2018年2月5日月曜日

鬼役〈二十三〉 寵臣

鬼役〈二十三〉 寵臣 坂岡真
 切り札 川越藩は家斉の実子を養子にし、水野忠邦の力も借りて荘内への領地替えが決まった。川越藩が荘内へ移りたいがために武蔵川越藩十五万石を出羽荘内藩十四万石へ、庄内藩を越後長岡藩七万四千石への三方領地替え、水野忠邦の無理押しだった。家斉が亡くなり、養子に入った子も亡くなり、庄内藩の百姓の大反対もあり三方領地替えは無くなった。
 矢背蔵人介も証言者を護り、庄内藩の百姓の血判状運びに手を貸す。
 無念流水返し 次々に八か所会に属する小役人が殺されていく。三年前に勘定方組頭・湯原誠四郎が不正を見付け、勘定吟味役に上申書を出し殺されたことを知った兄・香月左太夫が殺しに関わった者に復讐していた。逆縁の仇討は許されず闇討ちしていたのだった。
 蔵人介は、香月左太夫の奸臣の始末を見届け、大願成就のあと武士として己のやったことへの報いを受けさせるよう密命を受けた。香月左太夫に手を貸し、左太夫に武士を捨てることを奨める。
 花一輪 重陽の節句、御小姓頭取・森園が乱心し白刃を振り回した。蔵人介が刀を抜かず取り押さえようとした時、御刀番・長谷川桂馬が白刃を抜いて森園を成敗した。桂馬は切腹した。小姓を束ねる橘右近は長谷川家の存続を家慶に直訴した。橘は無理筋な訴えをしたと、逼塞三十日の沙汰を受けた。蔵人介は森園の乱心は曼荼羅華によるものと判断した。橘を陥れるために仕組まれたものだった。
 橘は忠邦に疎んじられるようになっていた。橘に何かを訴えようとしていた勘定吟味役が殺された。森園に薬を渡した医者が殺された。橘も命を狙われる。
 勘定奉行・久留島主馬が忠邦んい気に入られたいがため、陰謀を巡らせていた。忠邦は橘の持っているお墨付きを奪いたがった。橘がお墨付きを持っているため誰も手が出せなかった。
 橘はお墨付きをもって内桜田御門前で水野忠邦に訴えた。家慶の耳に入るように。久留島の不正、天保小判鋳造の停止、橘の失脚に利用された長谷川家の安堵を訴える。橘は切腹した。蔵人介は介錯した。忠邦は橘のお墨付きを贋物と破り捨てた。
 長谷川家は安堵された。小判の鋳造は停止されず、久留島は五千石を加増された。
 蔵人介は橘の最後の密命・久留島を暗殺した。
 蔵人介は橘亡き後密命を下す者がないはずなのに、御用之間に呼び出される。死を覚悟し行く。壁がひっくり返った部屋に花入れに橘一輪、家慶の筆跡で「季節外れの橘一輪、千紫万紅を償いて余れり」と書かれた色紙があった。隣の楓之間にも人の気配はない。
 橘のお墨付き 家康の「何人もかの家を侵すべからず」他家と結ばず、嫁取りをせず、市井から養子を探せ。橘家は策を持って仕えよ。剣を持って仕える家と、間を持って仕える家を配下に置け。間を持って仕えたのは公人朝夕人・土田家。剣で仕えたのは吉良家だった。秋元但馬守喬知の推挙で矢背家になった。八瀬衆と延暦寺の土地争いに決着を付けた秋元は八瀬の長老と取引し、矢背家の者を江戸に入れ将軍家毒味役に就いた。
 暗殺時に出くわす、怪しげな寿詞を謡う痩せ男も矢背家と関わりがあるようだ。
 

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