2019年3月5日火曜日

柳橋ものがたり〈2〉

柳橋ものがたり〈2〉 ちぎれ雲 森真沙子
 花、薫る 綾が勤める船宿の船頭が、料亭「青葉楼」から逃げてきた仲居を助け、篠屋に連れてきた。青葉楼は秘密の会合が行われ話を聞いた仲居が殺されるという噂のある料亭だった。小夜から聞き出した沈丁花の花の香りを手掛かりに綾は尋ねてまわる。青葉楼には女将と若女将の確執があった。次期女将を狙う若女将が密偵役をしていた小夜を噂を利用して殺そうとしたのだと思った。
 この道、抜けられますか 綾はこの道抜けられるかと尋ねてきた男を匿った。箪笥職人の柾次郎、借金の取り立てにきた大田黒の親分が四代目柾次郎の箪笥を持って行くというので親分を刺して逃げていた。この道抜けられますと逃がす。
 誰かに似た人 近所の柚子婆のところに才谷梅太郎という居候がやってきた。伊勢屋に攘夷決行の軍用金として千両を持って行く押し込みが入った。首領格は才谷梅太郎だという。坂本龍馬、勝海舟の名前が出た。綾が柚子婆のところの才谷に手の傷が無い事を証言し、柚子婆のところにいたのが坂本龍馬でない事が判った。柚子婆が若いころ勝海舟の知りあだったことで、勝海舟を陥れる罠に使われた事が判った。
 ちぎれ雲 澤村田之助は二十三才にして歌舞伎界随一の人気女形だった。足の古傷が完治していないのに舞台を続け毒が入って脱疽になっていた。機嫌が悪く、妻の幸にも当たり散らした。そんな田之助が船で人目に付かないで入れる篠屋の離れに泊まる事になった。綾が担当になった。始めは余り構うと幸に悪いと遠慮しているが、田之助の余りの我儘に我慢できず、綾が口を出す。田之助を布団巻きにし、端に退け、布団を敷き直す。田之助を元の場所に転がし、紐をほどき布団に戻す。傷の消毒をし、寝巻き着替え部屋を片付ける。田之助が寝る。幸を休ませる。田之助が目覚めた時、足を切る決心をしていた。
田之助は、二本の足で踊る最後だと言い京人形のさわりを踊った。綾は目を閉じればあの華麗な舞姿を見る事が出来た。
 雛のお宿 綾が十一才の頃、父・蘭方医直兵衛に連れられて行った島田屋の寮で見た娘・桜子の雛人形を古物商で見た。櫻子は薩摩の殿様の娘という噂があった。雛人形も薩摩雛だった。綾は櫻子がどうしているか探った。寮は火事になり、島田屋も潰れていた。その頃、櫻子の用心棒だった男に話を聞く。守るというよりも見張りだったと言う。島田屋から逃げたかった櫻子は火事の時に薩摩屋敷に逃げ込んだと言う。古物商は雛人形はヘンリーというイギリス人が買ったと知らせてくれた。秘書の池内を通して待ち合わせ場所を指定してきた。池内が合わせてくれたのはヘンリーの妻・櫻子だった。櫻子はヘンリーと一緒にイギリスへ旅立つ。
 夜桜銀次 篠屋の若い船頭・竜太は、猪牙船とぶつかり相手の猪牙を壊したと三十両を請求された。仲間の船頭が調べると、相手の銀次は札付きの悪との評判だった。後ろにやくざな蛯沢屋が付いているようだと考えられたが、蛯沢屋の者に追われていた。五年ほど前、銀次の船が転覆し客が亡くなった。その客の娘・鈴の目が悪く、十二才になればヘボン先生に鈴の目を治すと言う約束があった。お金を貯めるために蛯沢屋の金を使い込んでいた。蛯沢屋の者に追い詰められ火を放ち銀次は死んだ。綾は銀次のお金を預かっていた妙心尼に鈴を横浜に連れていく事を頼まれる。綾はヘボンの所に行くと知った顔に会えるかもと期待に胸がはずんだ。

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