2023年11月27日月曜日

あずかりやさん② 桐島くんの青春

あずかりやさん② 桐島くんの青春 大山淳子

 プロローグ 宇宙飛行士になった男性が、中学一年生の最初に、変わったお店、あずかりやさんに預けたい物はと聞かれた先生に手紙を書いた。あの時答えたランドセルは、嘘でした。先生に、本当のことを伝えてすっきりした。
常にあったあずかりやの存在、いつか店主と話してみたい。 

 あくりゅうのぶん 語り手は机。職人に作られた檜の無垢材の机。倉庫の台になっていた文机をぶん机と言う男が買った。彼は机をぶんと呼んだ。芥川龍之介に憧れ小説を書いている一人暮らしの男だった。友人からあくりゅうと呼ばれた。小説は書いていない。
 三十才、母親が帰るようにと迎えに来る。ぶんを質屋に預けるつもりで、行った先は、一週間前に開店した、あずかりやだった。
 あくりゅうは、7時の開店時間、11時から3時までの昼休み、3時から7時までの開業時間を決める。開店中はのれんを出すことを提案する。店主・17才の盲目の少年と話し、ぶんを二百日預けることにし、二万円と机を置いて、芥川龍之介と名乗って帰った。
 家の権利書、カブトムシ、古時計、粗大ごみいろんな物が預けられた。二百日が過ぎた。あくりゅうは来なかった。ぶんは店に出され店主が客を待つ机になった。ボンとなる古時計も店にあった。
 若い女性が、店主に内緒で寝泊まりした。七日いて七百円を置いて出ていった。
 相沢さんが点字本を持って来た。店主は二十五才になった。
 ぶんはあくりゅうが訪れた夢をみた。彼は教師になっていた。

 青い鉛筆 中学一年生の正美。3才下に身障者の弟・直樹がいる。転校してきたクラスメート・織田さんの青い鉛筆を盗んでしまった。鉛筆をあずかりやに三日分三百円で預けた。じっとしていない直樹が、星の王子さまをじっと聞いているという。
 織田さんに鉛筆のことを話しあずかり屋さんに取りに行く。途中で、祖母に貰ったお守りを織田さんにあげる。一緒に行った織田さんは鉛筆をまた預けた。そして、あの鉛筆は由梨絵から盗んだ物だと言った。正美が風邪で学校を休んでいる間に、織田さんはまた転校していた。由梨絵から無くした鉛筆が落とし物箱に入っていたと聞いた。由梨絵の鉛筆に直樹がかんだ後が付いていた。あずかりやさんに行った。織田さんはチェックの布カバーが付いた外国語の文庫本を預けていた。受け取った。
 二十年後、正美は、亡くなった祖母の家に一人で住んでいる。ファミレスで雇われ店長をしている。父は高校の時、家を出た。母は働くため直樹を施設に預けた。月一回母と直樹がファミレスに来る。時々家族をするのは楽なのだ。
 母が直樹を預けたことがあると言う。そこで星の王子さまを見たのだ。直樹は、母に音読され全てを暗記していた。正美は母と弟と一緒に住むことを考えた。

 夢見心地 あずかりやさんのガラスケースの中のオルゴールの話。
 祖父は時計職人、父は途中でオルゴール職人に転向。ゼムスは三十五才の時、スイスでこのオルゴールを作る。百二十年前。シューマンの子どもの情景の7番、トロイメライ(夢見心地)。もうすぐ出産の奥さんへのプレゼントだった。出産がうまくゆかず、奥さんと子どもは亡くなった。一年後、時計職人に戻った。二十年後、作らなかったオルゴールを再び作る。妻と同じ名前の7才の少女の誕生日祝いに。乙女の祈りを音源に使われたオルゴールはでき上がったが、小火で焼けた。新しい美しい象牙細工のスミレの上品な木箱が作られ音源を入れる時、昔のトロイメライが入れられた。乙女の祈りの音源は、前の箱に入れられた。
 少女は耳が聞こえなくなっていた。ゼムスは共鳴台に手を乗せて聞くことを奨める。音が伝わった。二ヶ月するとクララは聴覚を取り戻した。二十二才のクララは調律師と駆け落ちした。クララはオルゴールを持ち出し古道具屋に売った。オーストリアの店で日本人に買われた。大事にされ奥さんの病院のお見舞いにも行き、看取った。旦那さんはオルゴールの引き取りてを探し、五十年の約束であずかり屋さんに預けられた。時々鳴らされる。

 海を見に行く 桐島透、高校三年生。陸上部で百と走り幅跳びの記録更新を狙い、東大の法学部を点字受験するつもりで頑張っている。音楽科の河合都を幸福のピアニストとこっそり呼び憧れている。
 父が来た。家を売ると言う。透はあの家が好きではなかっただろうという父。7才の交通事故後、ランドセルを使わないまま盲学校の寄宿舎に入った。家に帰っても話をしない母親にどう接していいか判らなかったから家に帰らなくなっただけ。北海道に転勤になった父は、いつ東京に帰るか判らないと言う。マンションを買う予定。透は母が帰られなくなると言う。
 石永小百合という転校生が入った。彼女に図書館への案内を頼まれ出かけると、鎌倉の由比ヶ浜へ海を見に行きたいと言う。彼女は今はうっすら見えるらしい。砂浜で脱いだ靴を見付けられず時間が掛かった。見付けたお礼に彼女は顔を触って見せてくれた。彼女の顔は、透が想像していた河合都の顔だった。
 透に東大受験を奨めた先生、柳原先生が亡くなった。ホームから落ちた杖を付いたおばあさんを助けホームから飛び降りた。先生はいい人だったけど死んでしまったのは大失敗だと思う。
 明日から夏休みという日、音楽室で始めて河合さんと話した。いっぱいあるという石鹸を貰った。大好きな曲だというトロイメライを引いてくれた。透は、トロイメライを聞き、急に大人になった。子どもの頃の情景を思い出した。映像として思い出せる唯一の場所は、生まれ育った家だった。家に帰ろう。東大も卒業もどうでもよくなった。
 
 

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