2019年2月23日土曜日

刃鉄の人③ あらくれ

刃鉄の人③ あらくれ 辻堂魁
 刀鍛冶・一戸前国包の鍛冶場に芝神明で興行している役者・巨漢の熊太夫が国包の銘の小さ刀を持って訪ねてくる。小さ刀と同じ設えの大刀を創ることとこの刀を買った者を教えて欲しいという注文だった。国包は武蔵国包と銘を彫り、国包と入れたことは無かった。
 刀商・備後屋で訪ねる。二十五年前、師匠の数打物と一緒に売り払う中の国包の稽古刀を、備前屋が出来栄えの良さに無銘は惜しいと思い国包と銘を入れ売っていた。二十五年前は十六才だった小寺基之が買ったものだった。派手な設えは小寺の希望だった。今は書院番頭家禄四千三百石の旗本だった。小さ刀はあらくれだった頃懇ろになった桜大夫が、身重になったにも関わらず別れなければならないため渡したものだった。大刀は拵えを替え今も小寺が挿していた。十年前、桜太夫の最期の時、熊太夫に熊太夫の父の形見と告げたのだった。
 熊大夫は小寺に会いに行く。熊太夫一座の小屋で対面し、小寺は二人の出会いを、熊太夫は来し方を話す。基之は父であることをほとんど認めるが、用人・橋川周右衛門は基之が認める事を許さない。たぶらかした。の一言で暴れ出した熊大夫を止められない。国包は熊大夫を斬りたくはないが止める事は出来ない。最後には基之の袈裟懸と国包の突きで熊大夫は動けなくなった。父に会いたかっただけなのにと言い残して死ぬ。
 小寺の計らいで熊太夫の骨は俗名・小寺熊大夫と名乗り歌舞伎役者市川団十郎と同じ寺に葬られた。国包の小さ刀と武蔵国包の大刀は小寺家に献上された。
 熊大夫一座の者は江戸を離れた。

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