2022年12月1日木曜日

蜜蜂と遠雷

蜜蜂と遠雷 恩田陸 

 芳ヶ江国際ピアノコンクールが始まった。三年毎の開催で六回目を数える。近年評価がめざましい。ここで優勝した者がその後著名なコンクールで優勝するというパターンが続いた。新しい才能が現れるコンクールとして注目を集めた。
 
 結果 
一位 マサル・カルロス・レヴィ・アナトール
二位 栄伝亜夜
三位 風間塵
四位 チョ・ハンサン 
五位 キム・スジョン
六位 フレデリック・ドゥミ
聴衆賞 マサル・カルロス・レヴィ・アナトール
奨励賞 ジェニファ・チャン  高島明石
菱沼賞(日本人作曲家演奏賞) 高島明石

 マサル・カルロス・レヴィ・アナトール19才 ジュリアード音楽院学生。担当教授はユージ・フォン・ホフマンの弟子のナサニエル・シルヴァーバーグ。母は日系三世のペルー人。フランス留学後、フランス人の物理学者と結婚。五才から7才の三年を日本で過ごす。初めて出会った日にピアノ教室に連れていき、ピアノを音楽の楽しさを教えてくれた少女。マサルは彼女・あーちゃんに会いたかった。あーちゃんは栄伝亜夜だった。まさるは彼女のピアノを聴いてすぐに判った。
 亜夜はマサルを生まれながらの音楽家と感じる。マサルは弾きながら震えが登っていくのを感じ、他人事のように高みから見下ろしていた。

 栄伝亜夜20才 かって天才少女と言われ、早くから演奏活動をしていた。教師でもありマネージャーでもあった母親の死を堺にピアノコンサートを止めていた。高校三年で、母の知りあいの音楽大学の学長をしている浜崎に音楽大学入学を進められピアノを始めた。亜夜は、コンクール出場が決まっても、舞台に戻りたいのの?前線に復帰するの?彼らと向き合う覚悟はできてるの?世間からの目、言葉を聞き、出るのを止めようかと思うような状態だった。風間塵の演奏を聴き、昔のピアノと過ごした時間が蘇る。彼は楽しそうにピアノを弾いた。彼のように弾きたい。かっての私のように。「お帰りなさい」と言われて送り出された。亜夜のピアノはプロフェッショナルの音楽だった。まーくんに会い、昔が蘇る。

 風間塵16才 ホフマンの推薦状がある。書類選考で落ちオーディションを受けてコンクール出場。父は養蜂家。一緒に手伝っている。蜜蜂王子と呼ばれる。亜夜は音楽の神様に愛されていると感じる。審査員の受けは半々に別れる。ホフマンにそのままでいい。好きに弾いておいでと言われた。音楽を閉じこめているのはホールじゃない。人の意識だ。音楽を外に連れ出してやれと言われた。意味は分からない。ホフマンに一緒に音を外に連れ出してくれる人を探しなさいと言われた。亜夜がそうかもしれないと思った。高島の演奏で、緑の畑を見、川面の細波、吹き渡る風、漆黒の宇宙まで見えた。

 高島明石28才 応募規定ぎりぎりの年齢。妻子あり。高校の同級生がコンクールのドキュメントを撮影している。サラリーマン家庭に生まれ、妻は幼馴染で高校の物理の教師、自信は楽器店の店員。音楽家としてのキャリアの最期になると思っている。以降は音楽の好きなアマチュアとなるだろうと思っている。祖母が買ってくれた小さめのグランドピアノが祖母の家の土蔵にあった。二次審査で明石は祖母の桑畑を感じ、「春と修羅」では宮沢賢治を感じ、カデンツを弾き終えた。曲を弾きながら自分が弾いているのをもう一人の自分が見下ろしている感覚。桑畑からイギリスの海岸、ヨーロッパを旅している感覚で終わる。しかし、12人には残らなかった。

 およそ100人の出場者が、第一次審査5日で24人になる。演奏時間20分。第二次審査3日で12人になる。演奏時間40分。第三次審査


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