている吉蔵は機嫌が悪い。太郎左衛門はやってきた若頭にとにかく竹刀をしっかり握る。自分の眼を相手から逸らさないこと。と心構えを聞いた。

 正月四日に初出で梯子乗りの技を訓練していた鹿次がいなくなった。由五郎が替わりにする。
 太郎左衛門のおねしょが治ったようだ。
 神田明神の祭りの日、栄が面倒を見ているこけしやから火が出た。勝を助け出した金次郎と宇助が崩れ落ちた屋根の下敷きになって亡くなった。栄は弔いに出られなかった。太郎左衛門はほろほろいつまでも泣いた。
 
 太郎左衛門の紅白試合が開かれた。吉蔵と栄とくみ、村椿家の祖母・里江も行った。相手は太郎左衛門をいじめている村井庄之介だった。太郎左衛門は金次郎に言われた通り、竹刀をしっかり握り相手を見据えている。遮二無二突っ込んだ庄之介を身体を躱して避け、胴に一本入れた。太郎左衛門は勝ち進み八歳組で優勝した。実は太郎左衛門は若頭に稽古をつけてもらっていた。と告白した。若頭に報告に行く。

 吉蔵は還暦を過ぎた。女房・春も姉の富も金八も亡くなった。太郎左衛門の祖母・里江も去年亡くなった。吉蔵は太郎左衛門が祝言を挙げるまで長生きすると言っていたが自信がない。太郎左衛門と吉蔵の付き合いも十年以上になった。
 村井庄之介は大試業に受かり今年は学問吟味を受ける。太郎左衛門は大試業にも受かっていない。父・五郎太も人は人だから焦ることはないと言っている。
 庄之介は学問吟味に落ちて自害した。
 金作・金次郎の息子14才が纏持ちになり出初め式で見事な梯子乗りを披露した。
 火事場の屋根から降りないで金作は亡くなった。
 吉蔵は足首を骨折した。快気祝いを村椿家に届けに行く。五郎太は何の取り柄もない息子だが、無事、これ名馬という。倅は拙者にとってはかけがえのない名馬だと言った。
 太郎左衛門は翌年の春、幕府御祐筆見習いとして御番入りした。
 くみは民治と祝言を挙げ、婿に入った。
 太郎左衛門の弟・大次郎が養子に行き、妹・雪乃が輿入れした。
 三十才を過ぎた太郎左衛門は二十二才のまきを妻に迎えた。吉蔵は足腰が弱り祝言に行けなかった。吉蔵のため太郎左衛門の祝言の行列は大伝馬町を廻った。は組の連中は半纏を羽織り木遣りを唸って太郎左衛門の門出を祝った。
 吉蔵はその夏、眠るように亡くなった。


 

2022年1月17日月曜日

春風ぞ吹く

春風ぞ吹く 宇江佐真理 
 〜代書屋五郎太参る〜

  小普請組、村椿五郎太。25才。先祖は甲斐の国、農民から身を起こし信玄の足軽の後、家康の家臣に仕え、慶長の役、大坂の陣での目覚ましい働きから主・村椿を賜る。江戸にて勘定奉行所役人を仰せつかる。その後、何代か後、料理茶屋に刀を忘れたことが公になり小普請組に落とされた。祖父、父と小普請のまま亡くなった。
 五郎太も学問所には行っているが、学問吟味で優秀な成績どころか緒会業に達していない。緒会業に達していなければ学問吟味は受けられない。
 五郎太は、乳兄弟・伝助がやっている水茶屋で代書屋の内職をしている。

 月に祈りを 幼馴染の俵紀乃が、勤め先で知った局の姉が、婚家に残してきた息子の事で悩んでいると相談に来る。代書屋で頼まれた仕事が、局の姉から息子に宛てた手紙だった。母子が会うことが出来、悩み事が解消された。
 二人は何となく一緒になると思っていた。俵家は息子・内記が御番入りし、父親・平太夫は五郎太に横柄になっていた。
 紀乃に縁談が持ち上がり秋の祝言が決まる。紀乃が縁談相手・宗像と二人の時、旗本の次男、三男の三人に絡まれ、紀乃を置き去りに逃げた。迎えに来た五郎太と彦六で紀乃を助けた。紀乃の祝言は駄目になった。五郎太は紀乃を妻にすると俵家に言うことを約束する。
 
 赤い簪、捨てかねて 仲人を立て俵家に行くが、小普請に娘はやらぬと断られた。二人の母親は賛成だった。紀乃は五郎太以外の人の所には嫁がないと言う。紀乃は平太夫の妹が嫁いでいる医者の所に預けられた。
 五郎太の手習所の橘和多利先生が、江戸を離れることになり、五郎太に勉学に必要な本や道具を残してくれた。和多利が学問吟味で一番に合格し備前岡山藩の儒官となった時、五郎太10才、和多利25才だった。手習所に行かないで泣いて暮らした。和多利に会いにくればいいと言われ訪ねていいことがわかり納まった。そんな和多利が岡山へ行く。
 和多利には赤い簪の思い残すことがあるようだ。昔、世話になった女の珊瑚の簪だった。五郎太は昔の知人を訪ね、持ち主を見付ける。和多利を呼び出し会わせるが、女は知らん顔していた。男はこのような涙を流すべきではない、女を笑いにごまかして泣かせるようではいけない。和多利は学問吟味に捉われ、物事の真実を見失うなと言い残した。
 紀乃から手紙を受け取り会う。和多利の赤い簪を磨き直し、紀乃に送った。

 魚族(いろくず)の夜空 昌平坂学問所の教授・大沢紫舟に、秋の大試業に合格するようと呼ばれる。
 代書屋の仕事で、緒会業で天文地理を教える二階堂秀遠先生に届けるよう頼まれた手紙は先生の父親の手紙だった。秀遠は養子先に子が出来その子に家を継がせるために養家を飛び出していた。今学問所で教え、二階堂家に養子に入っている。秀遠に手紙を届けた関係で、秀遠が田舎に帰る供をすることになった。弟が亡くなっていた。父も年を取っていた。
川で泳ぎ、畑仕事を手伝う。星を見ながら当たり前の暮らしも手に入れることが心許ない有り様だと嘆く五郎太に、まだ自分の持てる力に気付いておらぬ。大沢先生もそれを惜しんでおられた。志が低いとな。玉も磨かざれば光るまい。励め、ただ励め。と叱咤激励される。
 来年の夏、息子を連れてまた帰ってくるという秀遠に、五郎太は本当の弟子となってお供すると宣言する。
 五郎太の家の物干しで花火見物をする。下で平太夫が小普請が何をしておると言う。五郎太は御番入りしたのは内記であり、あなたではないと言い放つ。

 千の言葉より 夏、五郎太は大沢先生宅に夜、教えを請いに通っていた。
 九月に内記の祝言が決まった。内記の誘いで吉原に行く。
 吉原で五郎太が聞いたのは、昔の大沢の話だった。床入りを断り、学問吟味に落ちれば生きてはおれないと言う大沢に、自分は親や兄弟のために苦界に身を沈める暮らし、食う心配もせず学問に頭を悩ましていればいいのだから幸せな男だと言った紫舟花魁。試験に合格し、お役についたら迎えに来ると言った大沢。花魁の励ましは千の言葉よりこたえた。自分も千の言葉より真実を誓う。合格し、教授になってから毎月、銭を届けた。身請けの銭を一年払い続けた大沢に根負けした御亭さんは、紫舟を自由の身にした。大沢は名を紫舟にした。
 大試業が終わった。
 九月十五日、内記祝言
 大試業 及第
   
 春風ぞ吹く 代書屋の仕事で、大田南畝の手紙を京伝に届け、返事を大田に届ける。南畝は46才で学問吟味を一番で合格している。学問所の生徒にとって伝説の人だった。蜀山人だった。本を貰って帰る。
 わたしより学問吟味が大事かと問う紀乃に、誰のために学問吟味を受けているか、さほど祝言を挙げたければさっさと父親の勧める方と一緒になられたら良いと言ってしまった。紀乃は自害を図った。平太夫は祝言の許可をだした。
 大田が進呈してくれた「科場窓稿」には学問吟味の様子が細かく書かれていた。
 一月十六日から二十七日まで。
 三月、紫舟が内々で及第を告げに来た。林大学頭学問所の教授が相談して推薦状を提出した。蜀山人先生も推薦状を出して下さった。表御右筆に推挙される運びだ。御番入りが決まるまでこれまで通り学問所に通う。紫舟は、おぬしはわしの誇りだとの言葉を残す。五郎太には及第したことよりも貴重だった。
 学問吟味の褒章授与式の後、南畝に手紙を書く。
 早蕨のにぎりこぶしをふりあげて 山の横つら春風ぞ吹く の狂歌一首、返事が来た。
 表右筆役で御番入りが叶い、秋俵紀乃と祝言を挙げた。大沢紫舟、二階堂秀遠、橘和多利も出席した。祝辞を述べられ誰が欠けても自分はないと思い、ありがたく五郎太は大泣きした。
 五郎太は表右筆役を務めながら学問所教授方出役選考試験に及第し、教授方出役に当たった。晩年、教授方頭取勤方になる。
 

この本には、まだ続きがあるらしい。
 


2022年1月16日日曜日

御坊日々

御坊日々 畠中恵

 明治二十年 
 二年前、冬伯は、一旦廃寺になっていた東春寺を建て直し住職になった。檀家は残っていない。玄泉という弟子がいる。
 廃仏毀釈の嵐が吹き荒れ大変な時期に先代住職が突然亡くなり若い冬伯では支えきれなかった。 冬伯は相場師に預けられ地味だか損をしない相場師になり寺を建て直した。
 冬伯は今も師僧の死の真相を追い求めている。

 色硝子と幽霊 料理屋八仙花の女将が、売り上げが落ち込んでいる八仙花の立て直しについて相談に来る。八仙花は以前に色硝子にしていた。息子が建て直しを迫る。そのために幽霊まだ登場させた。女将の夫は、相場に手を出している。今は止めているが教えてもらえないかということだった。冬伯は相場に固い損をしない相場はないのだと言う。幽霊で人が来ているのならそれを売りにすればいいと言った。後の手紙で女将は知らせてきた。
 幽霊の芝居をすることにした。夫と二人で庭に花を植えることにした。継ぎは嫁に店をつがせることにした。

 維新と息子 老舗紅屋北新屋の跡取り・昌太郎が相談に来る。昌太郎が生まれる時、同じくして産気付いた小間物屋井十屋の妻が助けを求め、北新屋でお産をした。井十屋の妻・マサが亡くなった。二人の赤ちゃんの世話を北新屋の者がしていた。北新屋の妻・与志江が乳をやろうとして大女将が赤ちゃんを差し出すと、井十屋の子だと言った。大女将が抱いていた子を昌太郎として育てた。与志江は総領息子・昌太郎を可愛がらなかった。大女将が亡くなり与志江は井十屋の文吉を探し始めた。昌太郎は自分の子供がもうすぐ産まれる。それまでにこの話しをきっちりしておきたかった。文吉が見付かり北新屋に現れた。
 昌太郎は文吉を自分の子だと言う母を見て、自分が小間物屋井十屋をやっていく。文吉の借金も自分が払うと言った。自分が失いたくないのは、妻・加乃と生まれてくる赤子だからということで、亡くなった井十屋の供養をしていくと言った。代言人をたて、証人を探し、証文を交わし役所への届けでた。北新屋と井十屋は全く関わりがないことを約束した。
 昌太郎は西洋小間物屋を始めた。

 明治と薬 冬伯は師僧から漢方の処方を受け継いだ。雨の中、冬伯の兄弟子・今は隣の神社の宮司になっている敦久が具合を悪くしてやってきた。冬伯は十数年前、僧から神職にさっさと変わった敦久を許せなかった。冬伯は敦久が師僧・宗伯の傍にいれば宗伯は死ななかったと思っている。
 貧民窟から元警官の西方に聞いたと、公園の設計図を出せとやってきた。設計図は金になると言うがこの寺にそんな物は無い。言っている間に、頭以外の者が、寺の所有物を持ち去った。薬草や薬研やくすりの調剤道具から重箱、書物等。頭・辰馬は冬伯の言葉を聞いた。貧民窟から出ようと思った。
 敦久は、師僧が神職になるよう言ってくださった。妻子がいて路頭に迷わなくて良いように。神職になり見習いとして遠い神社に行った。ことを話した。
 辰馬が寺の道具を見付けた。師僧の日記もあった。

 お宝と刀 冬伯が、徳川の埋蔵金を見付け寺を建て替えたというような噂が流れた。埋蔵金を出せと刀を持った二人が寺に来る。徳川の埋蔵金は持って逃げることが出来ない金。
 西方を探し埋蔵金に付いて聞く。埋蔵金が何なのか考える。
 辰馬は芝居の仲間に入った。冬伯を狙った二人も刀を持てない者に教えるために芝居仲間に入った。大山は斬られ役をしている。

 道と明日 外務大臣に話しを聞くことになった。今の外務大臣が、昔、寺を立ち退きにして公園を造ろうとしていた。外務大臣は、公園の反対運動をしていた住職が亡くなったことを知っていた。もともと病だったが養生せず反対運動をして無理そした。大臣が部下の知り合いの相場師に若い僧を預けた。公園は計画が遅れ銀座煉瓦街建設の話しが出、消えていった。
 二つ目の埋蔵金は幕府が貯めたお救い米だった。もう一つあるという。お救い米を売り街を作った。
 もう一つを見付けた。町名主たちが積み立てていた。冬伯たちは、内務系大臣に外務大臣の街計画のことを教えた。大東京改造の計画は幻になりそうだと噂が流れた。
 

2022年1月14日金曜日

武士の流儀〈六〉

武士の流儀〈六〉 稲葉稔

 一目惚れ 桜木清兵衛は友人・吟味方与力・大杉勘之助から、息子の知り合いの女・夏が出奔し息子との関係を取りざたされそうなので、夏様を探して欲しいと頼まれた。夏は後添えで子どもと上手くいかず家をでていた。最終的には東慶寺へいくつもりだった。他の人に迷惑がかかるとも思ってなかった。子供を身ごもったこともわかり家に帰った。

 名無しの権兵衛 剣で身を立てようと江戸に出てきた蔵次郎だったが、浪人にからまれている商家の主を助けた時、浪人に足を斬られ普通に歩けなくなった。今は楊枝作りをしているが何者になろうか迷っていた。蔵次郎に出会った清兵衛は蔵次郎のために何かをしたくなり、助けられた商人見付けようとする。見付けた商人は蔵次郎を自分の仮借に住まわせ手習い所の先生をしてもらうことにした。

 出戻り 清兵衛は知り合った船頭の娘・きくの相手の男が信用できないと相談される。男のことを調べていく。損料屋の主ということだったが、雇われている掛取屋だった。そして主を殺してしまった。きくは番屋から聞かされ騙されていたことを知る。清兵衛は何も知らせず家に代えれば良いと連れて帰る。きくは父母にすべてを話し、騙されたいたことを話す
 元の亭主が帰ってきて、心を入れ替えて生活すると誓う

 太郎  けいは捨て子を拾った。熱が高く、早に相談する。早は医者に行く。今日が山だと言われる。授乳者・つたを見付け、看病する。太郎と名付けた。右脇腹に腫物が出来大きくなって来ているので手術することになった。成功したが、三両二分必要になった。けいは貧乏御家人の妻で、相談した後来なくなった。夫同士が喧嘩するようになった。清兵衛は捨てた親を探す。母親の仕事先の旗本が、子供共々屋敷内で面倒を見ることになった。子供の父親は旗本の家士だったがいなくなった。旗本は薬料の倍を払ってくれた。早とつたは分けていただいた。

2022年1月12日水曜日

吾妻おもかげ

吾妻おもかげ 梶よう子

 菱川吉兵衛の父親は安房国保田で縫箔師をしていた。奉公人を置いて工房になっていた。吉兵衛は17才で江戸 に出て知り合いの縫箔師に寄宿し十年が経った。父親からたっぷり仕送りを貰って、吉原で遊び、芝居を見る。長男だが、父親の後を継ぐ気にならず江戸で絵かきになる。
 吉原の火事をきっかけに、揚屋・丸川の女将・さわと一緒になり丸川で絵を描く。
 草双紙の挿絵を描く。江戸発信の版行物を出したいという鱗形屋孫兵衛と協力し合う。
 絵と話しが同じ頁にある草紙を摺った。挿絵は誰が描いたか話題になり挿絵者の名を書くようになった。子が出来、仕事が忙しくなり吉兵衛は吉原をでた。
 菱川師宣の画号を入れ絵本を出す。江戸の案内本、吉原の案内本。絵本の絵師であり肉筆画も求められた。息子も弟子も工房で菱川師宣の名の作品を描く。新しい大和絵を作り上げた。
 染師になりたい息子や、自分の絵を描きたい弟子たちが工房をはなれていった。

2022年1月10日月曜日

藤沢周平全集 第二十一巻

 藤沢周平全集 第二十一巻 藤沢周平

  三屋清左衛門残日録 
 清左衛門は御小納戸の見習いから用人まで務め、先代藩主の葬儀、法事の後、隠居願いを出す。一年は残務整理、後任の教育を続け隠居した。52才。家督二百七十石は息子・又四郎が継ぎ、屋敷もそのまま、隠居部屋も普請組に建ててもらう。三年前に妻・喜和死去。
 道場に通い、保科塾に通い論語を学び、幼馴染と関わりをもちながら暮らす。
 藩主の願いで現政権の手助けをし、遠藤派に対抗する朝田派の争いに巻き込まれる。
 藩主の弟を利用した軍資金の調達、藩主の弟の毒殺、手を下した者の抹殺、それらを知った清左衛門等の抹殺と事件の隠蔽を阻止し、朝田派は失脚した。


  秘太刀馬の骨
 近習頭取・浅沼半十郎は、家老・小出帯刀に呼び出され、甥の石橋銀次郎が「馬の骨」を使う者を探索する手伝いを頼まれる。六年前の家老・望月四郎右衛門の暗殺に使われた技が「馬の骨」だった。馬の骨は矢野家・不伝流の秘太刀だった。
 銀次郎は矢野家の跡取りから、高弟と呼ばれた五人と対戦する。弱みをアラを探し、脅しを掛けて対戦に持ち来む。誰からも見付からなかった。
 半十郎の、小出への心証が悪くなり出す。
 江戸の藩主の側用人・石渡新三郎が藩主よりひと足早く国入りした。石渡が小出の客分に殺されそうになる。見付からなくて伯父の妾と逃げようとした銀次郎が殺されそうになり半十郎の家に怪我をして逃げ込んだ。銀次郎は伯父・小出帯刀の後ろ暗い行いを暴露する。
 六年前の望月の暗殺は誰か判らないが、暗殺されるように仕組んだのは小出だった。望月の賄賂の証言者だった商人が、石出の賄賂だったことを証言した。その商人を殺そうとした石出と刺殺者・赤松織衛を阻止し、石出を刺し、赤松を倒したのは「馬の骨」だった。半十郎と孫之丞は、矢野家当主・藤蔵を見たが、二人は秘事とした。石出が証人を抹殺に動く時、暗殺すべしの密命があったのだろう。石渡を通して殿からだった。


2022年1月6日木曜日

明治開化安吾捕物帖① ②

明治開化安吾捕物帖① ② 坂口安吾

 結城新十郎 紳士探偵 神楽坂 旗本の末孫 徳川家重臣の息子 洋行帰り
 勝海舟 氷川の海舟屋敷
 泉山虎之介 神楽坂の剣術使い 山岡鉄舟に剣術を習う 結城家の右隣に住んでいる。町道場 巡査に剣術を教える
 花廼屋因果 戯作者 薩摩生まれ鉄砲組みの小隊長 結城家の左隣に住んでいる
 吉田鹿藏 新十郎付き巡査

 前に読んだが記録に無い。

2022年1月3日月曜日

もういちど

もういちど 畠中恵 

 まだ田植えも終わらないのに暑い。雨が降らない。暑くて弱った廻船問屋兼薬種問屋、長崎屋の若旦那・一太郎を少しでも涼しい根岸に連れて行こうとした。船が転覆し一太郎は助けられたが赤ん坊になっていた。水神宮様が薬を下さった。苦そうで赤ん坊の一太郎は飲めそうにない。赤ん坊だが、一太郎の記憶はそのまま、何もしゃべられないが、一太郎はわかっていた。
 一太郎は星の玉を持っていた。代替わりをする星だった。ひびの入った天の星に水神宮の水薬を掛けた。玉は一気に上へ消えた。一太郎は寝て起きる度に大きくなった。一郎太は元気な子供だった。根岸の勘助と出会う。人買い事件を解決し、薬草を摘み干しておけば長崎屋が買うことになった。また種を蒔いて増やすことも考えた。
 一太郎が、すぐ大きくなるので引っ越しする。
 両国で浪人から剣術を習う。たいそう丈夫だ。道場破りと一太郎の師匠が勝負する。一太郎は見たかったが二人の兄やに抱えられ遠ざかった。
 長崎屋に帰ると、栄吉の見合い相手がいた。娘の父親が一太郎の巾着袋を間違って持って帰っていた。中に蒼玉が入っていたので一太郎は探し回る。娘の実家・如月屋の番頭が持ち帰ったと考えた一太郎は番頭の長屋で見付ける。番頭は逃げた。蒼玉は取り返したが巾着に入っていた十両あまりは持っていかれた。番頭は自分の店を持ちたかったようだ。
 商人を追い掛け回す深編み笠がいるようだ。深編み笠のために一太郎が寝込むことになった。誰が何のためにしていることか調べる。豊島村の龍の石を代官が持っていってしまった。山口屋から旗本に贈り物にしようとしていた。それを取り返すために深編み笠をかぶり村人が探していた。山口屋が旗本に渡そうとした時、小鬼たちが持ち上げた。玉が浮いているように見えた旗本は、こんな石いらないと言って落とした。
 二度と走り回れないと一太郎は涙を流した。