2024年5月15日水曜日

隠密船頭〈十二〉 仇討ち

隠密船頭〈十二〉 仇討ち 稲葉稔

 南町奉行・筒井伊賀守の「隠密」沢村伝次郎は、過去の裁きの再探索を下知された。
 酒問屋仲間の行司役の徳兵衛が、肝煎り・矢野屋弥兵衛に斬りつけた事件だった。幸い傷は浅く、徳兵衛は捕らえられ「中追放」となった。徳兵衛は、後に自ら命を絶った。徳兵衛の仇討ちを企む者がいるらしい。徳兵衛は調べでも何も話していなかった。 

 伝次郎の調べで、仇討ちをしようとしているのは、息子の勘次郎、番頭の利兵衛、徳兵衛に助けられた浪人・丸橋金三郎の三人だった。
 徳兵衛は商売上手だった。問屋仲間に入りたい店があった。鹿島屋を仲間に入れるために松村屋が邪魔だった。鹿島屋を仲間にすれば、矢野屋に利が入った。行事役がうまく廻らないようにしたり、松村屋の内情を調べるために勘次郎の女房を呼び出し手込めにしたりした。辰は離縁され自殺した。問屋仲間の内にも不平不満が溜り、仲間が壊れそうになっていた。徳兵衛は決心し、弥兵衛に斬りつけた。

 徳兵衛の気持ちを知った三人は、弥兵衛が寮にいる時を狙う。利兵衛と金三郎は、近所の空家の柱に勘次郎を括り付け二人で行く。張り込んでいた伝次郎に止められる。利兵衛は、弥兵衛が勘次郎に謝ってくれれば、殺す気はなかったという。もし謝る気がなくて、殺してしまっても、勘次郎は、新しい店のためにもここにいない方がいいと考えていた。弥兵衛はやったことを暴かれ、連れてこられた勘次郎にも謝る。利兵衛は千両出し、肝煎りを下りると念書を書いた。伝次郎は引き上げた。
 矢野屋を潰す気はなかった。店には奉公人がいる。利兵衛はいった。
 肝煎りを下りた翌日、弥兵衛は卒中で死んだ。

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