2022年5月10日火曜日

風の港

風の港 村山早紀

 旅立ちの白い翼 亮二35は漫画家だった。今は料亭を舞台に心優しい若い料理人が修業を重ねながらいろんな人々や出来事と出会う人情物語を描いている。元々は少年漫画で熱いヒーローが活躍する物を描いていた。 漫画家をやめて故郷に帰る決心をして空港に来た。
 この空港は、大学生の時から付きあっていた彼女・詩織が、連載が少なくなってきたころから手荒く当たるようになり別れ亮二の高校からの親友・章と結婚式を挙げたところだった。
 空港をぶらついていた亮二は、似顔絵を描く老紳士に出会った。似顔絵を描いてもらいながら親友と元カノの結婚式に出ておめでとうと言えば良かったと言うと、知ってますよと言われた。二人も似顔絵を描いてもらい、きっとあなたが来るから飾っておいて欲しいと言われたと話す。五年待ちましたがいらっしゃいましたね。二人の横に並べて飾ってくれた。
 自分を応援してくれる書店員さんと出会った。

 それぞれの空 小さな書店の書店員・佐藤夢芽子は、迷子の子供を見つけた。白いワンピースの女の子を案内しながらこの子は私だと思った。いっぱい話したいことがあるように思うが、早く案内しないとおばあちゃんのところに行けないと思う。
 20年前にこの書店に来たことがあると言っても話が合わなかったり、あの書店で見た本を探してもなかったのだ。あれは未来だったのだと納得した。
 今、書店には、女優さんと文芸誌の最優秀賞を受賞した新人作家がいる。

 夜間飛行 家に帰っても寂しいしと思っている女優・眞優梨と明日のことを心配する新人作家・恵が書店のレジで顔を合わせた。中学校時代の友だちだ。二人は時々この空港に遊びに来ていた。眞優梨は休みになると恵の家に泊まった。昔話が続く。
 三十数年前、恵は眞優梨に裏切られたと思っていた。恵に好きな男の子がいた。眞優梨に相談して手作りのチョコレートを作った。空港で渡そうとした時、目の前で眞優梨が高級チョコを彼に渡し、彼の腕をつかんでその場を離れて行った。恵は二日後この空港から北海道へ引っ越しした。眞優梨が何故そんなことをしたのか判らないまま現在に至る。
 眞優梨は、ショックなことを聞いても大丈夫?と言いながら、三十三年前の二月のことを話す。高級チョコは恵へのプレゼントのつもりだった。彼は数人の男の子と一緒に空港に来ていた。眼鏡の告白なんて気持ち悪いよ。チョコなんて貰ったら気持ち悪い。受け取ってからこんなのいらねーよって返そうかと思って。ドッキリカメラみたいにみんなで「残念でした」て笑うの。と言っているのを聞いてしまった。恵ちゃんを彼に会わせては駄目と彼を引き放した。そしてあんたは恵ちゃんのチョコレートにふさわしいような人間じゃないと言ってやったと話す。自分は裏切り者でいいと思った。私のことは忘れるだろうと。

 花を捲く魔女 黒いコートの上品なおばあさま。自分で魔女という奇術師・フェリシア幸子。終戦の年、父が亡くなり、故郷の家が燃え家族が亡くなり、家の焼け跡でこのまま自分も死ぬかと思った時、黒装の老女が魔法を覚えないかと誘ってくれた。魔法と魔法道具の使い方を教えてくれた。道具を置いてある日いなくなった。子供を授かり東京に住んだが、娘が亡くなりまた元に戻った。

 空港にて 夜、眞優梨は恵に細かく注意し、空港を後にした。恵は朝、食後のテーブルで魔女の絵を描いている男性を見た。男性にサインを入れた魔女の絵を描いたナプキンを貰った。サインが滲んだ紙ナプキンを大切に保存した。彼は久しぶりに古い友人に電話してほとんど寝ていないと言っていた。

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