2022年6月15日水曜日

母子草の記憶

母子草の記憶 小杉健治

 草下彰は五年前、「殺された人々」で全国ノンフィクション大賞を受賞し 作家になったが二作目を書いたが出版社に相手にしてもらえない。三十才で不安を持っていた。

 草下は中学3年生の時、両親を殺され、人生が一変した。中学を卒業後、住み込みで印刷会社で働き、定時制高校に行った。

 自宅近くで殺されている人を見付けた。彼は両親が殺される一週間前、自宅に来た。自分の大賞授賞式の日、パーティ会場にも来ていた。殺される二三日前に草下を訪ねてマンションに来ていたそうだ。

 殺された彼・井之内正孝を調べ始める。彼のアパートの部屋で警察が押収し残した物を見る。本があった。草下の本もあった。中学三年の時に使っていた筆箱があった。古い写真があった。三十年前の彼を調べ始めた。

 本籍地、熊本に行く。結婚しようとした人・アッコは無国籍だった。男の子が生まれた。半年後、彼は姿を消した。アッコを探す。二十年前、川崎にいた。川崎でやくざにこれ以上探すなと凄まれた。
 アッコを見付けた。家を買い、息子・みつると暮していた。アッコは病気、みつるは引き篭りだった。みつるはアッコの実子ではないという。

 井之内を殺した男が捕まった。川崎で凄まれたやくざだった。秋津は井之内と同級だった。中学生の時ある事件現場の近くで秋津を見た井之内は、警察に伝えた。秋津は事件とは関係がなかったが、就職がだめになりやくざな道に入ってしまった。井之内は秋津のために隠れ家を用意したり、詐欺事件を未然にしようとしたり秋津のために動く。

 草下の両親も秋津にころされていた。借金返済のため投資詐欺をし、井之内の告げ口で草下の両親が知ったため殺された。
 十五年会っていなかった知人に会い、彰が草下家の養子であることが分かる。井之内とアッコの子供だった。熊本で井之内が姿を消したあとアッコは母子草を持たせて我が子を教会の前に捨てた。子供が出来ず悩んでいた草下夫婦は熊本へ赴任中に子供を養子にし、東京へ帰ってきたということだった。
 アッコに会う。草下の母と作った母子草の押し花の栞を持って行き、アッコに見せる。
 秋津に面会できた。両親の殺人、井之内の殺人、秋津の実子の話。みつるは秋津の子供のようだ。
 アッコの家に行く。アッコは外へ出られるようになっていた。みのるも前に働いていたコンビニに勤めていた。戸籍の取得を役所に相談していた。母か父がいれば簡単だそうだというみのるに、秋津のことは言えなかった。

 十五年前の事件のことは書けない。無国籍の人たちの現実を目のあたりにして、苦しんでいる人たちを助けるような作品を書こうと思った。

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