2018年3月31日土曜日

額を紡ぐひと

額を紡ぐひと 谷瑞恵
 五年前、事故で恋人を亡くした奥野夏樹は、恋人・柴崎弘海の仕事・額装を勉強し、額縁作りの店を持った。弘海の遭った事故はバスが崖下に落ちる事故だった。死亡者は弘海だけ、一人早く崖を上がり食堂に着いていたにも関わらず連絡をしなかった人がいた。その人のことを知りたくて夏樹は池畠が開くカレー店の近くに店を出した。二人の店の近くに、表具と和額を専門に扱うくおん堂がある。次男の久遠純が夏樹にところによく来る。純は川で溺れている時、池畠に助けられた。二人溺れて自分だけが助かったことに蟠りがある。
 夏樹の所には変わった注文が来る。
 宿り木を額に入れる。父親との思い出、蟠り。会うこともなく骨だけ送られてきた父親。ネイルサロンを開くゆかりの店に優しい額縁に宿り木を入れた。
 妻が飼っていたインコの声を額縁に入れて欲しいと言う注文。妻が突然亡くなった。飼っていたインコが居なくなった。夏樹はインコを探し、声を聞く。インコは喋った。妻が一人でインコに話しかけ、夫が答えていた。妻の一人芝居だ。奥さんが亡くなっても今までここにいたような佇まい。夏樹はインコが飛び立った直ぐのような鳥のブランコを額縁に入れる。
 毛糸玉の中に算盤珠が入っている。居ない妹を作った昔の思い出。毛糸玉に入っている人形が妹。ネグレクトの親。八重原は額縁に入れないで毛糸玉で生まれてくる赤ちゃんに何かを作ることにした。
 純の部屋の壁に描いた川底の風景の額縁を作ることになった。純は難読症になっていた。溺れて亡くなった友達が難読症だった。
 池畠の思い出の銀色のカレーのソースポットの額縁を作る。中学生の時、池畠は母親と波止場から車で海に飛び込んでいた。純だけが車から出、泳いで助かりファミレスまで行きカレーを食べていた。弘海の最後に残したスケッチノートの最後から二枚目の絵はソースポット。最後のページの未完成の額縁の絵を参考に西洋と東洋の融合したドーム屋根の額縁を作った。
 純の壁の絵を額縁に入れた大作は児童専門の心療内科の待合室に飾ることになった。
 純は蒲田氏の所で額縁作りの勉強をすることにした。

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