関越えの夜 東海道浮世がたり 澤田瞳子
忠助の銭 呉服屋・糺屋の手代忠助は駿河・蒲原宿で四十両を受け取り江戸に帰る途中でお金を無くす。どうしようと迷いながらの道中、川崎手前の茶屋で暴れ馬から老夫婦と旅をする太一という男の子を助けた。忠助がぼんやりしているので医者を呼びに行く。首を括ろうと決心した忠助の前に巾着を置き、死に場所を求めて行く振り袖の娘と男に目を留めた。死に行く娘が生きよと告げていると思った。小さくなる影に手を合わせる。
通夜の支度 益子屋の末娘・駒と手代・佐七の亡骸が保土ケ谷宿の外れの寺の軒下で見付かった。駒は備州鴇緒藩領主・月岡安芸守の側女奉公が決まっていた。駒付きの女中・栄は佐七と相思相愛だった。可愛そうな駒のために佐七は死出の旅の供をすると書き残した。栄は佐七さんは心底忠義者だったと思う。
やらずの雪 小田原・香林寺の末寺・高栄寺。住持と尊聖は一月前から本寺へ出かけている。良尊という小坊主がいたが今は神奈川の浄滝寺に預けられている。私・慶尊一人しかいない。尊聖は小田原藩御納戸役、道場の師範代を務める武士だった。三年前仏門に入った。
尊聖の妻・ふみが寺にやってきた。尊聖はふみと弟・友太夫の不義を知り、弟に嫁げの言葉を残し、出家した。友太夫とふみは妻帯したが周りの視線は冷たかった。友太夫はとうとう口汚く罵る来島孫兵衛を討ち、出奔した。小野田家は断絶、屋敷も返した。来島家は主税が仇討の旅に出た。ふみは恨みを言いにきた。友太夫の子どもを産んだ。その子どもがあなたを討つでしょうと。良尊はふみを殺した。尊聖は香林寺に逼塞している。
関越えの夜 両親と兄弟を流行り病で亡くしたさきが、一膳飯屋を営む叔母・千に引き取られ二年になる。箱根越えの途中に位置する宿場・畑宿である。今十才、ここから飛び出すことができる年になるまで辛くとも我慢する。自分に言い聞かせている。さきは箱根山を越える旅人の荷物持に行く。毎日笈ノ平の茶屋で見る若侍がいる。関所を超えず人捜しをしていると言う。来島主税だった。箱根界隈を案内して小遣いを貰う。二人は関所破りを見付けた。さきが関所に走り、主税は二人を追う。一人・紋を捕まえた。主税は敵討ちの話をし役人に関所越えを促されさきにさらばじゃと言って去った。さきは主税がいつか戻ってくると信じたかった。
死神の松 与五郎は相手の涙をみると相手が死んでしまうほど痛めつけてしまう。気が付けば死んでいた。紋の相手の大工を殺し、紋と大工の関係が人に知られているため江戸を出た。関所破りで紋が捕まり、与五郎は紋を置き去りにして逃げた。松原まで来ると松の木に紋が大工が今まで殺した人々がぶら下がっている。自分の旅の目的は松の木だったんだと思った。
恵比寿のくれた嫁御寮 一本松で人相書きが廻っている関所破りのお尋ね者が首を吊っていた。不浄があれば漁が休みになる。網元の茂八は誰もいない浜辺で吉原の紙屋鳴子屋で奉公している連に出会う。病気がちの父親の面倒をみながら奉公していた。姉が沼津に奉公にでている。茂八が息子・幸吉の嫁にいいと思う。幸吉は悪名高い山猫女郎・小菊と一緒になると言っていた。小菊にはやくざ者が紐としてぶら下がっていた。幸吉が二人で誰にも口出しされない所で暮らそうといい、小菊が、網元でない幸吉など何の値打ちもないと言ったことでやっと手が切れていた。茂八が気にいった連に五十両の支度金を出し親も一緒に嫁を迎えた花嫁の姉は小菊だった。借金を払い妹に付いてきた。
なるみ屋の客 府中の路地奥のなるみ屋という居酒屋に浪人夫婦がいた。店に父親を迎えに奈津が来る。父親は眠ってしまった奈津を負ぶって帰って行く。主人は勘定を受け取らない。昔世話になった奈良屋さんだからという。奈良屋は捨て子の奈津を我が子として育てた。姉のとせは気に入らなかった。みんなが寺へ出かける日、とせは奈津をいじめたため留守番に残された。彼女の部屋の行灯が倒れ火事になったと話した。浪人夫婦は奈津の親か?
池田村川留噺 十日も川留中、みんな気心が知れる。鍛冶師の留太は上流を泳いで行くという。みんなで川端に送って出ている時、忘れ物をしたと宿に帰る。坂田九郎太夫という浪人が護摩の灰ではないかと言う。慌てて帰り留太を殴った懐はかすめ取った品物で膨れ上がっていた。
痛むか与茂吉 海産物問屋・舛屋のおかみ・浜と女中・たきと手代・与茂吉。江戸から大坂までに行く間に与茂吉は浜に不義を仕掛けるようにと主人・喜兵衛に命じられた。やっと夜中に浜の部屋に忍んでいく。浜は喜兵衛の企みに気付いていた。夫婦に子がないため、喜兵衛は妾の連れ子を跡継ぎにしようとしていた。与茂吉は浜に舛屋のための忠義が喜兵衛のための忠義かと言われる。三人は江戸へ帰る。
竹柱の先 芦尾彦四郎と目の不自由な父・泰蔵は、江戸の屋敷奉公に行き連絡が途絶えた母親・松乃を探しに江戸へ行く途中、武家の娘・蕗緒と老爺を助ける。蕗緒の主は御台所の代理で京に行く大奥御中臈だった。蕗緒は途中で体調を崩し追いかけていた。老爺が足をねん挫したことで彦四郎が負ぶって蕗緒を送っていく。蕗緒が旦那様の話をする。浪人の妻、年は四十、松乃とかもしれない。六年前から連絡が途絶えた。六年前に大奥へ。夫と息子は死んだことになっていた。ために蕗緒の祖父の養女になって大奥に入った。本陣に名前が挙がっている。名前を読めと言う父に彦四郎は本陣の隣の酒屋の名を告げた。
二寸の傷 十六だ出家した桐妙。元の名は妙。妙は下駄の歯を折り出会った信二郎を好きになった。姉が信二郎の家・外村家に嫁すことになった。長男・右京との婚儀の最中、襲ってきた長尾頼母の刀が蹴り飛ばされ頼母は取り押さえられた。妙は飛んできた刀によって頬に二寸の傷を負った。三ヶ月後、出家し、草津宿から一里離れた目川村で丸八年庵暮らしをしている。以来血縁とは音信不通。突然姉が訪ねてきた。京にいる右京の所に行くと言い、外村家の信二郎に渡して欲しいと手紙を託す。右京は不行跡のため半月前に信二郎が相続していた。姉は浪人になる右京の所に行った。妙に戻り信二郎と共に生きることになったと年若い次の観音堂の庵主に話した。
右京の江戸での風聞、下屋敷の腰元と不埒な関係になり子を孕ませていた。腰元は近江に夫と息子を残していた人妻だった。後日夫より安否を問う書状が届いた。(彦四郎の母親か?)京都での不行跡、出入の炭屋の人足を滅多打ちにし、半死半生の大怪我を負わせた。
床の椿 炭屋安芸屋の女主・初。初は二十一才。実父・清兵衛が亡くなり店を継いで二年。
父親の死後、女中だった美濃のところに清兵衛の子ども・太吉3才がいると分かった。親戚は父母を亡くした太吉を養子にと言う。初は裏切られた思いだった。初は店を継ぎ、三十両と住んでいる家を渡した。太吉の祖父母は先行きが心配なので、江戸にいる息子夫婦を頼って江戸へ行った。
二年経ち太吉のことで迷いが出た。仕事に打ち込む。京藩邸人足がいわれなく打擲され、留守居に談判した。新に人足を入れる際には自ら口入れ屋に行った。入った忠助は生真面目な働き者だった。忠助は初に忠告する。余所目や噂を気にせず良いと思う方を選べ。正しい道ほど選びにくく、誤った道ほど行きやすいもののようだと言う。初は江戸の知り合いに飛脚を出し、太吉を探し、呼び戻すことにする。
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