2022年11月17日木曜日

猫弁⑤  猫弁と魔女裁判

猫弁⑤  猫弁と魔女裁判 大山淳子

 百瀬太郎の住むアパートの大家は、持っていた不動産を売って故郷の熊本に息子と帰った。太郎は売れ残ったアパートの大家の代行をしている。

  百瀬は、日本最大大手法律事務所・ウエルカムオフィスの秦野から以来された裁判の調べに没頭し、アパートにも事務所にもいない常態だった。
 不正アクセス禁止法で逮捕した、魔女と呼ばれるアメリカのスパイ・シュガー・ベネットの裁判。外事警察、公安の滝之上が十年かけて追いつめ逮捕・拘留したが証拠不十分で不起訴、経団連が告訴するが不起訴、検察審議会に訴え起訴相当となり指定弁護士を秦野に頼んだ。秦野は百瀬に頼んだ。
 百瀬は引き受け、指定弁護士の権限で、強制捜査を始め、逮捕・拘留した。
 日本ではスパイの裁判はお茶を濁す。即時釈放国外退去が恒例だった。
 百瀬は強引だった。拘留は行き過ぎではないかと疑問視された。
 太郎は、シュガー・ベネットは自分の母親だと思っている。

 百瀬がいない事務所を赤井玉男が手伝っていた。
 死んだ愛猫の生まれ変わりと称して新しい猫を押し付ける、詐欺の訴えを調べていた赤井。
 生まれ変わりでないことを承知で、新しい猫を飼っていた本人、買った訳ではなく、本当に猫が好きか調べられ次の猫を紹介されただけだった。猫を動物愛護センターから引き取り猫を亡くした愛猫家の元に猫を届けていた青木その子。赤井が青木に会った時、青木は母を亡くし、猫を飼えて安い住むところを探していた。赤井は百瀬の住むアパートを紹介する。
 柳まこと獣医は、動物愛護センターに収容された犬猫の殺処分が禁止になったことを伝えた。まことは、黄色の蛇を高知に運んでくれたトラックの運転手と結婚した。

 四月七日の結婚式に向け、大福亜子は式場と一人で打ち合わせをしていた。
 亜子の父親へ挨拶に行くと言っていた太郎だったが、裁判の調べのため行けなくなった。野呂が替わりに父親・徹二に挨拶する。父親は野呂を気に入った。野呂は百瀬の心は一級品と言い、お嬢さんのお相手として不足はないと言いきった。父親は式には出ると言った。
 久しぶりに会った太郎は、亜子を養護施設に連れて行った。子ども園の園長・遠山にシュガー・ベネットは母だと言う。遠山は面会を許可されシュガー・ベネットに会った。太郎の生い立ちを話す。頭が良い彼に、弁護士になればお母さんを助けてあげられるかもしれないと生きるモチベーションを与えたことを話した。
 亜子の後輩・赤坂と結婚してフィリッピンに行った旧姓・寿春美は、赤坂隼人に
一ヶ月三十万の家事手当てを頂くことになったと連絡してきた。三年の任期が終わり離婚することになっても慰謝料や財産分与は無いという契約をした。

 裁判が始まった。起訴状は五年にわたる三十五回の不正アクセス行為により、懲役三年の求刑。
 一回目公判、三十四回の不正アクセスは遠隔操作による被害者の可能性があるということで一蹴される。三十五回目の島根の医者の論文の改ざんについては、百瀬は次回の証人尋問を要求し認められた。
 二回公判、百瀬が論文の改ざんをされたという医者・上野三郎は、掲載されると思っていた論文が返され、自分の記憶にある論文と違っていた。自分がアルツハイマーの初期症状だと認識していた上野は、こんなに病気が悪化していたのかと思い、診療所を閉じ施設に入っていた。
 百瀬はパソコンの復旧作業をし、改ざんされる前のデーターを救出した資料A。投稿されたもの資料Bとは明らかに違っていた。
 上野の友人・佐川の元にシュガー・ベネットが、上野の論文を返して欲しいと訪れたことを証言した。佐川の元に在った論文は資料 Aと同じだった。被告人・シュガー・ベネットも佐川を訪問したことを認めた。
 百瀬は、三十五件目の不正アクセスは立証された。医療の進歩を妨げ、インターネットの不信感という点で社会に与えた影響は大きい、懲役三年を求刑した。
 
 十日後の判決当日、亜子と父親は、沢村と二見に傍聴チケットを譲ってもらう。
 判決は、懲役三年となった。裁判官は、圧力がかかったが、無罪にもできず、執行猶予もつけなかった。
 判決の言い渡しが終わった後、百瀬が、被告人に三十五年前、七才の息子を手放しましたね。理由を述べてくださいと言う。諜報活動のためです。行為は間違っているとは思いませんか。その時、それが息子にとって最良の道だと判断した。後悔したことはありませんか。私は正しかった。息子にとって最良の道だった。あなたを見て今、そう確信している。とやり取りがあった。二人は見つめ合ったシュガー・ベネットは退場した。二人の会話を止めさせようとした裁判長に亜子は二人に時間をとお願いした。
 沢村は彼女はAMIの命令に背いた。逮捕されるしか組織を抜ける道が無かったのだろう。小さな証拠を一つ残し、たどり着く人間を待っていたのだろうと言った。
 シュガー・ベネットの弁護士・前に弟だと言って百瀬の前に現れた男が、太郎に渡してと写真を渡した。太郎と母の写真だった。手にした太郎はどんどん昔の記憶が蘇る。

 亜子の父親は式場をキャンセルさせる。それを聞いた太郎は、分かりましたと言い、彼女のおかえりなさいを思い出にしなければならないと思った。
 亜子は、結婚式にはお母さんに出席してもらわなければ、式は三年後に延期すると父が言うと続けられた。
 明日から一緒に住むと亜子は言う。
 
 

 

 

 


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