2018年5月25日金曜日

紅雲町紅緋屋こよみ⑥

紅雲町紅緋屋こよみ⑥ 花ひいらぎの街角 吉永南央
 花野 杉浦草のもとに旧友・初之輔から「絵巻・香良須川〈上〉」が送られてくる。小説家志望の田中初之輔の短い小説「香良須川」に寄せられた若き絵描き数人による作品だった。初之輔は草が一時期連れ添った夫・村岡透善が中心になって計画していた高透芸術村、芸術家集団の一人だった。バクサンには下巻が送られていた。バクサンは運送屋・寺田の父親・草の珈琲の師匠・戦後小説家志望の芸術家集団の一人・レストラン「ポンヌフアン」のオーナーシェフ・寺田博三。
 草とバクサンは五十年振りにあう初之輔を招待し、初之輔が好きだと思っていた容子の墓参りに行く。容子は死んではいないことが判った。三人で高透芸術村の建設予定地だったところに行く。公園になっている。
 化粧品会社の営業の女性客の持っていた活版印刷の栞を見て、「香良須川」を印刷して本にすることを考える。地元大手のアルファ印刷工業に自費出版の相談に行き、個人情報?万単位、流出とかの話しを聞いてしまった。本は先代からつき合いがあった萬來印刷で、活版印刷で小林晴秋にしてもらう事にした。
 初之輔からの写真の礼の電話の後、初之輔の孫からの電話があった。米沢に嫁いだ人をご存知ですか。祖父が本当に好きな人には恋人がいて米沢に嫁がれてしまった・・・見合いで新しい出会いを見付けたぞ・・・と孫娘は言った。草はそんな人は知らないと答え、この電話のことは内緒にしようと言って電話を切った。米沢に嫁いだのは草だった。昔、容子に鈍いのねと言われた事があったのを思い出した。
 インクのにおい 萬來印刷の社長・萬田豪がゲラ刷りを届けてくれる。アルファー印刷の個人情報流出を下請けの萬來印刷の責任にされている。草の証言で、晴秋の社長、御社内で調査された方がと言う言葉で萬來印刷は助かったようだ。
 小蔵屋の従業員・森野久美が萬田豪に映画に誘われた。久美は萬田に断れなかった。どう断っていいのか考えている。
 お客さんに言われる。昨日の彼女、草さんのことを「案外鈍いのね」と言って笑ったのよ。容子さんだと草は思った。
 染まった指先 草は久美の代わりに映画に行く、晴秋さんはササワキが個人情報を売買して流出させたことを知っていたが言わなかった。何故と切りだした。反応を見て萬田もしっていたこに気付く。何故。アルファ印刷の社長の姉が晴秋の妻だった。反対されて結婚し、三年前に自殺した。おまえが殺したとなじられた。何を言っても拗れるばかりだと思ったのだった。
 草とバクサンは印刷を見に行く。萬田が風邪を引き晴秋の家で寝ていることを知り、食事を作りに行く。家はニューヨークの感じだった。晴秋の妻の趣味だと聞き、萬田の思い出話を聞く。聞けば聞くほど自殺が不思議で、草は自殺現場に行く。
 青い真珠 金婚式の引き出物を買った客のカードにメッセージを印刷した。美濃手漉き和紙に窪みを付けた活版印刷だった。化粧品会社の女性は晴秋の娘・咲紀子だった。咲紀子は死ぬ少し前に母が青い真珠を見付けたと言った。青い真珠は高いのだろうかと。見付けたら売って新しい仕事の資金にしようかな。
 本の見本が届けられる。
 久美は草の友達・由紀乃の紹介で平塚と見合いをする。話しが合い、とんとん拍子で話が進むが、久美は評価される点が自分から失われたらどうなるのかと考える。萬田の楽で、日向ぼっこしているような感じと思い始めたころ、咲紀子が萬田に結婚しようよ。と言うのを聞く。でも、久美は平塚に断りを入れる。
 草は晴秋の妻の最後に歩いた道を辿る。花屋に話しかける。事故だったと言う。カードを貰う。
 花ひいらぎの街角 ウエストパークマンションの非常階段の手すりを掴みゆっくり上がる。五階まで上がる。丘陵の上流から下流まで一望できる。彼女はここに来る理由があった。非常階段が見える所の家の人に話しかける。小蔵屋に来て話す。事故は見ていないが、大きなつばの帽子を被り、踵の高いサンダルだった。一声かけていたらという悔恨が伺える。警察に何も聞かれなかったと言う。草は判った。彼女が五階に上がった理由、自殺ではなく事故だったことが、でも家族には言えなかった。
 草は活版印刷の広告のようなメッセージを書いたリクエストをラジオに送る。
 十一月の末日、晴秋が出来上がった本を持ってきた。そして花屋が妻が変わった球根を買ったこと、花屋があそかからだと見えると教えた事を誤りに来たと言った。ラジオを聞いたから話すつもりになった。家族は自殺で折り合いをつけていた。草が動いたために事故だったことが判った。変わった球根はブルーパールだった。アルファ印刷の社長・晴秋の妻の弟が来た。晴秋をなじった事を反省した。家の中、生活を知らない事も反省。咲紀子は私と父を捨てて行っちゃてを訂正した。あの人は生きるつもりだった。彼女が見ようとしたのは高透芸術村の建設予定地後の公園・花野だった。公園のボランティアをするつもりだった。
 初之輔に本を送る。戸惑いと、喜びと親しみが混じった電話があった。孫娘がサインをねだったらしい。二週間後、三人で会った。年の瀬に初之輔から、数人の手を経て村岡透善から草に宛てた古い手紙の束が届いた。私家版の「香良須川」が初之輔から昔の仲間に送られその人から広がって呼び寄せたものだった。
 
いつも短く書きたいと思うが長くなってしまう。

 

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