明治あやかし新聞 怠惰な記者の裏家業 さとみ桜
明治九年 春
女の掛け軸の怪 井上香澄16才は、幼馴染みの桜野が呉服屋浅田屋を辞めさせられたことを知った。父と兄を戊辰戦争で亡くし、叔父の紹介でやっと務めた浅田屋だった。小新聞・日陽新聞の「呉服屋浅田屋は桜を植え替えねば店が潰れると妖怪に言われた」という記事のために桜の木がない浅田屋は桜野を辞めさせた。香澄は新聞社に文句を言いに行くが、この記事は桜野を助けるために書かれた物だと言うことが判った。浅田屋の主に言い寄られた桜野を上手く辞めさせられるように仕向けたのだった。
浅田屋に見返り美人の掛け軸を持ち込んだ。日に日に絵が変わり、幽霊の絵になった。修験者は、奉公先の主人に暴行を受け恨みを持った娘のため、男だけに祟る。手放せば不幸に見舞われるが、女性の恨みをかうようなことが無ければ掛け軸を大切にすれば良いだけのことです、と言う。毎日掛け軸を掛け替えたのは、浅田屋の内儀だった。謂れある掛け軸が浅田屋にあることが新聞記事になり、主は女中に手をださなくなった。
新聞記事を書いたのは記者の内藤久馬。仲間に役者の芝浦艶煙がいる。艶煙に誘われ香澄も三ヶ月の期限つきで仲間に入る。
髪鬼の怪 香澄の父は元奥右筆、今は内務省勤務、兄は25才文部省勤務。久馬の父親は北町の与力、戊申の頃に亡くなった。艶煙は怪異譚を好んで演じる縁魔座の人気役者だった。
香澄と久馬は娘から珊瑚の簪を取っている五人の若者から娘を救った。かんざしは持って行かれた。彼らは華族の子息・高梨実篤と取り巻きだった。
五夜連続で実篤の部屋に髪の束が置いてあった。占術師に髪の毛が付いていることおなごの恨みをかって死相が出ていることを言われる。久馬と香澄に会った実篤は喧嘩を売る。香澄はぶつかられた拍子に菓子箱を落とす。菓子箱から現れたのは髪の毛だった。香澄は驚いて声を上げた。数日後、華族の子息の前で菓子折りの中身が女の髪に変化したこと、子息が慌てて立ち去ったことが新聞記事になった。実篤はかんざしを寺に納め供養した。久馬はかんざしを回収して娘に返した。母親の形見だった。
実篤は父親の勧めでイギリスに留学した。今回のお手伝いは父親だった。
さまよう死体の怪 亡くなった16才の娘の死体が夜な夜な歩き回るという噂をきいて府中に行く。岩井村の大地主の跡取り・娘・八重が亡くなった。半年経った遺体がきれいな侭なのを見た、養女に出された双子の妹・小夜は砒素を飲まされ殺されたことを知った。殺した犯人を特定したくて幽霊の真似をしていたが、八重を好きだった人達が、八重が義理の母親を取り殺したと語り継がれることを嫌がっていることを知った。
久馬は八重の腹違いの弟に頼まれ、一芝居打つ。小夜が化けている八重の幽霊に、妹の小夜が亡くなったが誰も弔いを出す人がいないので自分と一緒に弔って欲しいと言わす。
新聞記事は、「死体が歩き回ると噂された幽霊は妹の供養を頼みに現れたのだった。弟に供養され、さまよい歩く姿は見られなくなった。」と書かれた。
神隠しの怪 久馬の様子が心配になった香澄は、七年前、久馬の妹のように思っていた従姉妹・千世が神隠しにあっていることを知った。親に結婚を反対された千世から相談された久馬が、まず千世を京都に行かせ、後に相手を九州に行かせるように計らっていた。
親に女郎に売られるのが嫌で家出したと噂された。後に許嫁の久馬が嫌で家出したと噂された。艶煙が神隠しにあったという瓦版を出していた。千世は元気だ。子どもも二人いて幸せだということを久馬だけがしっている、ということが判った。
香澄は百物語の会を開き、みんなに話させる。香澄は九州から千世を呼び、隣の部屋ですべての話しを聞いて会いたくなければ座を外すということになっていた。千世はみんなに会い、久馬に辛い思いをさせていたことを謝った。
三ヶ月がもうすぐだ。彼らの仲間になる前に久馬は香澄の父親に全てを話していた。娘さんに関わらせたくないならば、止めて欲しいと言っていた。何もかも父親に許可を得ていた三ヶ月だったようだ。父親から聞く。香澄はこのまま続けることになった。
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