2024年10月6日日曜日

風の市兵衛 弐  うつ蝉 

風の市兵衛 弐  うつ蝉 辻堂魁

 三月、唐木市兵衛が、川越藩から助け江戸に連れてきた娘・村山早菜が、三千石の旗本・岩倉家に輿入れした。岩倉家は小姓番頭であり、嫡子高和も中奥番衆に就いていた。
 岩倉家には大枚の借財があり、高和にも、いろんな噂があった。高和には元町芸者の側女がい、四才になる息子が存在する。金貸し七右衛門に遊興費を借り賭場通いをしている。七右衛門は三日んいあけず屋敷に出入りしていた。
 婚礼から半月経ち早菜は、岩倉家のことを知った。高和は早菜の住む離れに来たことがない。早菜の後ろ立て・両替商の近江屋の財力を充てにした婚礼だったと思った早菜は、付き女中の静と岩倉家を出て近江屋に戻った。
 
 北町同心・渋井は、大阪堂島の米仲買商の泰三郎が殺された事件を調べていた。七左衛門に会いに行くと言って出たことで七左衛門に訪ねるが、人違いだったと言われた。

 四月、市兵衛は元村山家家人・富山小左衛門と七左衛門と高和のことを調べていることが気に入らない七左衛門と岩倉家用人・鎌谷は、二人を殺害しようとする。別々に呼び出された二人は、岩倉家の別邸に連れて行かれ、富山は殺される。高和、鎌谷、七左衛門、助っ人二人がいた。
 高和と鎌谷、七左衛門は逃げた。
 七左衛門は二十年前の大阪時代の七左衛門を知っている泰三郎の甥が江戸に来た事で七左衛門の昔が知れ渋井に捕まった。
 秋、打ち首になった。
 鎌谷は当主の命で、切腹したことにされ殺された。鎌谷がかってにしたこととされた。調べは打ち切られた。
 
 五月、借財が嵩んだ岩倉家は、台所預りとなった。直後、則常は小姓組番頭を解かれた。高和も出仕に及ばずとなった。
 六月、家禄千五百石となり、亀戸へ屋敷替えとなり、無役の小普請になった。つたの息子は高和の子ではなく、七左衛門の息子と判明した。つたは女中となり子供も一緒に長屋に住んだ。
 早菜は、富山の遺骨を郷里・武州松山に納めに行った。市兵衛は見送りに行く。

 

2024年10月4日金曜日

貸し物屋お庸謎解き帖⑤ 夏至の日の客

貸し物屋お庸謎解き帖⑤ 夏至の日の客 平谷美樹 
 貸し物屋湊屋両国出店の主は庸。松之助は湊屋本店から手伝いに来ている手代。綾太郎たち陰間を生業にしている仲間が、両国出店の追いかけ屋として交代で手伝う。

 花の宴 大工の頭領の修業中の庸の弟・幸太郎が、師匠が元気がないと言ってきた。七十七才、矍鑠としていた仁座右衛門だった。庸は走入廻り、仁座右衛門の庭に桜を植え、舞台を拵え、芸者を呼びんだ。仁座右衛門の名を出すとみんなが集まった。仁座右衛門は、綾太郎が気に入り一晩過ごすと元気を取り戻した。

 炬燵の中 按摩の宗沢が、炬燵を返す時期だが、猫が住着きもう少し貸して欲しいと言ってきた。何か変だと思った庸は宗沢宅へ行く。宗沢が猫と言ったのは生首だった。東方寺の瑞雲にお払いを頼む。宗沢が二か月前、小塚原を通ったことを知った庸は、八丁堀の同心・熊野にお仕置きになった者を聞く。鬼火の駒八がいた。瑞雲に話し調伏を頼む。鬼火の駒八は首を晒されている時、宗沢が通った。宗沢が足を洗い元気にしていることに良かったと思って付いて来てしまった。その後をたくさんの亡霊が付いてきてしまったのだった。宗沢は、足を洗うことを認めてくれてありがとうございましたという。駒八は成仏した。元、盗賊一味だったとしゃべった宗沢は、自首すると言ったが、同心・熊野は、奉行が、ずっと前に足を洗っているからいいと言われたと言い、いろんなことが耳に入ったら教えろ、いろんなことを頼むかもしれないと言った。

 夏至の日の客 柴田洪順・学者見習が、一年前の夏至の日、ギヤマンの杯を借りに来た。何に使うかとかいろいろ聞いた庸に、もう良いと言ってでて行った洪順をつけた。他所で借り、少しして返したことを見届けた。庸は調べ考えた。洪順が火付けをしようとしていることは分った。洪順は、師匠の内藤玄丈を殺そうとしていると思った。洪順が長崎へ行った。庸は熊野にも洪順が火付けを考えていることを言うが、起こっていないことを奉行にまで言われないと言われた。それから一年経った。内藤玄丈の屋敷の火事を起こす装置を外した。見付けた洪順を呼び出し、装置を外したことを話す。玄丈の所に帰るのを止めるように言う。洪順の訳した物を玄丈の名で出版する玄丈を許せなかった。行き場所のない洪順に長屋を貸した。

 揚屋町の貸し物 吉原の出店に赤ちゃんを三人貸して欲しいと遊女が来た。本店にどうしようか相談に行くと庸に相談しろと言われた。相談された庸は、名乗った雪解が本人か調べる。違っていた。見付けた女と話しをして、庸はもう捨てるような人形を三体持って行く。病身の彼女は、魂が抜けて出歩くようになったと言う。心残りがあったから赤ん坊を借りに来たんだろうと聞く庸に、元雪解は、三人の赤ちゃんを堕胎したと語った。庸は三体の人形を出し、お焚上げされるのを待つだけの身だから最後まで慰める役目を貰って喜んでいる。可愛がっておくれと言う。
 三人の子供を連れた女が、庸にお辞儀する。翌日そめが亡くなったと知らせがあった。
 
 宿替え始末 常連の長助が、宿変えをするので大八車を貸して欲しいとやって来る。去年の夏頃から、夜中に音がしたり、幽霊が出るようになり家族がここに住めないと言い出した。長助は入谷の百姓で、家族と小作人で畑をしている。話しを聞いた庸は、加持祈祷をし、それで駄目なら家を建て直すという話しにした。大工は弟に頼むという。待っていた本家の七右衛門に話す。
 引っ越しが終わり、明日加持祈祷をするという夜、庸と松之助、綾太郎、勘三郎は長助の家で待機する。四人の男がやってきて穴を掘り始める。庸たちが現れる。七右衛門がいた。先祖の日記でこの土間に何かがあった時に土地の人々を助ける物を埋めてあることを知り、長助一家が邪魔になった。埋めてあったのは大量の胡桃だった。庸は長助に何もかも話すという七右衛門を置いて帰る。こんな事だろうと思った庸は加持祈祷を頼んでいなかった。
 翌日、長助に聞いた。胡桃を七右衛門の蔵で預かり飢饉の時に、近隣に配るという約束をした。土間の土を元通りにすることとした。長助は元に引っ越した。

2024年10月2日水曜日

江戸に花咲く

江戸に花咲く アンソロジー

祭りぎらい 西條奈加 
 公事宿「狸穴屋」絵乃。篠笛作りの師匠が祭り嫌い。娘婿が篠笛作りの上手で、祭りの笛吹が上手。娘と娘婿は、好き合っているのに、師匠は離縁させるという。廻りの皆で、師匠を祭りに引っ張り出す。師匠の母親は祭りの日にいなくなったという噂。もう昔のことは・・・

天下祭 諸田玲子
 平山行蔵、兵法、体術、武骨で小さな老人。奇矯ともいえる極端な粗衣粗食の暮しぶり。祭など・・・。そんな行蔵のところに若い娘・さんが、孫だと言って現れる。覚えのない行蔵だが・・・。母親が亡くなる間際、行蔵の名を言ったと言う。唯一の友、お庭番・古坂参左衛門の娘・いちが、お庭番から逃げた。古坂から娘を止めて欲しいと頼まれたが止められなかった。相手の男は、遺体で見付かったが、いちは逃げ果せたのだろう。さんは奇麗な着物を来て祭で踊る。行蔵はまだ間に合うかと祭を観に走る。
 
関羽の頭頂 三本雅彦
 柳瀬円十郎は、「運び屋」他人に奪われてはならない事情がある荷物を運ぶ。中身を見ぬ事。相手を探らぬ事。刻と所を違えぬこと。神田祭、関羽の山車の登頂。田安御門至近で、開いた扇を立てること。侍たちに狙われる。彼らは、何を何故扇子を立てるかしゃべる。お前たちが話さなければ、誰が立てたか分らないからお咎めはないよと言い置いて倒す。顔の化粧が取れる。花笠で顔を隠して扇子を立てる。祭の絵にその場が描かれた。円さんに似ていないから大丈夫。

往来絵巻 高瀬乃一
 神田祭佐柄木町御雇祭絵巻ができ上がった。良い出来でみんな大喜び。だが、囃子方が十人のはずが九人しか描かれていない。その場に居合わせた女貸本屋せんは、絵を描いた人を紹介して欲しくて絵の人数が違っていることを調べる。一人笛吹きが祭の日に亡くなっていた。隠されていた。祭の後と言う事になっているが祭より先かも、事故死と言われているが、殺しかも。全部祭で隠された。せんは絵師を紹介された。十三、四の幕臣だった。絵を頼んだが殺された。将来店を持ったら描いてくれるという。江戸一番の絵師になっておくと言った。後の安東広重。

氏子冥利 宮部みゆき
 三島屋の富次郎は、神田明神で老人を助けた。負ぶって三島屋に連れて行く。百物語を聞く。錠前師だった。十三才の時、姉を手込めにした男を叩き殺してしまった。やってきた親分は、家の有り金を全部持っていき、空き巣と鉢合わせした定六は殺されたことになった。姉は身投げした。自分は錠前屋に奉公に出た。ずっと自分は罪人だと思って暮してきた。
血の匂いのする着物を見付けた。着物から女が「すみちょう、たすけて、うこん色、さかさふじ、お願い、たすけて」と言う。探した。そして見付けた。地下の牢屋敷に姉弟がいた。岩末じいさんは二人を助け出した。火が出て気が付いたら外にいた。炭蝶の次男が、十年間閉じこめた女と子供だった。女は死んでいた。
 岩末は、親方を継いだ息子が亡くなり、親方を亡くした若い職人とその女房を助けるために帰ってきていた。
 

2024年9月30日月曜日

武士はつらいよ② 蔵元の娘

武士はつらいよ② 蔵元の娘 稲葉稔

 夏目要之助 徒目付下士、家禄三百石。藩主・藤田伊勢守氏鉄

 藩主の墓参の行列に付いた。町中で「要さん、要さん」と幼馴染の清に声を掛けられた。
清の実家は造り酒屋で、「星泉」が評判で江戸にも出し、二年前に家を建替え大きくなっていた。藩のご用足しにもなっている。要之助は、城下で声を掛けてはならないと言いに行った。
清は奇麗な娘になっていた。

 清から相談を受ける。江戸に下ろしている酒問屋から、別の問屋にも下ろしているようだから、もう取引をしないと言われていた。清水屋は、常磐屋にしか下ろしていない。どう証明すればいいのか分らなかった。
 要之助は、同じ幼馴染の源吉と、清兵衛に相談する。川荷置き場に出入り出来る者から順に、同じ町の造り酒屋の、樽作る者、樽の材料となるものあたる。一軒の造り酒屋に、清水屋と焼き印を捺す樽屋があった。
 同じような樽に自分の作った酒を入れて江戸の組合に入っていない店に卸していた。清水屋は常磐屋に証拠を付けて番頭を送る。今年も同じように卸すことになった。

 清は手代・幸吉と一緒になって店を継ぐことを決めた。

 

2024年9月28日土曜日

助太刀稼業〈一〉 さらば故里よ

 助太刀稼業〈一〉 さらば故里よ 佐伯泰英

 文政三年1820年 十月十二日

 豊後毛利家の徒士並・神石嘉一郎23才。身に覚えのない罪を着せられ脱藩を余儀なくされる。大阪に向かう船には「そなたが頼りだ」と毛利家の三男・助八郎が待ち構えていた。家宝の刀を持ち出した若様と旅をする羽目になる。

 金も宛てもない旅が始まる。大阪で、助八郎の持っている刀と、助八郎の口で、二天一流三宅道場で道場破りをすることになったが、嘉一郎は、七人衆と稽古した。嘉一郎は三宅道場に居候して門弟衆に指導を始めた。助八郎はいなくなった。佐伯藩の上役・下野枝陸が来る。下野枝は、元の役に戻すので自分を手伝えという。助八郎から刀を取り返すという。助八郎は京都へ行った。
 下野枝と三十石船に乗った。途中、浪人三人が強盗と化した。老商人を助けた嘉一郎は、弁当を貰い、老人の船宿「たかせ川」の使用人の部屋で一夜を過ごす。老人・梅鴛は禁裏一刀流荒賀道場を紹介する。隠居は、助太刀稼業を紹介する。
 大名・吉川家に金を貸す伊勢谷の主・重蔵と吉川家に掛け取りに行く。番頭・有馬兵衛と発ち合い勝ちを収めた。三百二十五両を受け取った。四十両を渡すという重蔵の言葉を断り、助太刀稼業の名と重蔵の三朱と数十文入った巾着を貰って、旅だった。
 武者修行に四十両は邪魔だった。
 瀬田あたりの伊賀一刀流山波結城道場で稽古した。
 山城結城、妻・和乃。藍16才と小太郎10才の四人家族だった。
 膳所藩の藩士の臨時師範をして一月、山波家そ実家と思い必ず帰ると旅立った。

 二ヶ月後、大井川で足止めされていた。どのような剣術家を目指すのかまだ考えていた。
寸又峡に仙人のような武芸者がいると聞いて大井川を遡った。岩屋にいた。仙人は酒を飲んだ。十数日、嘉一郎は独り稽古した。仙人はただ見ていた。見られることで稽古は充実した。仙人が小枝で滝の水を嘉一郎に振りかけた。旅に出よ。と言われ旅に出た。
 文政四年 1821年 晩春

2024年9月26日木曜日

京都寺町三条のホームズ・21

京都寺町三条のホームズ・21 望月麻衣 
〜メランコリックな異邦人〜

 九月から「蔵」でジウ・イーリンが1か月アルバイトをすることになった。
十月からイーリンは、京都の大学院の修士課程に通う。

 イーリンは、葵に興味を持ってきたようだ。清貴と一緒に働け、円生とも会える。父親・ジウ・ジーフェイは、イーリンに、高宮宗親と親しくなり彼が「珍しい宝石」を持っているか調べて欲しいと頼んだ。

 イーリンは、歌舞伎役者・市片松之助が持ち込んだ根付けが元で、高宮と根付けの会で親しくなる。清貴に「珍しい宝石」のことを相談する。小松も調べる。
 ジウ家の家族に関係深い話しになった。

 イーリンが、生まれることにより、ジーフェイの妻は自殺したと聞かされ、ジーフェイの姉妹夫婦、イーリンの腹違いの兄弟姉妹から苛めを受けて育ち、幼少期から孤独に育った。イーリンの味方はばーやだけという環境だった。自分の所為で妻が亡くなったという引け目を感じて生きてきた。
 清貴が、ジーフェイが、高宮の息子に「珍しい宝石」を手に入れることを頼み、その宝石が、持ち主が自殺すると言われる呪いのブラック・ダイヤモンドだったことで妻・クーチンが自殺したと言われているいう事実を掴む。
 ジーフェイには宝石を頼んだ覚えがない。離婚寸前の妻に、宝石を贈る気はなかった。ジーフェンには、クーチンが、「信じられない、そこまで私を憎んでいたの。お望み通り今から死んでやる。」と言った意味がわからなかった。
清貴は、自分に送られる宝石が、持ち主が自殺するという宝石だと知った言葉だろうという。
 クーチンは、一人で出て行きボートに乗ったと言われているが、義兄はいなくなっていたことを珠蘭は知っていた。クーチンが自殺ということも疑問になった。
 パソコンの電話で繋がっていたジーフェンとイーリンの異母兄・シュエン。シュエンは、今までのことをイーリンに謝った。
 イーリンは、ばあやが、本当の祖母だと知った。イーリンを置いてお金を持って逃げたと言われていた母親も、ジーフェンが面倒みていることも教えられた。

 イーリンのバイト期間が終わった。イーリンは、葵と清貴を父と母のようの思った。
イーリンの言葉を聞いた円生はハッとした。
 清貴は、葵を皆をたらし込むと表現する。

 清貴は九月から一年間、税理士事務所に通う予定。


2024年9月24日火曜日

拵屋 銀次郎半畳記 ④ 汝 戟とせば〈二、三〉

拵屋 銀次郎半畳記 四 汝 戟とせば〈二、三〉 門田泰明

〈二〉
 傷を負った銀次郎は、医師溜で養生していた。黒書院直属監察官大目付は解職され無職の状態だった。着替えの衣装には葵の紋が入り、銀次郎の大小刀にも葵の紋が入れられていた。本丸殿舎内でも大小を帯びて構わないということだった。上様・家継に会いに行くが老中に止められた。銀次郎は隠宅に帰る。
 隠宅は、杖三とコトが世話をしてくれ、浦と滝が黒鍬から派遣され防備していた。隣家の嫁・萩が出入りしていた。
 よりかたと名乗る侍が来る。銀次郎が萩を送って行った時、よりかたが一人になった時、四人の浪人風がよりかたを襲った。浦と滝がよりかたを守る。銀次郎が帰った時、四人は逃げた。よりかたが襲われたようだ。よりかたを帰し、銀次郎はよりかたの素性を調べさせる。
 黒鍬の頭領黒兵を守る者が十人いるらしい。
 銀次郎の拵屋の跡は何も残っていない。銀次郎の剣術修業の場・人間修業の場である無外流大道場・笹岡道場も無くなっていた。
 銀次郎は黒鍬黒兵に引かれていた。現れた黒兵には影武者が三人いると言う。妻にするはずだった艶の墓で黒兵と会う約束をした。
 夜、よりかたが訪れた。真っ赤な装束の刺客に襲われた。よりかたは、萩を側室にしたいと相談して帰った。よりかたは徳川吉宗だった。

 黒兵に会った銀次郎は、結ばれた。屋敷に帰り朝を迎えると、黒兵は消えていた。叔父・筆頭目付和泉長門守兼行・黒鍬支配を訪れる。黒兵は御役御免を願いを出していた。
 城中で家継に見舞いし、黒鍬・滝と話す。滝はご自身で京に行ってほしいと言った。

 隠宅に柳生御盾班組頭の警護で、月光院と新井白石が来た。上様名代で、従四位下・備前守、本丸参謀長の職、六千石に給する。有事の際、将軍直属軍の指揮統括、江戸市中の刑事機関の統括、二条城拠点の京の全機関の統括を申し渡された。


〈三〉 
 二人がいる隠宅が赤装束十五人に襲われた。柳生の御盾班に守られた。
 吉宗が訪れ、将軍の内示が出たことを伝えた。銀次郎に内示は決定だと思えと言われた。言葉では、尾張が第一位と言いながら、将軍になった時の職を考えていた。新井白石と間部詮房に×を付け、桜伊銀次郎に◎を付けたり×を付けたりしていた。
 銀次郎が萩を連れて来た。銀次郎は江戸を出るにあたり、吉宗に幕翁となれば、自分の身の丈にあった隠密情報機関を拵えなさい。幕府を縁の下で支える大奥を確立されよ。と忠告する。妹とも思う萩の亡き亭主と儲けた幼子が三人いる。四人を慈愛で見守ってほしい。と言い置いた。吉宗は、内示通りにコトが進めば、三年間は助けて欲しいと頼んだ。
 吉宗の馬・吹雪を借り受け京に発つ。上様に別れを告げ、天栄院への手紙を託す。
 途中で、奈良の御破裂山神聖な霊山で三百を超える山伏の激しい武闘訓練が行なわれていると噂されたが、集落は解体され小さな寺のみが残っているだけになっていた。と報告を受けた。
 保土ケ谷で、滝が、黒兵を天之御方様と呼んだ。気の毒だから救って欲しいと、多分御所内にいるであろうと言われた。
 三島で、叔父の走部が、上様が亡くなったことを伝えた。
 京に入り夜の山中で百姓女に会った。町中に入り、盗賊団に襲われる後藤金座を助けた。後に来た同心に縄を掛けられる寸前、やってきた町奉行に放免される。戻って百姓女の家に宿を願う。朝京都所司代・水野忠之が朱印状を持ってやってきた。新将軍直々の朱印状。従三位・左近衛権中将・本丸参謀総長、九千八百石。二条城代という役職だった。
 吉宗は、銀次郎の手紙を受け取った天栄院に背中を押され将軍の座に着いた。
 浦が用意した三条通りに沿った「呉服商五井」に宿を求めた。浦に吉宗への伝言を頼む。旧政府のご老中はそのまま継続して用いること。絶対手放してはならない。強く言っていたと伝えるように。
 五井の前は紀州藩京屋敷だった。筆頭留守居役・禅籐吾郎右衛門は、商家から金を借り返す気もなく、女に金貸しをさせ、惨い取り立てをしていた。禅籐に直接五日の内に返すことを言うと、命を狙いに来た。