2024年11月28日木曜日

新・口中医桂助事件帖② ほうれん草異聞

 新・口中医桂助事件帖② ほうれん草異聞 和田はつ子

 金木犀禍
 虫歯削り機が少しは使うことが増えた。
 ウイリアムの紹介で知った福沢諭吉が、長与専斎の願いを聞いて欲しいと手紙を寄越した。医業開業試験の口中科学及び臨床実験の審査員をして欲しいという内容だった。
 金吾が、男に襲われ歯を折った美音を連れてきた。金吾は警邏官をしている。見回りを強化する。ゆみが男に襲われ歯を三本折った。ゆみは大尽佐竹屋の跡取り息子と結婚が決まっていた。白無垢が出来上がっていたが、結婚は破棄された。手掛かりは、金木犀の香りだった。
 桂助は二人に断りの手紙を送った。
 ゆみの自殺行為を受け、何軒も起こっている暴漢事件の究明に乗り出す。金木犀いっぱいの屋敷の警護をしている大熊が死体で見付かった。
 桂助は大警視川路利良から裁判医学官として奉職して欲しいと頼まれる。医者巡査になり、大熊の死の原因を精査することになった。大熊の死は殺人だった。
 暴漢事件の犯人は、佐竹屋の息子だった。最初の事件で喜びを感じてしまい、数を重ねていた。他にも暴き出されたが、裁判になるまでに起こった大火事で店も家族も共に亡くなった。
大熊は調べに入っていて見付かって殺された。金吾は一等巡査、桂助は骸検視顧問二任命された。ゆみは見抜けなかったことにショックを受けた。洋服作りの修業をすることにした。
 
 バニラの花
 桂助の医院に腹を刺された爺さんが来た。金吾が子ども・正太を連れてきた。自分で育てようと思っている。爺さんを刺したのは正太のようだ。父親の敵だと言う。父親はアイスクリーム屋を始めようとして契約が駄目になり死んだという。爺さんは氷で大儲けしている中島氷会社野社長だった。正太の父親の死の真相を調べた。正太の思いが間違っていたことが分かり、正太の持ち物の中にアイスクリンの詳しい作り方があったため、正太は中島屋とアイスクリンの会社を始めることになった。正太は、孤児かと思われたが、光恵寺の月照尼が、母の妹だと分った。寺の庭を借り、大きな温室を造りバニラを栽培することになった。
  
 ほうれん草異聞
 桂助夫婦と、鋼次夫婦は、速水邸のディナーに行った。主は、万之助、息子が宗太郎、妻・公子、若夫婦には娘・和子がいた。万之助は、公子が元公家だから嫁にしたと口にする。書生・東川と公子付きの女中・君江がいた。
 ワインを飲み、宗太郎が倒れた。次の飲みかけた万之助が倒れた。万之助は吐き出したいそうなことにはならなかった。宗太郎は、桂助が胃洗浄をする。気が付かず眠っている。
捜査を開始する。自分が毒を入れたと書き置きし御者の佐吉が井戸に飛び込んだ。書き置きを見た万之助は卒中で倒れ、寝たきりになった。事件は佐吉がしたこととなった。
 桂助は、宗太郎にぶつけた。宗太郎と東川の関係。東川を殺人者にさせないために自分はトリカブトを飲み、万之助には石見銀山を飲ませたこと。佐吉は宗太郎の実夫であること。
 宗太郎と東川は今まで通り屋敷に住み、公子は、和子の友達がいる向島に家を建てて、万之助を看ながら暮すことにした。

 どんぐり巡査
 鋼次の長屋の田村佳代が死んだ。元盗賊の佳代は黒装束で世話になった、元警官の神山の家に忍び込み神山を傷つけ逃げるとき、木から落ちて死んだとされた。
 桂助は、元盗賊に神山が金持ちの盗みの仕方を伝授し、そのことを知った神山を戒めに佳代が来た。佳代を落とし、後自分で傷つけたのだろうと言った。神山が、駆け落ちしようとした娘を殺してしまってから神山は変わってしまっていた。
 川路は、文句があるなら骸検視顧問の職を解くと言った。
 神山は心臓発作で死んだ。
 

2024年11月25日月曜日

料理をつくる人

料理をつくる人 アンソロジー 

 向日葵の少女 西條奈加
 元神楽坂に住んでた夫婦の娘が、蔦を訪ねて来た。母が亡くなった。母が大切にしていた絵を父に渡して欲しいと言う。二十歳の母の絵だった。画家の父が描いたものだが、絵は引き裂かれていた。誰が引き裂いたか分った望と蔦は、娘を隣の部屋に隠し、父親を呼んだ。再婚した父、結婚を反対した祖父が亡くなった時に会いたいという母娘に会わなかった父を恨んで破いた娘。父が会えなかった理由、再婚の理由を陰で聞く。久方ぶりの父と娘の対面になる。

 白い食卓 千早茜
 作家が無理難題を押し付けても、何も言わず食事を作る料理人を雇った。六年が過ぎた。愛情がないとこんな事してくれないと言われた作家は、入籍を言葉にした。彼女は来なくなった。見付けた彼女は、あなたは尊大で贅沢な何より手のかかる愛玩物だったと言った。彼は倒れた。心筋梗塞、血管がどろどろだった。

 メインディッシュを悪魔に 深緑野分
 一流のシェフになってレストランを経営するのがジュリエットの夢だった。老人に声を掛けられシェフになり、人気のレストランオーナーシェフになった。
 クリスマスにお客が一人も来ない。悪魔でもいいから誰か来てと祈るジュリエットの前に一人の客。客の導きで連れて行かれたのはたぶん悪魔の前。ずっと前に現れた老人は悪魔だったのだと思い料理を創る。サタンは満足してくれたが、あの日の爺さんではないよと言われる。老人は、迎えに行った客だった。サタンがあなたにちゃんと素直な料理を出せば罰は免除になると言った。悪魔は、接触した人の記憶を消すと言う。ジュリエットはあの時作ったビーフシュチュウを作る。悪魔は食べに来た。ジュリエットに分る臭いを残して帰った。

 冷蔵庫で待ってる 秋永真琴
 新井沙織は大学に入り、文芸部に入った。三年生の三上部長と付き合うようになる。秋から部員になった小椋詩歌が、沙織の作品の批評をする。クリスマスまでは付き合っていた。連絡が無くなった。文芸部へ行かなくなった。小椋は三月で部を辞めた。三上に会えませんかと送ったが、就活で忙しい。またこちらから連絡すると送られてきた。沙織は外食が食べられなくなった。仕方なく自炊する。内定し、三上から 連絡があった。新井さんを上手く守れなかった。謝りたかったけど連絡する勇気が出なかった。今晩は忙しい?また話したかった。に対して沙織は、「漬け込んでいる豚肉が冷蔵庫で待っているから、今日は帰ります」そうか、それが君の答えなんだね。沙織は嗚咽をこらえ、泣きながら帰った。
 数日後、以前厳しい評価だった高校生の青春物を、性格や生活をもっと書き込んでみようと始めた。これが書き上げられたら外食に行ってみようと思った。

 対岸の恋 織守きょうや
 理貴の実姉・莉子が結婚する。義兄・薫ができ高校生の妹・映奈ができる。三才の時離婚した父母に別れて付いて行き、中学の時、母が亡くなり、父と姉に再会した。高校の時から姉と暮し、家事一般を理貴が担った。薫と映奈は連れ子同志の再婚で、二人は離婚した。二才で妹になった映奈は、薫と離れがたく、薫と住むことを選んだ。薫が許可した。
 理貴と映奈は、結婚式の日、海岸で自殺するつもりで家をでる。薫の車で海岸に行き、映奈がトイレに行っている間に理貴は、車を動かし見えないところで自殺を謀る。映奈が気が付き薬を飲み車に目張りをし、練炭に火をつけた理貴を助けてしまう。
 死に損なった。薬が切れるまで寝て電車で帰ろう。

 夏のキッチン 越谷オサム
 さっき、お昼ご飯を食べたところなのにお腹が空いた。コンビニ行こうかと思うがやはり外に出られなかった。小学6年生の翼は、外に出られなくて学校へも行っていない。
 お腹の空いた翼は、初めて自分でカレーを作る気になった。包丁は使ってはいけない決まりなので、ピーラーを使う。箱の説明を見ながら、手の皮をピーラーで擦りながら野菜を炒める。水を入れる頃から母親が現れアドバイスする。ルーを入れ出来上がり。母親はお姉ちゃんとカレーマスター今は、総料理長に宜しくと自分の仕事部屋ではなく和室に入り、けっこう美人に撮れてると言った。仏壇の写真の中で笑っている。姉と父親が帰ってきた。翼は、コンビニに福神漬を買いに行った。


2024年11月22日金曜日

脳科学捜査官真田夏希㉒

 脳科学捜査官真田夏希㉒ 鳴神響一
 ブリリアント・アイボリー

 茅ヶ崎の海水浴場で若い女性の撲殺死体が発見された。遺体の額には「M」の文字が刻まれていた。真田夏希は犯行声明を出した「波夜人」との対話を試みる。彼は被害者の犯した罪を公表しろ、さもなくば、次の殺人を犯すと言う。犯人との対話の重さに責任を感じるが、事態は悪化し、三人の犠牲者が出る。
 夏希は、上杉から呼び出され、加藤と北原、五条紗里奈と五人の前線本部会議が行なわれた。夏希は織田に言えなかったことを話す。殺された女性が加害者だと言っている事件三件に関わった刑事が犯人ではないか。上杉は、生安部に電話する。大須賀警部補が浮かぶ。夏希は場所を三浦半島と予測する。襲われると思われる女性も特定出来た。
 紗里奈が連れてきたオオムが大須賀が借りたボートを見付ける。
 追いつめた大須賀に夏希は拡声器で対話する。大須賀が死ぬ事を阻止する。ここで死ねば犬死ですよ。裁判で、真実を語る事が出来ると言う説得に納得した大須賀は捕まった。

2024年11月20日水曜日

てさばき 

 てさばき アンソロジー

 艶化粧 梶よう子(とむらい屋颯太)
 死化粧を生業にするちえ、化粧品を売る角屋の娘・民と仲よくなるが、自分が死人に化粧をしている事は言っていない。同心・韮崎が、身元不明の女の遺体があると言う。痣がある女が毒を飲み死ぬ事件が何件も起こっていることを知る。毒・万年青が入った薬袋と同じ物を民が、持っていた事ことを思い出す。民の母親がちえがいなくなったと探しにくる。遺体を確認に行く、民ではなかった。民から文が来た。ちえは角屋に急いで行った。

 月満ちる 坂井希久子
 二十歳の美登里は産婆見習いとして祖母・利久に付いている。店の主に手を出され店を追われ、身籠もった千代が来た。中条流の紹介を頼む親娘に、美登里は、頑張って産みましょうと言って帰す。逆子でお産する紋に、覚悟を促す利久。利久は逆子のお産も成功しているという美登里。千代が自殺する寸前と聞いた利久は、美登里を家に帰す。
 千代は、前の家の中将流の源斎の世話になった。紋のお産の時、源斎が呼ばれた。美登里も行き、手伝う。源斎も利久とお産の手伝いをした。源斎は、自分の母のように思っていた美登里の母親がお産で亡くなった時、何も出来なかった。その時から父親から中条流を習い始めた。みんなが等しくお産が出来るわけではないことを習ったと話す。

 残り香 篠綾子 
 仙薫堂の娘・みつ。主は病気療養中、練り香職人は引き抜きに合い、線香職人の泰介だけが残る。みつは、薬問屋の三男・千之助を婿にと店に入れたが、破談になり帰った。千之助が、香の商いを始めるため、引き抜きをし、伽羅と練り香の秘伝書を狙っている。そんな仙薫堂に梅里なる隠居が現れ、亡き妻の思いでの香の練り香を注文する。みつは最後の仕事と、簡単に書かれたヒントを参考に店のために作業所に入る。でき上がった香が気に入った梅里は、仙薫堂を助ける。泰介の修業が終わる後までの二年は、今まで通り店を続けることにした。

 針の歩み、糸の流れ 山口恵以子
 しまは腕の良い、仕立屋だった。いつも仕事を出してくれるさかえ屋の幸助が、詐欺に引っ掛かり、二百両程の穴を空けたと聞いたしまは、仕立ての早さで賭をして百両調達し、幸助に渡した。幸助は店の娘と婚姻し、店を継ぐと言う。しまは、早縫を認めてくれた巴屋に移る。巴屋の内儀は、しまが納得できれば、認められる者に技術を教えてやってほしいと言った。三年経ち、しまが、技術を教えようかと思い始めた時、事故に遭い、しまは亡くなる。

 うわなり合戦 蝉谷めぐ実
 炭屋の雛は、町名主の家に嫁に入り、婚家の要望で勝という名に変わった。町名主の権之助の元に町民が訪ねてくる。佐那がうわなり打ちの仲人の依頼が勝にくる。佐那の方が部が悪いと思う権之助は心配するが、勝は大丈夫と言う。当日、打ち合った後、一騎打ちに鳴った時、夫・清九郎が飛び込んで来る。勝は、清九郎が、朝顔の肥料のために赤子のうんちが欲しく、そのために赤子を抱えたりょうに目を付けたことを暴露する。先妻側も後妻側も、朝顔の鉢を壊す。やめ!勝の一声で終わった。勝はうわなり打ちの仲人が嫌いではない。女が己の心を晴らす唯一の手段だから。 

 万年橋の仇討ち 藤原緋沙子
 千加は女髪結い師。六年前、父親は、高島藩、勘定組賄い方、薪、炭、野菜魚仕入と支払い金銭の計算と確認が仕事だった。千加、十六才の春、不正によって成敗された。同役の崎山平左衛門に斬り殺された。五日後には母親と江戸に出た。町中で崎山を見た。父親の形見の着物の衿から、父親の遺書、崎山の不正の書類が見付かった。奥様方に紹介する簪打ちの與之助。彼の亡くなった父親は浪人で、與之助が町道場で剣術を習っていることを知った千加は、彼から剣術を習う。千加の友達が高島藩の上屋敷にいることを知った千加は、彼女に書きつけを渡す。崎山の行動を知った千加は、與之助の力を借りて崎山を狙う。與之助は怪我を負ったが、千加は崎山を倒した。番屋へ行った千加の元へ、高島藩の用人が仇討ちと認めた知らせが来た。千加は外科医・玄斎の家に向かって走った。
 

2024年11月18日月曜日

定廻り同心新九郎、時を超える③蟷螂の城

定廻り同心新九郎、時を超える③蟷螂の城 山本巧次 

 瀬波新九郎は志津との祝言が後、半年になっていた。志津の父・畿三郎がお役を解かれるかも知れないという。畿三郎が、九曜紋と三つ柏の紋が入った脇差を所持していることを、上に告げた者がいた。九曜紋は石田三成、三つ柏は島左近の紋だった。誰が告げたか。畿三郎は役人が不正をしているようだと調べていた。役人の不正を調べ始めた。作事下奉行と大工の組頭を調べる。
 神田明神の階段で誰かに背中を突かれた。
 気が付いたところは、叢だった。関ヶ原戦いの後だった。湯上谷左馬介が逃げるとしたらどこに逃げるか。考えているところに妙な男が現れる。自分は東の方の者で戦いには加わっていないと説明する。宇喜多家の知り合いの家臣を探していると言った。彼は新免弁之助と名乗った。一緒に行動する事になった。村で落ち武者だと言われ捕らえられた。捕まった先に左馬介がいた。村に東側の足軽が五六人来た。次の日、足軽たちは殺されていた。村の村長に犯人を捕らえてやると申し出る。足跡を辿り、山に逃げた事を確かめた。次の日、離れた家の村人が殺された。笠を被った侍を見たものがいた。侍を見たと言った老婆が殺された。侍は三人組だとわかった。
 徳川の本体三万数千人がこの村は通るということがわかった。秀忠を狙うつもりだと思った。徳川の本体が通り過ぎるまで山狩りをして侍たちの邪魔をする事にした。
 秀忠は三十騎ばかりで先駆けしていた。火薬の匂いがする。左馬介は鉄砲の男めがけ石を投げた。鉄砲の狙いが狂った。先に杉の大木が倒れ道をふさいだ。左馬介は鉄砲の男と組み合ったまま街道に落ちた。弁之助と島左近が戦っていた。新九郎は二人を止めた。島左近は石田三成と島左近の紋が入った脇差をおいて逃げた。 左馬介の秀忠への弁明に脇差を見せた。愛する妻の元に帰りたいという左馬介に秀忠は脇差を下げ渡し、秀忠が経緯をしたため、秀忠の花押を入れた書きつけを貰った。左馬介は秀忠の俺の元の来ぬかと言う誘いに乗った。新免は黒田の指図を受けていると言った。新九郎は諸国を放浪すると言った。

 新九郎は奈津に会うために伏見に向かった。近江八幡で奈津に会った。奈津は泰平の世が来ると新九郎から聞いていたので徳川が勝つと思っていたと言った。新九郎は島左近の話をし、左馬介が、中納言に拾われたことを話す。島左近の脇差とそれを証するお墨付きを貰ったことも伝えた。奈津は、裏切ったことへの褒賞と見なすものもいるから、表に出さぬよう心がけると言った。奈津の難儀に現れるそなたに会えるかもと思って出てきたと話す。ならず者に囲まれた。二人で逃げ、新九郎は引きつけ役をする。逃げた先の階段が崩れ転がり落ちた。

 湯島の木戸番に助けられた。新九郎を突き落とした者を見ていた者がいた。
 脇差のことは分った。お墨付きを見付けよう。上谷の家の蔵を調べ志津が奈津の手鏡を見た。手鏡の裏が外れあのお墨付きが現れた。
 研師が、脇差を見せたことがあるという。相手は疑惑の義兄だった。
 徒目付と作事奉行の前で、新九郎を襲った者を追い込んだ。脇差のお墨付きのお陰で畿三郎は謹慎を解かれた。
 新免弁之助は、宮本武蔵だった。

2024年11月16日土曜日

勘定侍柳生真剣勝負〈八〉 愚王

勘定侍柳生真剣勝負〈八〉 愚王 上田秀人 

 三代将軍家光から左門に届けられた密書。左門は柳生を潰すため、藩士を殺す。ひと足遅れて柳生の郷に入った十兵衛と淡海一夜は、地獄絵図を目の当たりにする。十兵衛は左門を討ち取る。一夜は、柳生宗矩に知らせるために江戸へ帰る。宗冬のために動きが取れない一夜は、老中・堀田加賀守を頼る。

 江戸から大阪に帰ろうとする永和と伊賀の佐夜は、宗冬が放った伊賀者に追いかけられていた。箱根の関所を通り抜けたが、伊賀者を巻くため、佐夜は、関所を利用しようと考えていた。

2024年11月14日木曜日

春風捕物帳 

 春風捕物帳 岡本さとる

 きつね 近江屋の手代・清七が土左衛門になってあがった。南町奉行所定町廻り同心・春野風太郎は、清七について調べた。矢場のきつという女に引っ掛かり貢がせて店の金に手を付けた清七は川に身を投げた。だが、清七は滑って川にはまったということになった。きつの話を聞いた近江屋の主は、きつに会った。主も引っ掛かり、きつを妾にした。清七の母親は、飯炊き婆になりきつの世話をする。きつの留守に近江屋の相手をした婆は美しかった。近江屋は婆に乗り換え、きつとの縁を切った。近江屋の前から婆が消えた。近江屋は隠居した。婆の正体は、白比丘尼のお常と言われた女だった。清七の仇討ちだった。

 姉妹 喜六が、浅草寺の裏で蹲った女・いねを保護した。いねは騙され女衒に売られ酷い目にあわされいたところを必死に逃げてきたと言う。自分を逃がしてくれた姉・ふくが心配だと訴える。手掛かりからいねのいた場所を見付けた風太郎と喜六だったが、女たちは場所を移されていた。合言葉を頼りに新しい場所を探し出す。女達を救い出す。女嫌いの喜六だが、家で店を守るいねは気になったが、いねとふくの姉妹で出来る掛け茶屋を任される事になった。

 やさしい男 熊三は優しい男で、一人で子供を育てている酌婦の愚痴を聞き、やさしく慰めていると、女が本気になってしまった。熊三の恋女房・こいが子供を連れて出ていってしまう。熊三はこいは自分と一緒にいない方が良いんではないかと思う。大家が二人を仲直りさせるために相撲大会を企画する。熊三は昔、暴れん坊を投げ飛ばしたと言い伝えられていた。熊三は、牢人に遣られたと大怪我をする。春太郎は、自分で遣った事だと看破する。怪我をして座っている熊三にこいが寄り添い、膝に子どもが乗った。

 生きる 風太郎が使っている密偵・粂八が殺された。女房を持ち植木職人をしているが、元闇路一家の盗賊だった。闇路一家は義賊と呼ばれる盗賊だったが、代替わりした時に人を殺してっとり早く盗みをする集団になった。粂八は春太郎に密告した。粂八も一旦捕まり保釈され密偵になっていた。粂八のことを知る者は本の人握りの者だった。犯人・丹蔵は昔の仲間だった。丹蔵が粂八のことを聞いたという女の所へ行くと女は殺されていた。
 臨時廻り同心・野川の使っていた密偵も殺された。殺された女の異母弟・柳吉を下っ匹に使っていた岡っ引きが浮上。野川の下で働いていた岡っ引き・蓑次郎を疑う。蓑次郎は、柳吉を異母姉から救うために関わっている間に関係を持っててしまった。裏切り者を教える代わりに金銭をもらっていた。百両を残したまま蓑次郎は姿を消した。春太郎は柳吉を諭し、蓑次郎を捕まえる。
 

2024年11月12日火曜日

喫茶おじさん 

 喫茶おじさん 原田ひ香

 松尾純一郎、大好きな喫茶店めぐりをする。
 一月 妻・亜希子は、一人暮らしする大学生の娘の所に行き、ただいま別居生活中。半年になる。
 娘と喫茶店で会い話しの途中で、お父さんて何もわかっていない、と言われて去られてしまう。
 
二月 学生時代の友人・宮沢に再就職の口を頼んでいる。
亜希子とは社内不倫で、妻・登美子に離婚を切出すとわかったと、しょうがないじゃないと離婚した。彼女は今、カジュアルな和食屋をやっていて流行っているらしい。十年以上になる。もともと、彼女の料理の腕はとびきりだった。宮沢の誘われ店に行く。最後に食べたナポリタンがおいしく、この作り方教えてくれない、と言った純一郎に、登美子は、相変わらず何もわかっていない人なんですね。と言われた。喫茶店めぐりをして帰る。
 
三月 純一郎を店長と呼ぶ、池知斗真と会う。五十五才で早期退職し、娘の学費と二千万を残し、喫茶店を始めた。斗真はその時のアルバイト学生だった。喫茶店は半年で撤退した。斗真喫茶店めぐりの楽しさを話すと、店長て何もわかってなかったんですねと言われた。喫茶店めぐりをして帰る。

 四月 会社の同期の友人・松井敏夫の家に行く。千葉県富浦駅。風光明媚な場所だった。早期退職は同じだが、松井は、出世が約束されているようなエリート社員だった。家を買い、千葉市内にアパートも買いそれだけで生活出来るほど家賃が入ってくるという。
うらやましいな。松井は、僕はお前がうらやましいよ。お前は本当に何もわかってないんだなあと言った。東京駅で、喫茶店めぐり。

五月 森田さくらからの呼び出し。喫茶店開業教室で一緒だった彼女がオープンした喫茶店へ行く。他にお客さんがいない時にずーと話しかけてくる人が数人いる。男性と二人きりでその人たちが来ると胃がいたくなる。少しの間でも助けてもらえないかというこだった。就職が決まりそうなんだ、と言うと、松尾さんに仕事を頼む人なんていないと思っていたと言う。松尾さん自分のことわかってないのねと言われた。喫茶店めぐりをする。一週間ほどさくらの店を手伝おうと思った。

六月 喫茶店で亜希子に会う。離婚を切り出された。急に言われてもという純一郎に亜希子は、本当に何もわかってないのねと言った。

七月 さくらの店で数週間たった。ママのパトロンかと聞かれた。パトロンではありません。私は無職ですから。アルバイトをどういう人にするか決めかねているさくらに斗真を紹介した。さくらは、松尾は自分がどんなに恵まれているかわかってない、と言った。
離婚というと、これからは奥さんの面倒見る必要がなく、気楽に生きられる。早期退職して再就職できて、松尾さんが喫茶店経営に失敗したのは失敗できる立場にいたからだよ。
 
八月 斗真と会う。IT企業に就職が決まった。副業も出来るのでアルバイト出来ると言う。
老後が不安と言いながら、本当のところいくら必要かわかってます?そして斗真は、娘の亜里砂と付き合っていると言った。再就職してから喫茶めぐりが出来なかったが、喫茶店めぐりをして帰った。

九月 登美子から連絡が来た。ナポリタンの作り方を教えてくれる。離婚を切出され渡りに船と思った。あなたのせいにしたままで二十年過ぎた。登美子と会うのはこれが最後かも。喫茶店めぐりをした。何か一つ、目当てに店に来てくれるようなメニューがあれば。

十月 以前勤めていた会社の同期会があった。松井も来た。亜希子からの離婚の申し出と亜里砂と斗真の付き合いのことを話す。子供は旅立つんだよ。妻は他人だよ。離婚したいと言われたら止めることは出来ない。松尾は、息子は小学生の頃から引きこもりだと言い出した。社長のお気に入りの女性と付き合い社長に知られ地方に転勤になった。息子は苛められ不登校になった。激務で家庭を疎かにした。気持ちが家庭に向いていないことは子供たちに伝わった。家族と一緒の時間を作ったが、息子の引きこもりは続いた。妻・孝子は表面上は許してくれているが、時々言葉の端々にあなたのせいだ、と出る。嫌われたかな。がっかりだろう。終わってから喫茶店めぐり。松井を誘えばよかった。
 本当は喫茶店をやりたいんだなあ。

十一月 斗真が京都へ旅行に行く。亜里砂と一緒かとヤキモキし連絡をするが、返事はない。京都まで行った。大学の友達と来ているという。信じていない人にこれ以上話しても無駄と言われた。気が付いた。大人の意思を持った一人の人間なんだ。「そうか・・・。気をつけて帰ってこいよ」席をたった純一郎に亜里砂は、「お父さんが心配するようなことはないから」と言った。次の日、喫茶店めぐりをして帰った。

十二月 久しぶりに入った喫茶店で、今年いっぱいで閉めると言われた。珈琲の入れ方を教えると言う。亜希子に離婚届を渡した。財産分与は家を売って半分にしようと言う。
好きなように生きよう。喫茶店めぐりをする。宮沢に紹介してもらった会社を辞めることを伝える。

エピローグ アパートの一階が店舗用になっている。キッチンとバス、トイレが付いているだけの部屋。部屋の中にテーブルと椅子だけ数個置いて開店した。壁に「濃いコーヒー」と張り紙した。今日はあんこを煮た。練り羊羮にするつもり。
家を売った代金と退職金と預金と学費を残して妻と分けた。
店を見た亜希子は本気なんだねと言った。松井は寝袋を担いで来た。息子がこんなふうに自立してくれたらうれしいと言った。
自分の食費位は賄えるようになった。今はこれでいい。

2024年11月9日土曜日

定廻り同心新九郎、時を越える②岩鼠の城

定廻り同心新九郎、時を越える②岩鼠の城 山本巧次 

で 瀬波新九郎は、常磐津の師匠・凉が殺された事件にとりかかった。不忍池で溺れている子供を助けようとして池に落ちた。気が付けば伏見におり、僧に助けられていた。小袖を着、髷を直して貰い伝手を頼って、奈津姫に会う。時は、関白・秀次の家族が処刑された。
 奈津姫は、父親が関白の謀反ねの関わりについて詮議中のため離縁され寺に預けられていた。奈津姫は、父上が関白の謀反に関わっていたと石田治部に告げた太閤の御側衆の一人、田渕道謙が殺され、殺した疑いで湯上谷左馬介が捕まっていることを話す。左馬介の疑いを晴らしてほしいと言う。翌日、石田治部が奈津に問責する場にいた。父親の話しから殺人の話になった。左馬介は、遺体の横に立っているところを捕まったようだ。新九郎が十五日の間に真の下手人を見付けることになった。石田三成のお墨付きを貰った。
 牢にいる左馬介に会い、田渕の家にも行く。同じ時に田渕家を訪れていた、御側衆の者、宇喜多家の家臣、何人もに話しを聞く。田渕家の奉公人にも聞く。四日目の朝、奉公人・多江が殺された。多江は新九郎に合うつもりだったようだ。新九郎に会う前に会いに行った商人も殺された。新九郎は忍びに狙われた。島左近に助けられた。
 石田治部の屋敷で、犯人を発表する。証拠はないが、播磨の鶴岡家の土地が欲しかった。田渕は彼のことを良いように思っていなかった。湯上谷を嗾け田渕を斬らせようとした。最後に田渕が脇差で殺されたことをしゃべった。姫路近くに三千石の尾野忠兵衛だった。
 左馬介は解き放たれた。新九郎は、三成に五百石で召し抱えたいと言われた。新九郎は、未熟なので世の中を見て修業したいと言った。新九郎は左馬介に奈津殿をほっておくのかと言った。
 どうやって江戸に帰ろうと考えている時、島左近が現れる。左近は、徳川の間者と思っている。左近に斬りかかられ逃げた。川に落ちた。江戸に帰った。子供は助かっていた。

 常磐津の師匠殺しの犯人は、犯人だと思われていた者ではなく、噂になっていない者を噂になっていると言った男が犯人だった。二百年前の事件と同じようだった。
 新九郎と志津の祝言まで二か月になった。この前見た古文書に、今回の事件のことが書かれていた。

2024年11月4日月曜日

しゃばけシリーズ  なぞとき

しゃばけシリーズ  なぞとき 畠中恵

 何故佐助が怪我をしたか。長崎屋の手代と坂下屋の娘が恋仲になった。坂下屋の店が左前になり娘を金持ちのところに奉公に出し得た金で店を立て直そうとした。娘が長崎屋に逃げたので追ってきた父親が、桶を投げた。桶が小鬼に当たり元興寺に噛みつき、がごぜの爪で佐助が引っかかれた。手代は娘と江戸を離れた。

 何故 料理屋の娘・照の縁談が潰れたか。照の次兄が千住の宿屋へ養子に行く事になった。次兄が、実家から遠い、知ったものが居ないと愚痴を言う。照は次兄の頬を殴り、女はみんなそうだ。でも誰も何も言わない、と言った。照の縁談相手の母親が、男の頬を殴るような娘を嫁に出来ないと考えたようだ。内々のことを何故知ったのか。照の友達から伝わったようだ。また、相手は何回も縁談を断っていた。

 通町に賊が入ったどうやって入ったか。黒と白の二匹の犬が離れに来た。鍵が大好きな犬で、鳴家がおもちゃにしている長崎屋の古い鍵にご執心。黒い犬が長崎屋に留まった。白い犬、犬の飼い主を探す。通町の大きな油問屋の犬だった。犬の世話をしている竹藏が鍵を持ってくるように躾けしていた。一太郎行った時、竹藏たちは逃げていた。

 一太郎の枕辺に女が現れる。仁吉の結界を破れるのは何故。天ぷらが歩き出す。寛朝もやってくる。武家の間で流行っている夢見に付いて相談に来た。武勲が書く本から悪夢がでてきていることが分った。寛朝が払う。

 長崎屋の番頭二人と手代が辞める事になった。籐兵衛は、三人の相談役に一郎太を指名した。番頭は、袋物屋をしようと嫁にするつもりの十五才若い女を連れていた。彼女は、若い大工と見合いした。もう一人は、辺鄙なところで小さい店などいやだという。手代は、茶店を買うつもりで故郷にお金を送ると、店を買い、兄にやらせるといってきた。兄は金が無くなり借金を申し込んでくる。籐兵衛は、もういないと兄を追い返す。
 一太郎は、番頭の店で手代を働かせ、もう一人の番頭を、誰かと組んで大家株を持たせようとした。

2024年11月1日金曜日

北の御番所反骨日録〈十一〉 霧の中

 北の御番所反骨日録〈十一〉 霧の中 芝村凉也

 裄沢が、頭を殴られてから二日目、北町の来合轟次郎の元に裄沢の行方不明が知らされる。奉行所の同心等が調べるが、全く手掛かりがなかった。非番月の後、十日足らずの間待つ事になった。

 裄沢の目が覚めた。南品川の漁師町の州崎の飲み屋の縫の所にいた。倒れていたところ杢助に運び込まれた。裄沢はまだ頭が痛く、記憶をなくしていた。
 杢助というのは元芝居小屋の親方で一座の何人かで盗賊団だった。裄沢に目を付けらればらばらに逃げていた。ばらばら逃げた中の三人が、裄沢が潰した海賊団の船で逃げていた。彼らを探すと海賊に殺されていたことが分った。海賊のことを調べるために海賊船の賄い夫になっていた。杢助は、裄沢に知らせ三人の仇を討つつもりで裄沢を拉致していた。裄沢が記憶を失っていることで狂ってしまった。
 日が経ち、何も覚えていない裄沢だったが、やはり裄沢らしくなる。杢助は、全てを裄沢に告げる。裄沢は、海賊が新しく作った太物の店のことを御番所に手紙で知らせる。奉行所は店の者を捕まえた。海賊船はまたもや逃げていた。裄沢は海賊の親方の助っ人に来合並の剣客がいることを知り捕まえに行っても怪我人が出ること必定と考えた。
 杢助に毒物を渡し、杢助の考えた通り仇を討つ事を承諾する。
 御番所に帰った裄沢は、杢助のことは話さなかった。お奉行も不自然さを感じていたが追求はなかった。
 裄沢は縫のところに行った。縫も元は一座の座員だったが、早くに抜けていた。杢助に頼まれて助けていた。縫は、何となく杢助がしたことを知っていた。その後、海坊主と言う海賊の噂が聞こえなくなった。