2022年7月21日木曜日

東京バンドワゴン ⑧ 

東京バンドワゴン ⑧ フロム・ミー・トゥ・ユー 小路幸也

  紺に交われば青くなる 堀田紺
 ばあちゃんを見たのは三年前、初七日の法要の後、死んだはずのばあちゃんが縁側の座布団にちょこんと座ってにこにこしてた。紺がばあちゃんの姿を見たのはこの時だけ。時々話はできる。今は研人がばあちゃんが見えるようだ。
 研人と紺の話
 紺が小学校二年、「僕の子なんだ」と赤ちゃんを抱いた我南人が帰ってきた。お母さんの名前はいえない。赤ちゃんには名前がついていないと言う。ばあちゃん・サチが、「藍子、紺、次は青でしょう」と名前が決まった。
 おばあちゃん・秋実は、大ばあちゃん・サチを尊敬していた。尖っていたアキが、大ばあちゃんに頭を撫でられ、わんわん泣いて境遇を話してしまった。おじいちゃん・我南人がうちにおいで、愉しめる楽しい家だからと誘われ家に来た日にお嫁さんになった。
 だからアキは、青ちゃんも自分の子にした。
 青が中学二年の時、テレビドラマや映画に出た。
 食事中に、「貰われてきた子供?」と聞いた。我南人が「僕とある女性の間に産まれた子共だよ。藍子や紺とは異母兄姉弟になるね」と言った。
 紺と青と二人の時に、親父にくって掛かれ、もっと言いたいことを言えと言ったら、青は我南人にこてんぱんにやられた。青は紺よりいい筋してる。堀田家の血だねと我南人は言った。横で大じいちゃん・勘一は、俺が相手をしたら周りをこんなに壊さないと言った。
 悪い先輩に誘われて夜の街に出かけたり、暴走族の集会に出たり。そんな時、暴走族が一斉検挙された。その中に青がいた。サチと紺と青が警察で警察の話を神妙に聞いている最中、我南人が、ツアー用の十トントラックで警察の玄関前の駐車場で、ガルウィングを開け、ゲリラライブを始めた。一曲終わると、青は泣きながら、親父!と叫んで、今の青になった。自分のために息子のためにとんでもないことをしてくれたと理解した。
 研人は親父の武勇伝を何度聞いてもおもしろがる。お父さんは悔しくない?と聞く研人に、お父さんは堀田家の頭脳だからね。ひひじいちゃん・草平にそっくりなんだそうだよ。

 散歩進んで意気上がる 堀田すずみ
 大じいちゃん・勘一と出かける。すずみは何も知らされないまま、昭和三十三年の「小説宝玉」を持って、土合英昭の「空家の少女 真夏の女」の登場場所を回る。幼なじみの元神主・祐円とポラロイドカメラで写真を撮りながら。二人の幼いころの遊び場所を回る。老人ホームの松谷峰子さんの写真も撮って、勇造の見舞いに行く。土合英昭は勇造だった。作家を志、始めて世に出た小説だった。が、小説を書くのを止め、家業・長寿庵を継いだ。勘一たち幼なじみの誰かが亡くなる前に、彼女・藤子と別れた理由、小説家を諦めた理由を話す約束をしていた。
 この小説は、藤子との出会いを本に書いたフィクションだ。内容は遺産相続に絡む、人間の嫌らしいどろどろした事件だった。藤子の家に隠されていた事実をほとんど小説に書いてしまった。ノンフィクションのように白日にさらした。藤子の家が没落したのも小説が原因だと言ってもいい。愛した女よりも作家の性を選んでしまった。出来上がった小説は傑作だった。
 峰子は藤子の妹だった。峰子は祐円さんの神社の木にペンダントが今もあるかもという話の人物でした。

 忘れじのその面影かな 木島主水
 木島は、ライター紛いの男から、「マードック・モンゴメリー」に関する話を仕入れる。木島はずーと我南人を追いかけてきた。ドブの中を駆けずり回っているうちに匂いが染みつき抜けなくなって、金のために我南人のスキャンダルを暴こうとした。我南人にインタビューをし、素の自分に戻った。自分が惨めになった。そんな木島を堀田家の皆は何にもいわずに許してくれた。俺は堀田家のためなら何でもすると思っている木田だった。
 マードックと話をしようと、藤島社長の家を借りる。
 マードックは日本が好きで日本に来たが、一文無しで帰るに帰れなくなった時、素晴らしい佇まいの古本屋を見付けた。勘一にご飯を食べさせてもらって、大きな古本屋に持って行きなと古本を1冊貰った。そのお金でイギリスに帰った。食事を作ってくれた藍子が、初恋の聖母マリアにそっくりだった。だからもう一度日本に来てこの辺に住んでいた。
 木島は、自分に高校生の娘がいることを話す。知らないうちに産んでシングルマザーとして子供を育てていた。誕生日とクリスマスプレゼントは贈っている。この頃は連絡をくれるらしい。
 関空の税関が薬物の密輸で(マードック・モンゴメリー)に目をつけているという情報を教えた。マードックは人違いだと言う。正式の名前はマードック・グレアム・スミス・モンゴメリー。
 同じような名前で怪しい美術関係の人がいる。気をつける。ドラブルに巻き込まれるかもしれない。

  愛の花咲くこともある 脇坂亜美
 亜美・20才。北海道への一人旅、函館でボストンバックを盗まれた。盗難届を出してる時、同じ女性用のボストンバックを持った男性を見かけた。亜美は跳び蹴りで男性を捕まえた。男性は堀田紺・20才、我南人の長男。
 財布も荷物も無くした亜美は、一ヶ所に寄って帰るという紺の車に同乗して東京に帰ることにした。
 一ヶ所というのは、函館から八〜十時間かかるオトイネップのカイナ山の〈最後の桜〉を、旭川で一泊して行くと言う。我南人の友人が亡くなる前に桜を見てきてほしいと頼んだそうだ。紺は、亜美がドラムスティックを持って桜の木の下でドラムを叩く感じで写真を撮る。亜美はドラムをやっていたと言う。スティックを桜の木の下に埋めた。
 亜美は東京に帰ったら、〈東京バンドワゴン〉にお邪魔しようと思った。

 縁もたけなわ味なもの 藤島直也
 藤島直也25才。大学を卒業後三人でS&Eを起業し、代表取締役。今では大企業に成長している。一緒に起業した三鷹が、修業してくると言い残し行方不明だ。藤島は社長には三鷹の方が向いていると思っている。
 自由時間が出来た。昔から行ってみたいと思っていた〈東京バンドワゴン〉・古本屋に行く。
 この店の本を全部買いたいけど、およそいくらぐらいになりますかと尋ね、店の主人・堀田勘一に大声で怒鳴られた。一冊持っていた本に付いて聞かれ、挿絵と詩の関係、装幀も素晴らしく作り手の魂が感じられる。丁寧に保存されている買い手の気持ちが感じられた。と言うと堀田さんは褒めてくれた。
 孫娘・藍子さんが現れる。姉によく似ている。我南人が現れる。息子さんのようだ。我南人は藤島を知っていた。待たされている間に小学生の男女が現れる。
 お坊さんが来て、仏事に付き合う。お坊さんは三鷹だった。何もかも承知の我南人が仕組んでいた。修業を始めて半年、三鷹もそろそろ潮時かと考えていた。
 藤島は、本を一冊売って貰い、感想文を持ってきたら一冊売ってやると言われた。必ず来ますと言い、三鷹と一緒に寺に行く。
 一緒に起業したもう一人・永坂に、週に一回、二時間ぐらい昼間の時間を開けてくれと言う。古本屋に行くんだ。

 野良猫ロックンロール 鈴木秋実
 秋実は三人のチンピラから我南人たち〈LOVE TIMER〉に助けられた。強い。我南人はのんびり躱していた。そして秋実を背負って、自分の家に逃げた。施設にいるから家はないと言う秋実に、家は心の中にある、一緒に居たいと思った人と一緒にいるのが家だと言った。

 会うは同居の始めかな 堀田青
 ツアー添乗員の堀田青25才、大学の経済学部で〈海外留学と外国で暮らすための知恵〉という特別講義で喋った。その時の講師と学生で合コンすることになった。一次会が終わり、二次会に行く途中で、角を曲がり抜けた。一人付いて来た。槙野すずみ。話したかったから付いてきたと言う。会話しているのが楽しかった。〈喫茶 多摩蘭堂〉
 多摩蘭堂で、すずみの友人二人と喫茶店ウェイトレス・杏に囲まれる。どうしてすずみと別れるのかと聞かれる。すずみは何も話さないらしい。すずみの父親が亡くなり、ひとりぼっちのすずみの恋人まで離れていくのか。「俺が悪い。そう思ってくれ」それしか言えなかった。
 友人二人を除いて杏が言う。一度だけすずみの父親・槙野教授が女子学生とコーヒーを飲んだ。待ち合わせていたように思った。女子学生に対する特別な思いを感じた。女子学生は青のお姉さんだったと思う。槙野さんの葬儀に隠れるように遠くからみている藍子を見た。二人が別れたと聞いた時、藍子が一人で産んで育ててきた花陽ちゃんが繋がった。想像が事実なら、あなたは絶対に別れないと言わなければ駄目。二人が別れたら、将来不幸になる人間が四人になる。すずみ、青、藍子、花陽。自分のことで青が最愛の人を失ったと思うと傷つくだろう。あなたたちが別れなければ不幸な人はいなくなる。
 遺言で法事はない。三回忌に墓の前で、三人に問い詰められたことを話した。杏さんにお礼を言わなきゃ。多摩蘭堂に寄る。

 研人とメリーの愛の歌 堀田研人
研人四年生の六月、学校のバザーで〈東京バンドワゴン〉の古本屋をすることにした。平本芽莉依と一緒にする。マードックさんと古いリヤカーを改造してワゴンを作る。
 校長先生が、古本の雑誌を見、幽霊と言いながら気を失う。雑誌の写真には芽莉依の祖母が写っていた。
 夜、校長先生・初芝が来る。四十年前、学生運動で先生の恋人が怪我をして亡くなった。その人の写真、亡くなったはずの恋人の写真だった。芽莉依の母と祖母が来る。西田優子さん。恋人との交際を止めさせたい親が、優子さんを死んだと初芝に伝えた。初芝は大学を辞め郷里に帰り、大学をやり直す。優子さんは連絡を付けられなかった。校長先生はお元気で何よりでしたと言う。
 
 言わぬも花の娘ごころ 千葉真奈美
 真奈美が偶然、日比谷で花陽と会った。花陽が藍子と仲のいい真奈美にお父さんのこと知ってるって聞かれた。母親が不倫して産んだのが自分で、不倫相手のお父さんと一緒に暮らしていたお姉さん・すずみが今は、一緒の家にいる。内心は複雑なはずの花陽の質問に真奈美は応えた。
 藍子22才、真奈美21才の時、隣町の産婦人科で二人は久しぶりに会った。藍子は妊娠、真奈美はしていなかった。知ってる人に会わないよう隣町に行ったのに会ってしまった。
 藍子は相手が妻子ある大学教授だと言う。全然関係ない先生だけど、一目惚れだと言う。産むことを教授に伝えなさいと、二人で槙野教授に会った。藍子は素晴らしい家族がいるから私は大丈夫、離婚をしないでください。槙野さんの家族を大切にしてほしいと言った。
 真奈美は藍子に内緒でもう一度会った。学校に槙野教授が、学生と深い中になっていると匿名の手紙と写真が届いた。写真は、槙野教授は分かるが、女性は誰だか分からない。槙野教授は真奈美の名前を出してしまった。真奈美は大学まで行き、偉い人に会った。槙野さんと深い関係になりましたが、これきりで終わります。申し開きし、学校の学生でなかったので不問にされた。
 このことは藍子は知らないからね。
 
 包丁いっぽん相身互い 甲幸光
 真奈美さんの友だち・松谷さんの小学二年の息子さんが、亡くなった母親に柿のコロッケを作ってもらっていたという。作り方を教えてほしいと言われる。コウは、いろいろ考える。いっしょに作っている時、松谷さんと話した。
 松谷さん夫婦は、真奈美がコウを雇ったことを驚いていた。真奈美は昔手酷い失恋をした。妻は何日も泊まり込んで自殺をしないよう見張っていた。二度と一生恋はしない。自分の隣に男性を置かない。人を雇っても女性しか採らないと言った。それ以後、彼女はかたくなだったらしい。
 何故、自分は雇われたのか。どうでもいいと思える笑顔があった。

 忘れものはなんですか 堀田サチ 
 朝刊が配られていなかった。配っているのは大学生の土井彰太君。彰太君の様子が変だというのでみんなで聞き回る。最近、祖母が亡くなった。急死だった。遊び回っていて携帯をの電源を切り連絡が取れなかった。すごく後悔していたことを聞き込んだ。
 紺に頼まれ公園に行く。研人が合図をしたらにっこり笑って手を振ってお辞儀をしてさよならと言って去って行ってと言う。
 紺の隣にいる彰太君と眼が合う。ゆっくりお辞儀しててを振りさよならを言い脇き道に入った。
 新聞を入れ忘れた日、屋根の上のサチが彰太には自分のお婆さんに見えた。それで入れ忘れた。研人は、お婆ちゃんは彰太君にさよならを言いに出てきたんだ。と伝えた。

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