2017年11月14日火曜日

着物始末暦〈七〉 なでしこ日和

着物始末暦〈七〉 なでしこ日和 中島要
 男花 呉服太物問屋大隅屋の綾太郎に玉との離婚を強要する井筒屋の愁介は後藤屋の後ろ盾が欲しいのだろうと考えた綾太郎は、後藤屋は身内の情に流されない、商人として認められないと駄目なんだと言って愁介を後藤屋の隠居に会わせることにした。玉を諦めるという条件で。どんな格好で月見に来るか楽しみだと言う後藤屋。愁介は着物の裾に蝙蝠の刺繍を入れていた。裏が雑なのを見て半端な工夫ならしない方がいい、良い生地が刺繍のせいで台無しだと批評する。綾太郎は余一が始末した黒羽織にすすきの刺繍だった。裏表のない男が好かれると言った余一は表も裏も変わらない刺繍をしていた。愁介はもっと人の気持ちを考えろと言われた。娘の嫁ぎ先の素性も知らんくせにという愁介の言葉を若造が知ってることをこの年寄が知らないとでも。という言葉で遮った。愁介は帰った。後藤屋の隠居は淡路堂の話をしながら、道を選ぶ時は険しい道を選ぶべきだ。後藤屋はそういう商いをする人の後見をすると言う。輝のことは桐屋の光之助が、おまえさんは玉のことを頼む。守ってやってくれと言われる。
 二つの藍 余一は始末したしごきを六助に店に持ってきた。糸が貰った井筒屋が配った美人の証しのしごきを二つに切り一枚は韓紅に水浅葱、もう一枚は韓紅に二藍を真ん中で縫い合わせたしごきだった。六助は何度も店に足を運ぶ今は落ちぶれて苦労している娘に安く売ってしまう。娘に売ったしごきを持って井筒屋の愁介がしごきを作った人を探しにくる。六助は親方が余一を井筒屋に近づけるなと言った言葉を思い出す。愁介は余一に井筒屋の仕事をして欲しいというが、余一は古着が好きだから新品には興味がないと追い返す。六助は今のは腹違いの弟だ。おまえは天涯孤独ではないと心で思う。
 なでしこ日和 余一との結婚を反対している糸の父親に会いにいくことを許された。父親は「一緒になる気はない」と言った余一を許せない。九月一日に祝言を挙げることになった。母親の形見のなでしこの着物に余一が始末した黒繻子に糸巻きの刺繍の帯を締めることになった。
 三つの宝珠 余一は発破をかけてくれたみつに余一が始末した小ぶりの風呂敷を渡した。三つの宝珠を刺繍された風呂敷だった。

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