2024年2月26日月曜日

棟居刑事の証明

棟居刑事の証明 森村誠一

 夏の終わりに熱海の海の沖にある休憩台に男が五人、十二三の少女と二十代の女性七人が休んでいた。少女を除く六人は、女性の出した煙草をくゆらした。五時になりそれぞれの方向へ泳ぎ出した。

 雑木林に生き埋めにされた数十匹のヒヨコの下から変死体が見付かった。政財界に大きな影響力を誇る大物総会屋・税所重信だった。
 ヒヨコを見付けたのは熱海の沖にいた少女・尾形奈美だった。税所の事件を調べるのは熱海の沖で煙草を一本吸った棟居だった。税所の愛人・大杉則子は、熱海の沖で煙草を出した女性だった。
 会社から総会屋税所対策を命じられ、税所から奴隷のように扱われ、自分の命が後半年ないし一年と言われた時、税所を殺すことを最後の目標とした男もまた、熱海沖で煙草を一本吸った八坂正章だった。
 サラリーマン生活の出世は、専務に付いて来たからだと思っていたが、妻が昔税所と関係があり、専務の後ろに税所がいたことが分り、現在も続いているような、息子と娘は自分の子でないかも知れない疑惑がわく。妻が容疑者の一人となり、じぶんも容疑者の一人となったのも、熱海沖で一本煙草を吸った三崎陽一郎だった。
 ヒヨコを埋めた犯人・関野が殺された。関野を追いかけていた男・末岡がいた。暴力団幹部の付き人だったが、幹部が関野に銃で撃たれた。末岡の機転で幹部に玉が当たらなかったのだが、銃を撃たれる所までされたことで末岡は付き人を外された。銃を撃ったのが、対抗する暴力団の下っ端関野だった。税所を埋めたところを、ヒヨコを埋めにきた関野に見られ、関野を殺したのかもしれないと考えられた末岡は棟居たちに捕まった。末岡は関野も税所も殺してはいなかった。末岡も煙草を吸った一人だった。
 もう一人の男・奈美の兄・尾形良一。兄弟の父は、税所に死に追い込まれ会社を奪われた。復讐等考えなかったが、熱海沖で出会い、その後再開し付き合うようになった良一と則子だった。税所が則子を無理やり犯すシーンを見せられ良一は税所を殺した。埋めるところを関野に見られ恐喝されたため関野を殺したと思われた。税所殺しは認めたが関野殺しはしていないと良一は言った。
 八坂が自殺した。関野を殺したと遺書を残して。
 
 一年後、奈美と棟居は熱海沖の休憩所にいた。棟居は関野殺しは、関野のへの恐喝を知った奈美のやったことだろうと思っている。岬の突端に関野を呼び出し、その前に岬の突端の道にオイルを撒いておいたのだと思っている。
 兄と末岡が出所すれば、大杉と三崎を誘ってまたここに集まろうと奈美は言った。

0 件のコメント:

コメントを投稿