2021年12月5日日曜日

輝山

輝山 澤田瞳子

 金吾はかっての上役・小出儀十郎から代官・岩田鍬三郎の身辺を探れとの密命を帯び、江戸から石見国大森代官所の中間として赴く。金吾は万事恙なしの文を送っていた。

 七年が経つ。大森代官所へ、小出儀十郎が来た。銀山で働く十数人の無宿者を連れてきた。
 小出儀十郎は、銀山の辛さ、役人の無慈悲な扱いを江戸から来る間言い続け、無宿人が逃げ出すように仕向けた。同じ日にみんな逃げた。金吾は無宿人の中で、石見出身の年寄りが娘に辛く当たられ逃げたことがわかったので、生まれた故郷へ行き連れ戻す。
 小出は無宿人が逃げたことを岩田の所為にして江戸へ知らせようとする。岩田は、小出の無宿人を逃がし、平和な村人に恐怖を与えたことの元を作ったとして捕らえる。

 岩田は知っていた。何故、小出が自分を陥れようとするかを。小出を見いだし出世させてくれたのは矢部駿河守だった。七年前、岩田は、浜田藩の密貿易と大阪西町奉行の矢部の関係を探りに来た。浜田藩から金銭を受け取っていた矢部は、抜け荷の証拠を江戸に送り、商家と浜田藩の要職を捕縛した。矢部は江戸表に栄転した。矢部は岩田が何をしたか小出に知らされては困るため小出を使い金吾を使い見張っていた。矢部が亡くなったあとも小出は見張らせた。自分と矢部の関わりを明らかにするのではないかという脅えのために。だが、岩田は言う、わざわざ調べるほども価値も無い小人などこれっぽちも気を払っていなかったと。

 金吾は暮らしながら岩田の代官としての、領内の人々に対する姿勢に、生活の平安を護る施政に感化されていたのだろう。金吾は堀子たちと付き合いながら岩田のふところ刀・元締め手代・藤田幸蔵に絞られながら、この人のようになれるかなと思いながら中間の仕事をこなしていた。

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