麹町常楽庵月並の記2 縁は異なもの 松井今朝子
小田切と庵主は幼馴染みだった。年頃のころ久しぶりに会って、小生意気になった志乃に縁組みを申し入れるつもりだった。小田切がぐずぐずしているうちに建部伊織に先を越された。西の丸御書院番三番組の同僚だった。伊織と友達になって志乃の顔を見に行った。お腹が膨らみはじめていた。小田切が苛めにあった。一年、堪忍に堪忍で乗り切った。玩具に飽きたように伊織が標的になった。興津勘解由が悪だった。小田切の時よりも酷い仕打ちだった。年の暮れ狩り場で鞍ごと落馬し、川の流れに落ち、ずぶ濡れで何里もの道を歩き帰り着いて高熱を出し亡くなった。二才の子供も亡くなった。全てを打ち明けた。もっと早く教えて欲しかったと言われた。離縁になり大奥じへ上がった。合わせる顔がない。
宝の持ち腐れ 吉野屋十右衛門は行成の書軸を庵主に持っていて欲しくて、信濃屋に打った書軸を預かり、箱のなかに火箸を入れて返した。明けた信濃屋は五十両の物が無くなったと大騒ぎになった。信濃屋の娘・くみは庵主に失せ物探しを頼む。兄が疑われている。信濃屋と仁八郎は庵主に呼ばれ行ってみると箱に行成の書軸が入っていた。仁八郎は話を聞くが、教えて貰えず怒って帰った。吉野屋が置いて行った行成の書軸を信濃屋の箱に入れただけだった。
心の仇 柏屋伊三郎が命を狙われているようだ。言いに来る。あくる日、伊三郎は首つり状態で見付かる。自殺だったが、殺されたように細工するように言って亡くなった。番頭が養子に入る物と思われて居たところに先代の内儀の親戚筋から養子に入った伊三郎は馴染めなかった。先代の内儀がなくなり疎外感が強まった。自殺を見付けた里から付いてきた手代・駒臓が踏み台を片づけていた。仁八郎は自殺とし、駒臓のことに触れなかった。
塗り替えた器 若い女を突き飛ばし、髪を切る事件が多発した。分六は自称経師職の富蔵が犯人だと追っていた。仁八郎はきしが言っていた、日野屋のつね16才を付け回している男を追っていた。捕まえた彦次郎は人形師だった。つねの母親が若い時に関係を持ち出来たのがつねだった。彦次郎は子供がいることは知らなかった。祝言を挙げることが決まって教えてもらい人形の顔を娘の顔に似せようと見ていた。母親は自分の二の舞えにならないよう早く結婚させることを考えていた。嫁入り支度をする段になり母子が打ち解けたようだ。きしとつねは彦次郎のことを、雛人形を頼んだ人形師だと話した。
縁は異なもの 仁八郎は妻もいないし定まった相手もいないと小田切に話した。家に妻子が居れば、男は嫌の役目も我慢できる、と言う。
年明け、きし20才の幼馴染みとの縁談が整った。嫁にするならきしをと待ってくれた人だった。が、但馬屋久五郎が死んだ。仁八郎に久五郎がどんな目に遭わされたか詳しく知りたいと聞く。同僚の筧兵十郎に聞く。惨殺され運ばれて川に遺棄されていた。息のあるうちに試し斬りをされていた。
女郎が突然乱心して相手を殺す事件が起こった。死んだのは始めての客・上総屋喜右衛門だった。連れてきたのは若様と呼ばれる、菅沼某だった。上総屋は小普請奉行に言われ不正を働いていた。辞めると言い行きこのようなことになった。小普請奉行は興津勘解由だった。菅沼某は七百石の旗本本丸御書院番御番組・菅沼源之丞と判明。
きしは久五郎のことを調べた。侍に阿芙蓉を渡され、薬を作っていた。
仁八郎は常楽庵で淺右衛門の話を聞く。生ある者の試し斬り、生きながら胴を真一文字に裂かれた男が断腸の苦しみでのたうち回る。見るに見かねて脇差しで留めを刺し瞼をふさいだ。自責の念で胸にのしかかる、という。久五郎殺しだった。菅沼源之丞。興津勘解由の次男が菅沼家に養子に入っていた。
全てを聞いた庵主・志乃は正三郎様参る 志乃よりの手紙を仁八郎に託す。小田切は手紙を読んで常楽庵へ行く。きしも呼ばれた。
梅雨明け間近、興津勘解由は小普請奉行を罷免、閉門、永蟄居。菅沼源之丞は切腹。
小田切は仁八郎に、我慢出来ぬか、困ったのう、早く妻女を迎えるがよい、という。
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