2024年8月31日土曜日

旗本出世双六〈一〉 振り出し

旗本出世双六〈一〉 振り出し 上田秀人 

 書院番の新参がいじめに耐えかね三名の古参を斬り殺す刃傷事件が起きた。二百二十五石の小旗本で無益の北条志真佑は、番士を一新し再編された組・西丸書院番二番組に抜擢され、妹・幸や叔父・相模八左衛門と共に喜んだ。書院番の仕事は、外出時の将軍の警護。志真佑は西ノ丸の書院番なので家慶の外出時の警護。

 家斉の代参で、家慶が有徳院の忌日の供養に参加のため寛永寺に行く。志真佑は組頭のすぐ後ろに付くように言われた。敵に誘われても討って出ず、盾出なければならないと言われる。

 行列に浪人が絡んできた。先頭が当て落とされ志真佑は相手をする。一撃は止めた。浪人らは藩を潰された理不尽と潰した徳川への反感と浪人の暮らしのつらさをたらたらと言い放ち、刀を向ける。刀を受けた志真佑は、小普請には未来は見えぬ、我らには直参旗本という誇りがある。この誇りは何人も奪うことは出来ぬ。夢はいくつでも見られる。ひとつのことにとらえられてきたそなたたちと一緒ににするな。天下の泰平を守るのが旗本の役目じゃ。と志真佑は答え返す。守っている間に水戸家の援軍が来た。浪人たちは走りさる。
 志真佑は、家慶と目が合った。家慶は微笑んだ。
 家慶は志真佑に興味を持った。


2024年8月19日月曜日

鬼役〈三十四〉 帰郷

鬼役〈三十四〉 帰郷 坂岡真

 上方で医の勉強をする鐵太郎から江戸に帰ると連絡があった。 
 江戸城が火災で被害を受け、予算以上費用が嵩み再建された。老中が返り咲き幕府は迷走している。二度目の罷免蟄居があり、阿部伊勢守が老中首座になった。
 矢背蔵人介は「小姓頭取格奥勤見習」となり、影鬼となっている。
 鬼役となった卯三郎にまだ信がおけられていない。
 南町奉行に就任した遠山佐衛門少景元が、名前を連ねた紙を出し、上意だと言う。蔵人介は、間違った上意には従わないと言った。

 まだ鐵太郎が帰らない。門前に置かれた紙に海辺の風景と「市谷お納戸町矢背蔵人介」が書かれていた。蔵人介と串部は、金沢道を南下する。父親とじい様を役人に殺された小童に合った。一か月前、役人は、唐人船を焼き積荷も漁師も家も焼いた。磯松は、海辺の絵の所に案内した。
 海辺の見える御堂に鐵太郎はいたようだ。網元が、役人が半狂乱で村人を撫で切りにし姿を消した。翌日から村火地に症状が出始めた。鐵太郎が現れ、患者の治療を始めた。体力のない老人や子供は亡くなった。生き長らえた快復の兆しが表れ、新たな患者も出なくなった。浦賀奉行が鐵太郎を連れて行った。
 浦賀奉行・久保寺は、斬首にするという。蔵人介が奉行に公金着服の罪で成敗する間に串部は鐵太郎を助け出した。疫病はころりだった。鐵太郎の江戸帰郷の理由は、疱瘡の種痘を広めるためだったが、もう一つ、個人的には、異人の血をひく、医者を目指す女・多喜を探すためだった。
 卯三郎が毒味で倒れた。毒が仕込まれたが、ころりに感染した。御鳥屋に運ばれ、鐵太郎が呼ばれた。
 多喜は息子・仁を探していた。
 出牛峠の銀色の塔を爆破し、徳川幕府の転覆を狙っていたものは失敗におわった。
 大奥の山嵐ひとりになった。
 奥医師筆頭・胡桃沢が、多喜の産んだ子は、紀州徳川斉順だと言った。
 大奥で、子供を見付け、保護し、大奥の食事處で、毒が入っている証明をする。
 
 大阪に帰る鐵太郎を見送る。鐵太郎の横に多喜と、鐵太郎が父上になる仁もいた。
 

2024年8月17日土曜日

おもみいたします② 凍空 と日だまりと

おもみいたします② 凍空 と日だまりと あさのあつこ

 武士・稲村に駕籠に乗せられ連れて行かれたのは旗本・久能家だった。当主・和左之介が、三日後切腹する。手足を動かすと痛く、このままでは作法にのっとった切腹が出来ない。切腹が出来るように動くことが可能にしてほしいという要望だった。梅は死ぬためにもみ治療はしないと言いながら、治療をする。動くようになる。和左之介は、途中で治療を拒む。
 梅は切腹の理由を聞く。女郎宿「かずら屋」の朱波と心中しようとして途中で見付かり目付の耳に入り切腹が決まったという。
 梅は、かずら屋の女将のもみ治療をしながら話を聞く。女将は、女郎から心中話を持ちかけさせ途中で止め、対面をきにする武家から金子を受け取っていた。今までにも何組も、事件を起こしていたが秘密裏に処理されていた。今回は客の中にたまたま徒目付がいた。初めて表にでた。旗本の次男、三男の風紀が乱れていることを気にしていた御上は、見せしめのために和左之介を切腹に決めた。
 和左之介と朱波は、朱波の父親が久能家で働いている時期があったため、幼なじみであった。
 梅は、本人たち、和左之介の姉を説得し、二人を大阪へ逃がす算段をし、逃がした。
 姉・橙子は、梅に過去を話した。使用人として屋敷にきた男が、鼓が巧みで、恋に落ち、密通し二人で逃げることを考えた。男は逃げた。橙子は父親に男を殺すことを頼んだ。橙子は子を産んだ。和左之介だった。橙子は姉として育てた。
 切腹部屋で、稲村が切腹した。
 和左之介を見張り役の二人に、切腹したのは和左之介だと認めさせた。

 橙子が、梅を訪ねてきた。二人が大阪に着いたことを伝えた。稲村の遺書の内容を伝えた。橙子の男・和左之介の父親を殺したのは自分だと。男は逃げた訳ではなかった。橙子が父親に頼む前に、殺されていたのだった。自分の罪を贖える機会を得ることが出来た。梅どのには真底礼を言いたい。
 橙子は後始末を終えた。髪を降ろし仏門に入り、稲村の菩提を弔って生涯を過ごすことにした。梅は橙子の身体を揉んだ。
 

2024年8月14日水曜日

岡っ引き黒駒吉蔵② 馬駆ける

岡っ引き黒駒吉蔵② 馬駆ける 藤原緋沙子 

 雪解け 吉蔵が子供の凧揚げを見ている時知り合った男は、葦簀張りの田楽の店を出している吉蔵が気にしている身重のおはるが、兄と慕う、呉服問屋富田屋の手代直次郎だった。
 鬼のような取り立てをする金貸し・宇兵衛が殺された。直次郎が、三両借りていることが分る。富田屋の主人・鶴太郎が四百両借りていることがわかった。鶴太郎は自分は借りていないという。借りに来たのは直次郎だったと宇兵衛のおかみさんは言う。宇兵衛殺しの現場を見たという益之助が殺された。直次郎の行方が分らなくなった。
 おはるが、子供を産んだ。直次郎が顔を出した。吉蔵が直次郎に話を聞く。吉蔵は自分が二人を殺したと言う。吉蔵は子供のころ先代富田屋に父親の死に際に世話になりそのまま育てて貰った恩があった。先代のためにと鶴太郎に言い含められていた。
 鶴太郎は養子だった。先代と鶴太郎の母親との古い口約束の許嫁だった。鶴太郎は四百両を金遣いの荒い母親のために使っていた。母親を連れて逃げようとするところを吉蔵たちに捕まった。

 馬駆ける 吉蔵を岡っ引きに引き上げてくれた金子十兵衛に、元岡っ引き妻五郎の娘を探して欲しいと頼まれる。妻五郎は病気で先がながくない。生きている間に娘と合わせてやりたいという。妻五郎の娘・まちと一緒になり岡っ引きをしていた弥七も探していた。探し始めて半年程した時、殺された。南町の調べで無宿人に殺されたとされ打ち切りになっている。
 吉蔵は、南町に自殺で片づけられている材木問屋「吉野家」の主人の事件を調べようとしていた。
 まちのことを調べていると、まちは、働いていた料理屋で、吉野家が潰れ仕事が舞い込んだ材木問屋・武蔵屋の未亡人と、頬に痣がある武家との密会現場を見ていたことがわかった。その翌日からまちは行き方知れずになっていた。頬に痣がある武家は、南町の与力・野呂富之助だった。事件を打ち切りにしている同心・雪見馬之助の背後にいる与力だった。
 弥七が殺された時、懐に持っていた銀の簪から、女郎・おたかが浮かんできた。おたかを遊女屋に連れてきた女衒は、雪見が使っている岡っ引き・円蔵だった。
 円蔵を捕まえ、まちの居所を聞き出す。
 武蔵屋のはまに届いた文の返書を持って出た為七を追った。文を読んだ浪人は為七を殺そうとした。吉蔵は浪人を捕まえた。為七は文を読んだ。
 菱田平八郎は雪見に会った。雪見は野呂にお前たちとは関わりがないと言われた。雪見は菱田に、妻に見下り半を書かせてくれと頼んだ。
 野呂は品川に逃げた。品川から馬で逃げた。金子と吉蔵は馬で追いかける。吉蔵は追いつき凧糸を投げ絡ませる。野呂を捕まえた。
 まちは妻五郎の看病をした。妻五郎は亡くなった。まちは落ち着いたら岡っ引きになりたいと言った。遊女屋にいた仲間のことを思うとああいう人たちのためには女の御用聞きが必要じゃないかと思うと言った。
 

  

2024年8月6日火曜日

駐在日記

 駐在日記 小路幸也

 蓑島周平 30才  神奈川県松宮警察署雉子宮駐在所勤務。巡査部長。前任地横浜では刑事だった。。妻となった花に静かな暮らしをさせたくて駐在所勤務を希望した。
 蓑島 花 32才  周平の妻。横浜の大学病院の外科医だったが、ある事件で利き腕の右手に重症を負い、勤務医を辞めた。駐在の妻として生きることを決めた。
 品川清澄 57才  雉子宮神社の神主。若い周平と花の良き理解者。
 品川早稲 22才  清澄の一人娘、神社の跡継ぎ。周平と花の友人になる。
 昭憲 51才    雉子宮唯一の寺〈長瀬寺〉の住職 一人暮らし。
 高田与次郎 72才 雉子宮で〈村長〉を務めているが正式な役職ではない。
 小菅 昭 12才  雉子宮小学校六年生。駐在所に出入りする読書好きの男の子。
 田島美智代 12才 雉子宮小学校六年生。駐在所に出入りする読書好きの女の子。

 プロローグ 昭和50年 4月5日 土曜日 今日からここが、私と周平さんの新しい住居と職場です。で始まる。私は日記を書くことにした。右手の指が細かく動かないが、ゆっくり書くことは出来るので、リハビリにもなるので。
 駐在所は、二階建てで横に長く、下は土間と四畳半程の板敷きの駐在所と、子供に開放された和室に縁側付きの図書室がある。奥に竃や井戸がある土間があり、板敷きの台所、二部屋の八畳間がある。江戸時代の建物です。
 荷物の整理に早稲ちゃんが手伝いに来てくれた。
 
 日曜日の電話は、逃亡者 4月6日 周平がパトロールで出かけた後、バスから下りた男女が、顔面蒼白。食あたりの診断を下した花は、二人を駐在所で休ませる。
 松宮警察からの電話で、強盗事件の犯人が、雉子宮出身なのでそちらに逃亡の恐れがあると連絡が入る。刑事科の先輩に電話する。
 男が雉子宮出身だと話すので、清澄さんに来てもらい確認する。
 周平は、久米康一31才と田村良美に話を聞く。康一は暴力団のような番畔組の沼田の家に押し入り良美を連れて逃げた。沼田が発砲したため、民間人が通報した。沼田は久米が十万円を盗んだと警察に届けた。沼田をよく知っている周平は、松宮警察からの連絡が納得出来なくて裏があると思い先輩に連絡した。康一の話を聞いた周平は、松宮署には、怪しい者は来ていない。久米という家は過去にない。と連絡する。刑事だった時、沼田を逮捕できなかったことが何回もあった。証拠がないからだった。君なら逮捕出来るネタを知っているのではないかと訪ねる。「とっぽい田舎のお巡さんかと思ったら、とんだデカだった。」
 サービスで佐久間さんの家に住めるようになるまで、ここの二階に暮す宿泊代も食費も奢りにするよ。
 佐久間康一君が両親の離婚のため、母方の苗字・久米になって帰って来た。父親も亡くなり五年、空家になっていた家に手を入れて住めるようして住む。
 
 久米康一 29才  周平の赴任初日に雉子宮を訪れた男
 田村良美 28才  康一の婚約者

 木曜日の嵐は、窃盗犯 六月二十五日 水曜日 強風が吹いた夜明け。昭憲さんから泥棒が入ったと連絡があった。樹木が倒れ窓ガラスを割った所から入った賊が、あったと思われる秘仏を盗んで行ったという。周平は、秘仏のこと寺の先代住職のことを聞き廻った周平は、ひとつの結論に達した。
 秘仏は、今日や昨日無くなった物ではないこと。このまま、泥棒が入ったことにすると、泥棒が見付からなければ、少し前に村に来た康一が疑われること。周平は、先代の住職が売り払いお酒に替わってしまったのだろうと考えた。二年後、秘仏公開の年が迫って、秘仏がないことを知った昭憲が苦し紛れの言い訳を考えたのだろうと思った。父親が、酒代にしてしまったとは言えない。
 昭憲と清澄と相談し、窓から入った足跡は動物の物で、香木の香りに誘われ咥えて逃げたということにした。
 久米康一は佐久間康一になり、康一の情報を、周平の横浜の先輩に送り、沼田は逮捕され、しばらくは刑務所から出てこれないらしい。

 金曜日の蛇は、愚か者 八月二十九日 金曜日  晴天が続いているにも関わらず、濁った水が川を流れていた。木の枝とかも一緒にたくさん流れた。どこか道が崩れていると困るのでパトロールをする。そんな時、小学生が、蛇に噛まれた。蛇はアオダイショウで、大事に至らなかったが、小学生たちは、この二日程前から、蛇が多くなったという。
 川の中で、炭焼きの民蔵さんが骨折して見付かった。花が応急処置をして町の診療所に運ぶ。周平は現場検証し、民蔵が落ちた場所を見付けた。低い崖になっているところに隠した穴があった。周平は、民蔵に確かめる。金塊があると思い、誰にも知られず自分の物にしようとしたのだろう。あれは金塊ではなく黄鉄鉱だよ。人が近づかないように蛇を捕まえ蒔いてていたのだろうと話した。捕まるか?と訪ねる民蔵に、誰にも言わない。足が治ってから助けてくれた人を集め鍋でも囲もう。子供たちには、祭りの時に綿飴でも買ってあげればいいよ。
 西川民蔵 47才  雉子宮で唯一の炭焼き職人

 日曜日の釣りは、身元不明。 十月五日 日曜日 良美さんが、川で人が倒れていると駆け込んできた。周平と花が行く。康一と山小屋の富田さんと甥の坂巻君がいる。倒れた人は死んでいた。花が見たところ心臓発作か脳梗塞だろう。周平も事件性は無さそうだと思うが、財布があるが、身分証はない。免許証も無く、身元が分らない。どうやってここに来たのかも判らない。連絡を入れ、遺体を寺に運ぶ。村の人に見てもらうが、誰も知らない人だと言う。警察車両が来て病院へ連れて行った。周平は、康一に坂巻君の動きを見張っていてと頼む。康一は圭吾が参月沼に行ったことを伝えた。参月沼の廻りに、タイヤの跡があったことを言った。沼には入れないから車があるかは確認出来なかったという。
 康一は圭吾を食事に誘う。周平と花も康一の家に行く。周平は圭吾に聞く。あの身元不明者が誰か知っているね。圭吾は知っていた。姉を自殺に追い込んだ男。姉の写真で見た。圭吾の姉の死の話になった。姉は村を出た。東京からの連絡で圭吾が行くと、男と不倫し騙され入水自殺していた。身元不明の死体になっていた。
 今朝、散歩の途中で、川の遺体を発見した。姉の写真の男だった。姉と同じように身元不明にしてやろうと思って身元の判るものを隠した。車も沼に沈めた。
 あの沼の車を引き上げられない。ダイバーも入れない。君の隠した免許証等が草むらから見付かった事にして身元が分ったと連絡を入れる。君が反省して今から正しく生きていくかを見てる。圭吾に、康一は、俺なんか強盗で指名手配されたんだ。という。周平はどうして言うかね。と笑った。
 またひとつ、周平が日報に書かない出来事になってしまった。
 富田哲夫 51才  山小屋の主人。坂巻圭吾の叔父
 坂巻圭吾 26才  山小屋で働く若者。父母が亡くなり、叔父が引き取ってくれた。

 エピローグ 雉子宮駐在所に、三か月の子犬がやってきた。猫のヨネとチビとクロはどういう反応をするか。早稲ちゃんが名前はミルと付けた。

2024年8月3日土曜日

うぽっぽ同心十手綴り⑦ かじけ鳥

うぽっぽ同心十手綴り⑦ かじけ鳥 坂岡真

 穴まどい 長尾勘兵衛たちは、浅草の正燈寺へ紅葉狩りに出かけた。末吉鯉四郎が刺された。五寸釘に毒が付けられ刺された鯉四郎は、ただただ眠っていた。
 鯉四郎が調べていた事を調べる。七日前、 仏壇屋「曼珠屋」の番頭殺し、先棒の駕籠かきが一緒に殺された。殺したのは浪人だった。
 浪人が殺された。殺された駕籠かき所有の煙管を持っていた。五寸釘で殺された。
 十日前、警動があり、鯉四郎は、船宿の亭主・達磨屋籐兵衛を捕まえていた。一人だけ別行動で四谷の大番屋にいた。南町筆頭与力・伴野左近により無罪放免になった。
 勘兵衛は黒覆面に襲われた。残った鶴首男は逃げた。銀次が追い、行き先を突き止めた。大名の下屋敷の賭場。隠居に化け入った勘兵衛が出合ったのは壺振りおはん。おはんが行き着いた先は、口入屋「傘屋」、そこの主は鶴首の重三郎だった。
 勘兵衛は帰り道、おはんが五寸釘で襲って来たため捕まえた。
 鯉四郎の目が開いた。
 十七年前に捕まえ、十六年八丈島にいた丁次郎が、一年四国巡礼をしていたと顔を見せた。丁次郎のために捕まえようとしていたくちなわ一味の頭目重蔵を捕まえられなかった。このところくちなわ一味の犯行が起こっていた。
 丁次郎がくちなわ一味の犯行を予告してきた。蔓珠屋の番頭は錠前破りだった。殺されたため丁次郎が誘われた。重三郎、駕籠屋伝助、籐兵衛、蔓珠屋惣八、あと二人がくちなわ一味。どこを襲うか判れば連絡する。その代わり、娘・おはんを助けてほしいと言った。
 丁次郎から愛宕下天徳寺、明日子の刻。の知らせがあった。伴野左内の呼び出しで手下になれと言われ、本当の押し込み場所を聞いた。龍河山金剛寺。五百両を希望した。奉行所は、知らせを受けた天徳寺へ行く。勘兵衛は一人で金剛寺へ行く。
 押込んできた者から金剛寺の金子を護る。盗賊が金を運び出し始めた。重蔵に狙いをつけ、臑に斬りつける。丁次郎を助けながら追いかける。鯉四郎や銀次が駆け付ける。得物を手にした僧が集まっている。見張り役や重蔵を捕まえていた。伴野が勘兵衛に討ってを送った。その討ってを追ってきた。丁次郎とおはんが合った。
 根岸直々の白州が始まった。伴野は捕まったのは偽者の頭目で、本物は壺振りの娘と共にどこかへ逃げたと言った。根岸は丁次郎が奉行所に来て、くちなわを売った礼が欲しいと言ったと伴野に言った。十手持ちの面汚しと言われた。丁次郎は来ていない。丁次郎とおはんはかまいなしになった。
 おはんが四国巡礼に行くと寄ってきた。丁次郎が島で拵えた珊瑚玉の簪を渡した。二人は旅立った。

 きりぎりす 霜月 綾乃は鯉四郎に嫁いだ。夜、夜鷹姿の女が、先に血痕が付いた銀の簪を持って来た。勘兵衛が静に贈ったものだった。
 夜鷹探しを始めた。静のことを知っているという比丘尼がいるらしい。比丘尼は殺されていた。夜鷹のおけいが、高利貸・地蔵屋から貸付証文を盗み比丘尼の所に逃げ込んだため比丘尼は殺された。おけいは逃げている。遁科屋・逃がし屋・十吉から、おけいとおたね姉妹は、地蔵屋からの借金の請人になったことで切腹した勘定方の旗本の娘だった。十吉が、おけいが借用証文を天神屋に持ち込んだ後地蔵屋に捕まったと、知らせてきた。
 勘兵衛は、天神屋に十手を預け、貸付証文を渡して貰い、地蔵屋を潰すことを約束する。
地蔵屋に行き、おけいと証文を取り換える。おけいと百両が外に出たころ、細かく千切られた証文が紙吹雪となった。鯉四郎が助けに来た。
 おけいをおたねの所に逃がした。

 かじけ鳥 竜閑橋のたもとの迷子石に、静、帰ってこい。と書いた。
 勘兵衛は、静のことで訪ねてきたくみに合うために訪ねて行くと、くみは殺されていた。くみを殺した絵師を殺したということで甚八が追われていた。
 勘兵衛は絵師殺しを調べることになった。甚平はおゆきと出会い、一緒に越後に行く約束をしていた。
 絵師が出入りしていた艶狂堂へ行き、仕掛けに掛かり捕まった。甚平が盗んだ下絵を返せと迫られる。話の内容から、殿が悪徳商人と手を組みあぶな絵を描かせている。この連中がくみを殺し、絵師を殺したのが分った。水牢に入れられた。甚八が死んだ。甚八を上げる時勘兵衛が上がって行き外に出た。
 絵師に成りすました勘兵衛は、呼び出された現場に行き、殿様に合い艶狂堂も商人も捕まえた。甚八の盗んだ下絵も見付けその場に打ち付け目付に連絡する。
 ゆきが、静のことを知っていた。甚平から聞いたと言う。記憶を無くしたご新造。記憶は無くても待っている人が有ることは承知していた。自分の意思ひとつで逢いたいと思う相手に邂逅できる。肝心の決断がつかず迷っている。と
ゆきは甚八を待って寒さで亡くなった。
 
 静が立っていた。泣きたいのを堪え、迷子石の伝言を目にしてたまらなくて。
長い間迷子になっていたな。 
 夢なのか?

2024年8月1日木曜日

定食屋「雑」

定食屋「雑」  原田ひ香 

  会社帰りに週二回か三回、「雑」に寄って、食事して酒を飲むのが楽しみ、自分の楽しみを取らないでと別居した夫。三上沙也加は納得出来ず、離婚届を書いていないが、夫は催促する。沙也加はやり直したいと思っている。「雑」がどんな所か、若い女性でもいるのかと偵察に行く。若い女性はいない。太ったおばちゃん一人で切り盛りしていた。
 結婚後、仕事を辞め派遣会社で働く沙也加は、生活が苦しくなる。ひょんな事から「雑」がパートを募集していることを知り、派遣で行かない日に働くことになった。
 雑色みさえ、前の店主・雑色さんから店を継いで、二代目ぞうさんと呼ばれている。先代が、みさえが出来るように定食屋に替えて行った。コロッケや豚カツを沙也加に教える。みさえは以前、雇った子のこともあって、沙也加に深入りしないようにしている。お客さんに対しても個人的な話はしないようにしている。だから、名前を呼んだことがない。
 唐揚げの揚げ方を教わり、ハムカツの研究をする。
 糠味噌の漬物を漬け、二人でカレーを作る。沙也加と呼ぶようになっていた。
 沙也加は両親に離婚の話をした。父母は、あちらのご両親と話をすると言う。沙也加は父母が何か行動するよりも早く、離婚届を書いて健太郎に取りに来させた。自分で決めたかった。
 九州から卵の営業マンが来た。卵かけご飯の店にすると言う話に、みさえは乗っている。自分の身体に自信が無くなり、卵かけご飯に少しおかずを付けるだけならまだ出来そうだと思った。
 大晦日、恒例みさえは常連さんの御節を作る。沙也加にも。沙也加に誘われ初詣でに行く。
 沙也加は、1Kのアパートに移った。
 コロナの緊急事態宣言が発令され、「雑」はどうしようかね、と話しているうちに脅迫されるようになった。店は休業した。
 みさえは歓迎されないことを承知で実家に帰った。思っていた以上に居る場所がなかった。
 みさえと沙也加は相談し、店の前でお弁当を売り出した。

 エピローグ コロナが下火になった。「雑」は弁当屋になって駅前に移り営業を始めた。コロナの緊急事態宣言が出たり引っ込んだり、定食屋兼お弁当やをやっているみさえは疲れてしまった。沙也加は駅前の空き店舗を見付け、体力的にも精神的にもみさえには難しいと思った沙也加は、ぞうさんの味が残ることが一番だと、厨房を作り替えみさえ一人で店を回せるようにした。いろんな雑事や書類仕事は沙也加がやり、みさえはご飯を作った。「雑」の片づけ、元店長の息子への連絡も沙也加がし、新しい店も昼の客だけに絞った。みさえが生活できればいい。
 沙也加は新宿のIT関連会社に正社員で就職した。仕事後に寄り、店番と帳簿つけをした。
 みさえは、沙也加に会社を辞めここを手伝ってほしいと話した。二人でやれば、帰ってしまう客が少なくなるし、途中でおかずが無くなることもない。お客をもっと増やせる。ゆくゆくは営業を代わってほしいと言われる。
 まだ、きっちり返事をしていないがそうなるだろう。