無花果の実のなるころに 西條奈加
父の転勤に同行せず、神楽坂の祖母と暮らすことを決めた中学二年生の滝本望。包丁を持てない祖母は面倒くさがりで、気が強い。でも「お蔦さん、お蔦さん」と誰からも頼られるような不思議な吸引力を持っている。お蔦さん目当てに人が集まってくるから望も忙しい。
本名・滝本津多代。神楽坂の元芸者・芸名・蔦代。みんなはお蔦さんと呼ぶ。
罪かぶりの夜 望の幼なじみ・木下薬局の洋平が、蹴飛ばし魔の犯人として警察に捕まった。望はお蔦さんと警察に行く。ヨシボンと呼ぶ刑事さんに詳しく話を聞き、本当の蹴飛ばし魔を探す。洋平が好きな女の子の彼氏が犯人だった。彼氏を庇った浅井美樹が犯行を洋平に見せた。洋平は美樹を庇って自首した。
蝉の赤 望は桜寺中学美術部に所属している。文部科学賞をとった足尾先輩が文化祭に来た。足尾は文科賞をとって自分が使った赤は乾蝉丸という作家の「蝉の赤」の真似なのに賞を貰っていいのかと悩んでいた。赤とオレンジが足尾さんの色と言われて落ち着いた。展示していたその作品が外され穴が空いていた。望と一緒に見に来ていたお蔦さんが烏の嘴での事故としてその場を収めた。本当は足の不自由な杖を突いていた人の杖の持ち手の痕だった。二人は足尾を連れて江木に会い話を聞いた。展示していた絵が落ち手を出した手に杖を持っていたため穴を空けてしまったのだった。彼も、学生の時、父親の絵を真似て描いた絵が賞を貰って悩んだまま年を取っていた。お蔦さんはせめて新藤のじいさんの歳まで続けてけてから泣き言を言いなと言う。新藤のじいさんは、美術部部長の祖父。日本画家。
無花果の実のなるころに 近所で俺俺詐欺の被害が続く。お蔦さんが調べると犯人はかなり綿密に調べていた。お蔦さんと望は望が作った無花果タルトを手土産に被害にあった志野さんの所に行く。孫の聡が来ていた。お蔦さんは聡と無花果の話しをした。五百万ぐらいだったらいつでも都合できると話す。詐欺電話が掛かって来た。望は祖母がいないので用意出来ない祖母が帰ってから銀行に行くと言うとバイク便がくる方法を指定された。バイク便がお金を運び待っていた男を捕まえた。孫の聡は偽物だった。お蔦さんには判ったから五百万の話をしたのだった。志野さんは望の作った苺タルトを持って面会に行くと言った。
酸っぱい遺産 芸者頃のお客さんで、今も付き合いのある立脇工業の社長が亡くなった。先代社長がご贔屓さんだった。社長は遺言で個人所有株全てをお蔦さんに残した。総株数33%、六億円になるという。筆頭株主になった。弁護士と息子・専務が伝えに来る。専務の継母、社長の奥さんが来る。お蔦さんと望は会社見学に行く。望は専務の弟・大学院生に開発途中の調理ロボットを見せて貰う。株主総会でお蔦さんの思う通りに進んだ。社長は将棋と同じ、会社も守りの固い土台がしっかりしていた。資産運用に失敗した専務を辞めさせ、特許技術二つを売り、お蔦さんの相続した株を三社に分けて売り、借金を返済した。社長は取締役の一番若い人がなった。専務は喧嘩腰でお蔦さんの前に現れた。辞めさせられた文句を言う。あんたにとって、会社を出て、裸一貫から会社を興し大きくしたじいさんと同じ行き方をしたほうが良いと社長が判断したのだとお蔦さんは言った。守るより攻める山っ気な気質もじいさんにそっくりだ。三代目なんて向いてない。
果てしのない嘘 わが家を訪ねてきた楓を望は好きになっていた。楓の母親が倒れ病院に運ばれた。通報したのは乾原奉介だった。楓の父親だった。争った痕があるので奉介は容疑者だ。母親・石井有紀は、病院で気がつき自分で転んで頭を打ったと言った。奉介が来たことは知らなかった。お蔦さんと望は病院に行く。お蔦さんは身内だと言う。奉介の義理の姉だと言う。望の祖父の弟だった。奉介・乾蝉丸だった。楓はわが家が預かった。
有紀は自分で転んだとしか言わなかった。有紀の右手の中指と薬指の爪に茶色の革が付着していた。
望と楓は同級生の翠に会った。父親も一緒だった。翠の父親は新東フィルのコンマスだった。革製のヴァイオリンケースを持っていた。望は翠の父親が楓の母親の事件と関係がありそうだと思った。
楓は三才の時別れた父親と会った。楓は奉介の母親・蝉丸とそっくりだった。有紀は退院した。
お蔦さんは、事件の筋を話した。有紀はガンだった。レーザー治療で治した。音楽教室の生徒が減った。有紀が不安な状態の時、翠の父親・小坂に会った。フランスで二人は恋人だった。小坂と別れたあと奉介と暮らし始め、楓が生まれた。小坂は奉介に、楓は自分の子だと言った。有紀は否定したが、奉介は家を出た。そんな小坂が六千万のヴァイオリンを持っていた。楓と同い年の子供がいる。彼は有紀と付き合っている時、結婚していたのだ。有紀は、楓は小坂の子だと強請った。そしてあの日揉めて有紀は怪我をした。小坂は逃げた。ヴァイオリンケースを警察が調べればはっきりする。
奉介も望も、はっきりさせることを拒否した。翠もショックだろうし、楓も傷つく。一生黙っていることにする。楓に嘘を付いた。
楓がずっと笑っていられるようにこの道を選んだ。自分の役割を。
シナガワ戦争 望の友人はイケメンで有名な彰彦だ。洋平と彰彦の家に遊びに行った時、彰彦に、おまえの彼女の翠を捕まえている。すぐ助けに来い。来なければ翠がどうなっても知らないぞと脅かす。時間を伸ばし、用意する。サッカーボールや、いろいろ。情報を集める。彰彦の兄の同級生らしい。相手を突き止め家に連絡する。廃工場へ行き、彰彦と洋平が相手をしている間に望は翠を助ける。だが、捕まってしまう。そんなところに相手の父親と妹が来た。父親は息子を殴った。
彰彦の家で話しあう。八馬宗司、友だち二人、父親、妹、彰彦の兄と両親、翠と父親、望と洋平。
宗司の妹が彰彦に告白した。ふられて間がない彰彦は付き合う気がないと言った。それなのにすぐ翠とデートしている彰彦を見た妹は兄に愚痴った。兄・宗司は妹のために翠を捕まえ、彰彦に暴力を加えようとした。
宗司の父親は謝り、警察に行かすと言った。翠の父は事を大げさにしないと言った。宗司の父は高校を中退し、これ以上半端な真似をさせればこいつのためにならないと言う。
翠の父は、自分の悪意を持って嘘を言ったり、はずみとはいえ人を傷つけたこともある。ある人に、心からすまないと謝罪して己の罪を抱えて生きるのも立派な生き方だと言われた。人の弱さや痛みを知り、他人の罪も赦す。寛大さを持てと言うことかと思う。
宗司は買ったばかりのバイクを売った。
翠の父親もヴァイオリンを売っていた。何か悪いことをして償いに大事なものを諦めたのかなと言った。
お蔦さんは、小坂と有紀を会わせてお互いに謝罪させたらしい。
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