無事 これ名馬 宇江佐真理
春風ぞ吹く の続きらしい。
大伝馬町の鳶職・吉蔵宅に七才の村椿太郎左衛門が、男にして下さい。とやってくる。
この子が、春風ぞ吹くの五郎太と紀乃の息子らしい。太郎左衛門と吉藏の付き合いが始まる。
吉蔵55才 は組の頭取、三人の内の一人。もう一人の頭取は吉蔵の甥・金次郎35才。もう一人は姉の夫・金八61才。太郎左衛門は大頭と呼ぶ。金次郎は若頭。吉蔵は頭だ。
金次郎と吉蔵の娘・栄は所帯を持つ予定であったが、金次郎が水茶屋に勤めていたけいとわりない仲になり子供ができたため栄は泣き泣き諦めた。栄は金次郎の弟分・由五郎と一緒になり、くみ4才が生まれている。
吉蔵と金八の他愛もない話しを太郎左衛門は聞いている。家の者が火事場に向かう時、家の留守番をしている。
吉蔵は太郎左衛門の剣道の紅白試合を見に行く。屋敷に行くと母親に怒鳴られていた。試合の相手は道場主の娘・琴江7才だった。始め!の声で竹刀を突き出され棒立ちの太郎左衛門は竹刀を落とし、面を打たれて尻餅を搗いた。あっと思うまもなく勝負がついた。
次の日、気力がない太郎左衛門にいらいらしている吉蔵は機嫌が悪い。太郎左衛門はやってきた若頭にとにかく竹刀をしっかり握る。自分の眼を相手から逸らさないこと。と心構えを聞いた。
正月四日に初出で梯子乗りの技を訓練していた鹿次がいなくなった。由五郎が替わりにする。
太郎左衛門のおねしょが治ったようだ。
神田明神の祭りの日、栄が面倒を見ているこけしやから火が出た。勝を助け出した金次郎と宇助が崩れ落ちた屋根の下敷きになって亡くなった。栄は弔いに出られなかった。太郎左衛門はほろほろいつまでも泣いた。
太郎左衛門の紅白試合が開かれた。吉蔵と栄とくみ、村椿家の祖母・里江も行った。相手は太郎左衛門をいじめている村井庄之介だった。太郎左衛門は金次郎に言われた通り、竹刀をしっかり握り相手を見据えている。遮二無二突っ込んだ庄之介を身体を躱して避け、胴に一本入れた。太郎左衛門は勝ち進み八歳組で優勝した。実は太郎左衛門は若頭に稽古をつけてもらっていた。と告白した。若頭に報告に行く。
吉蔵は還暦を過ぎた。女房・春も姉の富も金八も亡くなった。太郎左衛門の祖母・里江も去年亡くなった。吉蔵は太郎左衛門が祝言を挙げるまで長生きすると言っていたが自信がない。太郎左衛門と吉蔵の付き合いも十年以上になった。
村井庄之介は大試業に受かり今年は学問吟味を受ける。太郎左衛門は大試業にも受かっていない。父・五郎太も人は人だから焦ることはないと言っている。
庄之介は学問吟味に落ちて自害した。
金作・金次郎の息子14才が纏持ちになり出初め式で見事な梯子乗りを披露した。
火事場の屋根から降りないで金作は亡くなった。
吉蔵は足首を骨折した。快気祝いを村椿家に届けに行く。五郎太は何の取り柄もない息子だが、無事、これ名馬という。倅は拙者にとってはかけがえのない名馬だと言った。
太郎左衛門は翌年の春、幕府御祐筆見習いとして御番入りした。
くみは民治と祝言を挙げ、婿に入った。
太郎左衛門の弟・大次郎が養子に行き、妹・雪乃が輿入れした。
三十才を過ぎた太郎左衛門は二十二才のまきを妻に迎えた。吉蔵は足腰が弱り祝言に行けなかった。吉蔵のため太郎左衛門の祝言の行列は大伝馬町を廻った。は組の連中は半纏を羽織り木遣りを唸って太郎左衛門の門出を祝った。
吉蔵はその夏、眠るように亡くなった。
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