拵屋 銀次郎半畳記 四 汝 戟とせば〈二、三〉 門田泰明
〈二〉
傷を負った銀次郎は、医師溜で養生していた。黒書院直属監察官大目付は解職され無職の状態だった。着替えの衣装には葵の紋が入り、銀次郎の大小刀にも葵の紋が入れられていた。本丸殿舎内でも大小を帯びて構わないということだった。上様・家継に会いに行くが老中に止められた。銀次郎は隠宅に帰る。
隠宅は、杖三とコトが世話をしてくれ、浦と滝が黒鍬から派遣され防備していた。隣家の嫁・萩が出入りしていた。
よりかたと名乗る侍が来る。銀次郎が萩を送って行った時、よりかたが一人になった時、四人の浪人風がよりかたを襲った。浦と滝がよりかたを守る。銀次郎が帰った時、四人は逃げた。よりかたが襲われたようだ。よりかたを帰し、銀次郎はよりかたの素性を調べさせる。
黒鍬の頭領黒兵を守る者が十人いるらしい。
銀次郎の拵屋の跡は何も残っていない。銀次郎の剣術修業の場・人間修業の場である無外流大道場・笹岡道場も無くなっていた。
銀次郎は黒鍬黒兵に引かれていた。現れた黒兵には影武者が三人いると言う。妻にするはずだった艶の墓で黒兵と会う約束をした。
夜、よりかたが訪れた。真っ赤な装束の刺客に襲われた。よりかたは、萩を側室にしたいと相談して帰った。よりかたは徳川吉宗だった。
黒兵に会った銀次郎は、結ばれた。屋敷に帰り朝を迎えると、黒兵は消えていた。叔父・筆頭目付和泉長門守兼行・黒鍬支配を訪れる。黒兵は御役御免を願いを出していた。
城中で家継に見舞いし、黒鍬・滝と話す。滝はご自身で京に行ってほしいと言った。
隠宅に柳生御盾班組頭の警護で、月光院と新井白石が来た。上様名代で、従四位下・備前守、本丸参謀長の職、六千石に給する。有事の際、将軍直属軍の指揮統括、江戸市中の刑事機関の統括、二条城拠点の京の全機関の統括を申し渡された。
〈三〉
二人がいる隠宅が赤装束十五人に襲われた。柳生の御盾班に守られた。
吉宗が訪れ、将軍の内示が出たことを伝えた。銀次郎に内示は決定だと思えと言われた。言葉では、尾張が第一位と言いながら、将軍になった時の職を考えていた。新井白石と間部詮房に×を付け、桜伊銀次郎に◎を付けたり×を付けたりしていた。
銀次郎が萩を連れて来た。銀次郎は江戸を出るにあたり、吉宗に幕翁となれば、自分の身の丈にあった隠密情報機関を拵えなさい。幕府を縁の下で支える大奥を確立されよ。と忠告する。妹とも思う萩の亡き亭主と儲けた幼子が三人いる。四人を慈愛で見守ってほしい。と言い置いた。吉宗は、内示通りにコトが進めば、三年間は助けて欲しいと頼んだ。
吉宗の馬・吹雪を借り受け京に発つ。上様に別れを告げ、天栄院への手紙を託す。
途中で、奈良の御破裂山神聖な霊山で三百を超える山伏の激しい武闘訓練が行なわれていると噂されたが、集落は解体され小さな寺のみが残っているだけになっていた。と報告を受けた。
保土ケ谷で、滝が、黒兵を天之御方様と呼んだ。気の毒だから救って欲しいと、多分御所内にいるであろうと言われた。
三島で、叔父の走部が、上様が亡くなったことを伝えた。
京に入り夜の山中で百姓女に会った。町中に入り、盗賊団に襲われる後藤金座を助けた。後に来た同心に縄を掛けられる寸前、やってきた町奉行に放免される。戻って百姓女の家に宿を願う。朝京都所司代・水野忠之が朱印状を持ってやってきた。新将軍直々の朱印状。従三位・左近衛権中将・本丸参謀総長、九千八百石。二条城代という役職だった。
吉宗は、銀次郎の手紙を受け取った天栄院に背中を押され将軍の座に着いた。
浦が用意した三条通りに沿った「呉服商五井」に宿を求めた。浦に吉宗への伝言を頼む。旧政府のご老中はそのまま継続して用いること。絶対手放してはならない。強く言っていたと伝えるように。
五井の前は紀州藩京屋敷だった。筆頭留守居役・禅籐吾郎右衛門は、商家から金を借り返す気もなく、女に金貸しをさせ、惨い取り立てをしていた。禅籐に直接五日の内に返すことを言うと、命を狙いに来た。
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