幕末まらそん侍 土橋章宏
遠足 安中藩藩主・板倉勝明が城から熊野権現社まで七里七町(二十八・三キロメートル)を走るという命令を出した。
一組目は片桐裕吾と黒木弥四郎。真面目な黒木はなんば走り、いい加減な片桐は馬や駕籠を使う。到達した神社には誰もいない、何もない。受け入れ準備が出来なくて、どちらが勝ったか見守る人もいない。もう一度やり直しが決まった。
逢引き 石井政継は、剣術修行を名目として江戸へ行き、藩費で練兵館に留学した。道場で勝てなかった政継は美鈴という女に溺れた。黒船が来て政継は脱藩しようとしたが、見付かり国許に送り返された。幼馴染みの香代と妻帯させられた。先の自由もない。不味い飯を食わされた。美鈴が松井田宿に来ている。美鈴に会いたい一心だ。香代が握り飯を持たせてくれた。今日は六人で走る。松井田で美鈴に会う。握り飯が美味い!美鈴と江戸へ行こう。香代に告げに帰る。香代はお腹に子が出来たことを言う。もう一度美鈴のもとに行き、一緒に江戸に行けない。縁がなかったと言い、刀を与えて、遠足に戻る。夜、香代は十両で江戸から美鈴を呼び、上手く別れてやると美鈴が言ったことを日記に書いていた。幼い頃から好きだった政継が一緒になっても江戸の女を恋しがっていることが判り、香代が企んだことだった。
隠密 唐沢陣内は安中城に潜み会談を盗み聞きをする。陣内は公儀の草だった。目立たぬように生活し、藩のことを知らせる。何事もなし と書いて送る年が続いた。本当に誰かがこれを読んでいるのだろうか、何か書けばどこからか反応があるのだろうか。と考えた陣内は 乱心のおそれあり と書いて送った。遠足の時に坂本宿で会う連絡が入った。乱心ではなかった。と言い直すと斬捨てい!気合いが迸り刀を抜かれた。「隠密、唐橋陣内は今死んだ」殿様と石井政継だった。唐沢家のことは先代の時から知っていた。乱心の手紙は握りつぶされていた。何故乱心ではなかったと言ったのかとの質問に、安中藩の家中の者であったら良かったのにと思うようになり、藩が潰れ、仲間が路頭に迷うのは嫌だと思ったためと答えると、殿は今、井伊直弼に睨まれ隠密が安中藩へ放たれたようだ。本当の部下になれ。と言われた。陣内は引き受けた。遠足んい戻った。みんなは待ってくれていた。
賭け 松井田宿に近い古寺で百姓や町人、浪人や中間が賭けをしていた。誰が遠足で一番になるか。上杉広之進が一番人気のようだ。広之進は足軽で貧しい。妻の妹が祝言を挙げるという。しかし一番になった所であの殿がお金を賞金にするとは思えない。夜、広之進に負けてくれたら十両出すと耳打ちする者が現れた。十両を貰ってしまった。
下の者には威張り散らし、上役には媚びへつらう百田や上島は上杉が前に行くことを許さない。引っ込んでおれ足軽がと言う辻村、家老にもなろうという家柄。辻村の家臣に林の中に引き込まれ木刀で足を殴られる。膝が腫れ上がりくるぶしから血が流れる。辻村に追いつく。息子・豊太郎と嫁が応援している。豊太郎に本当の姿を見せてやろう。上杉は勝った。十両を失った。殿様がいた。怪我をさせてすまなかった。ゆっくり治療せよと包みを貰った。十両入っていた。褒美に御共番になった。十二石四人扶持。百田は足軽になった。
辻村の家臣たちは石井に髷を落とされた。
風車の槍 栗田又衛門は四十九才で役目を辞し、郷士となった。まわりに住む百姓の惨状を見、助けた。農民が次々くる。蓄えが無くなった。妻が病に倒れ薬も買えず亡くなった。そんな時、槍の好敵手だった福本勘兵衛の一子・伊助9才に会う。将来は右筆になりたい伊助は武道が得意ではない。遠足の練習をしていた。栗田が教えることになる。体術を教える。早く来て農作業を手伝う。
最終日、二時から始まった。又兵衛も走った。初日に記録されなかった片岡と黒田が二度めを走った。
途中で又兵衛は吐血する。先に行けと言う又兵衛。知った伊助は一緒に行こうとする。日が暮れたが伊助が支え神社に着いた。松明が並び明るい中に殿様がいた。刺客が現れる。殿の前に又兵衛と伊助が立つ。逃げた刺客を追う黒木と先回りする片桐。新しい一団が殿を襲う。又兵衛が初めて実践で槍の五段突きを使う。石井が倒し、終わった。
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