2019年3月31日日曜日

芙蓉の干城

芙蓉の干城 松井今朝子
 桜木治郎の家に居候する妻の従妹・大室澪子は、歌舞伎座で陸軍の軍人・磯田遼一と見合いをする。正面の桟敷の客が二人、居眠りして途中で退座したらしいことを見ていた。翌朝二人が、三十間掘りで死んでいるのが見つかる。右翼結社の大幹部・小見山正憲と大坂の芸妓・照世美だった。磯田たち若い軍人は小見山が殺された事で計画していた反乱を起こせなくなったようだ。
 桜木治郎は同じ日、四代目荻野宇源次の息子・荻野藤太郎が、宇源次を継ぐ計画があることをしる。治郎は若くして亡くなった宇源次の評伝を書くことにする。
 藤太郎の母は大坂の芸妓で照世美の妹分・梅香だという事が分った。小見山は麻薬を密売していた。麻薬が照世美から梅香に宇源次へと流れた。五年前、宇源次の周囲が気がつき、大磯の別荘で療養させ、ほとんど治りかけたころ、宇源次の居場所を知った小見山が、息のかかった宇源次の後援会のまとめ役を使って拉致させた。小見山は麻薬を使って宇源次に役者買いの相手をさせた。大坂の宇源次を見付けて助け出したが宇源次は亡くなった。梅香も亡くなった。藤太郎の襲名にあたり、後援会の出資者が小見山であることを知った、沢之丞付きの衣装方三上秀二が、道具方の者と一緒に小見山を殺していた。宇源次の敵討ちと藤太郎が宇源次のようにされることが許されなかったから殺したと白状した。
 治郎が聞き込みをし、舞台道具の人力車に血痕を見付けたりしたため、道具方の者を二人ころしている。
 三上は宇源次の父親・大御所・沢之丞の意向を受けて動いた可能性があった。治郎は沢之丞にあたるが沢之丞は知らない事だったようだ。三上が入っている留置所に小見山の片腕だった男の乾分が捕まり入り、三上は小見山の仇討と称して殺された。

2019年3月28日木曜日

長屋道場騒動記〈三〉迷い熊阻む 

長屋道場騒動記〈三〉迷い熊阻む 芝村凉也
 菓子屋「恵比寿屋」の道場に仮住まいする者の長屋が出来上がった。道場で練習出来ない間野生馬は玄武館で北辰一刀流を学んでいた。師範代・栄次郎とも行き来があった。
 北町の同心・甘楽から十手を預かる段平は、菓子屋恵比寿屋の菓子職人・道介の女房・光に目を付けていた。道介と同じ長屋の左官職人・定吉と振り売り・実太をイカサマ博打に誘い込み追い込んでいた。段平の女・縫の旦那・近江屋長左衛門が妾宅を訪れた時、段平が一緒に悪事を働いている関口栄之進が縫と浮気をしていた。見付かった関口は近江屋を殺してしまう。呼ばれて行った段平は、関口に縫も殺させ、刃物を持った者と紐を持った者に押込まれ殺されたことにした。押込んだのは借金に困った定吉と実太だとし、二人を捕まえに行く。二人と一緒にいた生馬は、刀を持っている事で二人の共犯だと言われ捕まる。生馬と一緒にいた栄次郎が生馬のアリバイを証明し、段平の捕縛の間違いを言い張る。玄武館の名前が出、水戸家の名前が出た事で三人は解き放たれる。
 南町同心・反町款弥から十手を預かる仁蔵は二人のアリバイを調べる。段平が証人を脅かしながら調べている様子を甘楽に見せる。仁蔵は犯人が関口であること、段平が犯人でない者を無理槍犯人に仕立て上げている事を調べ上げる。南町の同心が北町に遠慮して言いだて出来ないことを知っている段平に、生馬は箱訴することを言う。関口は生馬に斬りかかりあっという間に倒された。黙って段平は仁蔵に捕まったが、甘楽に預けられ仁蔵の罪を問う事は無いだろうと思われた。甘楽は御役目を辞し息子が見習い同心になった。
 六月二十七日、信抜流・間野道場の道場開きが行われた。

2019年3月26日火曜日

浪人奉行 五ノ巻

浪人奉行 五ノ巻 稲葉稔
 八雲兼四郎は 栖岸院の住職と升屋の主九右衛門に頼まれ、商家に押し入り御番所の支配地から外に逃げる悪党を捕まえに行く。五軒が襲われほとんど皆殺しだった。
 潰れた百姓屋を直し、住み込んでいる者を見付け倒した。

2019年3月24日日曜日

鬼役〔二十五〕 引導

鬼役〔二十五〕 引導 坂岡真
 大名斬り 橘右近亡き後、命を下す如心尼から、御側衆・大曽根調所太夫と養子に出した息子・小見川藩の藩主の悪行を聞く。悪いのは藩御用商人を狙う商家の主、藩主に悪事の濡れ衣を着せ首のすげ替えを狙う江戸家老、息子を殺そうとする大曽根。藩主には心を入れ替えるよう諭した。蔵人介は藩主の小姓・末吉小平太が毒味で亡くなったのが残念だった。
 鬼の目 鬼と言われた奥右筆・笹毛忠八郎が、町年寄・樽屋の息子が、父親の妾と情夫を殺し、江戸追放の罰なのは軽すぎるというので判を押さない。蔵人介が調べると、樽屋の妾では無く、殺したのも息子ではなかった。目付・矢田部信造の妾、煩くなって相談した末席の名主・佐平が殺しの段取りを付けた。矢田部の子飼いの刺客・大海常右衛門は
擬宝珠等を盗んでいた。矢田部、大海を殺した。笹毛は助かったと思っていたが、矢背家に付きまとう痩せ男が笹毛の生首を持ってきた。
 破獄の罠 西ノ丸留守居役・臼井玄蕃に陥れられ、月崎兵衛が牢に入れられていた。妻・蓮が身売りしたと聞かされ、火事で解き放ちになった時に帰らなかった。蔵人介は月崎を助け、蓮を探し出す。蓮は牢同心に金を出せば月崎を助けると言われ身を売っていた。蔵人介は同心を打ち首にする。月崎は臼井玄蕃を討つ。月崎と蓮を千住宿まで送る。
 義母・志乃がいなくなった。家宝の薙刀・鬼斬り国綱がなかった。3日経っても4日経っても帰らなかった。

2019年3月20日水曜日

おとなりの晴明さん第四集

おとなりの晴明さん第四集 仲町六絵
 〜陰陽師は月の女神と出会う〜
 狸と剣豪 桃花の通う京都府立洛新高校の文化祭に、狸谷の子狸が進入。桃花の作品が一点のはずが同じ作品が二点並んでいる。狸が化けていた。子狸確保。出会った晴明に渡す。もう一匹は桃花の出場する劇の日本刀に化けているらしい。日本刀に化けた狸は土佐犬のぬいぐるみをみて飛び跳ねた。跳んだ刀を鞘に戻し、アドリブで繋ぐ。舞台を繋がり流れ通りに戻った。お返しに子狸の文化祭に誘われる。
 祇園の又猫 晴明が閻魔庁の戻っている間に、熊本の根子岳から冬麦という猫又がやって来た。根子岳で猫又の修業する猫をスカウトに来た。晴明の飼い猫・瑠璃に目をつけたようだが、礎石が諦めさせた。桃花は小野篁・からくさ図書館に相談に行く。人に化けて祇園に住む猫又に会いに行く。観光案内士・渕崎尚也に会う。彼は栄西と一緒に日本に渡ってきたという。祇園に生まれて半年になる若猫を連れて帰る。
 桃花はあやかしと人間二つの世界でバランスをとりうまく生きるコツを聞く。ふたつの世界どちらも大事。どちらも知っているから私なのだ。
 月の光を待つさなぎ 晴明が家で月の女神・嫦娥を迎えた。絹を用いた飾り付けで。嫦娥は蚕の精霊を月に連れていく。嫦娥・太陰星君が帰った後ハロウィンに出かける。晴明は陰陽師の格好のまま。
 結界は旅をする 晴明のソックリさんが現れた。正体は晴明神社の結界の石だった。捕まった関守石は宗旦狐の新しい茶室の庭に置かれる事になった。
 龍田姫の眠り 龍田姫が京に留まり秋が進まない。椎葉西忍が、龍田姫の留守を預かる葉月が帰ってこれないから龍田姫を探して欲しいと依頼する。大覚寺に咲き誇る嵯峨菊と嵯峨帝を見ていた。袖に嵯峨菊の香りを移し、龍田姫を送る。

2019年3月18日月曜日

聡四郎巡検譚 三

聡四郎巡検譚三 動揺 上田秀人
 道中奉行副役・水城聡四郎と大宮玄馬は伊賀者に襲われる。最後の跳ねっ返り逸造を討つ。伊賀の郷は新しい頭領を定め、商人となって金を稼ぐ者と伊賀に残り先祖の技を受け継ぐ者に分ける事にした。全国のあらゆる事を知っていた頭領は皆を操るだけで余分なことを一切考えないように仕込んでいた。老忍・山路兵弥と播磨麻兵衛、袖の妹・菜は聡四郎と共に行動する事にした。
 京に入った聡四郎は、京都所司代・松平伊賀守に挨拶に行く。松平伊賀は綱吉に引きたてられたが、家宣時代に罷免されていた。吉宗に京都所司代に抜擢された。伊賀守に手形を貰い山路と菜を江戸へやった。山路は藤川義右衛門を倒しに、菜は大奥へ入れるつもりだ。
 聡四郎は伊賀守から話を聞き、御所を見、禁裏付を見る。旅籠から京都所司代下屋敷の長屋に移った。
 聡四郎は何をすれば良いか、どこに行けば良いか迷いながら知っている竹姫の実家清閑寺権大納言家に行き、紹介された丸太町の出雲屋へ行く。後を付けていた南北両奉行所の同心たちは奉行に報告し、あたふたする。
 吉宗は御休憩の間で、庭を介して対面する黒書院に隠れていた尾張藩の侍に庭から襲われた。御庭者では人数が足りなくて阻止出来ず、吉宗の小姓が斬られ、吉宗が自ら侍たちを斬り伏せた。斬られた小姓は病気として屋敷に返し、何も無かったこととして納めた。
目付・野辺三十郎は変わった動きをする黒書院の侍の動きを知っていた。庭から出た事を知らず、手柄にしようとして期を逃し、知っていて何もしなかった事だけが残った。吉宗に強引に会いに行き、目付を罷免された。
 吉宗は尾張藩付け家老・成瀬隼人正を呼び、在ったことを話す。吉宗は権中納言がどう動くか考える。左近衛権少将を差し出すだろう。吉宗は主計頭を鍛えるつもりでいる。

2019年3月16日土曜日

あきない世傳 金と銀〈六〉

あきない世傳 金と銀〈六〉 本流編 高田郁
 六代目店主・智蔵が亡くなり「女名前禁止」の大坂で仮に中継ぎで足掛け三年、女子の相続を認められることになった。
 幸は江戸店の用意を急ぐ。綿に興味を持った幸は太物の勉強を始める。結も生まれ故郷・津門村の綿の勉強をする。江戸へ行きたいと幸に申し出る。
 智蔵の一周忌の法要が終わった頃、縮緬を作ろうとしていた波村が、五鈴屋のために縮緬が出来なくなった。藩の助成を受けて、近隣の村が足並み揃えて縮緬作りに乗り出す事になった。今まで通り、五鈴屋のために羽二重は作ってくれるという。幸は長浜の縮緬がうまくいきますようにと言い承諾した。
 江戸浅草の浅草寺近くの太物商「白雲屋」を居抜きで買う事になった。伊勢木綿を扱う店だった。皐月、幸は片腕として竹58才を連れていく。二十日掛かって江戸に着く。見通しが付くまで、佐七、賢吉、竹、幸の四人で店をやっていくつもりだ。白雲屋夫婦は跡継ぎを亡くし郷里伊勢へ帰る。土蔵の中の伊勢木綿の説明を聞き、扱うつもりがあるなら手助けをするという。師走14日に開店することにした。店前現金売を行う。
 文月、お客様に見えやすいように反物を縦に見えるよう考える。町会の月行事が指物師を紹介してくれる。高さが違う撞木を漆を塗って仕上げてもらう。
 塵、埃を払うために、細く裂いた古絹を先に付けた「さいはらい」を考え出した。
 長月、大坂から、手拭いが届く。五鈴屋の暖簾と同じ色、五つの鈴が染め抜かれている。田原町 五鈴屋と屋号が二ヶ所に入っている。四人で神社仏閣の水場に奉納した。
 神無月 風呂屋で五鈴屋の店が話題になっていた。店は未だない。
 霜月 土蔵に反箱が並ぶ。
 師走 撞木の反物を掛ける。佐七は支配人・佐助、賢吉は手代・賢輔、小頭役・竹となる。14日 呉服太物 五鈴屋が誕生した。毎月14日は、帯の結び方の講習会を開くと発表する。
 

2019年3月14日木曜日

風烈廻り与力・青柳剣一郎㊹ 

風烈廻り与力・青柳剣一郎㊹ 泡沫の義 小杉健治
 青柳剣一郎はすご腕の殺し屋に命を狙われる旗本の次男・小瀬直次郎の護衛を頼まれる。
 鉄砲洲で遊び人が二人殺された。犯人は直次郎を狙う同じ人物だった。剣一郎は直次郎が狙われる理由を探る。水茶屋の娘・せつを自死に追い込んでいた。船宿の若旦那の命もねらわれていた。剣一郎は若旦那殺しを阻止する。直次郎を殺そうと屋敷にやってきた殺し屋・藤吉の前に立つ。藤吉は死ぬつもりで剣一郎の刃に向かって行き、殺される。
 殺し屋が殺したのは、あくどい取り立てで一家心中に追い込んでいた金貸し、商家の先代主人夫婦殺しの嫌疑が掛けられた現主人。せつの事件。復讐を図る身内がいないが、藤吉を雇って復讐をしている。剣一郎は病を克服できず死を待つ、元臨時回り同心・近間宗十郎に会いに行く。
 近間宗十郎は言う。嫌疑が掛かっても悪事を見逃してしまっている定町廻り同心に腹がっ立った。見抜けない同心の力不足、疑いがあるとわからせようとしたが気付かない同心。難事件が起るたびに青柳様の力を借りる。今回も解決したのは青柳様だった。同心が真相を掴んで私の前に現れて欲しかった。
 近間に恩があった元盗賊仲間だった兄弟が、恩返しのつもりで病気の近間の世話をしていた。弟・藤吉は商家を脅して金品を巻き上げる博徒の親分の子分を叩きのめした。腹いせに流れ者に妻子を殺させた親分は罪に問われなかった。藤吉は親分を殺した過去を持っていた。
 植村京之進、只野平四郎、曾根哲之進が近間宗十郎に呼ばれた。全て宗十郎が仕組んだ事だと知らされる。

2019年3月11日月曜日

江戸の御庭番〈3〉 忍び崩れ

江戸の御庭番〈3〉 忍び崩れ 藤井邦夫
 御庭番の倉沢家に婿入りしたすご腕の隠密・喬四郎は、吉宗から小普請組支配組頭が二人急な病で亡くなったことを調べるよう命令される。風魔の老忍び喜平と出合う。喜平は金で雇われて働く忍びが集う忍び宿を塒としていた。
 小普請組支配組頭の上役小普請組支配・白崎英之進は組頭を使い、小普請組の者から役付きになることを餌に賂を集めていた。御家人・佐々木和馬の妻は身を売り作った金を騙し取られたことを知り切腹した。友人・黒木純之助は喜平を雇い仇討をしようとする。二人の組頭を殺した。喬四郎は、白崎英之進の命をを狙う喜平を助け、黒木は白崎を倒す事が出来た。喬四郎は白崎の金を黒木に渡し、佐々木の妻を身請けし、江戸を出るように勧める。
 喜平が泊まっている忍び宿の者が二千両を盗んだ。目的は書き付けのようだ。喬四郎は吉宗の命令で探る。吉宗の祖父・頼宣から由井正雪に送られた密書が狙いのようだ。忍び崩れを雇っているのは、死んだ事になっている間部詮房だった。鯖江藩藩主・詮言は反対だった。藩の重臣が詮房を斬った。密書は吉宗に渡された。御公儀が謀反を企て、不平不満を持つ輩を集め始末する陰謀だった。吉宗は燃やす。

2019年3月9日土曜日

私のミュンヘン日記 

私のミュンヘン日記 子安文
 シュタイナー学校を卒業して
 十四才の少女がひとりミュンヘンで、6年間、話題の学校に通う。教師と衝突、友人とけんか、しかし詰め込みがない。大学受験を目前にしての工場実習、美術旅行、卒業演奏など、徹底的に自首性を尊重した教育をうけて、少女は成人した。話題作「ミュンヘンの小学生」の主人公がシュタイナー学校の体験と異文化の中での生活を、自ら初めて語る学校生活記録

2019年3月6日水曜日

下り酒一番〈二〉 分家の始末

下り酒一番〈二〉 分家の始末 千野隆司
 武蔵屋の妾腹の三男・手代の卯吉は、新酒「稲飛」の売り出しを任される。奔走し第一段の売れ先が決まる。支払い金を分家の借金に充てるよう言われるが、灘の酒造家・大西屋には絶対に支払わなくてはならない。
 分家・次男の次郎兵衛の借金を調べる。旗本御用達になれるという甘言に乗り、潰れかけた酒屋の借金の保証人になっていた。旗本の用人と商家の分家の主との詐欺だった。調べるにあたり、母の弟・茂助と、父の弟・大和屋勘十郎、武蔵屋主・市郎兵衛の内儀小菊の養父・坂口屋吉右衛門の助けを借りる。詐欺だと判り証明も出来るが、どんどん利子が増えるため借金の返済に行く。日を知らせ、途中で金子を奪いに来た所を捕まえた。
 船問屋今津屋の江戸店の主人・東三郎の娘・結衣にちょかいを出していた宗次も仲間に加わり捕まった。結衣に礼を言われる。
 先代市郎兵衛と番頭吉之助が残した「武蔵屋を守れ」の言葉が卯吉の心の真ん中にある。

2019年3月5日火曜日

柳橋ものがたり〈2〉

柳橋ものがたり〈2〉 ちぎれ雲 森真沙子
 花、薫る 綾が勤める船宿の船頭が、料亭「青葉楼」から逃げてきた仲居を助け、篠屋に連れてきた。青葉楼は秘密の会合が行われ話を聞いた仲居が殺されるという噂のある料亭だった。小夜から聞き出した沈丁花の花の香りを手掛かりに綾は尋ねてまわる。青葉楼には女将と若女将の確執があった。次期女将を狙う若女将が密偵役をしていた小夜を噂を利用して殺そうとしたのだと思った。
 この道、抜けられますか 綾はこの道抜けられるかと尋ねてきた男を匿った。箪笥職人の柾次郎、借金の取り立てにきた大田黒の親分が四代目柾次郎の箪笥を持って行くというので親分を刺して逃げていた。この道抜けられますと逃がす。
 誰かに似た人 近所の柚子婆のところに才谷梅太郎という居候がやってきた。伊勢屋に攘夷決行の軍用金として千両を持って行く押し込みが入った。首領格は才谷梅太郎だという。坂本龍馬、勝海舟の名前が出た。綾が柚子婆のところの才谷に手の傷が無い事を証言し、柚子婆のところにいたのが坂本龍馬でない事が判った。柚子婆が若いころ勝海舟の知りあだったことで、勝海舟を陥れる罠に使われた事が判った。
 ちぎれ雲 澤村田之助は二十三才にして歌舞伎界随一の人気女形だった。足の古傷が完治していないのに舞台を続け毒が入って脱疽になっていた。機嫌が悪く、妻の幸にも当たり散らした。そんな田之助が船で人目に付かないで入れる篠屋の離れに泊まる事になった。綾が担当になった。始めは余り構うと幸に悪いと遠慮しているが、田之助の余りの我儘に我慢できず、綾が口を出す。田之助を布団巻きにし、端に退け、布団を敷き直す。田之助を元の場所に転がし、紐をほどき布団に戻す。傷の消毒をし、寝巻き着替え部屋を片付ける。田之助が寝る。幸を休ませる。田之助が目覚めた時、足を切る決心をしていた。
田之助は、二本の足で踊る最後だと言い京人形のさわりを踊った。綾は目を閉じればあの華麗な舞姿を見る事が出来た。
 雛のお宿 綾が十一才の頃、父・蘭方医直兵衛に連れられて行った島田屋の寮で見た娘・桜子の雛人形を古物商で見た。櫻子は薩摩の殿様の娘という噂があった。雛人形も薩摩雛だった。綾は櫻子がどうしているか探った。寮は火事になり、島田屋も潰れていた。その頃、櫻子の用心棒だった男に話を聞く。守るというよりも見張りだったと言う。島田屋から逃げたかった櫻子は火事の時に薩摩屋敷に逃げ込んだと言う。古物商は雛人形はヘンリーというイギリス人が買ったと知らせてくれた。秘書の池内を通して待ち合わせ場所を指定してきた。池内が合わせてくれたのはヘンリーの妻・櫻子だった。櫻子はヘンリーと一緒にイギリスへ旅立つ。
 夜桜銀次 篠屋の若い船頭・竜太は、猪牙船とぶつかり相手の猪牙を壊したと三十両を請求された。仲間の船頭が調べると、相手の銀次は札付きの悪との評判だった。後ろにやくざな蛯沢屋が付いているようだと考えられたが、蛯沢屋の者に追われていた。五年ほど前、銀次の船が転覆し客が亡くなった。その客の娘・鈴の目が悪く、十二才になればヘボン先生に鈴の目を治すと言う約束があった。お金を貯めるために蛯沢屋の金を使い込んでいた。蛯沢屋の者に追い詰められ火を放ち銀次は死んだ。綾は銀次のお金を預かっていた妙心尼に鈴を横浜に連れていく事を頼まれる。綾はヘボンの所に行くと知った顔に会えるかもと期待に胸がはずんだ。

2019年3月4日月曜日

新・古着屋総兵衛第十七巻

新・古着屋総兵衛第十七巻 いざ帰りなん 佐伯泰英
 文化四年 1807年
 老中職を狙う若年寄京極家の用人と御用商人摂津の金貸し三留屋作左衛門が、古着大市の元締めの座を狙ってきた。三留屋が有する阿片を京極家の抱き屋敷にも隠し用人の野望を壊す。三留屋の船から大砲を奪い、隠された阿片が見付かり三留屋も捕まる。
 総兵衛は、坊城母娘と共に京に行き、茶屋家の仲立ちで桜子と仮祝言を挙げる。
 秋月藩の元家臣・築後平十郎が、大黒屋の仲間に加わった。道場の師範代だった築後は、本藩中老を本家とする黒田源之丞に手加減しないで勝ったために藩を出奔していた。総兵衛に付いて京に行き、築後を追う黒田家家臣と遭遇し、一対一の勝負でけりを付けた。
 バタヴィアで新しい船・カイト号の造船を手伝っていたイマサカ号の乗組員が日本への帰途に付いた。総兵衛の母・今坂恭子はカイト号の乗組員を集めるためホイアンに残った。信一郎とりんの間に海生が生まれていた。
 秋、イマサカ号と大黒丸は江尻の船隠に戻った。
 

2019年3月3日日曜日

無茶の勘兵衛日月録19

無茶の勘兵衛日月録19 天空の城 浅黄斑
 延宝七年 1679年 新年 
 越前大野藩、旧主・松平直良が6月、75才で死に、8月、直明に襲封の許しが出た。
 直明初めて、元日に新年の賀式に参列する。
 大和郡山藩藩主・政長が分藩が去年仕掛けた梅干しの毒に殺された。分藩・出雲守政利らは本藩も自分の物になると思っていた。老中の集まりで、出雲守の中務大輔の毒殺の証拠があるとし、大目付・大岡の詳細な復命書があるということで、酒井大老の言い分は除けられた。
 本多中務大輔政長の養嗣子・平八郎忠国は元服した。十二万石の家督に、政利の領地の三万石を忠国に戻し、十五万石で奥州福島は所替になった。出雲守は三万石加増で六万石明石への所替になった。
 余談 本多忠国は三年後本貫地番衆姫路に国替えになった。
 本多政利は六万石の領地と明石城を没収され堪忍料一万石で奥州岩瀬へ追いやられる。毒殺の罪を公にはしないが旧悪の報いを段階的に与えた。最後には三河岡崎藩の預かりとして岡崎城一室に幽閉された。
 勘兵衛の妻・園枝が懐妊した。
 郡山の日高の娘・小夜の産んだ勘兵衛の子が寛太ということを知らせられた。隠し子だった。
 松平直堅に榎坂に三千五百坪の土地が下された。
 勘兵衛は園枝を連れて国に帰った。9月
 藩主・直明の妻・仙姫が嫡男を出産した。幼名松千代丸。

2019年3月1日金曜日

山手線謎日和2

山手線謎日和2 知野みさき
 渋谷駅事件 鳥飼の見合い相手が、小岩井を調査していると思われた。別の人も探っていた。マスター・榊の北海道の従姉妹の高校生・海はずっと榊に憧れていた。東京の知り合いに榊が好きな小岩井を調べて貰っていた事が判明する。
 二年前、渋谷駅で息子・聡を亡くした母親が電車に飛び込もうとした。怜史が聡くん!と呼び止める。同じ場所に聡を線路からホームに助け上げた人もいた。彼は自分が聡君を動かしたために彼が死んだのではないかと今でも悩んでいるのだった。母親は離婚した元夫の所へ聡の三回忌をするために行った。
 新橋駅事件 イズミはコインロッカーの鍵番号のレシートを拾ったため親切心で声をかけたのにも関わらず、泥棒呼ばわりされる。イズミは怪しい男を探す。怜史が見付けた。山崎はロッカー回りをし、怪しい者をみると通報していた。怜史はニートの山崎に前のバイト先を紹介する。バイトは万引きGメンだった。
 目白駅事件 アメリカから来ているクミコが少年を追いかけていた。現場を見たイズミはクミコと一緒に少年を尾行する。少年・アキは四年生。クミコは少年が一人で行動することが不思議で少年の行動がまた不思議だった。少年は橋本という人を探している事が判る。怜史は橋本を見付けていた。アキと橋本は博物館の図書館で将棋を差していた。突然、橋本が来なくなり二週目から探し始めた。住所を知らなかった。橋本は突然倒れ病院へ検査入院していた。母親の許可を取り、アキを連れて病院へ行く。アキは橋本の家に行く付き合いになる。