野分けの朝 江戸職人綴 千野隆司
闇の河岸 植木職の仙吉は時々親方と盗みをしている。岡っ引きが親方の廻りをうろついているのは知っていた。女郎になっている幼馴染みのみちが病気なのを知って盗んだ金で身請けする。薬代が必要だが親方は用心して盗みはしない。仙吉は親方の家に盗みに入る。親方に見付かり殺してしまう。仙吉も刺される。みちの所に行くが岡っ引きが待ちかまえていた。岡っ引きは何もかも知っていた。岡っ引きがみちの面倒をみると言う言葉を聞き、力が抜けていった。
驟雨に消えた 徳利印附師の安次郎は博打で七両一分の借金を作った。蝋燭問屋の主が財布を落とすのを見た。返すことを考えるが入っていた十一両二分を使い博打の借金を返すが、拾った金だと知った峰蔵は残りの金を取り、後十両を要求する。お上に知れれば打ち首だと。峰蔵はかみさん・ひさを売れと言ってくる。安次郎が峰蔵を殺そうとした時、峰蔵が借金の形に店を取り上げたため女房と娘を亡くした男が峰蔵を刺し川に流した。六年間仇を討つ機会を待っていたのだった。安次郎は働き始めた。十一両二分を返しにいくために。
両国橋から 竃職人の佐久造は十才で親方に弟子入りし、六年前、二十二才で親方の娘と一緒になり婿にされた。五才と三才の男の子ができ、親方と呼ばれるようになっていた。老舗の足袋問屋に仕事に行き、六年前好きでもない男と祝言を挙げなくてはならないという女と関係を持った。今度会うことがあっても知らない人と言う約束で別れた女かもしれない人に会った。主人の女房・すまだった。傾きかけていた生家の太物屋のために大枚の金子を用立ててもらって嫁に入っていた。先代のおかみや店の使用人からの信頼は絶大だった。一度関係を持った下駄屋の旦那から強請られていた。約束の日、佐久造もこっそり行った。すまは強請を突っぱねた。暴力にでた旦那を佐久造は一発殴って止めた。何も言わなかったが六年前の女だとはっきり分かった。六年前の女の姿が離れて行った。
薮入りの声 しづ18才と勝蔵21才と久助20才の三人はこの四年ほど、薮入りを三人で過ごしていた。しづは飯屋の住み込み、勝蔵は瓦職人の住み込み弟子、久助はいなり寿司の屋台を引いていた。勝蔵はしづに所帯を持とうと言い、しづも喜んだ。勝蔵の親方の娘がしづに会いに来る。勝蔵は婿になる話しを断っていた。勝蔵はきみと一緒になって家の婿になれば江戸で一番の瓦職人になれる。あの人では出来ない鬼瓦を造れる人なのだと言いにくる。しづは小さい時からあの人が好きだった。横から手を出そうとしないでおくれといいながらも黙って町を離れた。半年後二人が所帯を持つことになったと聞いた。久助には遊び人の兄がいた。久助の屋台は結構儲けがあったが兄がせびりにくる。久助の儲けを巻き上げていた。しづは久助のお金を預かっていた。返しに行った時、兄がきて取られそうになる。久助の内腿に匕首が刺さる。余計な口を利くなと言う兄に、久助の女房になるんだと言ったしづ。意気地なし!だれが女房になってやるものかと声に出さず毒づいた。
野分の朝 伴次26才は十五年掛かって小料理を持てるようになった。借りる店を決めた。店の仲居のちかと所帯を持ちたいと考えていた。嵐が来た。借りる店が心配で見に行き、ちかのそこひの父親が船を見に行ったことを知った。船尾にひっかかった父親を助ける。ちかが借金のために身を売ることを聞く。伴次は女房のために金を出すと言い、十両二分を出し借用書を受け取る。借用書を取り上げようとする者に殴る蹴るの暴行を受けたが誰かが役人を呼びに行くまで借用書を守り通した。
木槌の音 嘉造は四才で親に捨てられ、三十半ばで表通りに小さな桶職人の店を持った。六年前に所帯を持った女房の実家、仕事を認め懇意にしてくれる老舗の店の主から借金をしている。十二年前、賭場の借金で困っている時に盗みの手伝いをし、二十両を手にした。少しずつ借金を返すように、道で会っても知らない振りをすることと言われて別れた。その時の泥棒のような鋳掛け屋を見た。岡っ引きが鋳掛け屋が淡路屋を見張っているようだと言った。嘉造は鋳掛け屋・文五郎と話しをした。嘉造の息子が大怪我をし、医者の高額な費用がいった。文五郎を訪ねたが旅に出たと聞いた。文五郎の家には嘉造が作った桶があった。夜、文五郎が嘉造の所にきた。怪我をし失敗したと言いながら四両を渡し、盗人稼業の行く末はこんなもんだと言いながら逃げた。文五郎は捕まった。岡っ引きは、嘉造を連れてきた男だったと言った。嘉造を知っているかと聞くと知らないと言って死んだと聞かされた。遠い記憶と繋がった。
盂蘭盆会の火 駒平25才は四年前まきと所帯を持って、まきの父親・鶴川屋の援助で表通りに煙管職の看板を下げた仕事場を持った。まきは溺愛されて育った我儘娘。すぐ親の助けを求めた。聞き入れられないと実家に帰った。義父は良い客を紹介してくれる。腰を据えて仕事が出来、腕も上がった。鶴川屋あっての稼業だった。義父が人を職人を雇い手広くやれと言ってきた。やってきた職人は詰めが甘い。この男と仕事を続けていけば早晩信用を無くすと思う。職人を辞めさせた。これ以上譲れば自分は自分で無くなってしまう気がした。別れたぎんのことを思った。職人としての栄達に目が眩み、迷いの心を向井入れたことを。仕事道具とやりかけの煙管だけ持って出た。繋がりが切れたぎんにも臆さず気持ちのすべてを込めてぶつかるつもりだ。
ろくでなし 吉次は「御簾留」の職人だ。ぐれて荒んだ暮らしをしていたのを十六才の時、先代親方留五郎に拾われた。今、留五郎は寝たきりで息子・留藏が親方になっている。留藏は我儘で道楽息子等と遊び回っている妹・てい19才の祝言を決めてきた。相手・真砂屋佐太郎は大店の跡取りということ以外に取り柄はなさそうだった。吉次は
ていが堅気ではない男と連れ立っているところを見た。ていを預かっている返して欲しければ十両出せという文が届いた。留藏は十両を渡したが、もう十両要求された。吉次は留五郎にていを頼むと言われた。留藏は十両を取られ、もう十両要求された。吉次はつけ、しもた屋を突き止めた。居着いたていに内緒で留藏を強請っていた。吉次は家に飛び込む。殴る蹴るの暴行を受ける。手慣れた攻めだった。吉次は十年前の吉次だった。膝で腹を蹴り上げ繰り返す。力が抜けた。うめき声を上げる亥之助から十両を取り上げ、先の十両を探す。七両になっていた。平手でていの頬を殴り「ろくでなしが、今度やったらただじゃ済まさない」と連れ帰った。やくざ者の怖さが身に応えたらしかった。ていは吉次の嫁になることを望んだ。留五郎を落とし、吉次の母親も落とした。吉次は何度も断った。どんなに邪険にあつかってもめげなかった。昔与太者だったお前が性根を入れ替えて素っ堅気になったんだ。おていだっていい嫁さんになるだろう。と留五郎は言う。
糊と刷毛 萬次は裏長屋に看板をぶら下げた経師職人だ。十両二分の借金があった。老舗塩問屋の仕事に行った。若女将は近所の菓子屋の娘・しのだった。しのは奉公人に慕われていた。子供がいないため嫁いびりされていた。若旦那・徳太郎の妾に子供が出来た。しのを追い出すために徳太郎はしのを襲わせた。話しを聞いていた萬次はしのを助ける。萬次は塩問屋に盗みに入る。女将に見付かり失敗した。しのが一緒に逃げた。
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