2022年12月27日火曜日

弥勒シリーズ⑪ 乱鴉の空

弥勒シリーズ⑪ 乱鴉の空 あさのあつこ 

 木暮信次郎の屋敷に捕り方が入った。信次郎は居なかった。信次郎は行方不明になった。
 尾上町の親分・信次郎についている伊佐治が、大番屋に連れて行かれた。伊佐治のことを知った遠野屋清之介は、伝手を頼って、元北町奉行・中村備前守盛幸の用人・板垣に口利きを頼んだ。
次の日の朝早く、伊佐治は帰ってきた。
 清之介と伊佐治は信次郎を探す。伊佐治の知ってる限りの信次郎が何日かで関わった事柄を調べる。

 遠野屋・清之介は、信次郎が居るところに気がついた。自分の屋敷にいた。
 喧嘩があり、刺された男が逃げた。刺した男は捕まり刺された男は、路地の奥の祠の後ろで死んでいた。信次郎が見つけた袋には、金種一種ずつ入っていた。よくできた偽金だった。死んだ男が運ばれたのは中村備前守の屋敷だった。信次郎は御菰たちを使っていた。
信次郎は中村を揺さぶった。中村家から毎日同じ時刻にさるところにに行く武士の懐を狙った信次郎が、足を洗わせた巾着切りに頼んだ。巾着切りを捕らえた。中身を調べるまでにもみ消された。
 信次郎が偽金のことを調べていることを知った公儀が動いた。取り締まろうとする方が信次郎に近づいて来た。揺さぶるために信次郎に捕り方が迫った。信次郎は消えた。偽金を作っている斗滑衆を逃がした。
 中村家が雇っていた平倉は、斗滑衆を殺した。関係した女を殺した。追いつめられ中村家を追放され、信次郎に向かった。清之介が木刀で骨を砕いた。

 中村家の用人・板垣が切腹した。中村家の後ろにいる公儀の偉いさんも信次郎に近づいて来た公儀の偉いさんも、分からないまま事件は終わった。









ニヒルな同心・木暮信次郎と、深い闇を抱える商人・遠野屋清之介。消えた信次郎の謎、火傷の痕をもつ死体、泡銭を夢見る者たち…。因縁の2人の行きつく先は? 『小説宝石』掲載を加筆修正して単行本化。

2022年12月23日金曜日

わが家は祇園の拝み屋さんEX

わが家は祇園の拝み屋さんEX 完その後 望月麻衣
 〜愛しき回顧録〜

 小春たちが進む道を見つけた五年後。
 学徳学園高等部に、OGMニ代目結成しようとする少女・一ノ瀬寿々がいた。千歳がいた。寿々は小春や澪人たち元OGMに話を聞こうとする。

 愛衣は、関西のグルメやファッションを発信する雑誌と全国の不思議情報を発信するする雑誌を出す小さな出版社に勤めていた。本当に心霊現象がおきているかを確認して『組織』に報告する下請け企業のような仕事もしていた。
 寿々は愛衣と問題の木を見に行く。愛衣と手をつなぐと不快さや悪臭が飛んでいく。愛衣は何も見えないが、悪しきものを寄せ付けない力が強いことが分かった。寿々は霊を祓おうとして失敗する。現れた朔也が霊を祓い、寿々に神様や自然のエネルギーを使うことを教える。
 愛衣と朔也は告白し合って付き合っていた。小春と澪人のことを聞いた寿々に、朔也は土曜日に祇園のさくら庵に行くことを進めた。

 寿々、透、剛士の先生・阿倍公生宅で、賀茂和人と阿倍由里子に会う。和人は医師、由里子は獣医師の国家試験の受験生だった。

 土曜日、小春と澪人は、婚姻届けを出していた。さくら庵で祝いの会が開かれた。
 18才の誕生日、澪人にプロポーズされた小春は、大学を卒業したら結婚したいと言った。
 二人が結婚を約束した時、黒龍が現れ、澪人に子供が出来れば、驪龍と名付けて欲しいと頼む。澪人は小春に伝えると言い、理龍と考えた。
小春は大学の四年間を、東京の両親と生まれたばかりの弟・夏樹と暮した。卒業後、学徳学園の養護教諭になりスクールカウンセラーを兼任していた。

 宗次朗と杏奈は吉乃と一緒に住み、安寿と風駕という二人の子供がいる。宗次朗は店舗を四店に増やし、風駕を背負って店を回っている。杏奈は主演ドラマを持つ女優になっていた。

 五月、二人の結婚式と披露宴が上賀茂の家で行われた。陰陽師の人々、二人の家族、寿々たちも参加した。
 寿々は、千歳が、姉のように小春を慕っていたのではないことを知った。千歳は自分の初恋が遠に終わっていたことに気付いた。

 最後に若宮・黒龍様が現れた。

 


  

2022年12月20日火曜日

ぬくもり 時代小説傑作選

ぬくもり 時代小説傑作選 細谷正充編

 迷い鳩 宮部みゆき 霊験お初捕物控
姉妹屋の初は柏屋の内儀の袖に血を見た。家の中の一部屋は血だらけだった。鳩が飛ばされ受け取るはずの女中は殺されていた。

 色男、来たる 田牧大和 鯖猫長屋ふしぎ草紙
サバが暮す鯖猫長屋に、絵描きの拾楽は、元役者の涼太を連れてくる。

 犬に仏 小松エルメ
円福寺で飼われる次郎。五才の時、次郎を発見した諒斎は動物の言葉を理解した。諒斎は悟りを得たと思われていた。七年経つが、諒斎は寺で修業中だが、仏門のことは熱心でない。

 カチカチ山 櫻部由美子 
頭巾持ちの家系に生まれた乙吉が、鳥や獣の声を聞き、奥ノ村の文蔵を助け、江戸から逃げてきた盗賊親分を捕まえた。

 紅蓮白峰 西條奈加
秋成は、雨月が結ぶ香具波志庵に居候していた。遊戯という兎の妖が来る。雨月と遊戯が怨霊と遭遇し、紙問屋の秘密を解き明かす。
 

2022年12月18日日曜日

父の声 

父の声 小杉健治 

 地元を離れ、東京で暮らす娘・のぞみが、婚約者の本間を連れて帰省した。父親の順治は、二人を明るく迎えたが、娘の変化に不審を抱く。心配になった順治は、娘を追って上京する。のぞみは、覚醒剤に手を染めていた。のぞみは本間を愛していると父親の言葉に聞く耳を持たない。

 麻薬取締捜査一課の調べと交差し、順治は麻薬取調官が本間やのぞみに近づいていることを知る。順治はのぞみのため出来ることは一つしかないと思う。のぞみの友人と会い、のぞみのこれからをお願いする。
 
 本間が「高岡ダルク」を見せたいと順治を誘った。それ以後、本間の姿がなくなった。順治の車が見つかり、携帯が東京で見つかる。警察は奥村順治を探す。高岡と氷見の境の山中で埋められた本間の遺体が見つかった。順治が殺したものと考えられた。

 本間に覚醒剤の運び屋殺人の容疑が掛かった。のぞみが捕まり、消防署に電話をした事実が発覚。本間の逃亡を助けていた。九月のぞみは裁判を受ける。
 のぞみは三週間、精神療養センターに入院した。その後、回復支援センターに入所。のぞみは明るく元気になった。四月、のぞみに会いに来ていた順治が夢に現れ、本間を殺してはいない。証拠は本間が埋められていたところにあると言った。聞いた警察は、本間の遺体遺棄現場を掘る。本間の遺体発見場所の下、奥村順治の遺体が見つかった。順治が握ったネックレスから犯人が判明。逮捕で、覚醒剤の隠し場所も判明した。
 のぞみは鋳物工房のギャラリーで働き始めた。

2022年12月16日金曜日

おもみいたします 

おもみいたします あさのあつこ 

 梅17才は、目が見えない。もみ治療をしている。一年先まで予約がある。水茶屋の女将・筆が梅の治療の窓口になり、孫娘・昌8才が、段取りをし、お客に日時を知らせる。

 早く治療の必要があると思われた瀬戸物屋今津屋の内儀・清のところに行く。何度も行きほぐしている間に、殺人事件に巻き込まれる。剃刀の仙と呼ばれる岡っ引きの協力をすることになる。

 今津屋の娘・松13才が首を絞められ殺されかける。梅の人口呼吸で松は助かる。
 十三年前、清の生んだ娘は死産だった。女中の加代は同じ日に今津屋の外で生まれた産婆に金を渡し、子供を取り換えた。それが松だった。今津屋・与三郎も承知だった。十三年経って、産婆が女・吟に話した。吟が知ったことを知った加代は、吟と話す前に吟を殺した。
 身体の弱い、弟・上松5才より、松に養子を取って見世を譲る話が出始めた。加代は松を殺し弟・清の息子に家を継がせようとした。
 今津屋の先代夫婦は、物取りに合い殺されていた。二人が、清に辛くあたるため加代が、殺していた。

 仙五朗と梅は二人で解き明かした。

 梅は、五才の時、流産した母を詰る父に反抗し叱られる。泣きながら魔が住むと言われる森は逃げ込み、少年が鳥を射るのを止める。止められた拍子に放たれた矢が梅の目を傷つけ目が見えなくなった。少年は人には見えないはずの者だった。その後、少年は梅の相手をする。老人もいた。
 十二才になったとき、梅は、父親が若いとき、出世をすれば初めて子供を捧げると神仏に願掛けをしたことを知った。父親は自分のせいで梅が見えなくなったと思っていた。
 梅は家を出た。少年は十丸と呼ばれる犬になり、老人は鼠の姿で過ごす。老人は、梅の手を見てもみ治療を教える。医療も教える。

 

2022年12月13日火曜日

大岡裁き再吟味② 山桜花

 大岡裁き再吟味② 山桜花 辻堂魁

 奉行所を外れてからも大岡越前は裁きが気にかかる。十七年前、雑司ヶ谷村本能寺の若い下男・直介12が折檻され殺され、山桜の下に埋められた。父親が下手人御免の願いを出し、皆お咎め無しと決した。その事件に疑惑が浮かぶ。大岡越前は、鷹匠の息子・古風十一に探索を命じる。

 十一は寺の関係者、御先手鉄砲組与力を引退した父親、父親が通った直介の母親・雪を探し聞き廻る。元読売屋のネタ探しをしていた金五郎の手を借り、折檻した17才と18才の所化二人が手代として務める銭屋を突き止め話を聞きに行く。
  次の日、二人の手代はいなくなった。
 十七年前、本能寺の墓参りにしばしば訪れる武家の内儀がいた。同じ頃本能寺の参詣に訪れる侍がいたことがわかった。
 大岡と敵対する商家・本両替商の海保半兵衛に頼まれ同じ事件を調べている半と出会い話を聞く。
 銭屋は十七年前に開業した。主・角兵衛は中間をしていた。
 雪は息子の墓に参った。息子の父親・一色半四郎に会った。
 一色半四郎は大岡に手紙を書き、下男に大岡が登城する前に届けるように言われた。読んだ大岡は手紙を城中に持って行った。
 一色半四郎は切腹した。大岡に当てた手紙があることが判明。手紙の内容は将軍にも知らされた。

 直吉は家禄五千五百石の鉄砲百人組の頭野添家の奥方と評定所留役・水下籐五の密会を見たために殺された。野添家の息子が、鉄砲を持ち出し、誤って百姓を殺した事件のもみ消しを水木に頼んでからの関係だった。半四郎は上役から金を貰い下手人御免を出した。水木家の中間が店を出し犯人とされた二人を引き取った。
 
 角兵衛は十一の命を狙った。直吉を殺したのは角兵衛だった。手代二人も殺された。角兵衛は十一の元から逃げたが、河原で遺体で見つかった。
 水下籐五は病のため急逝した。家督は倅が継いだ。
 鉄砲百人組之頭野添泰秀が役を解かれ、家禄三千石に減封、無役になり屋敷替えになった。
 十一は雪に話した。雪は菩薩を部屋に置き祀っていた。

 

2022年12月11日日曜日

新・酔いどれ小籐次〈二十五〉 御留山

新・酔いどれ小籐次〈二十五〉 御留山  佐伯泰英 

 小籐次親子は森藩の陣屋に着いた。小籐次は放ておかれた。驚いたことに、国家老が、藩主と同じ段通に座り脇息に悠然と上体を預け酒杯を手にしていた。国家老の側室がお艶の方と呼ばれ側にいた。

 久留島通嘉は城を建てたく、御留山になっている角牟礼山の木を切り、石垣をつくっていた。藩主・通嘉の願いを知る国家老・嶋内主石は、小阪屋金左衛門と共に抜け荷で儲けた金の一部を使い藩主の希望を叶えていた。

 通嘉は、将軍や老中に顔馴染の小籐次に取り成しを頼むが、小籐次は、嶋内を切腹に追い込む。嶋内は月代を切り、山奥の寺に預けられた。嶋内が溜めた金は藩の財政に入れられた。小坂屋は嶋内の罪状を記した書類を出し、藩の財政建て直しを助けることを約束する。小籐次は角埋山を御留山に戻すことのみが、森藩が生き残る道だという。

 通嘉は報告を聞き、角埋山に城を築くことを諦めた。家臣を集めて告知した。宿願を奪った代償に、公儀幕閣諸侯に得心させよと手紙が届けられた。

 四ヶ月の旅は終わり、江戸へ帰る。薫子が家族になった。新兵衛の葬儀が行われた。

2022年12月5日月曜日

突きの鬼一⑧ 鉄扇

突きの鬼一⑧ 鉄扇 鈴木英治 

 興梠弥祐が殺され、父・興梠照元斎は葬儀をする。
 月野一郎太は、別人に二度命を狙われる。命を狙った者を突き止める。新田与五右衛門に若年寄や北町奉行の行動を知らせていたのは誰か。密告者は、徒目付・臼田耕助だった。一郎太を狙った一人だった。
 臼田は一郎太に追い詰められ崖から飛び降り死亡した。
 弥祐を殺したと思われた椎葉虎南から呼び出され、照元斎と共に行く。一郎太は徳兵衛が作った磁石の鉄扇を持っていく。虎南の武器は、鉄製の毒を塗った吹矢だった。
 追い詰められた一郎太を助けたのは弥祐だった。虎南を倒す。照元斎は虎南を知っており、尋常の事では勝てないと、弥祐を死んだことにし、油断を誘った。
 まだ一人、一郎太を狙って者がいる。


2022年12月3日土曜日

吼えろ道真 太宰府の詩

吼えろ道真 太宰府の詩 澤田瞳子

 太宰権師 前右大臣・菅原道真は官職を奪われ太宰府に左遷されていた。慟哭と呪詛ばかり口にしていた道真が、管三道と名乗り博多津の唐物商・橘花斎で目利きを始めた。都から連れてきた娘・紅姫と南館に住んでいた。

 大宰大弐・小野葛絃、大宰少弐・小野葛根28才、葛絃の甥。父が亡くなり8才のおりから葛絃に育てられる。

 昨年京進唐物の中に紛い物が混じっていた。不審を持った藤原俊蔭は書面と実物を突き合わせ内偵した。半数近くが明らかに違っていたため、自ら太宰府に下向し、犯科人を捕らえるつもりで博多津に来る。一緒に、葛絃の息子・好古と阿紀が来た。

 俊蔭は詳しい取り調べもなく公文所大典・秦折城を捕まえ京へ連れて行く。

 葛絃は太宰府の調度品を検めさす。道真は倉廩を任された。二十年前から収めるようになった善珠が張本人だと判り、葛絃は折城の赦免を願う上申書を書き続ける。折城は帰ってこられるようになった。

 阿紀は道真の書に関心を持ち、道真の所へ通い書を習う。京に帰ってからも毎日書いて送っている。葛絃と道真は阿紀の烏帽子名を道風にするかと言う話しをする。

 



 

2022年12月1日木曜日

蜜蜂と遠雷

蜜蜂と遠雷 恩田陸 

 芳ヶ江国際ピアノコンクールが始まった。三年毎の開催で六回目を数える。近年評価がめざましい。ここで優勝した者がその後著名なコンクールで優勝するというパターンが続いた。新しい才能が現れるコンクールとして注目を集めた。
 
 結果 
一位 マサル・カルロス・レヴィ・アナトール
二位 栄伝亜夜
三位 風間塵
四位 チョ・ハンサン 
五位 キム・スジョン
六位 フレデリック・ドゥミ
聴衆賞 マサル・カルロス・レヴィ・アナトール
奨励賞 ジェニファ・チャン  高島明石
菱沼賞(日本人作曲家演奏賞) 高島明石

 マサル・カルロス・レヴィ・アナトール19才 ジュリアード音楽院学生。担当教授はユージ・フォン・ホフマンの弟子のナサニエル・シルヴァーバーグ。母は日系三世のペルー人。フランス留学後、フランス人の物理学者と結婚。五才から7才の三年を日本で過ごす。初めて出会った日にピアノ教室に連れていき、ピアノを音楽の楽しさを教えてくれた少女。マサルは彼女・あーちゃんに会いたかった。あーちゃんは栄伝亜夜だった。まさるは彼女のピアノを聴いてすぐに判った。
 亜夜はマサルを生まれながらの音楽家と感じる。マサルは弾きながら震えが登っていくのを感じ、他人事のように高みから見下ろしていた。

 栄伝亜夜20才 かって天才少女と言われ、早くから演奏活動をしていた。教師でもありマネージャーでもあった母親の死を堺にピアノコンサートを止めていた。高校三年で、母の知りあいの音楽大学の学長をしている浜崎に音楽大学入学を進められピアノを始めた。亜夜は、コンクール出場が決まっても、舞台に戻りたいのの?前線に復帰するの?彼らと向き合う覚悟はできてるの?世間からの目、言葉を聞き、出るのを止めようかと思うような状態だった。風間塵の演奏を聴き、昔のピアノと過ごした時間が蘇る。彼は楽しそうにピアノを弾いた。彼のように弾きたい。かっての私のように。「お帰りなさい」と言われて送り出された。亜夜のピアノはプロフェッショナルの音楽だった。まーくんに会い、昔が蘇る。

 風間塵16才 ホフマンの推薦状がある。書類選考で落ちオーディションを受けてコンクール出場。父は養蜂家。一緒に手伝っている。蜜蜂王子と呼ばれる。亜夜は音楽の神様に愛されていると感じる。審査員の受けは半々に別れる。ホフマンにそのままでいい。好きに弾いておいでと言われた。音楽を閉じこめているのはホールじゃない。人の意識だ。音楽を外に連れ出してやれと言われた。意味は分からない。ホフマンに一緒に音を外に連れ出してくれる人を探しなさいと言われた。亜夜がそうかもしれないと思った。高島の演奏で、緑の畑を見、川面の細波、吹き渡る風、漆黒の宇宙まで見えた。

 高島明石28才 応募規定ぎりぎりの年齢。妻子あり。高校の同級生がコンクールのドキュメントを撮影している。サラリーマン家庭に生まれ、妻は幼馴染で高校の物理の教師、自信は楽器店の店員。音楽家としてのキャリアの最期になると思っている。以降は音楽の好きなアマチュアとなるだろうと思っている。祖母が買ってくれた小さめのグランドピアノが祖母の家の土蔵にあった。二次審査で明石は祖母の桑畑を感じ、「春と修羅」では宮沢賢治を感じ、カデンツを弾き終えた。曲を弾きながら自分が弾いているのをもう一人の自分が見下ろしている感覚。桑畑からイギリスの海岸、ヨーロッパを旅している感覚で終わる。しかし、12人には残らなかった。

 およそ100人の出場者が、第一次審査5日で24人になる。演奏時間20分。第二次審査3日で12人になる。演奏時間40分。第三次審査