玉響 辻堂魁
一僕 井伊掃部頭の家臣・島田正五郎が、中間・文平が、大御番組大番衆・赤沢広太郎の雇い人・御嶽山の張り手で気を失っている間に、赤沢に殺された。三ヶ月後、文平は、赤沢と御嶽山を斬り殺し、北町奉行所に名乗り出た。文平は中間だったが、父親は元飯田藩藩士であったため、切腹が申し渡された。別所龍玄が介錯役を務めた。最後に文平は済まないと呟いた。遺体は、島田正五郎の妻が引き取り、文平が三か月隠れ住んだはなのところに行き、井伊家の殿様が忠義の振る舞いを助けた褒美に賜った百両を渡した。はなのお腹に子が宿っていた。妻は、文平の遺骨をはなに渡した。はなは爺ちゃんの墓に葬った。
武士の面目 門前名主・十兵衛の三男は、御家人・塚越家に婿養子に入った。三男・左吉郎は、十才の頃から道場に通い筋が良く武士に憧れていた。龍玄の四才年上で話をしたこともあった。十兵衛は、左吉郎の武士としての最後を龍玄に託した。
婚姻前の話し合いは、持参金の額を決める掛け合いだった。二十六才と聞いていた相手は、三十過ぎのようだった。百二十両の持参金で入った。材木石奉行の配下手代の見習いを始めた。買い付けと運搬の代金を多く請求させ、相手から返金させ、みんなで分けることを強要された。この金額がおかしいと調べが入り全て白状した。表沙汰に出来ぬと後腐れがない自分が詰め腹を斬らされることになったと言った。何が侍だ。左吉郎が夢見た武士の世界ではなかった。
左吉郎は龍玄と試合を望んだ。相討ちを狙った左吉郎だが、相討ちにはならなかった。左吉郎は脇差で切腹し、龍玄は介錯した。十兵衛に子細を伝えた。
龍玄の妻は、龍玄のややの産着を縫っていた。
黒髪 四人組の押し込みが捕まった。北町奉行所平同心・本条孝太郎を、小伝馬町牢屋敷世話同心・山下平治が訪ねた。捕まった上月利介は、二十年前の本条が知っている草凪利介だという。本条六才の頃話だった。本条は会いに行く。利介は、本条の父と本の話をする友人だった。利介は母と関係を持ち、父の知るところとなり、母と利介は江戸を出た。利介は母を死んだことにしていていたが、本条には、母・たか枝とは十二年前に別れた。彼女は三ノ輪で「たか」という茶店をしていると知らされた。
上月利介等四人は、龍玄によって打首になった。
本条は、三ノ輪行きを龍玄に頼んだ。利介の話を龍玄に伝えた。本条は、六才での出来事を封印していた。本条はたか枝の来し方を聞きながら、昔のことを想い出していた。
孝太郎は振り返らず店を出た。
許されざる者
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