雇われ師範・豊之助⑥ 鬼婆の魂胆 千野隆司
千代丸は探していた姉・たえが見付かった。金貸し黒鋼屋錐右衛門の女房になっていた。面倒を見ると言われるが、千代丸は軽業師を選ぶ。気持ちに蟠りがなく軽業が出来新しい技に挑戦し充実する。
若の娘・美代が浪人の親子を来栖道場に連れてくる。兄を殺した瀬戸銀之助を探して十二年、仇討のために旅をしていた羽黒川次郎兵衛34才、息子・次太郎10才だった。剣術の稽古をしながら仇を探す。
来栖道場の師範代・永田豊之助は北町奉行・永田備前守正直の三男。養子に行く気がない。二十三才になった昨年、一刀流中西道場の師範代にならないかと声がかかった。条件は傘下の傾きかけた来栖道場の立て直しだった。前道場主が借りた借金の返済のための、借金取りと若の用心棒をしながら、門弟を増やしていた。
北町奉行所定町廻り同心・北山参次郎が出入する。父親の配下であり、中西道場の兄弟子だった。四人組の盗賊を追っていた。火を付け、火を消している間に盗みを働く。鬼脅しの一味を見た者がいなかった。探索の結果、押込む前に見張っていた屋台の酒屋がいたことが分かった。鬼脅しの頭は羽黒川の仇だった。武士をやめ酒屋の主になっていた。次の狙いの商家を突き止め、狙う日を突き止める。千代丸は見張り、豊之助も一緒に羽黒川親子も商家に入り、火消しの準備をし賊が来るのを待つ。三人は捕まえ、頭は仇討で倒される。
来栖道場の門弟は四人から二十三人になった。中西忠兵衛から師範代の一人として迎えると言う言葉を貰った。豊之助は迷っていた。来栖道場では老人組の稽古、子ども組の稽古、午後は武家の門弟の稽古それぞれが違った稽古をしていた。武家の門弟が永田先生の指導を受けたいと言ってきた。中西道場へ行かないことを決めた。
錐右衛門が買い取った道場を九十両で買わないかと言う。裏に住まいもある。若は金を貸すから今まで通り少しずつ返せばいいと言う。若が死ねば美代のものになるとまで言う。若は豊之助を離したくないのだ。豊之助は話に乗った。
中西忠兵衛に断りを入れた。本所横網町に小さな道場を持つことを話す。
実家に行き話す。父は道場の師範になることを認めた。道場の土地は永田家が買う、両親からの餞別だった。美代と添いたいということも話す。母は祝言を挙げる前に三ヶ月ほどこの屋敷で過ごし、永田家の嫁としての躾けをするということを提案された。
中西忠兵衛から「中西派一刀流 永田道場」の看板が送られた。
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