2022年7月19日火曜日

東京バンドワゴン⑦ 

 東京バンドワゴン⑦ レディ・マドンナ 小路幸也

 



冬 雪やこんこあなたに逢えた
 亜美の弟・修平と折原美世・本名・三迫佳奈の結婚式があった。紺と佳奈の姉とは同級生でわだかまりがあったが、両家は顔を合わせ今後ともよろしくと挨拶を交わした。
 カフェで、アコースティックライブを始め、1ヶ月に1回ほど夜8時ぐらいからカフェを開けるようになった。
 鈴花とかんなは藤島のことを「ふじしまん」と呼ぶ。
 古本屋の客で二人変わった人がいる。一人は、一冊ずつ本を売りにくる。もう一人は、棚の一角に入っていた本をごそっと買って行く。
 古本屋に、奈良勢津子がちょくちょく来る。池沢の先輩。昔は奈良さんの劇団員だった。
 木島と茅野のおかげで不思議な客のことが判った。
 棚の一角の本を買って行くのは、藍子の同級生、三石でした。高校時代に藍子に告白して、「十年後に気持ちが変わっていなければまた申し込んでください」と言われた人。もう一人は、奈良の息子だった。我南人がクリスマスパーティに二人を呼ぶ。
 三石は病気で手術を受ける。初めて真剣に人と向き合うことを教えてもらった藍子に礼を言えたらと思って寄ってみたという。勘一は入院中に読むよう気分の明るくなる本を五六冊渡す。元気になってまた来ますと言う。
 奈良は、桐箱に入った、初代が制作した〈東京バンドワゴン〉所蔵の古書をまとめた名だたる文豪が寄稿している豪華な目録。目録に収録されている文豪の直筆の原稿用紙を出してきた。〈伊豆の堀田草平〉は奈良の劇団のパトロンだった。勘一が草平の息子だと知って、お礼を言いに来た。お金に困ったら売りなさいと預かった本と目録を返しにきた。

春 鳶がくるりと鷹産んだ ひな祭りのお雛さまが五セットある。芽莉依は友だちとツアーのように全部見て回る。
 花陽は高校に合格。目標の医大合格のため塾に行き出した。
 研人が、部活の最中に先輩・田代を殴ったと学校から呼び出しが来た。田代が「我南人なんて過去の人、オワコン」と言ったために研人は手を出したようだ。怪我をさせたことは事実だからと、紺と亜美と我南人と研人は謝りに行く。納得できない研人は、次の日、朝早く葉山の龍哉の所に行ってしまった。勘一と亜美と池沢が向かえに行く。龍哉は、この別荘は俳優の親父が愛人だった母のために遺したただ一つの物。愛人を住まわせて死ぬまで閉じこめておいた男が遺したもの。環境からすごい乱暴者の不良だった龍哉が殺したいぐらい厭なやつがいた。その時、母親が殺すことより、許すことの方がはるかに難しい。どうしたら許せるかを考えるために人間は生きている。生きていたかったら許すことを考えなさいと言っていたと話した。怒りを別のものに表現する、そうすれば何かのエネルギーになる。曲を作れば感動した人の生きる糧になる。創作ってそういうものだと、我南人に教わったと話す。
 研人はあいつと会うとムカムカすると言っている。亜美は任せなさいと言い研人と学校に行く。先生に会い、部活に行く。亜美は田代に、昨日謝ったのは研人が、殴ったことに対してだった。我南人をなじったことは、まだ発言の重さがわからない子供だから今は許す。三年音楽演っても自分の発言がどんなに愚かだったか理解できなかったら音楽をやるんじゃありません。いいですね。と凄んだ。ただのおばさんに言われても・・・。と言う田代に対して、バスドラを響かせ、軽やかにかつ正確にドラムソロを響かす。「いかが?」「すげ、です。」と言う感想を聞いて亜美は「でしょう?。これからもよろしく頼むわね」と収めた。研人も勘一に「母さんすげえって。」
 ライブに出演した中川浩成が、我南人に相談する。一度もあったことの無い娘に、一年に一度手紙とお金を送っていた。娘が東京の大学に入って会いたいと言ってきた。会いたいが、自分は社長をしていると言っている。どうしたら良いだろうと言う。
 葉山の三鷹の会社の保養施設を借りてパーティをするこにした。知りあいを集めて娘さんをもてなす。我南人、龍哉、池上、三鷹、永坂、藤島、勘一の付添に紺、風一郎。潤子が来て挨拶をする。潤子の母は美容院をやっている。明るく、シングルマザーは一つの生き方。父親は私たちを母子にしてくれた。それで幸せ。父親として家庭に入れる人じゃないけれどそれは個性なんだ。ひがまないで楽しみなさいと言われてきた。
 すまん!中川は社長なんて嘘、売れないミュージシャンなんだと自分で言ってしまう。
 勘一は知りあいというのは本当だ。昔からの友だちや歌を聴いてファンになったそこは嘘じゃないぜ。親父さんは良い歌を唄うぜ。潤子はお父さんの歌が聴きたいと言う。

夏 思い出は風に吹かれて 夏休み、花陽と研人はマードックとイギリスに十日間行った。
 すずみの友人・美登里が久しぶりに訪れる。毎日、二人と遊んでくれる。
 勘一の様子がおかしいと、みんなが言う。勘一は、サチの父親の蔵書を探していた。サチの父が書いた本・海外を見聞した紀行文、20冊しかない私家版、〈最愛の娘、咲智子へ〉と書いてある本を探している。
 岩書院の社長・大沼が五条辻家の蔵書印の入った本が見つかったと持って来てくれた。出たところが悪かった。通称〈山端文庫〉。M大付属書誌学山端爾後研究所。昔、醍醐が、家の蔵の全部のリストを作らせてくれ必要な本を買い取りたいと来た。断ると、夜泥棒に入って来た。逃げ出すのを、ぶん殴った。警察沙汰にはしなかった。が、総入れ歯に鼻曲がりになったという曰くがあった。
 勘一は、見せてくれ私家本だけでも譲ってくれと言えば、代わりに蔵の中のものをと言われかねないと悩んでいた。
 山端文庫の建物は、かっての男爵東集済様の屋敷・みんなでジャズ・バンドで演奏した屋敷だった。
 花陽が電話をしてきた。研人が一人でロンドンのライブハウスに出かけ、夜、バスが無くて、キースに電話して泊めてもらったという。我南人に礼の連絡をしておいてという連絡だった。
 三石が元気に、古本屋にやって来た。
 大沼社長から、〈東京バンドワゴン〉から盗まれたらしい本が持ち込まれた。今日、金を取りに来ると連絡を受ける。勘一と紺とすずみが行く。やって来たのはやはり美登里だった。美登里は男に騙され男の借金を返すためにソープで働いていた。虫干ししていた本を持ち出していた。話を聞いたすずみは、父親の生命保険の残りから三百万を美登里に貸す。
 我南人が来る。大沼に〈山端文庫〉の講堂でライブをやりたいと話をしてほしい。我南人はノーギャラで特別ゲストに、キースを呼ぶ。入場料は〈山端文庫〉に寄付する。代わりに五条辻家の蔵書から一冊ただでほしい本があると伝えてほしいと交渉する。
 同じ頃、真奈美は赤ちゃんを産んだ。すずみと美登里と我南人は借金を清算しに行った。
紺と勘一は、病院に向かった。
 赤ちゃんが産まれるのを待つ間、池沢は青に、生まれる時の話をする。生まれる時に来た我南人は、この子はきっと周りの皆を幸せにするよと言ってくれた。本当に私を幸せにしてくれた。青は、母さんと呼ぶのは死んだ堀田秋実、ただ一人なんだ。いつまでたっても母さんとは呼べそうにない。でも鈴花におばあちゃんと呼ばせてもいいかなと聞いた。池沢は、こくんと頷きありがとうと言った。
 コウと真奈美の息子は、勘一が真幸と名付けた。真奈美の真とコウの幸光の幸をとった。

秋 レディ・マドンナ 鈴花とかんなの七五三。
 藤島がきれいな人と歩いていたというのは、義理の母・父親の若い奥さんだった。藤島と五才しか違わないらしい。
 秋実の友だち・姉妹みたいな智子が来る。建物の老朽化が激しく、資金難もあり施設を閉めることになりそうだと報告にきた。智子は秋実たちが育った施設で子供の面倒をみてきていた。春までは頑張ると言った。
 龍哉と一緒に生活している公平が相談に来た。今、くるみと三人で暮らしているが、公平はアメリカへの赴任が決まった。残った二人は好きあっているのに、あの家で二人は暮らせないと思っている。くるみは引っ越すつもりだが、たくさんある本を引き取ってほしいと言ってきたら、話を聞いて二人をうまく導いてくれないだろうかという。
 妹・淑子の弁護士がきて、淑子は住んでいた家を勘一に遺した。もともと勘一の名義だった。ありがとうと受け取る。
 勘一は三石を呼び、明後日、智子と龍哉たちを呼び集める。我南人は親父さすがと感心する。
 勘一は龍哉に、手に入った淑子の別荘と龍哉の家と交換しようと言う。古さと大きさでほぼ同等と鑑定した三石が言う。勘一は、二人は淑子の別荘で暮らして、龍哉の別荘は売却して、児童擁護施設の改築と運営費用に充てるという計画を話す。龍哉の母は龍哉に愛する男の幻影を見、自殺した。くるみは義父から逃げている。くるみの考えていることを話す勘一。龍哉は我南人に敵わないと思っていたのにもっと敵わない人に会いましたと話す。
 龍哉は勘一の計画を受け入れスタジオも造り、新しい場所で新しい生活を始めることにした。
 龍哉は三日後、祐円さんの神社で挙式をした。
 紺が仏間でサチと話そうとした時、かんなが、おおばあちゃんとサチを指さした。紺は研人の時と同じように、おおばあちゃんが見えても指を差さないように教えなきゃと言った。
 
 

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