2024年4月30日火曜日

新・酔いどれ小籐次〈二十六〉 恋か隠居か 

 新・酔いどれ小籐次〈二十六〉 恋か隠居か 佐伯泰英

 江戸・三十間堀の小さな町道場が、怪しい証文を盾にした兄弟から狙われている。道場主と孫娘の愛を救うため、十八才の駿太郎は、入門する。

  浪人たちに無体を仕掛けられていた旗本片桐家の姫様たちを助けた。翌朝、望外川荘近くに抱き屋敷がある片桐家の殿様と姫・麗衣子14才が、礼に来た。

 天保二年大晦日、雪が降る中、久慈屋の店先に三千両も頂戴しようかという押し込み強盗が現れる。駿太郎が相手をして事無きを得た。

 雪の正月、練習場がないため、駿太郎は、越後長岡藩牧野家抱き屋敷の道場で稽古させて貰う。 

 加古道場を乗っ取ろうとする夢想谷三兄弟が現れる。加古愛と駿太郎が相手をし、三兄弟破れる。

 天保三年秋、奉行所、火盗改が鼠小僧次郎吉の捕縛に力を注いでいた。本物の次郎吉は何年も前から盗人家業を停止して望外川荘で子次郎という本名で男衆をしていた。六人の自称鼠小僧が捕まった。五月に捕まった盗人を調べると武家屋敷で女中に悪さをし、商家で盗みをしていた。近ごろ鼠小僧と称した者だった。真の悪党、鼠小僧次郎吉は市中引き回し、本名知れずとしてさらし首になる。他の自称次郎吉は、江戸所払いと四人は遠島になった。
 不満に思うことがあるかも知れぬが、幕閣がこれを了承した。評定所が談義し、鼠小僧次郎吉の始末が決まった。次郎吉は下劣な悪党だ。子次郎、世間にいい顔を見せたいか。向後、子次郎がどう生きるかが大事なことだと小籐次は説いた。
 

2024年4月28日日曜日

うぽっぽ同心十手綴り⑥ 病み蛍 

うぽっぽ同心十手綴り⑥ 病み蛍 坂岡真 

 瓜二つ 妊婦が大八車に轢かれたという凶事を耳にし駆けつけた長尾勘兵衛。そこで自分と顔も姿も瓜二つの同心・占部と知り合う。瓜を買い占め御値をつり上げている悪党どもと憤慨す占部。息巻く占部を応援したくなる。
 大八車の持ち主・鳴子屋が大量の瓜を捨てている現場を見付けた。鳴子屋に協力する与力・須藤式部。同心・佐々木次郎。占部は鳴子屋から金を出させ全てを殺しに掛かった。勘兵衛と向かい合った時、自死した。占部は、娘の縁談をまとめるため金を出した。相手に心変わりされ、相手を殺した。縁談を得るため金が欲しかった。が・・・。

 病み蛍 芸子・小菊が殺される。殺したことに耐えられない小梅が自死した。小梅は七年前、岡っ引き源七に傷を負わせ逃げた伊佐三だった。小菊の贔屓近江屋の隠し金の在りかを聞き出した伊佐三は、小梅に小菊を殺すよう命令された。
 源七は岡っ引きをひいたが、伊佐三を追いかけていた。近江屋の妾宅に忍んだ伊佐三を捕まえようとして源七は殺された。やってきた勘兵衛は伊佐三を捕まえる。
 源七の娘に、閻魔長屋の木戸番の助の仕事が決まった。

 むくげの花 勘兵衛は、元秋田藩の砂留役の牛島と知り合った。牛島は秋田藩の次席家老の娘を嫁にしていたが、横領の科で秋田藩から追われていた。牛島は嫁は、養女で、息子・寅之介は家老の子、横領は家老のしていたことで、嫁は、牛島に申し訳ないと自死していた。秋田藩は、牛島と一緒にいた娘を勾引かした。勘兵衛は、二人を返して貰う談判をする。根岸のお墨付きがあれば返すという。勘兵衛は、お墨付きを貰い二人を返して貰った。牛島は、果し状を送る。気が付いた勘兵衛と鯉四郎は助太刀に行く。藩士三十人も連れて弓矢まで用意されていた。牛島は本懐を遂げた。根岸は牛島に砂防役を頼んだ。

 不動詣で 鯉四郎の祖母・志穂は、物忘れが酷くなっている。綾乃は、志穂の様子を見に度々出かけた。三日に一度、夜明け前に散歩に行く。通り道に男女の心中を装った殺しがあった。男は菊細工で優勝した男だった。
 志穂が襲われ助けた綾乃が斬られた。
 菊細工事件を調べていくとかんじょう勘定奉行・佐原式部正の名が出、蜜月の交わりの木曽屋が浮かぶ。鯉四郎の父親を罠に嵌めた人物たちだった。
 志穂の後を付け、木曽屋と川路の抜け荷を見付ける。
 鯉四郎は一人で乗り込む。勘兵衛は、川路の元道場へ、捕り方を要請し急ぐ。棺桶で運ばれた鯉四郎を助け、川路を捕まえた。
 翌朝、日本橋の晒し場に、奸賊なり、の捨札が立ち、棺桶に御禁制の人参と勘定奉行佐原と木曽屋が入れられていた。
 志穂は勘兵衛に礼を言い、息子の雑記帳を燃やした。勘兵衛は、綾乃を鯉四郎の嫁にすると約束した。
 


2024年4月24日水曜日

芋洗河岸〈2〉用心棒稼業

芋洗河岸〈2〉用心棒稼業 佐伯泰英 

 小此木善次郎は、初詣で賑わう神田明神で、宮司たちが千両を強請られるところに行き合う。乱暴な御成街道の忠造親分と浪人をやっつけた。神田明神の守護人に認められた。

 善次郎は、青柳道場の具足開で、陰流苗木と夢想流抜刀技を披露した。野中一之亟は、善次郎の父親を知っていた。

 善次郎は、一口長屋の女房五人と子供三人が、船宿で朝食を取り芝居見物後、食事を食して帰る猪牙船で往復する楽しみを用意した。芝居は団十郎の助六。善次郎は木戸札を取るために中村勘三郎頭取が、五百両を脅し取られることを阻止した。勘三郎は、斬った男を奉行所の同心が斬ったことにして納めるために百両だした。善次郎は五十両を貰った。越後屋の帳面に付けられた。
 この事件で、北町定町廻り同心・矢部内蔵助と、親仁橋の御用聞き三郎次を知った。
 矢野は、盗賊の残した文の中に一口長屋が出てくることに不信を覚え調べていた。調べを止めるよう脅されたり、最後には、奉行命令で止められたことを一口長屋に住む善次郎に伝えた。陰の御仁という言葉で表すこともあった。
 矢部が斬られて川に浮いた。

 越後屋の、定火消・松平五千七百石からの呼び出しに付き添う。新たな借財の要求と思われるが、返す気のない松平家にもう貸す気はない。聞いていた善次郎は、高飛車に出、馬に乗ろうとした采女が、ひっくり返って気絶している間に定火消の羽織を脱がし、持ち帰った。知れれば切腹の松平家に取りに来させた。返されたことの受け取り状を取り、もう貸さなくても大丈夫になった。

 善次郎は矢野の事件の根本の四条屋へ連れていってもらった。押し込み時に殺された呼び込み松五郎の殺された場所で、善次郎は、地下への入口を見付ける。地下一杯の水が少しずつ減り、一夜を明かした時、現れたのは金色の仏像とその前に並べられた慶長大判二千枚だった。善次郎は越後屋に知らせ、北町の内与力に知らせる。
 金は公儀勘定方と北町に割り当てられ、仏像は神田明神に寄付された。

2024年4月22日月曜日

情け深川恋女房④ お伊勢参り

情け深川恋女房④ お伊勢参り 小杉健治 

 以前深川に住んでいた九才の長太が姿を消した。元岡っ引きの千恵蔵が探索に乗り出す。長太の父親が二十五年前に勾引かされた。その時の犯人・鳥九郎を追う。どう考えても鳥九郎でないが、千恵蔵は、鳥九郎が犯人だと追いつめる。鳥九郎にはあまり表に出せない別の顔があった。板橋で長太は一人でいるところを見付かった
 七年前、長太の父・絹助は伊勢参りに出て江戸へ戻って来なかった。旗本・渋川家の畳替えをしていた絹助は、旗本の次男が、渋川を強請っているのを知り、注意しもみ合いになり男は石に頭を打ち死んだ。鳥九郎が死体の始末をした。次男の悪友が、絹助にも話を聞きに来たので江戸を離れた。学者仲間に頼んだ。御師になっている。
 長太は、こっそり見にきていた絹助に尾いて行った。父親かと思った人に尾いて行ったと言えなかった。

 小里は母親と同じ病気になった。千恵蔵は、小里が自分の子だということを隠している。母親が病気になった時、治すと言った医者に通わせなかったことを悔やんでいた。小里の薬代を出し、川路という医者に通うように言う。小里と与四郎は、千恵蔵がそこまで言う理由が分らない。川路という医者には通うようにする。
 足柄屋で働いている太助が剣を習うようになり、太助は上達する。先生に見込まれる。
 与四郎は、小里の養生のためにも、長太の母・筋と長太を足柄屋で雇う。

 絹助がこっそり帰って来た。畳職人として働く。
 鳥九郎は首を括って死んだ。
 怪しい男が一人、茂平次
 

2024年4月20日土曜日

マイ・ディア・ポリスマン③ 夏服を着た恋人たち 

マイ・ディア・ポリスマン③ 夏服を着た恋人たち 小路幸也

 JR奈々川駅向かい側の高層マンションの最上階に暴力団の出入りがあると通報があった。巡は、管理人に尋ね、カメラも見るが判らなかった。住んでいるのは若いイラストレーター北村紗英だった。
 紗英が住んでいる部屋にもう一人男性がいる。紗英の恋人杉山が紗英名義で部屋を買い、紗英が住んでいる。杉山が連れて来たのが男性だった。男性・脇田広巳。あおいの父・楢島明彦の大学時代の親友、震災で、妻と娘を亡くし、行方不明になっている。杉山も同じサークルで、知り合いだった。記憶をなくしているような脇田を杉山はこのマンションに連れてきた。二年前、杉山が交通事故で亡くなり、ふたりはそのまま住み続けていた。杉山が暴力団の一員だったため、オレオレ詐欺で手に入れた金をマンションの一室にプールし、溜まったら幹部が取りにきていた。
 紗英と脇田の協力を得られた巡は、彼らにどう対処するか考える。市長と暴力団の癒着、警察との関係を考え、巡は柳に連絡を取る。
 彼らがお金を取りに来た時、外からドローンでカメラ撮影する。その前に、不動産屋を間にいれて紗英から巡とあおい共同で部屋を買い取った。巡の住居でありあおいの仕事場になった。
 暴力団員は逮捕される。
 啓吾と勝也が知り合ったランちゃんは、縫製会社で働いている。話を聞くと、搾取され、住んでいるのも一部屋に六人という状態だという。巡に相談する。市役所勤務の楢嶋にも相談する。弁護士に相談することに決まったが、ランたちを働かせているのは同じ暴力団のようだ。マンションで逮捕されればこちらの様子も変わるだろう。

2024年4月17日水曜日

マイ・ディア・ポリスマン② 春は始まりのうた 

マイ・ディア・ポリスマン② 春は始まりのうた 小路幸也

 あおいと杏奈が高校を卒業した。宇田巡と大村行成は、これで堂々とデートできると喜んでいる。あおいは、お巡りさんが主人公のマンガ「コーバン!」で新人賞を受賞し、お祖母ちゃんと女の子が一緒に旅をする「お祖母ちゃんと神様」と言う短編マンガを書き上げた。漫画家になる。杏奈は東京の体育大学に進む。
 卒業式の後、巡を見張る男を見かけた。あおいは身元調べのためにポケットに手を入れ、警察手帳だと知る。杏奈は行成に相談し、あおいは、天野さくらに相談する。あおいは巡とデート中、廻りの写真を撮り、見張っている男の顔を撮る。天野さくらは、昔の知り合いの刑事だった浜本真一郎に、宇田源一郎の孫・巡に付いて知らないかと問う。浜本は野崎に尋ねる。
 宇田巡は警察学校時代に見取りで三人を検挙した。人を見れば背後に見えるらしい。警視正が刑事に引っ張った。巡は父親が本部の人間で今は警視正になっている癒着の噂がある男を見た。見なかったことに出来なかった巡は自分から交番勤務を申し出た。と噂されている。もし調べたら本部の上が吹っ飛ぶぐらいらしい。

 この頃、背の高い化け物が出ると訴えがある。あちこちで目撃され巡は調べることになった。飯島団地に住む浜本の部屋に居候している鈴木勝也と池田啓吾は、コンピューターとドローンを使う天才的な技術者だった。音がしないドローンを開発し、ドローンを使って飯島団地の人に配送サービスを考え実験していた。人を運ぶことも考え結果として人を驚かせてしまったと言う話だった。

 行成は直接巡に、交番勤務になった理由を聞く。巡を見張っている警察官がいることを話あおいの撮ったデジカメを見せる。巡と同期の柳だった。多分監察だろう。柳と話す。 
 久保警視正の暴力団との繋がり、武器や覚せい剤の密輸・売買を見逃す代わりに違法賭博の上がりを自分の口座にプールさせる。奇麗な金にし、繋がっている議員の手元に行くシステムを完全に構築している警視正の裏金は何億にもなっている。
 祖父が、あらゆる手段を使って、二十人位の組になって情報を集めた。録音、録画、金の流れの書類全部揃っている。それを巡が託された。USBはお寺の本尊のお尻の下、プリントアウトしたものは先祖の墓の中にあるという。持って行っていい。もうすぐあおいの新連載に、若いお巡りさんが過去に巻き込まれた汚職事件のことを書いている。廻りの人になにかあったらぶちまける。
 柳は、何もなかったと報告するつもりだ。
さくらさんが、柳に何もないことを議員さんに約束させてくれた。

2024年4月14日日曜日

ビブリア古書堂の事件手帳〈Ⅱ〉

 ビブリア古書堂の事件手帳〈Ⅱ〉 三上延
 〜扉子と空白の時〜

 プロローグ 篠川扉子は、祖母・篠川智恵子に頼まれて、父の日記のような本・「マイブックー2012年の記録ー」と「マイブックー2021年の記録ー」を持って和田塚駅近くのブックカフェに来た。このカフェは、扉子の少ない友人・戸山圭の家だった。

 横溝正史『雪割草』Ⅰ この世に存在しないはずの本が盗まれたという依頼だった。雪割草は、横溝正史の新聞に掲載された小説だった。上島笑子夫婦が新潟にいる頃の地方紙の新聞小説を切抜いて溜めたものを本に装丁したものだった。栞子は仲が悪い双子姉妹の協力で盗んだものと暴いた。二人はこの本を読む時間が欲しいくて盗んだ。二人の仲が良くなったように見えたが、本の付録、正史直筆の原稿が無くなっていた。その後二人は和解しなかった。
  
  この事件後 栞子の妊娠が判明する。

 横溝正史『獄門島』 学校の感想文コンクールに扉子は「獄門島』を選んだ。学校の先生から電話が入った。扉子は小学三年生。扉子はもぐら堂で『獄門島』を取り置きしていると言う。扉子が本を取りに行くと本が無くなっていた。大輔と扉子は話を聞き、買ったのは店主の妻だと分った。妻の置いた所に本は無かった。読んでいたのは娘・戸山圭だった。
 少年少女シリーズ、三千円ではなく三万円だが、戸山は言わなかった。
 圭が本を貸して欲しいとやってきた。扉子は感想文を書くので貸せないから、家で読んでと二人で部屋に行く。扉子に友達が出来た。

 横溝正史「雪割草」Ⅱ 雪割草が七十七年を経て単行本になった。
上島初子・仲が悪い双子姉妹の一人が亡くなった。遺言で蔵書はビブリア子書堂に売ってと。
双子の姉妹は二人とも亡くなっていた。蔵書整理をしていると直筆原稿と思えるものが七枚出てきた。全部偽物だった。
 九年前、直筆原稿を盗んだのは初子の孫の井浦創太だった。初子が、死ぬ前に創太は、初子が盗んでいたと乙彦に返していた。栞子ははっきり盗んだのは創太だと言った。興味がないという創太に、栞子は裏を見せる。裏には獄門島の文章があった。創太は乙彦のコレクションを相続したいため協力している。九年前のことは何も証拠がない。あの原稿が無くなったことで完全に家族、親戚関係が崩壊した。今は許せない。九年経てばまた変わるかもしれない。創太が変わっていれば連れて来てほしいと乙彦は言った。

 エピローグ 智恵子が現れた。読んでしまった?扉子は何かを気付いてほしいのでしょう。雪割草の自装丁の鑑定をして直筆原稿を売ったのはおばあちゃんでしょう。売ったのはお金ではなく雪割草を読ませて貰うこと。扉子は直筆原稿は本物かと聞いた。答えないまま帰った。

2024年4月12日金曜日

北の御番所反骨目録〈九〉 廓証文

北の御番所反骨目録〈九〉 廓証文 芝村凉也

 隠密探索ことはじめ  用部屋手付同心だった裄沢広二郎は、隠密廻り同心の御役を拝命した。先輩の鳴海に、江戸の町を知るために町中をうろつき廻るように言われる。浪人姿でうろつく広二郎は、小間物屋・千鳥屋の店番の娘・咲を脅し、店の奥に上がり込もうとしている大前屋を止めた。定町廻りの西田が、小間物の行商をしながら探索を手伝う千治郎を紹介してくれる。千鳥屋と大前屋のはなしを聞く。裄沢は、奉行所の小者頭の仁助に、風紀の良くない盛り場をうろついても目立たないが仕事の出来るものと注文を付けた。貫太に裄沢の指図で動いて貰う。
 大前屋が千鳥屋に乗り込んだ時、裄沢も入る。大前屋が咲が、昼間から男といちゃついているとか、お貰い手がない咲を貰ってやるとか言う。裄沢は、咲が入った出会い茶屋は、幼なじみの実家で、一緒に入った相手がその幼馴染だと言う。大前屋が、連三に咲を宿場女郎に売るはなしをしていたこと、隣の空き屋・元出合茶屋を買っていること、千鳥屋の婿になって千鳥屋を潰して出会い茶屋を大きくする計画があることを話した。全てを明らかにすれば闕所になり江戸所払いになるだろう。まだ計画で罪を犯す前だから、千鳥や咲に手を出さない約束をすること。これから悪事に手を出さぬことを約束させ捕まえなかった。
 貫太が何もかも完璧に調べてくれた。貫太も仁助も善三の事で、裄沢を知っていた。善三が裄沢に感謝していたことも。裄沢のためならしっかり調べる。

 廓証文 隠密廻りは、南北交代で吉原の面番所で見張りをする。顔合わせで、裄沢は二十五両を貰った。鳴海はもっと渡したいが、余り多くすると裄沢が突っ返すと判断し押さえてその額だろうと言った。
 裄沢は内与力になったばかりの鵜飼に仕事を教えるようにと言われていた。裄沢が隠密廻りになったことで鵜飼に何も教えられなくなった。水城に引き継いだが水城は知らん顔らしい。鵜飼が面番所にきた。
 裄沢は非番に浪人姿で吉原の中を彷徨いた。江戸一丁目の半籬・梶木屋の狭衣と知り合った。狭衣は、来年二十八才で年季明けを迎えるとうれしそうに話した。
 四か月が経った時、梶木屋に枕探しが入った。犯人に付いた遊女は、鈴音だったが、狭衣だったと言うことにされた。白州に呼び出される。狭衣も奉行所に行く。奉行所の吟味方与力・甲斐原は、楼主が吟味で嘘の証言をしていることに虚言を労すると言ってきた。違った者を相方として連れてきたのは何を企んでいるかと。狭衣に白州に掛かった金額を貸しにし、年季を延ばすために嘘の証言をしたという言質を取った。年季明けまで無理をいったりしないと約束させた。
 梶木屋の楼主は怒っていた。こんなことをやったのは裄沢だと思っていた。吉原に帰ると、清掻が鳴らされ松葉屋の藍染、丁子屋の菊之衣、扇屋の緋揚羽三名の花魁道中が始まった。三人は面番所の方へ会釈した。客たちはあの三人に挨拶させる町方はどんな人かと話は続いた。楼主たちは、遊女を代表する娘たちが面番所に感謝を示す挨拶に出向いた。どういう意味か判るかと梶木屋に問うた。吉原の娘は、年季があけて外に出るのが夢なんですよ。
 狭衣は吉原を出た。

 御馬先召捕り一件 鵜飼が、小石川で、火付け盗賊改方が捕縛中を邪魔したと申し立てられた。裄沢が会いに行くと鵜飼は切腹寸前だった。裄沢は何も判明していないのに逃げるなと言った。
 裄沢が小石川をうろつき、人に物を尋ねていると火盗改の同心が割って入り何も聞けない。
 良く効く薬が有名な薬屋・開健堂の主・彦次郎が殺され金が奪われた。薬屋は元主が亡くなり番頭が店を継いでいた。近所の薬屋が潰れ、手代が開健堂に拾われ番頭をしていた。息子は店を離れ長屋で一人暮し、時々息子は金の無心にくると噂されていた。息子・貞吉が犯人だと捕まった。
 火付け盗賊改方助役・奥野猛弘が、北町奉行所に来た。貞吉は捕まってから白状し殺したことを認めて口書きに爪印を捺した。捕縛中に鵜飼が邪魔をした。許されない。と奥野は言った。
 裄沢は貞吉をこちらに引き渡してくれという。裄沢はまず、開健堂の主人は貞吉。金を盗んだことにならない。火盗改の仕事ではない。貞吉は、養生所で薬の研究をしていた。彦次郎が殺された時刻も養生所にいたと医者が言っている。番頭の兼五郎が犯人だった。
 貞吉を責め問いで痛めつけ弱ったところを奥野の馬先に投げ出した。そして捕まえるつもりが、その場を見ていた鵜飼は、何か変だと思い、貞吉を助けようとしたのだった。
 奥野はにげるようにして帰った。

2024年4月10日水曜日

武士はつらいよ

 武士はつらいよ 稲葉稔

 郡奉行の下役だった夏目要之助は夏の人事異動で大目付配下の徒目付になった。要之助は美園藩藤田伊勢守氏鉄の家臣。先任の徒目付・沢村軍之助が要之助の世話役、同僚が、西島主馬、下目付・青木清兵衛。上役・目付・北村儀兵衛、大目付・加山助左衛門。

 殿の愛馬・流れ星が死んだ。死因を突き止める調べの中で、馬方の一人・内藤伊三郎が殺された。伊三郎の動きを調べているうちに流れ星の死因が毒だと判る。
 伊三郎が賭博の借金二十両を返済していた。要之助、主馬の命が狙われる。

 三人で調べた結果を発表するために、目付・大野善右衛門、武具奉行・馬方差配・山本芳右衛門、大目付・加山にも厩に集まって貰った。厩には馬方がいた。
 流れ星に毒を飲ませたのは伊三郎。頼んだのは山本、返金した二十両はその礼金。山本は家老への推挙があったが、殿が推挙を取り下げ家老になれなかった。殿を恨み、愛馬を殺した。
伊三郎の、城に忍び込むための手伝いをしたのが馬方・増田栄蔵だった。主馬と要之助を狙ったのも栄蔵。と要之助は言う。栄蔵は流れ星を殺すことを知らなかった。伊三郎に詰め寄り山本から三十両で頼まれ、その中から栄蔵に五両渡したと聞いた。栄蔵は伊三郎を殺したと白状した。
 軍之助が、自分で調べたように上役に話す。清兵衛は腹を立てるが要之助は、大声で一言悪態をついて憂さを晴らす。
 山本はお家取り潰し、切腹。増田栄蔵は斬首。

 調べ中に出会った菓子屋の娘・菊。好感を持ったが、菓子修業から帰った佐吉と結ばれることに手を貸した。

2024年4月8日月曜日

すべての神様の十月

すべての神様の十月 小路幸也 
 2022年10月14日 何も書いていないのでもう一度読んだ。

 幸せな死神 バー・キャリオットで、ウィスキーを頭から注がれ榎本帆奈に見えるようになった死神。彼女との契約が成り立ちアパートの彼女の部屋にも行けるようになった。死神の幸せは誕生に立ち会うことという死神。花井帆奈になり赤ちゃんの誕生の場に死神を招待する。生命の誕生は素晴らしい、うれしいこと、幸せですねと言いながら死神は消えて行く。名前がないと言う死神に、赤ちゃんと同じ名前を付けた。私が死ぬ瞬間に来てよ。久しぶりですねって会いに来て看取ってよ。

 貧乏神の災難 自分の家が貧乏だと話す池内雅人25才。国立大学卒、三年で三社を首になった。話す相手は、貧乏神。雅人はそんなことは知らない。大庭と名乗ってもう会うことも無いだろうと話す。雅人の両親はよい両親だ。雅人の強運が発揮されると彼の両親は堕落してしまう。そうならないように貧乏神は彼に取り憑き彼の強運人生を〈小吉人生〉に変えてきた。貧しくとも幸せな人生を歩んでもらうために。貧乏神は、福の神と話している。彼は強運で莫大な富を手に入れる。最愛の母を失い、得たものを報われない人のために使おうとすると。福の神はこのバーを教えてくれた死神が消えたと話した。
 
 疫病神が微笑む  叔父・森山晴行が開業している小児医院に勤め初めた、看護師千佳21才。森山先生29才、イケメンのためお母さんからのアプローチが激しく、困った先生は、お母さん達に対して事務的で冷たい対処をするようになっていた。そんな中で、千佳は、保護者のように患者に付いてくる和服の夫人を見付けた。千佳はお大事にと声を掛ける。先生に、和服美人が見えるのは自分だけだったと聞かされる。今度見えた時に尋ねることにした。ドアを閉めあなた何者ですか?診察時間後彼女は来た。疫病神・小百合さんだった。疫病神が子供を病気にするのは、母親に子供と向き合わせ生活を変えるよう警鐘を鳴らしていると知った。先生のお母さんに対する態度が変わった。お母さんに微笑みながらお母さんを元気付ける。現れた疫病神の小百合さんは、微笑んでいた。先生が明るくなった。彼女が出来て結婚が決まった。

 動かない道祖神 オレは、交通整理の仕事場で少女から拾った財布を預けられた。交番へ持って行ってと。オレは忙しくてナカさんに代わって行って貰った。落とし主が現れ、入れていた58万円がないと騒ぐ。ナカさんは一週間休まなければならなくなった。オレは、少女が母親の財布から抜き取って隠していた56万円をくちばしで挟み、表に出す。母親がホストに貢ぐ金を持って行かさないように抜き取っていた。今から親子はどう建て直すか?
 道祖神のなかさんと八咫烏の私は見守る。

 ひとりの九十九神 大学を出て就職浪人を一年し、地元の印刷会社にグラフィックデザイナーとして就職した。一人暮らしを始めた部屋に、おばあちゃんが使っていたお釜を持って来た。幼稚園の頃からこのお釜は放しかけてっくる。九十九神だと言うお釜。彼女が出来た。彼女の前で父親が、母親の病気のことを話した。二人で母親の病気の心配をしている時、お釜が話しかけてくる。大丈夫おかあさんは助ける。そう言ってお釜は笑った。そして割れた。母親は良くなった。一年半後結婚した。よう久しぶりと電気炊飯器がしゃべった。

 福の神の幸せ 

 御蒔け・迷う山の神 

2024年4月6日土曜日

鬼役伝〈五〉 武神 

 鬼役伝〈五〉 武神 坂岡真

 市川団十郎が舞台上で殺された。犯人は生島半六。その場で捕まった。団十郎は猿婆の命の恩人である。事件の真相を突き止めようとする、行き着いた先は弾左衛門だった。弾左衛門と会い、弾左衛門から事件の裏があると言われる。
 求馬は、御用之間で橘主水から密命を受ける。相手は五十崎玄蕃。今将門を名乗る無頼の頭だという。納得できないと密命を受けられない求馬は会いに行く。求馬は五十崎が悪だと思えなかった。中町奉行所内与力・荒尾に声を掛けられ五十両で乞胸頭に誘われていた。五十崎は乞胸頭になり、浪人を率いて謀反を企てた首謀者として斬首され、市中引き回し晒された。
 会津屋五兵衛の灯心造りの利権を得るために団十郎が殺され、五十崎が捕縛された。老中・阿部豊後の右腕となるべく奥右筆・速水数之進がいた。
 切腹を覚悟で城中厠で速水を殺した。

 矢背から酒呑が江戸に来た。東山天皇と近衛、霊元上皇と二つに分かれていた。公弁法親王・寛永寺貫首。右衛門佐局は近衛家と繋がりが深い。
求馬自身の近衛家との繋がりを示唆される。


2024年4月4日木曜日

口入屋用心棒51 五重塔の骸

口入屋用心棒51 五重塔の骸 鈴木英治 

 南町奉行所同心・樺山富士太郎らは、駒込追分の鹿右衛門の隠居所で珠吉の命を狙っていた鉄三を見付け出す。瀕死に鉄三は今際の際に珠吉殺しを依頼したと告白する。殺し屋の正体を明かさぬまま息を引き取る。富士太郎と珠吉は、男妾を殺して姿を消した鹿右衛門を追う。
 翌朝、湯瀬直之進の愛弟子・源六と鹿右衛門の心中事件が判明する。怒りに燃える直之進は、源六の行動から、富士太郎は、鹿右衛門から殺し屋を探す。
 直之進は、源六が勾引かされていた破れ寺と隠れ家として借りていた家を割り出す。死神の似顔絵も作った。隠れ家に行くがもう居なかった。

 珠吉が寝ているところを襲われ勾引かされる。富士太郎は直之進と破れ寺に行く。鉄三は、珠吉を殺すにあたり、浅草寺の五重塔に骸を吊るし、朝日に照らされる惨めな姿を参詣に来る者に晒してほしいと頼んだ。珠吉は生きたまま破れ寺に連れ込まれた。直之進と富士太郎は、間に合った。直之進は、縛ろうとした死神に首を絡まされ締められる。直之進は脇差で死神を突き殺す。

2024年4月2日火曜日

長兵衞天眼帳② ぼたん雪

長兵衞天眼帳② ぼたん雪 山本一力 

 蒼い月代 室町の大店米問屋の三男・岡三郎が、小網町の扇屋・吉野家の一人娘に惚れ、持参金付きで養子に入った。吉野家は、一家総掛かりで、岡三郎を虚仮にすることをたくらんでいた。持参金目当てだった。一緒に住むようになり廻りの岡三郎にたいする気持ちが変わってきていた。
 長兵衛は、四五六が作った鼈甲の眼鏡を渡す時、福徳神社で、宮司に吉野家に幸を運んだのは野島屋の守護神様だ。野島屋から迎え入れた婿殿を大事にするよう言わしめる。

 よりより 村田屋の跡取り・敬次郎は、二年前の地震の前に長崎へ行った。二年の長崎遊学を経て江戸に帰った。江戸に帰った政三郎は、何かにつけ長崎では、オランダではだった。長兵衛は、敬次郎を研ぎ常兄弟に半年預けることにした。
 研ぎ常近くのつきかげで顔合わせをした。敬次郎は、長崎で通っていた店がここの女将の叔母の店だと知った。長崎から帰る前日、女将は敬次郎に唐土から伝わったよりよりという菓子を作ってくれた。敬次郎は、何故女将がお菓子を作ったのか分らなかった。
 二十日間ただただ見ているだけだった。自分の仕事場をあてがわれた日、研ぎ常は、料理屋の小火で使い物にならなくなった包丁類の研ぎを頼まれる。店に行き、常治は取り急ぎの三種・十二本の包丁を粗研ぎから始めた。敬次郎は、板長を筆頭に板前たちが、安堵の色を顔に浮かべたことが分った。
 敬次郎は常治とのはなしの中で、疑問の答えがわかった。唐土から伝わった物が、土地の自前の菓子として大事にしている。異国の物に寄りかからず自前のものに育てることに汗を流せと女将は教えてくれたのだろう。

 秘伝 鰻屋・初傳の傳助52才が鰻場で船から落ちた。傳助は、三年前から息子・太一郎に鰻割きを教え始めた。傳助は太一郎に譲ることを決めた。店を屋台骨から改築することにした。村田屋の眼鏡のことを聞き、村田屋で眼鏡を作ることにした。
 薬問屋柏屋の光右衛門62才は、柏屋秘伝の三種薬・乙丸・丙丸・丁丸の調合をしていた。村田屋で目の検査をする。長兵衞は、光右衛門の目が悪くなりすぎ眼鏡を作れないと言う。光右衛門に、こんな目で調合していて何かあったらどうするのだと言う。光右衛門は、代替わりを決心した。はらを決めれば軽くなった。

 上は来ず 十年前、老舗飴屋の吉右衛門の提案で、室町暖簾組合の冬の間の夜回りを火消し人足に頼むことにした。請負は鳶宿・豊島亭の安次郎、百両だった。長兵衛も一緒に掛け合った。
 長兵衛は、贔屓の芸者・純弥が、金持ちではなくても遊べる茶屋を作る決心をした時、飴屋本舗の吉右衛門と一緒に奉加帳を作り、広目屋の段取りもした。でき上がって分った。あの建物の持ち主は、安次郎だった。上は来ず、中は朝来て昼帰る、下は夜来て朝帰る、下下はそのまま居続ける。

 湯豆腐牡丹雪 安政三年(1856年)十二月六日 長兵衛は新蔵に誘われ王子村飛鳥山の鷹ノ湯にいた。二日目湯豆腐を食べ、按摩を呼ぶ。豆腐のおいしさを褒め、村田屋の眼鏡を話をする。按摩が聞いていた。夜更けに自身番に連れて行かれる。新蔵が十手を見せる。
 豆腐屋の豆助が、事情を話す。室町の村田屋の手代頭・与四郎と名乗る者が、八百善の板長に豆助の豆腐を仕入れさせるため天眼鏡を貢げと言われ、端切れに九両二分を包んで渡したと言う。与四郎は、村田屋の手代の証しだと言って天眼鏡を置いていた。長兵衛は、村田屋の天眼鏡が騙りの種にされたとあっては放っては置けない。豆助を騙りに嵌めた一味が来たと勘違いされたのだった。お金を包んだ端切れと同じものを預かり帰る。
 与四郎が置いて行った天眼鏡に刻まれた番号から与四郎の住まいが分った。差配に、端切れを見せて与四郎のことを尋ねると、与四郎は、去年の地震の時、隣の怪我人を助けに行き、落ちてきた屋根の下敷きになって亡くなっていた。江戸の外れで作る豆腐を名の通った料理屋に卸す仕事が始められそうだと意気込んでいた矢先だった。同じ端切れに包んだ九両二分を出してくる。
 十二月八日、与四郎のことを話に行く。豆助は与四郎に預けた金で天眼鏡を作って欲しいと頼む。