心淋し川 西條奈加
心淋し川 十九のちほ。ここから救い出してくれると思っていた男は、紋の上絵師。ちほに縫い物仕事を出してくれる呉服屋で知り合った。もうすぐ年季が明けると言っていたが、彼は京に修業に行った。三年は帰らない。呉服屋の手代が、自分と一緒にならないかと言ってきた。
閨仏 りきは、六兵衛の妾そしている。四人いる妾が一緒にすんでいる。りきは、一番古い。りきは、六兵衛が持っていた張形に仏を彫った。六兵衛が面白がって何本も彫らせた。
本職の仏師が、りきの持つ仏像に興味を持ち、三日に一度、仏師と一緒に仏像を彫るようになった。
六兵衛が死んだ。四人は長屋を出ないといけない。りきは差配の茂十に以前に作った張形の仏像を見せ売り物にならないかと聞く。茂十は、閨仏と銘打ち話を付けた。家賃を払いそのまま暮すことになった。
これまで通り、時々仏師と仏像が彫れればうれしい。あたりまえの仏像を彫ることはしないと決めた。
はじめましょ 稲次は長屋で「四文屋」を営む。小鉢は四文銭が一枚、煮っ転がしや、鰯は二枚、飯と汁で二枚。稲次は料理屋で修業した板前だった。おとなしいから苛められた。転がり込んできた与吾蔵は、弟弟子、人に突っかかるから苛められる。行くところがなく稲次の所にきた。手伝っている間に稲次は急に痩せ、寝込むようになり亡くなった。客の要請で「四文屋」を継ぐ。
仕入れに行く途中、はじめましょと歌う子どもを見る。与吾蔵は、子どもが出来たと言った女を捨てたことを思い出す。女・るいが歌っていた歌だった。与吾蔵は毎日、女の子・ゆかと遊ぶ。
ゆかの母親はるいだった。与吾蔵は昔のことを誤り、もう一度やり直したいと申し入れる。るいは二人の子は産まれて五日で死んだと言う。すぐ捨子があり、るいが育てることになった。るいには商家の隠居夫妻が後ろ盾になってくれた。ゆかは夫妻の養女になりるいが育てた。ゆかが四つの時夫婦の妻が亡くなった。息子から放り出された。と話す。ゆかは与吾蔵の子ではない。
与吾蔵はトンビが鷹を生むことはあると言って、るいを迎えに行く。
冬虫夏草 大店の息子と母親が長屋にいる。息子は足が悪く動けない。母親が全てをやる。息子は怒鳴り散らしてばかりいる。長屋の皆は、なんという息子だと非難するが・・・。
差配の茂十は、息子の将来のためという結構な話を母親が全て断っていることを知っている。息子の全ての世話をしているい今が幸せ。子どものためといいながら、子どもの事なぞ考えていない。
明けぬ里 ようは以前、根津の遊廓にいた。葛葉という。同じ頃大人気の明里ねえさんがいた。明里は札差に落籍された。葛葉は、隠居に落籍されたが、後の面倒は見られないと自由になった。行くところがない葛葉は、客だった桐八と一緒になった。
葛葉と明里が出会った。二人共にお腹に子どもがいる。葛葉は下ろすつもりだった。明里は、札差に落籍されたくなかったという。子どもは同い年、元気な子を産もうと別れた。
ようは体調を崩した。直りかけた時、明里の心中が読売にでた。相手は、札差の手代だった。ようが知っている手代だ。二人は昔から惹かれあっていたのだ。ようは泣いた。大声で泣いた。ようは、子どもが出来たことを桐八に話そうと決めた。
灰の男 茂十は昔、諸式掛かり同心だった。十二年前、息子は、内勤を嫌い、外回りに憧れた。町奉行所あげての取締になっている地虫の次郎吉を探していた。会田親子と四人連れの時、地虫一味に遭遇する。息子は滑った拍子に若い男を殺した。次郎吉はよくも斉助をと言いながら息子を殺した。地虫一味は捕まったが次郎吉は逃げた。
茂十は、妻の甥を養子にし、隠居した。妻は自殺した。次郎吉の顔を知っている茂十は探し周り、楡爺と呼ばれる男を見付けた。奉行所に言っても、五年がたち、奉行が変わり、惚けた年寄を捕まえはしなかった。
茂十と名乗り長屋の差配になり、楡爺を見張っている。
りきが作った雪だるまに赤い襦袢が掛けられた時、楡爺が、「斉助と叫んだ」斉助は殺された。おれの息子。やっと会えた俺の息子。泣きながら眠り、惚けた年寄に戻った。そしてぽっくり逝った。十八年経った。
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