2023年10月30日月曜日

めおと相談屋奮闘記⑩ 親と子

めおと相談屋奮闘記⑩ 親と子 一旦区切り 野口卓 

 捨子行 波乃の姉・花江の子どもが産まれた。元太郎と名付けられた。
 波乃も懐妊した。
 誠と三吉が、訪れ、流行の捨子行を熱演した。誠が詩吟を吟じ、三吉が芸をする。これを考えた太鼓持ちに演じる許可を貰いたいと言う。
 捨子行を考え出したのはぺー助師匠だった。暗い原正弘の「棄児行」という詩を即興で笑いに持っていった。原さんにも許可を取っている。信吾は猿回しの猿が演じる許可をもらった。

 伝言箱の下に捨子があった。幸吉とい生まれて一週間くらいか。甚兵衛の知り合いの、赤ちゃんを亡くしたばかりの大工のおかみさんに貰い乳をする。おむつを貰う。信吾と波乃は、このまま赤ちゃんを育てて行こうと話す。

 大名の留守居役・蟻坂が、留守居役の集まりで、留守居役たちを満足させる出し物はないかと相談にくる。信吾はぺー助師匠と三吉の共演を思いつき、ぺー助師匠と誠に話す。二人は喜ぶが、決まった座敷があり、許可がいる。もし競演が出来れば、後日、自分の座敷でも競演することという条件が付いた。二組の競演は決まった。

 兄と弟 大店の跡取り息子が相談に来る。何を相談しているのかはっきりしない。弟から相談があった。気の弱い兄が、しっかり者の腹違いの弟に店を乗っ取られると思い込んだ悩みだった。父親も息子の気の弱さを考え、はっきり言えないでいた。
 信吾は、弟の気持ちを知り、兄に、自分が考えたように話す。兄が店を継ぐことになり、弟は一番番頭と決まった。相談料として十五両入った。弟は妻を娶る。二人のお祝いに使おうと思う。

 新しい親子 巌哲和尚に、幸吉のことを相談すると、周りの声に振り回されず幸吉が幸と吉を得られるかを頭に置いておりさえすれば誤ることはないと言われる。毎日、波乃が、ムメ姉さんの所にいくか、ムメ姉さんが波乃の所にくるかして、貰い乳をしている。雨が降り、波乃だけが帰ってきた翌日、幸吉は、波乃の元に来るのを嫌がった。波乃はショックを受ける。
 ムメの夫・鉄五郎が、幸吉を養子にしたいと言ってきた。
 波乃はおむつを持ってムメに会いに行った。
 信吾は、本当の親が来ても、養父母の名前と住まいを言わない決心をした。

2023年10月26日木曜日

雇足軽八州御用

雇足軽八州御用 辻堂魁

文政十三年 1830年

 竹本長吉39才は 、紙屋を生業にする殿山に雇われたと思っていたが、本業が高利貸で、用心棒又は、取り立てに雇われていたことに気付き、辞めた。
 新しく紹介されたのは、八州御用・関東取締出役、勘定所の臨時雇いの足軽だった。手当ては一日銀一匁。

 竹本長吉は、元宇潟藩郡奉行配下の下役だった。三年前、百姓一揆の煽りを受け、郡奉行の父親は切腹、配下の者も職を失った。妻と子は名主の実家に預け独り江戸に出てきた。
 十年、もう十年と藩札を発行する執政に対して、父親は藩札発行を抑え身の丈に合った藩政に戻すべきという考えだった。父親亡き後、長吉に藩の厳しい監視の目を向けられていた。
 
 関東取締出役は、家禄五十俵の御家人・蕪木鉄之助56才だった。二十年続けている。29才の息子は家をまだ継いでいない。

 十二月一日出立。蕪木鉄之助、小者・六兵衛、雇足軽・竹内長吉と多田次治44才。約一年旅が続く。

 大きな出来事もなく過ぎる。
 啼きの道助が率いる一味が押し込み強盗を働き、二十年逃げている。道助中心に四人、その時々に人数を集め押し入る。その四人が塩原の湯治場にいる。臨時出役・西野の一手と一緒に四人を捕らえるという命令が来た。
 西野の到着が遅れている。四人が明日の朝出立すると情報が入り、蕪木は自分たちだけで捕まえることにする。手助けも入れて二十数人になる。
 四人は裏から逃げた。西野が着いて、蕪木の不始末を責める。蕪木は、八日も前に下知されているのに何故こんなに遅れたかと責める。西野は黙って帰った。

 九才で元締をする子どもの博打開催を見咎めた。父親の博打の借金のため身を売った母が病気のため看病に行くためのお金を稼いでいた。竹本は、杉作と一緒に母親の所に行く。
母親は死んでいた。雇い主の話を聞き、墓参りをして帰る。

 もうすぐ一年になろうとする時、啼きの道助を捕らえる機会が訪れる。多田は怪我を負い、竹本が、若い二人を倒す。蕪木は道助に殺され、竹本が二人を討った。

 蕪木が心配していた息子は、代官所手付に採用された。
 藩の執政が変わった。長吉は宇潟に帰る。竹本家再興、郡奉行拝命の内示があった。
 長吉は杉作に会いに行った。杉作は田で働き、古着の仕事を覚えようとしていた。
 
 
 
 

2023年10月22日日曜日

からさんの家 伽羅の章

からさんの家 伽羅の章 小路幸也 

 神野まひろ 20才 実の両親は離婚、父は再婚したが、新婚旅行中に事故死。再婚相手である義母の妹・神野ひろみの養女になる。高校卒業と、ひろみの結婚を機に、結婚相手の義祖母の家に住み、彼女・三原伽羅のマネージャーをしている。
 三原伽羅 74才 〈みはらから〉のペンネームで文筆家、詩人、画家として活動するアーティスト。まひろの義母の結婚相手・三原達明の母。
 永沢祐子 52才 十五年来の三原家の住人。ジャズシンガー。スナックのママ
 ヤマダタロウ 37才 三原家の住人。アーティスト
 野洲柊也 25才 三原家の住人 北海道出身、会社員
 水島レイラ 出版社編集長。新人の頃から三十年近くからさん担当。
 黒田晋 まひろの実母の再婚相手。建設会社社長。
 三原駿一 伽羅の兄の息子。刑事

 まひろがこの家に来て三年になった。
 一年掛けてまひろが書き上げた「匂い立つ 三原伽羅自伝」が売れた。ドラマ化され連続ドラマになった。現在の伽羅は本人が出演、この家で撮影され、まひろも住人もエキストラのような形で出演した。
 まひろが、柊也と付き合い始めて一年半。
 伽羅の乳がんの転移が発覚。副作用で身体や心がどうにもならないような治療はしたくない。普通に暮したいと言う。
 まひろと柊也と伽羅と三人で北海道へ行く。まひろは柊也の母親の盲腸での入院の見舞いがてらの顔合わせのために旭川へ。伽羅さんは、息子夫婦へ身体のことを話しに。 
 柊也の母親との話は自然父親の話しになる。柊也は父親を知らない。不倫だったようだ。男性は、子どもの存在を知らない。息子だと知らせないで合いに行くことには、反対はしなかった。 
 ひろみが、まひろを養女にした時。ひろみはまひろの母親と思ったことはないと言う。可愛い愛する姪っ子。まひろを母を亡くした可愛そうな子と思ったこともないと言う。
 祐子は駿一と一緒に住むことになった。    
 タロウがアトリエに使っている鉄工所の一部を音楽ホールにする。アトリエとギャラリーと音楽ホールと。設計は柊也がする。
 タロウの店ができ上がる日に、お店で、まひろと柊也の披露宴をすることにした。
 柊也は、母親が勤めていた会社を聞き出した。上司の名前も調べた。父親がどんな人か、迷惑にならないように会って来ようと思う。柊也は友人の仕事を借りて、まひろがインタビューの形をとって、七十になっている父親と話した。彼は柊也と似ていた。
  タロウの〈ホール〉のオープンの日、柊也とまひろの結婚式の日。
 〈ホール〉はギャラリーであり、ライブホールであり、カフェとバー。タロウの住み処であり、工房である。
 参列者は、達明とひろみ、柊也の母親・実里、実の祖父母・西野忠親と駒子、黒田晋、祐子と駿一、水島、タロウの兄夫婦と息子、二人の同級生、二人で誓いの言葉は、伽羅の詩を、まひろが自分の言葉にした。新婚旅行はパリ。
 三人の生活が始まった。 
 
 



2023年10月19日木曜日

からさんの家 まひろの章

 からさんの家 まひろの章 小路幸也

 神野まひろ 小学校一年生で、二宮静香ちゃんと仲よくなる前は、空想上の友達・アマド君と二人で遊んでいた。
 まひろの親は、岩崎亨・量子。まひろが生まれて離婚した。三才の時、亨が神野かえでと再婚。五才の時、二人は旅行中に事故死。かえでの妹・ひろみに育てられる。
 母親代わりの叔母が結婚する男性・三原達明の母・三原伽羅72才の家に住むことになった。高校卒業後決まっていた就職先が不祥事で駄目になった。伽羅さんの家の中のこと伽羅さんの付き人、マネージメントが仕事。伽羅さんは文筆家、画家、詩人いろんな面を持った人。

 一緒に住んでいるのは、金属アート作品を造る・ヤマダタロウ35才。
 スナックのママ・永沢祐子50才
 建築学科の学生・野洲柊也23才

 まひろは、からさんの話を聞きながら、からさんの自伝を書くことになった。

 まひろの母親のことで、建設会社社長・黒田晋が来る。まひろの実母・西野量子の現在の夫。量子がすい臓ガンで長くはないと言う話。まひろは、柊也と柊也と一緒に病院に行く。
 量子は、まひろが幸せなことを喜び、自分の決心が間違いなかったと喜ぶ。
 あかちゃんを産んでも愛情が湧かない。自分が育てると不幸になると思い、離婚したと話す。まひろの写真を入れたロケットを肌身離さず携帯していた。
 量子が亡くなった。告別式で、量子の父母・まひろの祖父母に会う。
 お正月に訪ねる約束をする。

 居間とからさんのアトリエの改装をし、まひろの書斎を作る話になった。タロウ君の部屋の防音もしようという話になった。

 

 

2023年10月16日月曜日

隠居おてだま

隠居おてだま 西條奈加 

 嶋屋徳兵衛は糸問屋屋の六代目だったが、還暦を機に隠居した。
 妻・登勢は、嶋屋に残り奥向きを支えている。
 隠居所の午後開かれる手習所「豆堂」の師匠を務める。

 徳兵衛は隠居したが、孫・千代太が持ってくる事に対処するため忙しい。
 千代太の友達の母親、その廻りの人たちの生活が安定するように、組み紐屋「五十六屋」を始めた。
 子供たちに読み書きを教えるため豆堂を始めた。
 子供たちが小遣い稼ぎが出来るよう、子どもたちの王子権現案内を支援している。

 末娘・楽が、錺職人と一緒に住み、子どもが出来た。事を知った長男、次男、登勢、各嫁等は父親・徳兵衛は絶対許さない、楽を勘当するに違いないと思い込み、みんなで思案する。

 錺師・秋治が楽との関係を明かさず、徳兵衛に会いに行き、売り出したい帯留を見せ、売り出しに手を借りることに成功する。徳兵衛は秋治も帯留も気に入り応援する。
 秋治と楽のことを知った。それ以上に家族が、知っていたにも関わらず自分だけ知らずに廻りに乗せられていたことにショックを受ける。自分が頑固なためと分ってはいるが。
 徳兵衛は、自分が独り嶋屋から出ることにした。家族と会わないようになった。

 登勢が嶋屋を出て、一人暮らしを始めた。

2023年10月14日土曜日

空也十番勝負〈十 〉奔れ、空也

空也十番勝負〈十 〉奔れ、空也 佐伯泰英

 京の袋物問屋の隠居・又兵衛と知り合った空也は、大和室生寺向かう一行と同道することになった。隠居は室生寺の修繕費用五百両を持っていた。

 途中、柳生新陰流正木坂道場で稽古に加わる。その有り様に違和感を抱き、室生寺に向かう。柳生家の 

 姥捨の里で待つ重富一家と眉月姫一行は、龍神温泉に行く。

 空也は、室生寺の奥の院で独り修業するため隠居たちと別れる。隠居の共・康吉と柳生藩中小姓末席の入江欣也と江戸での再会を約束する。

 江戸には、柳生の里に着いたという空也からの便りと、又兵衛からと室生寺座主和佐又修光からの手紙が届けられていた。

 空也は室生寺から大台ケ原を目指す。大台ケ原の雪道を走る。檜の老木の洞に寝起きした。干し肉をしゃぶりながら木刀を振る。
 日出ヶ岳の山頂で佐伯彦次郎と会った。雪が晴れた未明の勝負を約束する。
 現か虚か判らぬ岩場のぬるま湯に入り、届けられていた食い物を食べる。三日程続いた雪がやみ、翌未明、日出ヶ岳に向かう。
 彦次郎は十両なくても家斉から拝領した修理亮盛光。空也は己の身を斬らして彦次郎の身を絶った。彦次郎に伴う鷹・千代丸を操る老人・伴作がいた。空也は肩口から血をたらしている。
  
 寛政十二年 1800年 年が明けた。
睦月の懐妊が知らされた。
一ヶ月かかり、杖に破れ笠を被った空也が姥捨の里に着いた。
五日眠った空也は、走っていた。
二十一日に紀ノ川河口湊に到着する船で江戸に帰ることになった。
空也は高野山奥の院に三日籠った。
空也は、剣術の研鑽は、眉月を幸せにすることと通じていると信じていると眉月に言う。

2023年10月12日木曜日

脳科学捜査官真田夏希⑱ アナザーサイドストーリー 

脳科学捜査官真田夏希⑱ アナザーサイドストーリー 鳴神響一 

 上杉がかって愛した五条香里奈の妹・紗里奈が、県警に辞表を出して行方をくらました。紗里奈は、独自の見解を持ち優秀な鑑識課員だった。同僚たちから妬まれ疎まれていた。上杉は北アルプスで彼女を見付け、根岸分室の部下にする。

 上杉と紗里奈、夏希と小川とアリシアが、会う約束をする。待ち合わせ場所で夏希は誘拐される。夏希と一緒にいた小川も拉致される。
 上杉と紗里奈、アリシアは夏希と小川の後を探す。
近くまでたどり着いたアリシアは、夏希のティッシュを辿り家が判る。
かもめ★百合のファンだった。逮捕される

2023年10月10日火曜日

あずかりやさん

 あずかりやさん 大山淳子

 明日町こんぺいとう商店街の西の端、「さとう」と白抜きされた藍染ののれんの家。
からっぽのガラスケース、小上がりの六畳間の片隅の文机の前に店主が座り点字本を読む。
部屋の中央に客用座布団がある。
朝は七時から十一時、昼は店を閉じ、午後は三時から七時まで開店している。
時間は柱時計が鳴る。
あずかりやさん。何でも一日百円で預かる。

あずかりやさん
8時、柿沼奈美、女の子が紙を一枚七百円で預けた。
11時、相沢さんが来ました。点字本を持って来る。目の検査の結果を聞きに病院へ行く。

三代前は、「菓子処・桐嶋」だった。息子はサラリーマン、息子の妻が継いだが、喘息持ちで体が弱く途中でいなくなった。今の店主は、二人の息子。母親がいなくなり、父親が出て行き息子・桐嶋透は十七才の時、あずかりやという商いを始めた。
 目が不自由な少年が一人で住む家に、男が二週間預かって欲しいと言ってお金と物を置いて行った。男はサナダコウタロウと名乗った。
 三日後、国会議員傷害容疑で指名手配中の真田幸太郎が捕まったニュースが流れた。犯行を否認し、犯行に用いた銃が見つかっていないこともラジオから流れた。
 少年は、福祉課の職員を呼び、商売を始める手続きをした。
 「一日百円でなんでもおあずかりします」ガラス戸に貼った。屋号は桐嶋。
さとうと書かれたのれんを出したため、みんなは「あずかり・やさとう」だと思っている。
 十年経ったが、真田幸太郎は現れていない。

 7時 少年が、鞄を預けにくる。少年は赤い服の咳をしている人に頼まれて来ていた。百円を置いて行く。
 明くる日、赤い服の女は現れず鞄は店主の物になった。
 
 相沢さんが来た。パソコンに専念するために、点字タイプライターを一ヶ月預ける。
 自分のことを話す。親のことは覚えていない。お腹がすくと兄が食べ物を運んでくれた。兄は中学をやめて悪い組織で働いた。中学を出て縫製工場に勤めた。働いて食べることができればいいと思った。兄と連絡が取れなくなった。十年前、突然現れた兄は、お前にまとまったお金を渡せると言った。兄は捕まり禁固五年がきまった。一度面会に行った。兄はさとうという店でいいやつと会った。坊主に大事な物を預けた。約束を守ってくれたらしい。出たら会いに行くとうれしそうだった。兄は刑期を待たず獄中で亡くなった。
 相沢さんは、兄の遺品を手に入れるために点字を習い一年かかって一冊を点訳した。兄の遺品はどうでもいい。兄が最後に信じた人に会ってみたいと思うようになった。
 相沢ではなく真田幸子です。うそをついてごめんなさい。
 店主は、真田が預けた物ではなく、赤い服の女が預けた鞄を渡した。鞄は、店主の母親がん持ってきたお金だった。
 相沢さんは、点字タイプライターを預けて帰った。

 少女が紙を受け取りに来た。
 
 ミスター・クリスティ
 自転車屋のプライドを持った自転車屋の親父がいる自転車屋に、父親と中学生の少年が自転車を買いにきた。日本に一台しかないクリスティ、少々お高い自転車を買った。笹本つよし君はうれしい。店主は、メンテナンスするからちょくちょく寄ってと言う。つよしは喜んで乗り、あずかりやに預けた。三百円を渡した。
 つよしはあずき色の自転車を預けてクリスティに乗って学校に行く。帰りにあずけやに寄り、自転車を交換する。あずき色の自転車はぎいぎいと音がしなくなり、サビも無くなりカゴのゆがみも修正されていた。一週間同じだった。
 苦労してつよしを育てている母親が、人から譲って貰ったあずき色の自転車。父親がさっと出した金で買われたクリスティ。母親に悪くて家に乗って帰れないつよし。
 古い自分も乗っていたチャイルドシートを付けたまま高校に来て、妹を迎えに行くのという荒井さんに出会った。つよしは海まで走った。クリスティを預けたまま一ヶ月過ぎた。
区が自転車屋と提携して出来たリサイクルシステムの写真を撮った。自転車屋の親父が飛んできて札五枚で買った。店主が、自転車の持ち主は、自転車を愛していた。でも他にまもらなければならないものがあったのでやむをえず自転車を手放したと話した。

トロイメライ
 社長の執事という人物・木ノ本亮介が、千四百円で手紙を預ける。二週間あずけたり取りにきたり、三ヶ月続いた。
 男が、木ノ本が来たかとあずかりやに来た。木ノ本があずけた物を出せと迫るが、店主は受け付けない。男は寝てしまった。起きた後、あずけた書類を要求する。親父の遺書だと言う。店主は、父親は生きているのだから父親と話しをするように進める。

 三毛猫が赤ちゃん猫を座布団の上に置いて帰った。動かない。店主は一週間奥に引きこもり店を休んだ。

 一ヶ月半過ぎ、本物の木ノ本が現れ、木ノ本と言いあずけに来ていたのは社長だったと言う。親子は和解し、本物の遺書を書いた翌日に亡くなった。遺書には、五十年、オルゴールを預け預かり賃を渡す。新婚旅行で買っただいじなオルゴール、大切にしてくれそうな人に託したかった。ここに持って来ていた遺書は白紙だった。店主に会いたくて来ていたようだ。
しまい込まないで、手元に置き、ねじを巻き、トロイメライを聞きたいときに聞く。それが条件。売り払えば六本木にマンションが買える値のつくアンティーク。売らずにそばに置いてほしい。百八十二万五千円とオルゴールを置いた。
 白い猫が現れた。預かりものだと言う。猫に社長と名付けた。
 オルゴールは、ガラス戸棚の中に置かれた。シューマンのトロイメライ。店主は一日一回ねじを巻き蓋を開ける。小鳥がダンスする。社長は店でくつろぐ。

星と王子さま
柿沼奈美。懐かしい17年前に一度来た。店には留守番という笹本つよしがいた。店主は喪服を着て出かけたらしい。
奈美は、つよしと預ける物を交換した。預かったのは星の王子さまという本で、預けたのは封筒だった。一週間預けた。夜、つよしから電話があり、本が必要になったので返して欲しいとのことだった。交換した。
翌日、あずかりやに行く。店主は誰にも留守番を頼んでいなかった。オルゴールを聞き、話しをして帰る。封筒は預けず、区役所に提出した。夫に子どもが出来た。認知したいと言われた。離婚届だった。

店主の恋
 七年前に閉館した図書館の本を預けにきた女の人がいた。オルゴールを聞き、しまう時に本を並べた。6月3日に結婚する。それまで預かってほしいということだった。二十年前、図書館から盗んだという。いつかは返さなきゃと持ち歩いていた。
 猫・社長を、ポーチドエッグと呼ぶ。似ているからと。店主は名前を聞きそびれた。石鹸の香のする人。
 彼女は、社長を助けるために自分が交通事故に遭った。
 六月になっても彼女は来ない。
 引っ越し先に持っていけないが、母がくれた物で、捨てられないというアルミの両手鍋を預けに来たおばあさんが来た。
 六月の末、相沢さんが点字本を持って来ておしゃべりする。
近所のたばこ屋のおばあさんが、たばこ屋の家賃が払えず、身寄りがないので施設に入った。
先月、事故があり、商店街の出口に信号機が付いた。
石鹸の香の女の人が預けていったのは、星の王子さまだった。相沢さんが音読する。三日に一度やってきて少しずつ読みやっと終わる。

エピローグ
何年かたち、社長の目が見えなくなった。
 

2023年10月7日土曜日

戯作者喜三郎覚え書 無情の琵琶 

戯作者喜三郎覚え書 無情の琵琶 三好昌子

 喜三郎23 呉服屋多嘉良屋 の三男、喜三郎を産み母は亡くなる。父親が喜三郎の首に手をかけているのを見た祖父母は、喜三郎を引き取って育てる。父親は医者の薬を飲み、三日三晩眠り続け覚めた時には自分の行為を忘れていた。12才で祖母が亡くなり多嘉良屋に帰る。
 夢は鴻鵠楼を買い取り自分の書いた芝居をすること。

 妙音寺で、喜三郎は無情に会う。無情は逢いたい人が幸せに暮しているところを見るまでは死ねないという不磨だ。武士が置いていった刀を本来の持ち主に返ったと言う刀は、喜三郎に五百年前の出来事を見せる。平家の落人が、源氏の侍に斬られる。刀は源氏の武士に渡る。

 無情の話しでは、無情を助けた炭焼き小屋の若者は、平家の落ち武者を助けた。落ち武者狩りの時、若者は武者の鎧を付け刀を持って落ち武者になり首を落とされた。無情は、若者が裏切ったと思い相手の刀を奪い村人も源氏の武者も斬り、逃げきった。歩いているうちに平家の落ち武者の首無し遺体を見付ける。手に蜘蛛の痣ヶ有る炭焼きの若者だった。無情は、自分と義兄弟の契りを交わした若者が替え玉になって討たれたことを知る。
 無情は、この世に残り、彷徨える魂に行く道を示しながら若者の生まれ変わりを探す。

 喜三郎の手首に蜘蛛の痣が現れた。
 喜三郎は、鴻鵠楼の小屋主になった。月灯会での出し物は、無情が魂の行方を示した話しを題材にし、喜三郎が書いた、恋路の果てと子返しの辻と、昔、琵琶法師が話し座頭が書いた壇ノ浦義兄弟の契りだった。

 喜三郎は、頭の中で声を聞く。屋島の戦いで弟を失った。矢を受け船から落ちた。
 喜三郎は無情に弟のことを聞く。無情は弟のことを知っているのは斗市だけだ。新しく生を受けた斗市は幸せに暮している。もう思い残すことはないという。蜘蛛手切りと言われる刀が錆びぼろぼろと崩れる。無情は透けるように薄くなり、琵琶を燃やしてくれと言い、満足そうな顔で消えていった。喜三郎の蜘蛛の痣も消えた。

 鴻鵠楼の持ち主・千夜と一緒になり子を成した。宝屋喜三治という戯作者になった。

2023年10月2日月曜日

上絵師 律の似面絵帖⑨ 結ぶ菊 

上絵師 律の似面絵帖⑨ 結ぶ菊 知野みさき 



女郎花 小間物屋・藍井の主・由郎に千代を紹介される。千代は律に着物の内側一面に菊を描いて欲しいと頼む。千代は、吉原の遊女を身請けする。由郎の馴染・野菊に声を掛けると、自分は病で先がない。自分が恩がある加枝を出してほしいと頼む。千代は二人を引き取った。三人で暮している。
 野菊の同僚が足抜きした。律は美経の似顔絵を描いた。涼太は花前屋で美経が捕まるところを見た。美経も二日後花前屋に身請けされた。美経の恋人が命と引き換えに身請け金を作ったようだ。

 巣立ち 近江の旅籠の息子と言う触れ込みで総次が浅草にいる。綾乃と噂になっていた。綾乃にはその気がないが、母と姉が乗り気だ。青陽堂の丁稚・六太は綾乃贔屓で総次を良く思っていない。
 青陽堂の手代・友永の父親が危篤と聞いて、米沢へ行った。母親の実家が紅花農家で父親は元武士だが「友里堂」という紅屋を開いている。
 友永と仲良しの手代・道孝に、旗本からの養子の話しがあった。
 帰って来た友永は店を辞め、米沢へ帰ることになった。道孝は養子の話しを断り、友永の妹と一緒になり共に助け合う仕事をすることになった。
 律は友永の母と妹の鞠巾着を拵えた。

 香物 定町同心広瀬の妻・史織が懐妊した。
 律は千代に着物を納めた。
 広正という岡っ引きが千代の周りをうろつく。広正は青陽堂の勘兵衛を知っていた。勘兵衛は広正を嫌っている。
 火盗改の小倉もいつの間にか結婚し懐妊していた。
 色男が仲居をたぶらかし泥棒に入る事件が起こっていた。色男・凡太郎の似顔絵を描く。
 凡太郎以外の仲間を捕まえた。
 広正は青という人を探していた。青は十七で良玄に嫁ぎ、二年後に義母がくつ脱ぎ石で頭を打って亡くなり、一年後には良玄が卒中で亡くなった。青は診療所を弟子に譲った。青は二人を殺したのではないかと噂され広正が調べていた。青は駿河で亡くなった。勘兵衛は、十七才の青の許嫁だった。
 由郎は律が描いた雷鳥の着物を着て日本橋から浅草まで歩いた。律に注文が来る。
 雪永は、千恵に菊の着物を送りたいと思うが、千恵は受け取れないと言う。雪永は振られたのかと気が気でない。

 結ぶ菊 べったら市で迷子にならないようにと雪永が手を繋いだ千恵は涙が出てびっくりして逃げ帰ってしまった。千恵は律に相談する。嫌じゃないびっくりしただけ。
 総次が前の若竹屋の息子ではないかと思われた。加枝と合わせれば判るだろうと思われた。
 総次と凡太郎が、逃げる資金のために千代の家に押し入った。三人の他に綾乃も律も千恵もいた。が、千代の家にお金は無かった。総次は加枝を見て、みんなを助ける方に廻る。凡太郎を見た涼太が来る。綾乃が人質になり、川へ連れて行かれ落とされる。六太が飛び込む。猪牙船に助けられる。
 総次は若竹屋の元若旦那・浩太郎だった。盗人一味ではなかった。身元詐称で所払いになった。凡太郎は死罪。
 総次は若竹屋の継父から加枝を助けていた。妹を売り死なせた継父を首つりの自死に見せかけ殺しているかもしれない。
 千代は青だった。勘兵衛から送られた菊の簪を持っていた。律は勘兵衛と広正と一緒に青の昔話しを聞いた。広正は、青は駿河で死んだ。そっくりさんには用はないと言った。
 雪永と千恵は許嫁になった。