鎌倉香房メモリーズ(5) 完 阿部暁子
学年末テストが終わった。三月から岸田雪弥が花月香房のアルバイトに来るようになった。香乃はまだ、居なくなってしまうかもしれないという恐れを抱いている。付き合ってるの?香乃は判らない。
花守の送り歌 祖母を訪ねて久住桜子が来る。二十年振だと言う。二人は憎まれ口の挨拶を交わす。桜子は茶事に使う練り香を買い、「花守」という香木を出し、聞かせて欲しいと頼む。雪弥と香乃も聞く。ガンで入院するので茶事に来てと誘う。三春は桜子の祖母に茶道を習っていたが、息子の嫁の連れ子の桜子に嫌味をいう先生に「茶人としての先生は尊敬するが孫に心無い言葉をかける先生は尊敬できない。本日限りでお暇します」と止めてしまったのだった。茶事の間二人はやっと仲直りした女学生のようだった。
姪の花野さんはインテリアデザイナーだが、休職している。次の日、伯母がいなくなったと花野が来る。桜子の茶室に行くと、今までの花野の絵やイラストが並んでいた。花守の香木を花野へ和歌と共に送られていた。桜子から花野への癒しと励ましのメッセージだった。
蓮のつぼみが開く時 アフロのチヨちゃんの兄・松木理久が香房に来た。チヨちゃんは飛んできた。香乃はチヨちゃんの家にお泊まりに行く。チヨは仏像を彫るのが趣味だが、手ほどきしてくれたのは祖祖父・伊助だった。廊下に伊助が彫った観音様が並べられていた。白檀の観音様があった。祖父が気にしている亡くなった戦友の遺族を探して仏像を送ろうとチヨは思いついた。次の朝、仏像が無くなっていた。理久が売ったという。チヨは部屋に閉じこもる。香乃は帰ってくるが、理久の押し入れから白檀の香りがしていた。売っていないことは分かった。雪弥に相談する。香乃と雪弥と理久と三人で話す筈だったがチヨも来た。伊助はシベリヤ抑留時に自分を庇ってくれた戦友を庇うことが出来なくて亡くなっていた。自分の弱さをチヨに知られたくなかったのだった。戦友の遺族を探し、シベリア抑留給付金と仏像を持って行った。遺族は仏像だけ受け取った。
小さなあなたに祝福を 雪弥の伯父・岸田和馬が現れ、またまた香乃は連れ出される。雪弥を呼んでも来ないから、香乃を使って呼び出す。必ず雪弥はやって来る。早く法学部に移れと言う話だった。各務雪彦が、雪弥の行っている大学の客員教授出あることを和馬は知ったようだ。雪弥は僕の進路に口を出さないで、干渉しないで下さいという。
雪弥と香乃は蔵並響己さんの腰越の洋食店に行く。生まれた娘・光莉と名付けられ四ヶ月になっていた。相談は立派な桐箱入りのお雛さまと「訶梨勒」の香袋が玄関に置かれていたが、送り主が分からないということだった。送り主は次男の正喜だった。正喜は響己を嫌い、弟と思わないような態度だったので響己はあり得ないと思っていた。響己の妻・ナナは知っていた。正喜はずっと冷たくした、今更面と向かっておめでとうと言っても響己が嫌な思いをするだけだろうと考え、名前を伏せて、響己が受け取るようにして欲しいとナナは頼まれたのだった。正喜にお礼の電話を掛ける。長い電話の後三兄弟で飲むことになったと報告する。
二人手をつないで 日曜日、雪弥は学習センターの各務雪彦の講演会を聞きに行った。和馬は雪弥を追いかけ回している。和馬は雪弥が傷つくようなことが起こることを恐れていルのだと思った。
シノヤが貰った暗号の手紙文を読む手伝いを雪弥にお願いに来たのだが、雪弥ではなく各務に声を掛けた。香乃は電話をスピーカー通話にして雪弥に聞かせていた。全部を読終わり今日、来迎寺で待っている。ということだと分かった。雪弥は思わず来迎寺は二ヶ所あると叫ぶ。一ヶ所を導きシノヤは走る。香乃と各務の二人だけで話している時、香乃は雪弥に聞かせたかったと思う。高橋が雪弥を紹介しようとした時、雪弥は自分の名前を言われるのを拒否し、ユッキーと紹介された。各務は雪弥が講義を聞いていることを知っていた。写真のようにいろいろ覚えているようだ。初めて近くで顔を見た、口をきいたのも始めてだった。香水は母親と同じものだった。香乃は各務が知人が贈ってくれたものだと言っていたことを思い出す。香乃は雪弥にお父さんを好きになっても良いのだと言う。
雪弥が母親と電話で話していた。生まれてきて良かった。産んでくれてありがとう。しあわせになって下さい。生まれたら教えて下さい。と
香乃は私と雪弥さんはお付き合いしているのでしょうか?と尋ねる。二月にそうして欲しいと言ったつもりです。今後、十年ほどかけて検討いただければと思います。と答える。
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