2023年12月28日木曜日

三島屋変調百物語九之続 青瓜不動

三島屋変調百物語九之続 青瓜不動  宮部みゆき

 青瓜不動 ちかのお産が近づいた頃、手習所の青野先生の知り合いの行然坊が三島屋を訪れた。行然坊の紹介で、高月村の洞泉庵のいねが、うりんぼ様という不動明王を背負ってきた。うりんぼ様がこちらの産婦の力添えをするというので連れてきた。富次郎が、黒白の間で話を聞き、富次郎がお祀りすることにした。
 うりんぼ様は、心に痛みを抱えた女たちが集まって暮す洞泉庵の青瓜畑から掘り出された瓜坊の顔を持つ不動明王だった。
 ちかが産気付いた時、富次郎は黒白の間のうりんぼ様の前に座った。
 呼びかけられひっくり返った先は、青瓜畑だった。うりんぼ顔の青瓜を摘んでゆく。山の麓から摘む。麓から大百足が追いかけてくる。富次郎はうりんぼたちを摘みながら逃げる。全てのうりんぼを摘み大百足から逃げる。山の上から海に落ちる。海に飛び込んだ。うりんぼに囲まれうりんぼが泣いている。富次郎は目が覚めた。ちかが女の子を産んだ。ほぼ丸一日掛かった。小梅と名付けられた。

 だんだん人形 百物語を止めないかと言っている伊一郎の紹介で、人形町の味噌屋・丸升屋の三男・文三郎が話しに来た。祖父から言い伝えられた話をする。祖父は四代目、丸升屋の初代・一文から伝わった話だった。
 北国のとある藩の味噌・醤油を商う石和屋に奉公していた。醸造元を訪ねて三倉村で騒動に巻き込まれた。三倉村は良い代官に恵まれ、米は採れないが村中で味噌を作り年貢を払った。土人形を作って売って村は潤った。突然代官が代わり味噌を石和屋に売らずに井達村の問屋に売れという。村長も大人の多くは代官所に連れて行かれた。水牢に入れられたという。一文と一緒に村を回っていた勇次と村長の妻は、一文と飛び猿とおびんを逃がすために役人の前にでて殺された。一文と飛び猿とおぶんは三倉村のことを城下、石和屋に知らせるために逃げる。
 おぶんを土人形を作る村に預け、一文は飛び猿と洞窟に入る。二人は死ぬ思いを何度もしながら城下に付き石和屋に告げる。代官の悪事が暴かれ処分が下されるまで一年掛かった。三倉村のほとんどが殺され、元の村には戻らなかった。おぶんも捕まり代官屋敷の奥に閉じこめられていた。
 おぶんが一文に武者の土人形を贈った。四度死ぬ思いをしたと言った一文に、おぶんはこの武者は四度一文を守よ、と言って。
 一文は文左衛門となり江戸で丸升屋を開いた。二代目の時、火事が起こりきらきらと光る物について行くと安全なところに逃げられた。十年後の火事でも、土人形が宙を舞い演舞をやりながら道案内をしてくれた。三代目の時は、近所の放蕩息子に金を貸してから出せになり合口で脅された時、放蕩息子の手首と眉間に何かが突き刺さり事切れた。人形の短槍だったが、見たのは丸升屋の者だけだった。四代目の時、寮を買い、寮に泊まった時に、盗賊が押し入った。土人形が九人の盗賊を殺し、これで勇さんのところに行けると呟き、粉みじんに砕けた。

 自在の筆 富次郎は骨董店〈古田庵〉で、出会った絵師・栄松師匠が、後日、古田庵に押し入り、古田庵で預かっていた筆を持ち出しばらばらにし、食べて死んだことを聞いた。
 富次郎は店主に聞きに行く。
 自在の筆と言う。あの筆で絵を描くとすごい絵が書け、和算の術式を五才の子が解いてしまうっという。ただ廻りの者の生気を吸い取る。妻の目から血を出し右目がつぶれ、左目が飛び出る。正気を失い十日目に骨と皮になって亡くなった。臨月の娘が産気付き、三日三晩苦しみ亡くなった。跡取り息子、嫁、内弟子、女中と亡くなった。そんな中で栄松は絵を描いた。筆を手放せば良いと分っていても手放せない。幼なじみが得々と説く。手を放した筆を火ばしで挟み、紙箱に納め紐をかけ蝋で封印した。それを古田庵は預かっていた。
 素晴らしい絵が描けたと思っていたが、見てみると勘違いだった。稚拙の線、汚らしい色、異臭を放っていた。栄松は、自在の筆を退治した。
 富次郎は絵師に憧れていた。百物語を聞いて絵にしていた。この話を聞いて絵を描くことを止めようと思った。

 針雨の里 八十助が大番頭になった。伊一郎から羽織、着物、襦袢を貰って、それを着てちかの赤ちゃんを見に行った。
 門次郎は捨子だった。捨子を育てて鳥の羽毛と卵の殻を売って生計を立てている村があった。木を登り木を渡り採るから十七才まで働く。村はお金を貯めており、子供らが村を出ていく時に纏まったお金を渡す。躾けと字が書け、算盤が出来る。お金を貰って独り立ちする。
そんな村に門次郎はいた。十七才になった時、門次郎は村にいたいと言う。村と町を行き来する増造の後を継いだ。
 そんな村に大噴火が起こった。村人は子どもを助け雨と土石流と溶岩み飲み込まれる。村人は風舞さんだった。風舞さんの化身が村の衆という身分を得て富を得られるまでの仕組みができていた。
 富次郎は泣いた。描きたい。


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