湯島天神坂 お宿如月庵へようこそ⑤ 十三夜の巻 中島久枝
プロローグ 仲居の蕗34才 ちょっとした一言から大事なことに気づく。情報を聞き集め真理にいたる。蕗は上手に隠している。如月庵の草花を育てるのは蕗の仕事。客間に飾られる花は蕗の丹精したものだ。
蕗は椿の根元に小判が入った壺を埋めている。地面に砂をまき砂が乱れていないか毎日確認している。十年前、壺は女中をしていた店の隠居の隠し金だった。火事になり隠居を手代に預けたあと壺を掘り出し奪って逃げた。五十両あった。店は火事で焼けた。蕗は帰らず炊き出し場で、松に誘われ如月庵で働くようになった。
姑の残した玉手箱 紅葉と梅乃が見つけた倒れ人が、宗庵の元で回復し如月庵で働くことになった。柏という。蕗について仕事を覚えることになった。
布団屋・岡本屋の隠居夫婦が亡くなり三年あまり看病していたおかみのきみがぼんやりしてしまい如月庵に休みに来た。きみは姑の言っていた辰五郎という名前と、使い道のわからないお金があることが気掛かりだった。誰も辰五郎を知らなかった。きみから話を聞いた梅乃は辰五郎を探す。
昔、岡本屋で女中をしていた亀が嫁いだ先の鳶の親方が辰五郎だった。四十年前、姑が富岡八幡宮の祭礼に行き、出会った亀夫婦の所に寄っている間に永代橋が落ちた。辰五郎に会わなければ命はなかったと盆暮れの挨拶が続いていた。十年前鳶の辰五郎が火事で焼けどを負い、仕事が出来なくなってから稲から金子をいただくようになった。という話しだった。稲は店で気を張って、亀のところでは気を休めていたようだ。
きみは迷いが晴れたと晴れ晴れとして帰って行った。
酢いかの災い 毎朝、紅葉は一心館道場に通う城山晴吾を見送るために掃除をしている。隣には11才の真鍋源太郎がいる。新しく石塚守之助が加わった。明解塾も一緒に行っている。源太郎の御徒組だった父が亡くなり、昨年、勘定奉行の叔父と養子縁組みをした。源太郎は立派になろうと頑張っていた。
菓子屋のご用聞きの太一が金を猫ばばしたという理由で店を辞めさせられた。
近所の子供相手のおばあさんが店番をしている駄菓子屋で、万引きが起こる。
源太郎が体調を崩し休むようになった。守之助と喧嘩をしたようだ。
道端に駄菓子が捨ててある。
梅乃と紅葉は源太郎が心配で調べて見る。
源太郎は守之助がお菓子をとるところを見、注意したところ源太郎の袂にも入っていた。守之助は源太郎の養父に言うぞ、養子の話しがご破算になるぞと脅され家来になることを強いられた。真鍋の父が怒り裏切られた気持ちになられることが怖かった。家来になって盗みは出来ないから棒で打たれ、出て行くことが出来なくなった。見舞いに行った紅葉と梅乃と晴吾に、私は卑怯でした。父と母に話します。と言った。
紅葉と梅乃は守之助が万引きしたあと、問い詰める。守之助は他の塾に変わった。
全てを父母に話した源太郎は、これからは帰されるなどと考えるな。ここがお前の家だ。自分に正直になれ。自分に恥じるような行為をしてはならないと諭された。源太郎は駄菓子屋のおばあさん、一心館の館長、明解塾塾長に詫びた。
宇一郎も駄菓子屋のおばあさんに息子が迷惑をかけたと詫びをいれたらしい。
鴻鵠の志 江戸で医者になるために勉強していた大名の御殿医の息子・慎太郎が、塾を辞めて国許に帰る迎えが来るまで如月庵で待つために泊まりに来る。慎太郎は家が医者だから医者になるというだけで特に成りたいわけでもないらしい。
宗庵が慎太郎に手伝えと呼びに来る。食中毒の十人、酔って喧嘩し血だらけの二人、ぼやで火傷を負った三人、心臓が痛いと一人、宗庵と桂次郎と園だけでは手が足りない。医術をかじった慎太郎と紅葉と梅乃が手伝いに行く。二人は浴衣、襁褓、包帯の洗濯、水くみ、身体ふきと仕事をこなす。宗庵は慎太郎にこんな医者もいるんだよと言う。
慎太郎は塾長に謝りもう一度勉強したいと言い出した。自分は物覚えが良いだけで医者としては何も出来ない、学んだこともどう役立てていいのか判らなかったと反省した。
田辺塾に復学したした慎太郎は、たびたび宗庵の元で手伝いをしている。
富士を仰ぐ村 室町後期、京が荒れ家を焼かれ楽師の主を失い、駿河に移り住んだ、源博雅の流れをくむ楽家の子孫・南藤右衛門と息子・奏太郎がやってきた。
普段は、地元の神社や寺で雅楽を奉納している。熱田神宮で江戸の楽家の人・原家と一緒になり江戸へ誘われた。奏太郎が明後日、笙を奏で家長の許しがでれば推挙いただける。ということだった。
奏太郎は指が動かなくなった。奏太郎は晴れがましいまぶしいものではない、暮らしの中にある雅楽を奏でたい暖かいきもちで笙を吹きたいと思うようになった。奏太郎は帰って行った。
エピローグ 蕗は柏が気になって夜、眠れなくなった。柏が蕗の壺を堀起こした。逃げようとした柏を、杉次と桔梗が阻止した。
柏は出て行った。金は隠居の孫に返した。
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