2023年10月10日火曜日

あずかりやさん

 あずかりやさん 大山淳子

 明日町こんぺいとう商店街の西の端、「さとう」と白抜きされた藍染ののれんの家。
からっぽのガラスケース、小上がりの六畳間の片隅の文机の前に店主が座り点字本を読む。
部屋の中央に客用座布団がある。
朝は七時から十一時、昼は店を閉じ、午後は三時から七時まで開店している。
時間は柱時計が鳴る。
あずかりやさん。何でも一日百円で預かる。

あずかりやさん
8時、柿沼奈美、女の子が紙を一枚七百円で預けた。
11時、相沢さんが来ました。点字本を持って来る。目の検査の結果を聞きに病院へ行く。

三代前は、「菓子処・桐嶋」だった。息子はサラリーマン、息子の妻が継いだが、喘息持ちで体が弱く途中でいなくなった。今の店主は、二人の息子。母親がいなくなり、父親が出て行き息子・桐嶋透は十七才の時、あずかりやという商いを始めた。
 目が不自由な少年が一人で住む家に、男が二週間預かって欲しいと言ってお金と物を置いて行った。男はサナダコウタロウと名乗った。
 三日後、国会議員傷害容疑で指名手配中の真田幸太郎が捕まったニュースが流れた。犯行を否認し、犯行に用いた銃が見つかっていないこともラジオから流れた。
 少年は、福祉課の職員を呼び、商売を始める手続きをした。
 「一日百円でなんでもおあずかりします」ガラス戸に貼った。屋号は桐嶋。
さとうと書かれたのれんを出したため、みんなは「あずかり・やさとう」だと思っている。
 十年経ったが、真田幸太郎は現れていない。

 7時 少年が、鞄を預けにくる。少年は赤い服の咳をしている人に頼まれて来ていた。百円を置いて行く。
 明くる日、赤い服の女は現れず鞄は店主の物になった。
 
 相沢さんが来た。パソコンに専念するために、点字タイプライターを一ヶ月預ける。
 自分のことを話す。親のことは覚えていない。お腹がすくと兄が食べ物を運んでくれた。兄は中学をやめて悪い組織で働いた。中学を出て縫製工場に勤めた。働いて食べることができればいいと思った。兄と連絡が取れなくなった。十年前、突然現れた兄は、お前にまとまったお金を渡せると言った。兄は捕まり禁固五年がきまった。一度面会に行った。兄はさとうという店でいいやつと会った。坊主に大事な物を預けた。約束を守ってくれたらしい。出たら会いに行くとうれしそうだった。兄は刑期を待たず獄中で亡くなった。
 相沢さんは、兄の遺品を手に入れるために点字を習い一年かかって一冊を点訳した。兄の遺品はどうでもいい。兄が最後に信じた人に会ってみたいと思うようになった。
 相沢ではなく真田幸子です。うそをついてごめんなさい。
 店主は、真田が預けた物ではなく、赤い服の女が預けた鞄を渡した。鞄は、店主の母親がん持ってきたお金だった。
 相沢さんは、点字タイプライターを預けて帰った。

 少女が紙を受け取りに来た。
 
 ミスター・クリスティ
 自転車屋のプライドを持った自転車屋の親父がいる自転車屋に、父親と中学生の少年が自転車を買いにきた。日本に一台しかないクリスティ、少々お高い自転車を買った。笹本つよし君はうれしい。店主は、メンテナンスするからちょくちょく寄ってと言う。つよしは喜んで乗り、あずかりやに預けた。三百円を渡した。
 つよしはあずき色の自転車を預けてクリスティに乗って学校に行く。帰りにあずけやに寄り、自転車を交換する。あずき色の自転車はぎいぎいと音がしなくなり、サビも無くなりカゴのゆがみも修正されていた。一週間同じだった。
 苦労してつよしを育てている母親が、人から譲って貰ったあずき色の自転車。父親がさっと出した金で買われたクリスティ。母親に悪くて家に乗って帰れないつよし。
 古い自分も乗っていたチャイルドシートを付けたまま高校に来て、妹を迎えに行くのという荒井さんに出会った。つよしは海まで走った。クリスティを預けたまま一ヶ月過ぎた。
区が自転車屋と提携して出来たリサイクルシステムの写真を撮った。自転車屋の親父が飛んできて札五枚で買った。店主が、自転車の持ち主は、自転車を愛していた。でも他にまもらなければならないものがあったのでやむをえず自転車を手放したと話した。

トロイメライ
 社長の執事という人物・木ノ本亮介が、千四百円で手紙を預ける。二週間あずけたり取りにきたり、三ヶ月続いた。
 男が、木ノ本が来たかとあずかりやに来た。木ノ本があずけた物を出せと迫るが、店主は受け付けない。男は寝てしまった。起きた後、あずけた書類を要求する。親父の遺書だと言う。店主は、父親は生きているのだから父親と話しをするように進める。

 三毛猫が赤ちゃん猫を座布団の上に置いて帰った。動かない。店主は一週間奥に引きこもり店を休んだ。

 一ヶ月半過ぎ、本物の木ノ本が現れ、木ノ本と言いあずけに来ていたのは社長だったと言う。親子は和解し、本物の遺書を書いた翌日に亡くなった。遺書には、五十年、オルゴールを預け預かり賃を渡す。新婚旅行で買っただいじなオルゴール、大切にしてくれそうな人に託したかった。ここに持って来ていた遺書は白紙だった。店主に会いたくて来ていたようだ。
しまい込まないで、手元に置き、ねじを巻き、トロイメライを聞きたいときに聞く。それが条件。売り払えば六本木にマンションが買える値のつくアンティーク。売らずにそばに置いてほしい。百八十二万五千円とオルゴールを置いた。
 白い猫が現れた。預かりものだと言う。猫に社長と名付けた。
 オルゴールは、ガラス戸棚の中に置かれた。シューマンのトロイメライ。店主は一日一回ねじを巻き蓋を開ける。小鳥がダンスする。社長は店でくつろぐ。

星と王子さま
柿沼奈美。懐かしい17年前に一度来た。店には留守番という笹本つよしがいた。店主は喪服を着て出かけたらしい。
奈美は、つよしと預ける物を交換した。預かったのは星の王子さまという本で、預けたのは封筒だった。一週間預けた。夜、つよしから電話があり、本が必要になったので返して欲しいとのことだった。交換した。
翌日、あずかりやに行く。店主は誰にも留守番を頼んでいなかった。オルゴールを聞き、話しをして帰る。封筒は預けず、区役所に提出した。夫に子どもが出来た。認知したいと言われた。離婚届だった。

店主の恋
 七年前に閉館した図書館の本を預けにきた女の人がいた。オルゴールを聞き、しまう時に本を並べた。6月3日に結婚する。それまで預かってほしいということだった。二十年前、図書館から盗んだという。いつかは返さなきゃと持ち歩いていた。
 猫・社長を、ポーチドエッグと呼ぶ。似ているからと。店主は名前を聞きそびれた。石鹸の香のする人。
 彼女は、社長を助けるために自分が交通事故に遭った。
 六月になっても彼女は来ない。
 引っ越し先に持っていけないが、母がくれた物で、捨てられないというアルミの両手鍋を預けに来たおばあさんが来た。
 六月の末、相沢さんが点字本を持って来ておしゃべりする。
近所のたばこ屋のおばあさんが、たばこ屋の家賃が払えず、身寄りがないので施設に入った。
先月、事故があり、商店街の出口に信号機が付いた。
石鹸の香の女の人が預けていったのは、星の王子さまだった。相沢さんが音読する。三日に一度やってきて少しずつ読みやっと終わる。

エピローグ
何年かたち、社長の目が見えなくなった。
 

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