2024年10月6日日曜日

風の市兵衛 弐  うつ蝉 

風の市兵衛 弐  うつ蝉 辻堂魁

 三月、唐木市兵衛が、川越藩から助け江戸に連れてきた娘・村山早菜が、三千石の旗本・岩倉家に輿入れした。岩倉家は小姓番頭であり、嫡子高和も中奥番衆に就いていた。
 岩倉家には大枚の借財があり、高和にも、いろんな噂があった。高和には元町芸者の側女がい、四才になる息子が存在する。金貸し七右衛門に遊興費を借り賭場通いをしている。七右衛門は三日んいあけず屋敷に出入りしていた。
 婚礼から半月経ち早菜は、岩倉家のことを知った。高和は早菜の住む離れに来たことがない。早菜の後ろ立て・両替商の近江屋の財力を充てにした婚礼だったと思った早菜は、付き女中の静と岩倉家を出て近江屋に戻った。
 
 北町同心・渋井は、大阪堂島の米仲買商の泰三郎が殺された事件を調べていた。七左衛門に会いに行くと言って出たことで七左衛門に訪ねるが、人違いだったと言われた。

 四月、市兵衛は元村山家家人・富山小左衛門と七左衛門と高和のことを調べていることが気に入らない七左衛門と岩倉家用人・鎌谷は、二人を殺害しようとする。別々に呼び出された二人は、岩倉家の別邸に連れて行かれ、富山は殺される。高和、鎌谷、七左衛門、助っ人二人がいた。
 高和と鎌谷、七左衛門は逃げた。
 七左衛門は二十年前の大阪時代の七左衛門を知っている泰三郎の甥が江戸に来た事で七左衛門の昔が知れ渋井に捕まった。
 秋、打ち首になった。
 鎌谷は当主の命で、切腹したことにされ殺された。鎌谷がかってにしたこととされた。調べは打ち切られた。
 
 五月、借財が嵩んだ岩倉家は、台所預りとなった。直後、則常は小姓組番頭を解かれた。高和も出仕に及ばずとなった。
 六月、家禄千五百石となり、亀戸へ屋敷替えとなり、無役の小普請になった。つたの息子は高和の子ではなく、七左衛門の息子と判明した。つたは女中となり子供も一緒に長屋に住んだ。
 早菜は、富山の遺骨を郷里・武州松山に納めに行った。市兵衛は見送りに行く。

 

2024年10月4日金曜日

貸し物屋お庸謎解き帖⑤ 夏至の日の客

貸し物屋お庸謎解き帖⑤ 夏至の日の客 平谷美樹 
 貸し物屋湊屋両国出店の主は庸。松之助は湊屋本店から手伝いに来ている手代。綾太郎たち陰間を生業にしている仲間が、両国出店の追いかけ屋として交代で手伝う。

 花の宴 大工の頭領の修業中の庸の弟・幸太郎が、師匠が元気がないと言ってきた。七十七才、矍鑠としていた仁座右衛門だった。庸は走入廻り、仁座右衛門の庭に桜を植え、舞台を拵え、芸者を呼びんだ。仁座右衛門の名を出すとみんなが集まった。仁座右衛門は、綾太郎が気に入り一晩過ごすと元気を取り戻した。

 炬燵の中 按摩の宗沢が、炬燵を返す時期だが、猫が住着きもう少し貸して欲しいと言ってきた。何か変だと思った庸は宗沢宅へ行く。宗沢が猫と言ったのは生首だった。東方寺の瑞雲にお払いを頼む。宗沢が二か月前、小塚原を通ったことを知った庸は、八丁堀の同心・熊野にお仕置きになった者を聞く。鬼火の駒八がいた。瑞雲に話し調伏を頼む。鬼火の駒八は首を晒されている時、宗沢が通った。宗沢が足を洗い元気にしていることに良かったと思って付いて来てしまった。その後をたくさんの亡霊が付いてきてしまったのだった。宗沢は、足を洗うことを認めてくれてありがとうございましたという。駒八は成仏した。元、盗賊一味だったとしゃべった宗沢は、自首すると言ったが、同心・熊野は、奉行が、ずっと前に足を洗っているからいいと言われたと言い、いろんなことが耳に入ったら教えろ、いろんなことを頼むかもしれないと言った。

 夏至の日の客 柴田洪順・学者見習が、一年前の夏至の日、ギヤマンの杯を借りに来た。何に使うかとかいろいろ聞いた庸に、もう良いと言ってでて行った洪順をつけた。他所で借り、少しして返したことを見届けた。庸は調べ考えた。洪順が火付けをしようとしていることは分った。洪順は、師匠の内藤玄丈を殺そうとしていると思った。洪順が長崎へ行った。庸は熊野にも洪順が火付けを考えていることを言うが、起こっていないことを奉行にまで言われないと言われた。それから一年経った。内藤玄丈の屋敷の火事を起こす装置を外した。見付けた洪順を呼び出し、装置を外したことを話す。玄丈の所に帰るのを止めるように言う。洪順の訳した物を玄丈の名で出版する玄丈を許せなかった。行き場所のない洪順に長屋を貸した。

 揚屋町の貸し物 吉原の出店に赤ちゃんを三人貸して欲しいと遊女が来た。本店にどうしようか相談に行くと庸に相談しろと言われた。相談された庸は、名乗った雪解が本人か調べる。違っていた。見付けた女と話しをして、庸はもう捨てるような人形を三体持って行く。病身の彼女は、魂が抜けて出歩くようになったと言う。心残りがあったから赤ん坊を借りに来たんだろうと聞く庸に、元雪解は、三人の赤ちゃんを堕胎したと語った。庸は三体の人形を出し、お焚上げされるのを待つだけの身だから最後まで慰める役目を貰って喜んでいる。可愛がっておくれと言う。
 三人の子供を連れた女が、庸にお辞儀する。翌日そめが亡くなったと知らせがあった。
 
 宿替え始末 常連の長助が、宿変えをするので大八車を貸して欲しいとやって来る。去年の夏頃から、夜中に音がしたり、幽霊が出るようになり家族がここに住めないと言い出した。長助は入谷の百姓で、家族と小作人で畑をしている。話しを聞いた庸は、加持祈祷をし、それで駄目なら家を建て直すという話しにした。大工は弟に頼むという。待っていた本家の七右衛門に話す。
 引っ越しが終わり、明日加持祈祷をするという夜、庸と松之助、綾太郎、勘三郎は長助の家で待機する。四人の男がやってきて穴を掘り始める。庸たちが現れる。七右衛門がいた。先祖の日記でこの土間に何かがあった時に土地の人々を助ける物を埋めてあることを知り、長助一家が邪魔になった。埋めてあったのは大量の胡桃だった。庸は長助に何もかも話すという七右衛門を置いて帰る。こんな事だろうと思った庸は加持祈祷を頼んでいなかった。
 翌日、長助に聞いた。胡桃を七右衛門の蔵で預かり飢饉の時に、近隣に配るという約束をした。土間の土を元通りにすることとした。長助は元に引っ越した。

2024年10月2日水曜日

江戸に花咲く

江戸に花咲く アンソロジー

祭りぎらい 西條奈加 
 公事宿「狸穴屋」絵乃。篠笛作りの師匠が祭り嫌い。娘婿が篠笛作りの上手で、祭りの笛吹が上手。娘と娘婿は、好き合っているのに、師匠は離縁させるという。廻りの皆で、師匠を祭りに引っ張り出す。師匠の母親は祭りの日にいなくなったという噂。もう昔のことは・・・

天下祭 諸田玲子
 平山行蔵、兵法、体術、武骨で小さな老人。奇矯ともいえる極端な粗衣粗食の暮しぶり。祭など・・・。そんな行蔵のところに若い娘・さんが、孫だと言って現れる。覚えのない行蔵だが・・・。母親が亡くなる間際、行蔵の名を言ったと言う。唯一の友、お庭番・古坂参左衛門の娘・いちが、お庭番から逃げた。古坂から娘を止めて欲しいと頼まれたが止められなかった。相手の男は、遺体で見付かったが、いちは逃げ果せたのだろう。さんは奇麗な着物を来て祭で踊る。行蔵はまだ間に合うかと祭を観に走る。
 
関羽の頭頂 三本雅彦
 柳瀬円十郎は、「運び屋」他人に奪われてはならない事情がある荷物を運ぶ。中身を見ぬ事。相手を探らぬ事。刻と所を違えぬこと。神田祭、関羽の山車の登頂。田安御門至近で、開いた扇を立てること。侍たちに狙われる。彼らは、何を何故扇子を立てるかしゃべる。お前たちが話さなければ、誰が立てたか分らないからお咎めはないよと言い置いて倒す。顔の化粧が取れる。花笠で顔を隠して扇子を立てる。祭の絵にその場が描かれた。円さんに似ていないから大丈夫。

往来絵巻 高瀬乃一
 神田祭佐柄木町御雇祭絵巻ができ上がった。良い出来でみんな大喜び。だが、囃子方が十人のはずが九人しか描かれていない。その場に居合わせた女貸本屋せんは、絵を描いた人を紹介して欲しくて絵の人数が違っていることを調べる。一人笛吹きが祭の日に亡くなっていた。隠されていた。祭の後と言う事になっているが祭より先かも、事故死と言われているが、殺しかも。全部祭で隠された。せんは絵師を紹介された。十三、四の幕臣だった。絵を頼んだが殺された。将来店を持ったら描いてくれるという。江戸一番の絵師になっておくと言った。後の安東広重。

氏子冥利 宮部みゆき
 三島屋の富次郎は、神田明神で老人を助けた。負ぶって三島屋に連れて行く。百物語を聞く。錠前師だった。十三才の時、姉を手込めにした男を叩き殺してしまった。やってきた親分は、家の有り金を全部持っていき、空き巣と鉢合わせした定六は殺されたことになった。姉は身投げした。自分は錠前屋に奉公に出た。ずっと自分は罪人だと思って暮してきた。
血の匂いのする着物を見付けた。着物から女が「すみちょう、たすけて、うこん色、さかさふじ、お願い、たすけて」と言う。探した。そして見付けた。地下の牢屋敷に姉弟がいた。岩末じいさんは二人を助け出した。火が出て気が付いたら外にいた。炭蝶の次男が、十年間閉じこめた女と子供だった。女は死んでいた。
 岩末は、親方を継いだ息子が亡くなり、親方を亡くした若い職人とその女房を助けるために帰ってきていた。
 

2024年9月30日月曜日

武士はつらいよ② 蔵元の娘

武士はつらいよ② 蔵元の娘 稲葉稔

 夏目要之助 徒目付下士、家禄三百石。藩主・藤田伊勢守氏鉄

 藩主の墓参の行列に付いた。町中で「要さん、要さん」と幼馴染の清に声を掛けられた。
清の実家は造り酒屋で、「星泉」が評判で江戸にも出し、二年前に家を建替え大きくなっていた。藩のご用足しにもなっている。要之助は、城下で声を掛けてはならないと言いに行った。
清は奇麗な娘になっていた。

 清から相談を受ける。江戸に下ろしている酒問屋から、別の問屋にも下ろしているようだから、もう取引をしないと言われていた。清水屋は、常磐屋にしか下ろしていない。どう証明すればいいのか分らなかった。
 要之助は、同じ幼馴染の源吉と、清兵衛に相談する。川荷置き場に出入り出来る者から順に、同じ町の造り酒屋の、樽作る者、樽の材料となるものあたる。一軒の造り酒屋に、清水屋と焼き印を捺す樽屋があった。
 同じような樽に自分の作った酒を入れて江戸の組合に入っていない店に卸していた。清水屋は常磐屋に証拠を付けて番頭を送る。今年も同じように卸すことになった。

 清は手代・幸吉と一緒になって店を継ぐことを決めた。

 

2024年9月28日土曜日

助太刀稼業〈一〉 さらば故里よ

 助太刀稼業〈一〉 さらば故里よ 佐伯泰英

 文政三年1820年 十月十二日

 豊後毛利家の徒士並・神石嘉一郎23才。身に覚えのない罪を着せられ脱藩を余儀なくされる。大阪に向かう船には「そなたが頼りだ」と毛利家の三男・助八郎が待ち構えていた。家宝の刀を持ち出した若様と旅をする羽目になる。

 金も宛てもない旅が始まる。大阪で、助八郎の持っている刀と、助八郎の口で、二天一流三宅道場で道場破りをすることになったが、嘉一郎は、七人衆と稽古した。嘉一郎は三宅道場に居候して門弟衆に指導を始めた。助八郎はいなくなった。佐伯藩の上役・下野枝陸が来る。下野枝は、元の役に戻すので自分を手伝えという。助八郎から刀を取り返すという。助八郎は京都へ行った。
 下野枝と三十石船に乗った。途中、浪人三人が強盗と化した。老商人を助けた嘉一郎は、弁当を貰い、老人の船宿「たかせ川」の使用人の部屋で一夜を過ごす。老人・梅鴛は禁裏一刀流荒賀道場を紹介する。隠居は、助太刀稼業を紹介する。
 大名・吉川家に金を貸す伊勢谷の主・重蔵と吉川家に掛け取りに行く。番頭・有馬兵衛と発ち合い勝ちを収めた。三百二十五両を受け取った。四十両を渡すという重蔵の言葉を断り、助太刀稼業の名と重蔵の三朱と数十文入った巾着を貰って、旅だった。
 武者修行に四十両は邪魔だった。
 瀬田あたりの伊賀一刀流山波結城道場で稽古した。
 山城結城、妻・和乃。藍16才と小太郎10才の四人家族だった。
 膳所藩の藩士の臨時師範をして一月、山波家そ実家と思い必ず帰ると旅立った。

 二ヶ月後、大井川で足止めされていた。どのような剣術家を目指すのかまだ考えていた。
寸又峡に仙人のような武芸者がいると聞いて大井川を遡った。岩屋にいた。仙人は酒を飲んだ。十数日、嘉一郎は独り稽古した。仙人はただ見ていた。見られることで稽古は充実した。仙人が小枝で滝の水を嘉一郎に振りかけた。旅に出よ。と言われ旅に出た。
 文政四年 1821年 晩春

2024年9月26日木曜日

京都寺町三条のホームズ・21

京都寺町三条のホームズ・21 望月麻衣 
〜メランコリックな異邦人〜

 九月から「蔵」でジウ・イーリンが1か月アルバイトをすることになった。
十月からイーリンは、京都の大学院の修士課程に通う。

 イーリンは、葵に興味を持ってきたようだ。清貴と一緒に働け、円生とも会える。父親・ジウ・ジーフェイは、イーリンに、高宮宗親と親しくなり彼が「珍しい宝石」を持っているか調べて欲しいと頼んだ。

 イーリンは、歌舞伎役者・市片松之助が持ち込んだ根付けが元で、高宮と根付けの会で親しくなる。清貴に「珍しい宝石」のことを相談する。小松も調べる。
 ジウ家の家族に関係深い話しになった。

 イーリンが、生まれることにより、ジーフェイの妻は自殺したと聞かされ、ジーフェイの姉妹夫婦、イーリンの腹違いの兄弟姉妹から苛めを受けて育ち、幼少期から孤独に育った。イーリンの味方はばーやだけという環境だった。自分の所為で妻が亡くなったという引け目を感じて生きてきた。
 清貴が、ジーフェイが、高宮の息子に「珍しい宝石」を手に入れることを頼み、その宝石が、持ち主が自殺すると言われる呪いのブラック・ダイヤモンドだったことで妻・クーチンが自殺したと言われているいう事実を掴む。
 ジーフェイには宝石を頼んだ覚えがない。離婚寸前の妻に、宝石を贈る気はなかった。ジーフェンには、クーチンが、「信じられない、そこまで私を憎んでいたの。お望み通り今から死んでやる。」と言った意味がわからなかった。
清貴は、自分に送られる宝石が、持ち主が自殺するという宝石だと知った言葉だろうという。
 クーチンは、一人で出て行きボートに乗ったと言われているが、義兄はいなくなっていたことを珠蘭は知っていた。クーチンが自殺ということも疑問になった。
 パソコンの電話で繋がっていたジーフェンとイーリンの異母兄・シュエン。シュエンは、今までのことをイーリンに謝った。
 イーリンは、ばあやが、本当の祖母だと知った。イーリンを置いてお金を持って逃げたと言われていた母親も、ジーフェンが面倒みていることも教えられた。

 イーリンのバイト期間が終わった。イーリンは、葵と清貴を父と母のようの思った。
イーリンの言葉を聞いた円生はハッとした。
 清貴は、葵を皆をたらし込むと表現する。

 清貴は九月から一年間、税理士事務所に通う予定。


2024年9月24日火曜日

拵屋 銀次郎半畳記 ④ 汝 戟とせば〈二、三〉

拵屋 銀次郎半畳記 四 汝 戟とせば〈二、三〉 門田泰明

〈二〉
 傷を負った銀次郎は、医師溜で養生していた。黒書院直属監察官大目付は解職され無職の状態だった。着替えの衣装には葵の紋が入り、銀次郎の大小刀にも葵の紋が入れられていた。本丸殿舎内でも大小を帯びて構わないということだった。上様・家継に会いに行くが老中に止められた。銀次郎は隠宅に帰る。
 隠宅は、杖三とコトが世話をしてくれ、浦と滝が黒鍬から派遣され防備していた。隣家の嫁・萩が出入りしていた。
 よりかたと名乗る侍が来る。銀次郎が萩を送って行った時、よりかたが一人になった時、四人の浪人風がよりかたを襲った。浦と滝がよりかたを守る。銀次郎が帰った時、四人は逃げた。よりかたが襲われたようだ。よりかたを帰し、銀次郎はよりかたの素性を調べさせる。
 黒鍬の頭領黒兵を守る者が十人いるらしい。
 銀次郎の拵屋の跡は何も残っていない。銀次郎の剣術修業の場・人間修業の場である無外流大道場・笹岡道場も無くなっていた。
 銀次郎は黒鍬黒兵に引かれていた。現れた黒兵には影武者が三人いると言う。妻にするはずだった艶の墓で黒兵と会う約束をした。
 夜、よりかたが訪れた。真っ赤な装束の刺客に襲われた。よりかたは、萩を側室にしたいと相談して帰った。よりかたは徳川吉宗だった。

 黒兵に会った銀次郎は、結ばれた。屋敷に帰り朝を迎えると、黒兵は消えていた。叔父・筆頭目付和泉長門守兼行・黒鍬支配を訪れる。黒兵は御役御免を願いを出していた。
 城中で家継に見舞いし、黒鍬・滝と話す。滝はご自身で京に行ってほしいと言った。

 隠宅に柳生御盾班組頭の警護で、月光院と新井白石が来た。上様名代で、従四位下・備前守、本丸参謀長の職、六千石に給する。有事の際、将軍直属軍の指揮統括、江戸市中の刑事機関の統括、二条城拠点の京の全機関の統括を申し渡された。


〈三〉 
 二人がいる隠宅が赤装束十五人に襲われた。柳生の御盾班に守られた。
 吉宗が訪れ、将軍の内示が出たことを伝えた。銀次郎に内示は決定だと思えと言われた。言葉では、尾張が第一位と言いながら、将軍になった時の職を考えていた。新井白石と間部詮房に×を付け、桜伊銀次郎に◎を付けたり×を付けたりしていた。
 銀次郎が萩を連れて来た。銀次郎は江戸を出るにあたり、吉宗に幕翁となれば、自分の身の丈にあった隠密情報機関を拵えなさい。幕府を縁の下で支える大奥を確立されよ。と忠告する。妹とも思う萩の亡き亭主と儲けた幼子が三人いる。四人を慈愛で見守ってほしい。と言い置いた。吉宗は、内示通りにコトが進めば、三年間は助けて欲しいと頼んだ。
 吉宗の馬・吹雪を借り受け京に発つ。上様に別れを告げ、天栄院への手紙を託す。
 途中で、奈良の御破裂山神聖な霊山で三百を超える山伏の激しい武闘訓練が行なわれていると噂されたが、集落は解体され小さな寺のみが残っているだけになっていた。と報告を受けた。
 保土ケ谷で、滝が、黒兵を天之御方様と呼んだ。気の毒だから救って欲しいと、多分御所内にいるであろうと言われた。
 三島で、叔父の走部が、上様が亡くなったことを伝えた。
 京に入り夜の山中で百姓女に会った。町中に入り、盗賊団に襲われる後藤金座を助けた。後に来た同心に縄を掛けられる寸前、やってきた町奉行に放免される。戻って百姓女の家に宿を願う。朝京都所司代・水野忠之が朱印状を持ってやってきた。新将軍直々の朱印状。従三位・左近衛権中将・本丸参謀総長、九千八百石。二条城代という役職だった。
 吉宗は、銀次郎の手紙を受け取った天栄院に背中を押され将軍の座に着いた。
 浦が用意した三条通りに沿った「呉服商五井」に宿を求めた。浦に吉宗への伝言を頼む。旧政府のご老中はそのまま継続して用いること。絶対手放してはならない。強く言っていたと伝えるように。
 五井の前は紀州藩京屋敷だった。筆頭留守居役・禅籐吾郎右衛門は、商家から金を借り返す気もなく、女に金貸しをさせ、惨い取り立てをしていた。禅籐に直接五日の内に返すことを言うと、命を狙いに来た。

2024年9月20日金曜日

安倍晴明 あやかし鬼譚 

安倍晴明 あやかし鬼譚 六道慧 

 陰陽師・安倍晴明、84才。晴明は自分が「光の君」と呼ばれる夢を見た。その夢を見るたびに現実の晴明は、若返る。力は衰える。
 内裏の北面・不開の門が開き死人が続出。中宮彰子のまわりでも帝の寵愛をめぐり後宮の女たちの争いが巻き起こる。紫式部の執筆中の源氏物語と奇妙な符号を示していた。

 元子が操られ、一条帝を惑わす。元子の兄・藤原重家を操り道長の命を狙う。宮廷陰陽師の地位を狙う弥勒法師が、操る幻軍団は晴明を狙う。
 追い込まれた晴明、氷に閉ざされた道長。紫式部に「語違え」を描いて貰い燃やす。葵の上を物語に戻す。道長の凍りついた肉体が、元に戻る。紫式部に光源氏の誕生を描いて貰う。物語と密接な関係を保っていた夢幻世界の均衡が崩れた。道兼の幻が消える。重家の友人・源成信が現れた。自刃を止めた。

 晴明は翌年、85才で死亡。

2024年9月18日水曜日

上絵師 律の似面絵帖⑩ 照らす鬼灯 

 上絵師 律の似面絵帖⑩ 照らす鬼灯 知野みさき

 所変われば 
 七朗という見習いの奉公人が入った。
 律は涼太と、疎遠になっている叔母の弔問に、王子に一泊し滝野川村に出かけた。
追い剥ぎから、母娘を助けた余助と出会う。余助の言葉を似面絵にし、番屋へ届ける。後日追い剥ぎは捕まる。
 着物の意匠に地獄絵を頼まれた律だったが、地獄絵は描けない、書きたくないと断る。律は自分の怖い思い出に繋がる鬼灯を描く事にした。買い手がなくても良い、描く事にした。

 春告鳥
 巴屋の貴彦が奉公人にと健生を連れてきた。巴屋は、十七年前、火事があり涼太の祖父・青陽堂の先代の宇兵衛は、当時七才の貴彦を助け亡くなっていた。盗賊が窃盗と火付けで捕まった。健生は追分宿の旅籠の次男だった。四年前、旅籠の火事で、父親と長男・正生が、亡くなった。正生は健生を助けようとして亡くなったため、母から健生が亡くなれば良かったと言われた。貴彦は健生を引き取った。貴彦は、出家しようとしている。巴屋に馴染めず青陽堂で奉公させてほしいと言ってきた。
 往来の喧嘩に巻き込まれ亡くなった娘の供養の着物に、鴬・経読鳥の絵を描いた。

 薮入りにて 弐 
 竜吉は地獄絵に、九相図を描いた。
 律は薮入りで帰った慶太と夕、綾乃と直太郎と一緒に護国寺へ行く。慶太は、母を殺した辻斬りが、父も殺し、犯人の小林吉之助は捕まり、旗本ゆえに「病死」になっていることを知らない。慶太が犯人を憎み続けていることを知る。広瀬との約束で誰にも真相を話していない。
 火盗改の小倉に付いている太郎が、似面絵に描いた伝八を追っているのを涼太は見付けた。太郎は伝八と親しげに話しをしていた。律は太郎を疑うが、小倉は私は太郎を信じると言う。

 照らす鬼灯
 余助は元侍で、二十年前、辻斬りを殺したことがあった。辻斬りとして殺された・秀一郎は、余助・義之介と同じ年で同じ道場だった。秀一郎は武家に仕官していた。義之介は浪人だった。秀一郎は先生のお気に入りだった。義之介は辻斬りを捕まえ仕官したいと願い、探していた。辻斬りの現場にあった義之介は腕の立つ辻斬りを斬った。本当は義之介が辻斬りではと言われ江戸を出て上方に行った。律は、辻斬りにあった男に会い話しを聞いた。秀一郎が辻斬りなのは間違いなかった。
 余助は、盗人のことを探り、奉行所に知らせていた。
 貴彦が出家する前に、律と健生は貴彦に会いに行く。律の具合が悪くなり巴屋に泊まった。その夜、巴屋に賊が入り、太郎が刺され、行灯が倒れ火が出る。健生と律が、皆に知らせ、健生は布団を持って行灯に被さる。余助が現れ二人は助け出される。小倉が現れ賊は捕まる。太郎が追っていた伝八だった。健生は、火事から救い出されたが、兄を見殺しにしたと余助を睨む。
 伝八は、前に巴屋に入った賊だった。火付けはしていないが、息子は窃盗と火付けの罪を着せられたと恨んでいた。
 火事になったのは貴彦が行灯を倒したためだった。貴彦はずっと忘れていたが、四年前思い出した。そのために出家すると考えたのだった。信濃に出家に行く貴彦が、健生の母に正生と健生を描いた似面絵と健生の手紙を託した。
 余助は広瀬の御用の助けをすることになった。
 鬼灯の着物は、元々地獄絵を頼んだ人の手に渡った。主人が頼んだが、病で寝つき割り符を見付けた妻が現れた。妻は散々振り回されたから、今際の際であざ笑ってやるつもりだったが、鬼灯の着物を見て、いろいろ思い出し、切なくて。死装束にするが、迎え火や送り火におかみさんが着ることにした。

 律は涼太に授かったようだと告げた。
 

2024年9月16日月曜日

情け深川恋女房⑤ 札差の死

情け深川恋女房⑤ 札差の死 小杉健治

 小間物屋 「足柄屋」の与四郎と俳句の会で付き合いのあった札差の間口屋五郎次が、ふぐの毒で亡くなった。岡っ引きの新太郎は、疑念を抱き探索を開始する。店を継いだ五郎次の息子・心平太の周囲には娘の稲への厳し過ぎる躾けや、女房の雉の兄・密蔵との争いなど問題が起きていた。
 与四郎の店の小僧・太助は、最近、商売にも剣術にもあまり力を入れていない。また、女房・小里の具合も良くない。そんなところに密蔵の息子・密三郎を預かることになる。
 新太郎が付いている同心・今泉は、ドン尻屋一家を潰そうとしていた。賭場を開き借金の取り立てに容赦なく、殺人も厭わないどんどん力を大きくしていく一家だった。事件で捕まえても、賂で事件をもみ消す。頭の又四郎を捕まえないとどうにもできないと思っていた。
 五郎次のフグ事件、その後の間口屋への付け火、どちらもドン尻屋一家の頼みで起こったことだと掴んだ新太郎は、太助を引き込み囮を仕込みドン尻屋の二十六人を捕まえる。
 又四郎を逃がしたと残念がる新太郎に、先代頭の息子・金馬は、又四郎は三年前に死んでいると教える。又四郎しかドン尻屋を纏められなかった。みんなに死が知れ渡ればドン尻屋はばらばらになった。
 与四郎は三年前のことを思い出した。料理屋の二階の窓で見た又四郎、料理屋から出てきた心平太。その手は血で汚れていた。心平太の顔を見て父親殺しの相と言った易者。与四郎は心平太に疑問をぶつける。又四郎を殺したこと、心平太は、又四郎の息子だと。与四郎は銀煙管を心平太に渡した。新太郎には言っていないと別れた。
 間口屋の番頭・喜助が与四郎に告げた。ドン尻屋の先代・金兵衛の妾と又四郎の間に出来た息子を、五郎次が育てた。番頭喜助が任された。三年前、二人が話していたことを心平太が聞き、又四郎を殺した。又四郎の死は隠された。喜助が自訴するつもりだったと言う。心配した与四郎は、喜助に死なないで、なんの意味もないと言った。
 喜助は近所の寺で出家した。
 

2024年9月11日水曜日

風烈廻り与力・青柳剣一郎66 忘れえぬ

 風烈廻り与力・青柳剣一郎66 忘れえぬ 小杉健治
 
 剣一郎は、旗本・坪井貞道の悪い噂を耳にした。小間物屋の美しい内儀に言い寄り何かを画策している。不審を抱いた剣一郎は身辺を探る。老中から横槍が入る。
 十五年前のそば屋の夫婦殺しの話しが耳に入る。犯人とされた侍は、旗本の若党で自死していた。が本当の犯人はその旗本の次男だといわれていた。次男が坪井家に養子になっていた。
 坪井家では、女中が手打ちにあっていた。女中の許嫁と十五年前のそば屋の弟、自死した若侍の弟が、恨みを抱き仇討ちを企んでいるようだった。
 坪井家に老中が招かれる。何かが起こると考えた剣一郎は、隠密同心・作田新兵衛を坪井家に見届けるよう頼む。
 何かが起きた。新兵衛が報告する。そば屋になって入り込んだ三人は、用人・矢崎平左衛門に隣の控室に呼ばれた。矢崎は、坪井に、十五年前の事件と女中への手討ちの罪を問いただし、坪井家にあなたのような当主は不要だと言い、貞道を斬りつけた。近衆の高槻に若君を頼み討たれた。異変を知った老中は、病死と届けるように言い帰った。
 坪井家にも矢崎家にも長男がいる。

2024年9月9日月曜日

脳科学捜査官真田夏希㉑

脳科学捜査官真田夏希㉑ 鳴神響一 
 〜ジャステス・エボニー 〜
 
 横須賀市内で大学教授の息子が、誘拐された。夏希は用意するが連絡はない。
 現場でアリシアと小川に会う。
 防犯カメラ、Nシステムで誘拐した車を追う。
 夏希は、被害者宅から犯人の隠れ家を探すために待機場所を移動する。
 身代金受け渡し時間が近づく。
 携帯基地局、アリシアの鼻のお陰で少年の監禁されている倉庫を見付ける。
 少年を助け出し、犯人の男を捕まえている最中、アリシアが吠え出す。
 アリシアは爆弾探知犬だった。小川は、急いで外に出るように言う。
 倉庫は爆発する。犯人は、ナイフを自分の胸に刺した。
 犯人は、病院に運ばれた。
 少年は、夏希が見たところ異常がないので、駆け付けた両親に明日病院へ行くように言った。アリシアが、少年の両親に吠える。
 夏希は、少年の両親に、明日にでも犯人に事情聴取を行なうと言う。
 夏希は織田に、犯人の病室の張り込みを頼んだ。
 朝、織田から夏希に連絡が入る。依田美穂・少年の新しい母親を逮捕したと。

 誘拐は美穂の計画だった。犯人・本条を殺す目的だった。受け渡し時間には、本条と少年を倉庫ごと爆発させるつもりだった。現場をカメラで見ていた美穂は、警察が倉庫に踏み込んだので爆発させた。本条は美穂の気持ちが分り自殺しようとした。
 

2024年9月7日土曜日

武士の流儀〈十〉

武士の流儀〈十〉 稲葉稔 

 用心棒 太物問屋の主の後添えに脅迫状が届く。北町吟味方与力・大杉勘之助に頼まれ清兵衛は用心棒をすることになる。
 犯人は番頭だった。主は誰にも言わず番頭を辞めさせて納めた。

 兄弟 安江は、紙問屋の奉公人・松と知り合う。親に勘当され妹の松に金をせびりにくる兄がいると言う。兄・伊兵衛は、金貸しから金を借り松を渡さなければならないところまで追い込まれたという。安江は、清兵衛に相談する。松の実家は大工の頭領だが、長男の伊兵衛は、職人の見習いに出ても長続きしない。商売を始めてもすぐにだめにる。両親には勘当され、
妹の兼にもずいぶん無心し、見放され、頼れるのは松しかいなかった。清兵衛は、親・吉蔵に話し、金貸しのところに行った。八両の借りが十五両になっていた。九両で話を付け、吉蔵が払った。清兵衛は、吉蔵に伊兵衛を頼むと頭を下げた。

 ほだされて 高橋勝之丞は、国許から参勤交代で江戸に来て心が踊った。中屋敷に住み、気楽だった。駒に出会い駒の虜になった。三十俵四人扶持なのに百石取りと言ってしまった。駒にお金を使うため、高橋は、通りすがりの町人に恐喝を働いた。
 清兵衛は 岡っ引きの東吉に手代や女中から六両を脅し取った事件を調べてほしいと頼まれた。東吉は清兵衛が元与力ということを知らない。清兵衛は調べ始めた。女の家に出入りする勤番侍に目を付ける。侍が弱そうな手代をを脅す現場に現れ捕まえる。話を聞き、女の正体を話、もうしない事を約束させる。脅し取った店で、脅し取った金額の倍の金額の物を買うことを約束させる。
 東吉には、やっぱり難しい手に負えないと話した。

 家出娘  秀の家は南品川の旅館兼仕出屋で両親と兄と姉が手伝っている。秀は疎外感を味わい家を出る。安とりょうという娘たちと出会い行動を共にする。二人は空家に寝泊まりし、盗みをしているようだった。清兵衛は、安くしておくと安に声を掛けられ三人を知る。清兵衛は三人を調べる。りょうが安のお金を盗んだ。二人の言い争いに近所の人が気付き三人は逃げる。秀は逸れた。清兵衛と会った。清兵衛は、秀の話を聞き、家族は忙しいから秀をかまえなかったのだと思った。秀と話、南品川に一緒に行く。二人の話はしないことを約束させ、自分が味方になることを言い聞かせ両親の元に連れて行った。秀が家を出て一か月が経っていた。
 家族は秀が帰ってきたことを喜んだ。清兵衛は、安江という女が何も聞かないで寝泊まりさせていたと話した。秀はありがとうと言った。

2024年9月5日木曜日

京都梅咲菖蒲の嫁ぎ先〈2〉

 京都梅咲菖蒲の嫁ぎ先〈2〉 望月麻衣
 〜百鬼夜行と鵺の声〜

 新斎王の就任を目前に控えた京都で、百鬼夜行の目撃談が相次ぐ、不穏な噂が流れる。藤馬率いる四天王が討伐に赴く。立夏は自ら囮を買って出る。百鬼夜行を連れ出し現れるだろう鵺を退治するつもりだったが、、結界が崩れ、逃げる鵺を、立夏が声を頼りに放った矢が擦った。新斎王・蓉子が連れ去られる。
 神子・犬居家で行われる新年の宴で、立夏と菖蒲は筝と三味線を演奏し、再び鵺を呼ぶ。
演奏中、菖蒲は蓉子と話が出来、居場所も分った。
 鵺が現れた時、力が欲しい者が鵺を狙うが矢は当たらない。菖蒲は射る気になれない。蓉子を屋敷に連れてきて監禁していた神子に連れだされた蓉子は、私の仕事と鵺を開放するつもりで矢を射る。鵺は矢に当たり落ちた。春鷹は、自分が矢を当てるつもりでここまで用意したのにと呟く。
 結界を解き、百鬼夜行を放し、鵺を開放したのは春鷹だった。元々、先が見える春鷹だったが、今は、見えなくなった。鵺に矢を射った者は力が増と言われていた。春鷹は、力を蘇らせたかった。
 蓉子は春鷹を裁いた。審神者と神子の資格を剥奪、実家で謹慎を言い渡される。蓉子は、自分の力が無くなった原因は、自分を偽って生活していたからだと考えた。春鷹にも、自分を偽って生活しているから力が無くなったのだろうと言い、兄からの手紙を渡す。人はやり直せます。と蓉子は言った。

 蓉子は、菖蒲に、斎王になりたくない理由を聞く。菖蒲は、はっきり立夏と結婚するのが遅くなると答えた。菖蒲は、出版社に勤めることと立夏と結婚することが望だから。

2024年8月31日土曜日

旗本出世双六〈一〉 振り出し

旗本出世双六〈一〉 振り出し 上田秀人 

 書院番の新参がいじめに耐えかね三名の古参を斬り殺す刃傷事件が起きた。二百二十五石の小旗本で無益の北条志真佑は、番士を一新し再編された組・西丸書院番二番組に抜擢され、妹・幸や叔父・相模八左衛門と共に喜んだ。書院番の仕事は、外出時の将軍の警護。志真佑は西ノ丸の書院番なので家慶の外出時の警護。

 家斉の代参で、家慶が有徳院の忌日の供養に参加のため寛永寺に行く。志真佑は組頭のすぐ後ろに付くように言われた。敵に誘われても討って出ず、盾出なければならないと言われる。

 行列に浪人が絡んできた。先頭が当て落とされ志真佑は相手をする。一撃は止めた。浪人らは藩を潰された理不尽と潰した徳川への反感と浪人の暮らしのつらさをたらたらと言い放ち、刀を向ける。刀を受けた志真佑は、小普請には未来は見えぬ、我らには直参旗本という誇りがある。この誇りは何人も奪うことは出来ぬ。夢はいくつでも見られる。ひとつのことにとらえられてきたそなたたちと一緒ににするな。天下の泰平を守るのが旗本の役目じゃ。と志真佑は答え返す。守っている間に水戸家の援軍が来た。浪人たちは走りさる。
 志真佑は、家慶と目が合った。家慶は微笑んだ。
 家慶は志真佑に興味を持った。


2024年8月19日月曜日

鬼役〈三十四〉 帰郷

鬼役〈三十四〉 帰郷 坂岡真

 上方で医の勉強をする鐵太郎から江戸に帰ると連絡があった。 
 江戸城が火災で被害を受け、予算以上費用が嵩み再建された。老中が返り咲き幕府は迷走している。二度目の罷免蟄居があり、阿部伊勢守が老中首座になった。
 矢背蔵人介は「小姓頭取格奥勤見習」となり、影鬼となっている。
 鬼役となった卯三郎にまだ信がおけられていない。
 南町奉行に就任した遠山佐衛門少景元が、名前を連ねた紙を出し、上意だと言う。蔵人介は、間違った上意には従わないと言った。

 まだ鐵太郎が帰らない。門前に置かれた紙に海辺の風景と「市谷お納戸町矢背蔵人介」が書かれていた。蔵人介と串部は、金沢道を南下する。父親とじい様を役人に殺された小童に合った。一か月前、役人は、唐人船を焼き積荷も漁師も家も焼いた。磯松は、海辺の絵の所に案内した。
 海辺の見える御堂に鐵太郎はいたようだ。網元が、役人が半狂乱で村人を撫で切りにし姿を消した。翌日から村火地に症状が出始めた。鐵太郎が現れ、患者の治療を始めた。体力のない老人や子供は亡くなった。生き長らえた快復の兆しが表れ、新たな患者も出なくなった。浦賀奉行が鐵太郎を連れて行った。
 浦賀奉行・久保寺は、斬首にするという。蔵人介が奉行に公金着服の罪で成敗する間に串部は鐵太郎を助け出した。疫病はころりだった。鐵太郎の江戸帰郷の理由は、疱瘡の種痘を広めるためだったが、もう一つ、個人的には、異人の血をひく、医者を目指す女・多喜を探すためだった。
 卯三郎が毒味で倒れた。毒が仕込まれたが、ころりに感染した。御鳥屋に運ばれ、鐵太郎が呼ばれた。
 多喜は息子・仁を探していた。
 出牛峠の銀色の塔を爆破し、徳川幕府の転覆を狙っていたものは失敗におわった。
 大奥の山嵐ひとりになった。
 奥医師筆頭・胡桃沢が、多喜の産んだ子は、紀州徳川斉順だと言った。
 大奥で、子供を見付け、保護し、大奥の食事處で、毒が入っている証明をする。
 
 大阪に帰る鐵太郎を見送る。鐵太郎の横に多喜と、鐵太郎が父上になる仁もいた。
 

2024年8月17日土曜日

おもみいたします② 凍空 と日だまりと

おもみいたします② 凍空 と日だまりと あさのあつこ

 武士・稲村に駕籠に乗せられ連れて行かれたのは旗本・久能家だった。当主・和左之介が、三日後切腹する。手足を動かすと痛く、このままでは作法にのっとった切腹が出来ない。切腹が出来るように動くことが可能にしてほしいという要望だった。梅は死ぬためにもみ治療はしないと言いながら、治療をする。動くようになる。和左之介は、途中で治療を拒む。
 梅は切腹の理由を聞く。女郎宿「かずら屋」の朱波と心中しようとして途中で見付かり目付の耳に入り切腹が決まったという。
 梅は、かずら屋の女将のもみ治療をしながら話を聞く。女将は、女郎から心中話を持ちかけさせ途中で止め、対面をきにする武家から金子を受け取っていた。今までにも何組も、事件を起こしていたが秘密裏に処理されていた。今回は客の中にたまたま徒目付がいた。初めて表にでた。旗本の次男、三男の風紀が乱れていることを気にしていた御上は、見せしめのために和左之介を切腹に決めた。
 和左之介と朱波は、朱波の父親が久能家で働いている時期があったため、幼なじみであった。
 梅は、本人たち、和左之介の姉を説得し、二人を大阪へ逃がす算段をし、逃がした。
 姉・橙子は、梅に過去を話した。使用人として屋敷にきた男が、鼓が巧みで、恋に落ち、密通し二人で逃げることを考えた。男は逃げた。橙子は父親に男を殺すことを頼んだ。橙子は子を産んだ。和左之介だった。橙子は姉として育てた。
 切腹部屋で、稲村が切腹した。
 和左之介を見張り役の二人に、切腹したのは和左之介だと認めさせた。

 橙子が、梅を訪ねてきた。二人が大阪に着いたことを伝えた。稲村の遺書の内容を伝えた。橙子の男・和左之介の父親を殺したのは自分だと。男は逃げた訳ではなかった。橙子が父親に頼む前に、殺されていたのだった。自分の罪を贖える機会を得ることが出来た。梅どのには真底礼を言いたい。
 橙子は後始末を終えた。髪を降ろし仏門に入り、稲村の菩提を弔って生涯を過ごすことにした。梅は橙子の身体を揉んだ。
 

2024年8月14日水曜日

岡っ引き黒駒吉蔵② 馬駆ける

岡っ引き黒駒吉蔵② 馬駆ける 藤原緋沙子 

 雪解け 吉蔵が子供の凧揚げを見ている時知り合った男は、葦簀張りの田楽の店を出している吉蔵が気にしている身重のおはるが、兄と慕う、呉服問屋富田屋の手代直次郎だった。
 鬼のような取り立てをする金貸し・宇兵衛が殺された。直次郎が、三両借りていることが分る。富田屋の主人・鶴太郎が四百両借りていることがわかった。鶴太郎は自分は借りていないという。借りに来たのは直次郎だったと宇兵衛のおかみさんは言う。宇兵衛殺しの現場を見たという益之助が殺された。直次郎の行方が分らなくなった。
 おはるが、子供を産んだ。直次郎が顔を出した。吉蔵が直次郎に話を聞く。吉蔵は自分が二人を殺したと言う。吉蔵は子供のころ先代富田屋に父親の死に際に世話になりそのまま育てて貰った恩があった。先代のためにと鶴太郎に言い含められていた。
 鶴太郎は養子だった。先代と鶴太郎の母親との古い口約束の許嫁だった。鶴太郎は四百両を金遣いの荒い母親のために使っていた。母親を連れて逃げようとするところを吉蔵たちに捕まった。

 馬駆ける 吉蔵を岡っ引きに引き上げてくれた金子十兵衛に、元岡っ引き妻五郎の娘を探して欲しいと頼まれる。妻五郎は病気で先がながくない。生きている間に娘と合わせてやりたいという。妻五郎の娘・まちと一緒になり岡っ引きをしていた弥七も探していた。探し始めて半年程した時、殺された。南町の調べで無宿人に殺されたとされ打ち切りになっている。
 吉蔵は、南町に自殺で片づけられている材木問屋「吉野家」の主人の事件を調べようとしていた。
 まちのことを調べていると、まちは、働いていた料理屋で、吉野家が潰れ仕事が舞い込んだ材木問屋・武蔵屋の未亡人と、頬に痣がある武家との密会現場を見ていたことがわかった。その翌日からまちは行き方知れずになっていた。頬に痣がある武家は、南町の与力・野呂富之助だった。事件を打ち切りにしている同心・雪見馬之助の背後にいる与力だった。
 弥七が殺された時、懐に持っていた銀の簪から、女郎・おたかが浮かんできた。おたかを遊女屋に連れてきた女衒は、雪見が使っている岡っ引き・円蔵だった。
 円蔵を捕まえ、まちの居所を聞き出す。
 武蔵屋のはまに届いた文の返書を持って出た為七を追った。文を読んだ浪人は為七を殺そうとした。吉蔵は浪人を捕まえた。為七は文を読んだ。
 菱田平八郎は雪見に会った。雪見は野呂にお前たちとは関わりがないと言われた。雪見は菱田に、妻に見下り半を書かせてくれと頼んだ。
 野呂は品川に逃げた。品川から馬で逃げた。金子と吉蔵は馬で追いかける。吉蔵は追いつき凧糸を投げ絡ませる。野呂を捕まえた。
 まちは妻五郎の看病をした。妻五郎は亡くなった。まちは落ち着いたら岡っ引きになりたいと言った。遊女屋にいた仲間のことを思うとああいう人たちのためには女の御用聞きが必要じゃないかと思うと言った。
 

  

2024年8月6日火曜日

駐在日記

 駐在日記 小路幸也

 蓑島周平 30才  神奈川県松宮警察署雉子宮駐在所勤務。巡査部長。前任地横浜では刑事だった。。妻となった花に静かな暮らしをさせたくて駐在所勤務を希望した。
 蓑島 花 32才  周平の妻。横浜の大学病院の外科医だったが、ある事件で利き腕の右手に重症を負い、勤務医を辞めた。駐在の妻として生きることを決めた。
 品川清澄 57才  雉子宮神社の神主。若い周平と花の良き理解者。
 品川早稲 22才  清澄の一人娘、神社の跡継ぎ。周平と花の友人になる。
 昭憲 51才    雉子宮唯一の寺〈長瀬寺〉の住職 一人暮らし。
 高田与次郎 72才 雉子宮で〈村長〉を務めているが正式な役職ではない。
 小菅 昭 12才  雉子宮小学校六年生。駐在所に出入りする読書好きの男の子。
 田島美智代 12才 雉子宮小学校六年生。駐在所に出入りする読書好きの女の子。

 プロローグ 昭和50年 4月5日 土曜日 今日からここが、私と周平さんの新しい住居と職場です。で始まる。私は日記を書くことにした。右手の指が細かく動かないが、ゆっくり書くことは出来るので、リハビリにもなるので。
 駐在所は、二階建てで横に長く、下は土間と四畳半程の板敷きの駐在所と、子供に開放された和室に縁側付きの図書室がある。奥に竃や井戸がある土間があり、板敷きの台所、二部屋の八畳間がある。江戸時代の建物です。
 荷物の整理に早稲ちゃんが手伝いに来てくれた。
 
 日曜日の電話は、逃亡者 4月6日 周平がパトロールで出かけた後、バスから下りた男女が、顔面蒼白。食あたりの診断を下した花は、二人を駐在所で休ませる。
 松宮警察からの電話で、強盗事件の犯人が、雉子宮出身なのでそちらに逃亡の恐れがあると連絡が入る。刑事科の先輩に電話する。
 男が雉子宮出身だと話すので、清澄さんに来てもらい確認する。
 周平は、久米康一31才と田村良美に話を聞く。康一は暴力団のような番畔組の沼田の家に押し入り良美を連れて逃げた。沼田が発砲したため、民間人が通報した。沼田は久米が十万円を盗んだと警察に届けた。沼田をよく知っている周平は、松宮警察からの連絡が納得出来なくて裏があると思い先輩に連絡した。康一の話を聞いた周平は、松宮署には、怪しい者は来ていない。久米という家は過去にない。と連絡する。刑事だった時、沼田を逮捕できなかったことが何回もあった。証拠がないからだった。君なら逮捕出来るネタを知っているのではないかと訪ねる。「とっぽい田舎のお巡さんかと思ったら、とんだデカだった。」
 サービスで佐久間さんの家に住めるようになるまで、ここの二階に暮す宿泊代も食費も奢りにするよ。
 佐久間康一君が両親の離婚のため、母方の苗字・久米になって帰って来た。父親も亡くなり五年、空家になっていた家に手を入れて住めるようして住む。
 
 久米康一 29才  周平の赴任初日に雉子宮を訪れた男
 田村良美 28才  康一の婚約者

 木曜日の嵐は、窃盗犯 六月二十五日 水曜日 強風が吹いた夜明け。昭憲さんから泥棒が入ったと連絡があった。樹木が倒れ窓ガラスを割った所から入った賊が、あったと思われる秘仏を盗んで行ったという。周平は、秘仏のこと寺の先代住職のことを聞き廻った周平は、ひとつの結論に達した。
 秘仏は、今日や昨日無くなった物ではないこと。このまま、泥棒が入ったことにすると、泥棒が見付からなければ、少し前に村に来た康一が疑われること。周平は、先代の住職が売り払いお酒に替わってしまったのだろうと考えた。二年後、秘仏公開の年が迫って、秘仏がないことを知った昭憲が苦し紛れの言い訳を考えたのだろうと思った。父親が、酒代にしてしまったとは言えない。
 昭憲と清澄と相談し、窓から入った足跡は動物の物で、香木の香りに誘われ咥えて逃げたということにした。
 久米康一は佐久間康一になり、康一の情報を、周平の横浜の先輩に送り、沼田は逮捕され、しばらくは刑務所から出てこれないらしい。

 金曜日の蛇は、愚か者 八月二十九日 金曜日  晴天が続いているにも関わらず、濁った水が川を流れていた。木の枝とかも一緒にたくさん流れた。どこか道が崩れていると困るのでパトロールをする。そんな時、小学生が、蛇に噛まれた。蛇はアオダイショウで、大事に至らなかったが、小学生たちは、この二日程前から、蛇が多くなったという。
 川の中で、炭焼きの民蔵さんが骨折して見付かった。花が応急処置をして町の診療所に運ぶ。周平は現場検証し、民蔵が落ちた場所を見付けた。低い崖になっているところに隠した穴があった。周平は、民蔵に確かめる。金塊があると思い、誰にも知られず自分の物にしようとしたのだろう。あれは金塊ではなく黄鉄鉱だよ。人が近づかないように蛇を捕まえ蒔いてていたのだろうと話した。捕まるか?と訪ねる民蔵に、誰にも言わない。足が治ってから助けてくれた人を集め鍋でも囲もう。子供たちには、祭りの時に綿飴でも買ってあげればいいよ。
 西川民蔵 47才  雉子宮で唯一の炭焼き職人

 日曜日の釣りは、身元不明。 十月五日 日曜日 良美さんが、川で人が倒れていると駆け込んできた。周平と花が行く。康一と山小屋の富田さんと甥の坂巻君がいる。倒れた人は死んでいた。花が見たところ心臓発作か脳梗塞だろう。周平も事件性は無さそうだと思うが、財布があるが、身分証はない。免許証も無く、身元が分らない。どうやってここに来たのかも判らない。連絡を入れ、遺体を寺に運ぶ。村の人に見てもらうが、誰も知らない人だと言う。警察車両が来て病院へ連れて行った。周平は、康一に坂巻君の動きを見張っていてと頼む。康一は圭吾が参月沼に行ったことを伝えた。参月沼の廻りに、タイヤの跡があったことを言った。沼には入れないから車があるかは確認出来なかったという。
 康一は圭吾を食事に誘う。周平と花も康一の家に行く。周平は圭吾に聞く。あの身元不明者が誰か知っているね。圭吾は知っていた。姉を自殺に追い込んだ男。姉の写真で見た。圭吾の姉の死の話になった。姉は村を出た。東京からの連絡で圭吾が行くと、男と不倫し騙され入水自殺していた。身元不明の死体になっていた。
 今朝、散歩の途中で、川の遺体を発見した。姉の写真の男だった。姉と同じように身元不明にしてやろうと思って身元の判るものを隠した。車も沼に沈めた。
 あの沼の車を引き上げられない。ダイバーも入れない。君の隠した免許証等が草むらから見付かった事にして身元が分ったと連絡を入れる。君が反省して今から正しく生きていくかを見てる。圭吾に、康一は、俺なんか強盗で指名手配されたんだ。という。周平はどうして言うかね。と笑った。
 またひとつ、周平が日報に書かない出来事になってしまった。
 富田哲夫 51才  山小屋の主人。坂巻圭吾の叔父
 坂巻圭吾 26才  山小屋で働く若者。父母が亡くなり、叔父が引き取ってくれた。

 エピローグ 雉子宮駐在所に、三か月の子犬がやってきた。猫のヨネとチビとクロはどういう反応をするか。早稲ちゃんが名前はミルと付けた。

2024年8月3日土曜日

うぽっぽ同心十手綴り⑦ かじけ鳥

うぽっぽ同心十手綴り⑦ かじけ鳥 坂岡真

 穴まどい 長尾勘兵衛たちは、浅草の正燈寺へ紅葉狩りに出かけた。末吉鯉四郎が刺された。五寸釘に毒が付けられ刺された鯉四郎は、ただただ眠っていた。
 鯉四郎が調べていた事を調べる。七日前、 仏壇屋「曼珠屋」の番頭殺し、先棒の駕籠かきが一緒に殺された。殺したのは浪人だった。
 浪人が殺された。殺された駕籠かき所有の煙管を持っていた。五寸釘で殺された。
 十日前、警動があり、鯉四郎は、船宿の亭主・達磨屋籐兵衛を捕まえていた。一人だけ別行動で四谷の大番屋にいた。南町筆頭与力・伴野左近により無罪放免になった。
 勘兵衛は黒覆面に襲われた。残った鶴首男は逃げた。銀次が追い、行き先を突き止めた。大名の下屋敷の賭場。隠居に化け入った勘兵衛が出合ったのは壺振りおはん。おはんが行き着いた先は、口入屋「傘屋」、そこの主は鶴首の重三郎だった。
 勘兵衛は帰り道、おはんが五寸釘で襲って来たため捕まえた。
 鯉四郎の目が開いた。
 十七年前に捕まえ、十六年八丈島にいた丁次郎が、一年四国巡礼をしていたと顔を見せた。丁次郎のために捕まえようとしていたくちなわ一味の頭目重蔵を捕まえられなかった。このところくちなわ一味の犯行が起こっていた。
 丁次郎がくちなわ一味の犯行を予告してきた。蔓珠屋の番頭は錠前破りだった。殺されたため丁次郎が誘われた。重三郎、駕籠屋伝助、籐兵衛、蔓珠屋惣八、あと二人がくちなわ一味。どこを襲うか判れば連絡する。その代わり、娘・おはんを助けてほしいと言った。
 丁次郎から愛宕下天徳寺、明日子の刻。の知らせがあった。伴野左内の呼び出しで手下になれと言われ、本当の押し込み場所を聞いた。龍河山金剛寺。五百両を希望した。奉行所は、知らせを受けた天徳寺へ行く。勘兵衛は一人で金剛寺へ行く。
 押込んできた者から金剛寺の金子を護る。盗賊が金を運び出し始めた。重蔵に狙いをつけ、臑に斬りつける。丁次郎を助けながら追いかける。鯉四郎や銀次が駆け付ける。得物を手にした僧が集まっている。見張り役や重蔵を捕まえていた。伴野が勘兵衛に討ってを送った。その討ってを追ってきた。丁次郎とおはんが合った。
 根岸直々の白州が始まった。伴野は捕まったのは偽者の頭目で、本物は壺振りの娘と共にどこかへ逃げたと言った。根岸は丁次郎が奉行所に来て、くちなわを売った礼が欲しいと言ったと伴野に言った。十手持ちの面汚しと言われた。丁次郎は来ていない。丁次郎とおはんはかまいなしになった。
 おはんが四国巡礼に行くと寄ってきた。丁次郎が島で拵えた珊瑚玉の簪を渡した。二人は旅立った。

 きりぎりす 霜月 綾乃は鯉四郎に嫁いだ。夜、夜鷹姿の女が、先に血痕が付いた銀の簪を持って来た。勘兵衛が静に贈ったものだった。
 夜鷹探しを始めた。静のことを知っているという比丘尼がいるらしい。比丘尼は殺されていた。夜鷹のおけいが、高利貸・地蔵屋から貸付証文を盗み比丘尼の所に逃げ込んだため比丘尼は殺された。おけいは逃げている。遁科屋・逃がし屋・十吉から、おけいとおたね姉妹は、地蔵屋からの借金の請人になったことで切腹した勘定方の旗本の娘だった。十吉が、おけいが借用証文を天神屋に持ち込んだ後地蔵屋に捕まったと、知らせてきた。
 勘兵衛は、天神屋に十手を預け、貸付証文を渡して貰い、地蔵屋を潰すことを約束する。
地蔵屋に行き、おけいと証文を取り換える。おけいと百両が外に出たころ、細かく千切られた証文が紙吹雪となった。鯉四郎が助けに来た。
 おけいをおたねの所に逃がした。

 かじけ鳥 竜閑橋のたもとの迷子石に、静、帰ってこい。と書いた。
 勘兵衛は、静のことで訪ねてきたくみに合うために訪ねて行くと、くみは殺されていた。くみを殺した絵師を殺したということで甚八が追われていた。
 勘兵衛は絵師殺しを調べることになった。甚平はおゆきと出会い、一緒に越後に行く約束をしていた。
 絵師が出入りしていた艶狂堂へ行き、仕掛けに掛かり捕まった。甚平が盗んだ下絵を返せと迫られる。話の内容から、殿が悪徳商人と手を組みあぶな絵を描かせている。この連中がくみを殺し、絵師を殺したのが分った。水牢に入れられた。甚八が死んだ。甚八を上げる時勘兵衛が上がって行き外に出た。
 絵師に成りすました勘兵衛は、呼び出された現場に行き、殿様に合い艶狂堂も商人も捕まえた。甚八の盗んだ下絵も見付けその場に打ち付け目付に連絡する。
 ゆきが、静のことを知っていた。甚平から聞いたと言う。記憶を無くしたご新造。記憶は無くても待っている人が有ることは承知していた。自分の意思ひとつで逢いたいと思う相手に邂逅できる。肝心の決断がつかず迷っている。と
ゆきは甚八を待って寒さで亡くなった。
 
 静が立っていた。泣きたいのを堪え、迷子石の伝言を目にしてたまらなくて。
長い間迷子になっていたな。 
 夢なのか?

2024年8月1日木曜日

定食屋「雑」

定食屋「雑」  原田ひ香 

  会社帰りに週二回か三回、「雑」に寄って、食事して酒を飲むのが楽しみ、自分の楽しみを取らないでと別居した夫。三上沙也加は納得出来ず、離婚届を書いていないが、夫は催促する。沙也加はやり直したいと思っている。「雑」がどんな所か、若い女性でもいるのかと偵察に行く。若い女性はいない。太ったおばちゃん一人で切り盛りしていた。
 結婚後、仕事を辞め派遣会社で働く沙也加は、生活が苦しくなる。ひょんな事から「雑」がパートを募集していることを知り、派遣で行かない日に働くことになった。
 雑色みさえ、前の店主・雑色さんから店を継いで、二代目ぞうさんと呼ばれている。先代が、みさえが出来るように定食屋に替えて行った。コロッケや豚カツを沙也加に教える。みさえは以前、雇った子のこともあって、沙也加に深入りしないようにしている。お客さんに対しても個人的な話はしないようにしている。だから、名前を呼んだことがない。
 唐揚げの揚げ方を教わり、ハムカツの研究をする。
 糠味噌の漬物を漬け、二人でカレーを作る。沙也加と呼ぶようになっていた。
 沙也加は両親に離婚の話をした。父母は、あちらのご両親と話をすると言う。沙也加は父母が何か行動するよりも早く、離婚届を書いて健太郎に取りに来させた。自分で決めたかった。
 九州から卵の営業マンが来た。卵かけご飯の店にすると言う話に、みさえは乗っている。自分の身体に自信が無くなり、卵かけご飯に少しおかずを付けるだけならまだ出来そうだと思った。
 大晦日、恒例みさえは常連さんの御節を作る。沙也加にも。沙也加に誘われ初詣でに行く。
 沙也加は、1Kのアパートに移った。
 コロナの緊急事態宣言が発令され、「雑」はどうしようかね、と話しているうちに脅迫されるようになった。店は休業した。
 みさえは歓迎されないことを承知で実家に帰った。思っていた以上に居る場所がなかった。
 みさえと沙也加は相談し、店の前でお弁当を売り出した。

 エピローグ コロナが下火になった。「雑」は弁当屋になって駅前に移り営業を始めた。コロナの緊急事態宣言が出たり引っ込んだり、定食屋兼お弁当やをやっているみさえは疲れてしまった。沙也加は駅前の空き店舗を見付け、体力的にも精神的にもみさえには難しいと思った沙也加は、ぞうさんの味が残ることが一番だと、厨房を作り替えみさえ一人で店を回せるようにした。いろんな雑事や書類仕事は沙也加がやり、みさえはご飯を作った。「雑」の片づけ、元店長の息子への連絡も沙也加がし、新しい店も昼の客だけに絞った。みさえが生活できればいい。
 沙也加は新宿のIT関連会社に正社員で就職した。仕事後に寄り、店番と帳簿つけをした。
 みさえは、沙也加に会社を辞めここを手伝ってほしいと話した。二人でやれば、帰ってしまう客が少なくなるし、途中でおかずが無くなることもない。お客をもっと増やせる。ゆくゆくは営業を代わってほしいと言われる。
 まだ、きっちり返事をしていないがそうなるだろう。
 
 

2024年7月29日月曜日

徒目付勘兵衛 〈四〉 烈火の剣

徒目付勘兵衛 〈四〉 烈火の剣 鈴木英治

 やっぱり徒目付になった。2004年12月 新装版だった。
 昔に読んでいるかもしれないが、順番に借りることも知らなかったからある本を読んでいたから跳んでいるかもしれない。

 徒目付になり、山内修馬と組む。修馬は殺された徒目付の部屋住みの弟だった。修馬が勘兵衛を連れていったのは、やくざの出入りや、質屋の用心棒だった。質屋では押し込みを捕まえた。
 修馬の恋人は半年前に殺されていた。その前に殺された父親の事件もあった。二人は調べるが、何の手掛かりも掴めていない。

 旗本の家族が、姿を消した。調べて旗本の屋敷で賭場が開かれている事を突き止めた。徒目付たちで取締に行く、抵抗され徒目付が殺され、和田兄弟の弟を捕まえた。兄は捕まった弟を助けに押し入り、勘兵衛に斬られた。弟・竜之進は勘兵衛を兄の敵とつけ狙う。

 父親が切腹した息子・安東知之介・修馬の道場仲間が、父親の切腹の裏にある物を探ってくれと来る。二人は探るが、何もないと報告する。また一人旗本が切腹した。切腹に見せているが、明らかに殺人だった。犯人は知之助。納戸役の収賄、質流れの品物を利用した公金着服を知った安東の父親は、相談した納戸役に、罠を仕掛けられ切腹に追い込まれた。知之助は父親の仇を討った。遠島になった。二人は自分たちが相談された時に、見逃したことを後悔した。

 勘兵衛は、元上司に、娘の事で恨まれていた。上司の娘は、勘兵衛と出会って心に決めていた。勘兵衛は、元々、美音しか眼中に無く、美音と結婚した。上司の娘は、自殺した。上司は和田竜之進を利用して勘兵衛を狙った。最期の仕掛けは、竜之進が勘兵衛を殺したように見せて、自分が勘兵衛を斬る。どうにか勘兵衛は残った。上司の家は取り潰された。

2024年7月27日土曜日

コンビニたそがれ堂⑩ 夜想曲 

コンビニたそがれ堂⑩ 夜想曲 村山早紀

 ノクターン 世界的なピアニスト首藤玲司は、四十年ぶりに故郷に帰ってきた。古い喫茶店を継いだ兄のやっているSNSで店のことプライベートなこと発信するのを見ていた。母が入院したことも知っている。自分のことを家族だと思っていないかも知れないという不安があった。
 母が交通事故で入院した十才ぐらいの時、ピアニストが育てていた首藤玲司が突然の心臓病で亡くなり、自分の子ではないと判ったピアニストが訪ねてきた。台風の日に生まれた赤ちゃんの取り違えがあったと。 僕はピアノが弾きたいですと首藤玲司の生活が始まった。ピアニストになった。
 町を歩いていて辿り着いたのは風早神社の鳥居、コンビニたそがれ堂。カーネーションを抱えるほどの花束を買った。五円を持っていなかったのでピアノを弾いた。トナカイに乗ってカーネーションの花束を抱え病室へ。健ちゃん。母と兄は健ちゃんのピアノの才能がもったいないから心を鬼にして見送ろう。それが家族の愛情だったと言った。
 野外音楽堂のコンサートでみんなのために弾くよ。
 コンサートの後、私の家族です。夜のうちにどうやってお見舞いに来たんだよ。
 トナカイにのってコンビニたそがれ堂で買ったカーネーションの花束だよ。

 夢見るマンボウ 領主の命令で不老不死の仙術を学びに旅に出た若者は、姫様との結婚を夢見て修業した。引き止められても故郷へ帰る。帰った故郷は、姫さまも居なかった。たそがれ堂の常連で、古本屋の主人をしている。たそがれ堂のねここに頼まれた。えりこさんをもう少し生かせてもらえないか。元若者は、命の欠片を渡した。これが最後の欠片。長い時のながれの中、仙術で救って来た。不老不死だった若者は少しずつ老いていった。
 
 空に浮かぶ鯨と帆船 駅前商店街でチェスをする年寄達。サトウ玩具店のサトウさんは治せない物はないというおもちゃの修理屋さん。こないだの続きと挑戦してきた白衣の老いた女性医師。二人は戦後から同じように町を駆け回っていた。
 千年も前かも知れない。二つの惑星が戦争で消え、生き残った宇宙船が辿り着いた。二人は戦争の相手だと分っていた。病院を建て医療に従事する彼女の所に、病人、怪我人を運ぶ。
 たそがれ堂で二人が会った。彗星が地球にぶつかるという。サトウは、自分が彗星めがけぶつかれば起動が変わるかもという。医師の曜子は、自分ばかり英雄にならないでよ。協力すれば死なない方法があるかも。
 ある夜、風早の空に正体不明の影が。山の中から舞い上がった帆船に似た飛行物体。もう一つは、海から浮かび上がった大きな鯨のような物体。
 年が開けた正月、サトウさんと白衣の院長先生は公園でチェスをしていた。

 天使の絵本 何でも買えるというたそがれ堂で、三太郎は絶対に無い本の話をした。三太郎は昭和二十年の冬、生活していた防空壕が秋の台風で水が入り生活出来なくなった。柿の木の根元に廃材で掘っ建て小屋を造り生活していた。大きなお屋敷に空き巣に入り、目が不自由な少女にせがまれて本を読んだ。本は燃えて灰になって居たので、三太郎はじぶんで作った話をした。
 彼女・蕎子さんが病室でのインタビューで、あの本が欲しいと言っているのを聞いた。
 たそがれ堂には、その本があった。
 

2024年7月23日火曜日

新・秋山久蔵御用控〈十九〉 飾結び

新・秋山久蔵御用控〈十九〉 飾結び  藤井邦夫

 飾結び 秋山久蔵は、口入屋「戎屋」を睨んでいる女を見た。女・佐奈の夫・村岡信一郎は、戎屋の斡旋で旗本に仕官がなった矢先、商人と喧嘩沙汰になり斬り殺し自死していた。信一郎の衿に菊結びの飾り結びが縫い込んであった。
 戎屋の主が殺された。佐奈を見張る。寺の家作に住む、浪人・信一郎の弟・村岡恭次郎の所に行く。
 旗本・榊原主水正と用人・岡田内蔵助は、献残屋香梅堂から千利休の茶碗を借り、返したくなく信一郎に、酔わせ無礼討ちにするよう命じた。そして切腹させた。そのために仕官させたのだった。
 佐奈の呼び出しに応じた岡田は、家臣と共に佐奈を連れ去ろうとした。恭次郎が現れ佐奈を守り逃がすが、背中を斬られる。由松たちが呼ぶ子笛を吹く。
 恭次郎は戎屋を殺したのは自分だと言い亡くなった。
 秋山は、榊原家ですべてを知っていると言い、後のことを委ねるが、岡田に切腹させ終わろうとするため、全てを評定所に届ける。榊原主水正は切腹、家録は四千から二千になった。

 雲海坊 雲海坊と同じ長屋の良吉が呉服屋に奉公に出た。母親は、病弱で養生所に入れた。大工だった父親は怪我をして仕事を辞め、博打と酒にのめり込んでいる。父親は盗賊に脅され、大工だった頃に建てた風華堂の図面を渡した。やってきた盗賊は、役人がいることを知り帰った。盗賊の首領は、使い手の侍だった。
 盗賊・甚八に手伝いを頼まれた良吉は、大声を出した。匕首を持った甚八を見た良平は、良吉を庇い刺された。甚八は捕まった。音無しの権兵衛一味は捕まった。権兵衛は久蔵に斬られた。素性は不明のまま。良平は亡くなった。

 お使い 秋山大助が、向島の弥平次のところに使いに行く。弥平次と大助は、女を勾引かす現場を見る。浪人に邪魔をされ駕籠は遠ざかった。大助は追った。弥平次は、勾引かされたのが大黒堂の内儀だと突き止め、木戸番に幸吉に伝わるよう手紙を託した。勇次たちは、大助を探した。長七は奉行所の神崎に伝えた。秋山に伝わった。
 勾引かし仲間の浪人に斬りつけられ大助は駕籠を見失ったが、由松が付いていた。
 弥平次は大黒堂へ行く。主は去年亡くなり内儀と番頭で店を続けていた。
 駕籠は牛込水道町の潰れた料理屋へ入った。持ち主は佐久町の質屋、住んでいるのは隠居。
 久蔵も現れ踏み込み捕まえた。犯人は、元大黒堂の内儀・とみだった。とみは十年前、金遣い人使いが荒く大黒堂のためにならないと離縁されていた。とみは内儀に大黒堂を譲ると証文を書けと迫っていた。潰れた料理屋の持ち主の質屋の主は、とみの弟だった。いずれは自分の物にするつもりだった。

 籠り者 印半纏を着た職人が、木戸番のおかみさんを人質にして木戸番屋に籠った。天神一家の巳之吉を連れてこいという要求を出した。幸吉たちは、巳之吉を調べる。犯人・文吉のことを調べる。
 文吉が一緒になるはずだった娘・きよ。きよの父親が博打で借金を作り首を括って亡くなった。きよは借金のかたに連れて行かれた。連れて行ったのは巳之吉だった。探し出した巳之吉からきよの行き先を聞き出し、岡場所から奉公に出されるきよを止める。文吉は捕まった。人質にしたおかみさんは、きよの叔母だった。
 旗本の隠居の頼みで、若い娘を手に入れるため如何様で借金を作らせ娘を手放すよう仕向けられていた。巳之吉と松木楼の主は人買いの罪で遠島、旗本の当主に度を越すと評定所に届けると伝えた。隠居は屋敷に戻った。
 文吉は江戸所払いになった。高輪の木戸にきよがいた。二人で旅立った。
 

2024年7月14日日曜日

鎌倉署・小笠原亜澄の事件簿④ 竹寺の雪

鎌倉署・小笠原亜澄の事件簿④ 竹寺の雪 鳴神響一 

 ノンフィクション作家の赤尾冬彦が、昭和の銀幕スター・関川洋介記念館で絞殺された。一月経っても進展しない事件を、幼なじみコンビ・吉川元哉と小笠原亜澄も調べることになった。関川家族や共演者等の聞き込みを始める。赤尾は、関川洋介の生誕百年の伝記本を出す予定で調べていた。映画・竹寺の雪を観ている時に殺された。

 関川洋介は、五十年前に病死。娘・女優・関川由布子は入院中。由布子の妹・恵衣子の娘・森岡恵智花21才が、洋介の孫。関川邸の留守番をしている。由布子は家を相続し、恵智花の母は、貧乏画家で、金や有価証券等、動産を相続した。由布子と恵衣子の母親は違う。
 伝記本を出す予定の出版社・鳥井忠志。本郷監督。由布子の病院で、恵智花と俳優・蜂屋貞一に会う。竹寺の雪の映画の後、引退した七条昌子に会う。七条の後輩・宇都宮茉莉子に会う。脚本家・山科勝雄に会う。彼は付き合っていた女優・屋代佐織が関川の後妻になった。山科は宮崎と一緒に、七条の引っ越しを手伝っていた。宮崎は、今も七条の家で働いている。
 
 宮崎は、赤尾の投資詐欺被害に遭い五百万を取られたので憎くて殺したと言った。
 七条は、由布子の母親が自分であることを告白し、赤尾が知ったことで脅迫し宮崎が殺したのだろうと話した。亜澄は、合い鍵のことが納得できなかった。誰か共犯者がいるはず。
 七条は、由布子も晩年を一緒に過ごす人が出来て喜んでいたのに・・・と言った。相手は蜂屋貞一。
 関川家で、犯人が宮崎・七条昌子の運転手だったと伝えた。蜂屋に言う。誰か合い鍵を渡した協力者がいるはず。蜂屋に見せた。由布子が、蜂屋由布子になっている事実を。由布子の八億円の遺産を手に入れるために。由布子の母親が昌子ということになると、遺産が昌子にも行く。それを阻止するために、昌子が母親であることが表に出てはいけないと思った。蜂屋を殺人教唆及び幇助の嫌疑で逮捕された。
 蜂屋は罪を軽くするために相続放棄した。恵智花は、相続財産を関川洋介記念財団の信託財産にして記念館とお屋敷の維持費にするつもりだ。

 元哉は、寿福寺の総門前の石段でくだを巻いた亜澄を介抱するはめになった。タクシーを探す。
 


2024年7月12日金曜日

鎌倉署・小笠原亜澄の事件簿③ 極楽寺逍遥

 鎌倉署・小笠原亜澄の事件簿③ 極楽寺逍遥 鳴神響一

 鎌倉大仏付近の丘の上で撲殺体が見付かった。殺されたのは美術館学芸員の鰐淵貴遥だった。神奈川県警捜査一課・吉川元哉と、鎌倉署刑事課強行犯係・小笠原亜澄はコンビを組まされ関係者を訪ね歩く。

 貴遥は、父・鰐淵一遥画伯が持つ「極楽寺逍遥」を研究し、近く専門機関で蛍光X線調査や赤外線写真調査をしたいと思っていた。亜澄は一遥画伯の了承を得、一遥画伯の出費で科学捜査研究所を通じて解析を頼んだ。

 みんなが集まった席で、解析から判ったことを発表する。

 画家・湯原宗二郎が描いた「極楽寺逍遥」の色を上塗りされている部分には、自分が一遥を裏切った。また君も私を裏切った。茉莉子は罪を犯し私は茉莉子に罪を償わせた。そしてわが罪を償うと書かれていた。
 絵のモデルをし宗二郎の愛人だった茉莉子は、宗二郎のDVに耐えられず、一遥の元に逃げた。一遥と暮らしている最中、階段から落ちて亡くなった。宗二郎は自殺した。

 宗二郎の絵がフランスで認められて来た。苦労して美術評論家として仕事ができるようになってきた娘・桂子は、父親が人を殺したという事実を明るみに出したくなかった。解析をすれば明るみに出ることを知っていた桂子は、解析しようとしている貴遥を思わず石でなぐってしまった。と桂子は言った。
 鎌倉美術館の学芸員の貴遥の部下・日野真矢は、宗二郎の娘だった。母は銀座のホステスをしながら真矢を育てた。学芸員になったが、評論家を目指そうとした。妹が華やかで羨ましかった。真矢も書かれていることに心当たりがあり、表に出されることが嫌だった。貴遥は、解析し研究論文を書くことに言及した。桂子と貴遥が会うことを知りつけた。桂子が殴った後、ここで彼が亡くなれば・・・と考え動き出した貴遥をもう二回殴って殺した。石を遠くへ持ち出し捨てた。
 一遥は、絵を鎌倉美術館に寄贈した。一遥の孫、遥人は、祖父の遺産を放棄した。

 事件解決の後、白旗神社の隣の児童公園から、元哉はしっかり酔っ払った亜澄を介抱しながら連れて帰る。

2024年7月10日水曜日

北の御番所 反骨目録〈十〉 ごくつぶし

北の御番所 反骨目録〈十〉 ごくつぶし 芝村凉也

 ごくつぶし 古物商で、売れっこの岩海和尚の書を破いた者がいると捕まったのは旗本の三男だった。旗本は、破いた物の代金を払うと言い、古物商はいらないと言う。三男は何も言わず捕まっている。
 裄沢に調べてくれと頼まれた。頼んだのは旗本だった。殿様は長男で、後添えが産んだ息子を跡取りにしたいがためあらゆる手を使った父と義母から家を守るため無頼を装った三男だった。
 三男・隆次郎は、書画をたしなんだ。岩海の書も練習していた。無頼を装った時の仲間が、隆次郎の留守に部屋に上がり込みそれらの物を持ち去った。その後、岩海に落款を贈った。贈る前に、隆次郎の作に押していた。和尚の落款が認知されたころ売り出した。隆次郎は、友人の所に行ったが、売られた後だった。店で破くことになった。古物商も騙されたことは言えない。
 裄沢が調べ上げた。隆次郎は毒を飲まされ殺された。殺されたことを調べている目付に全て話した。数年後、隆次郎の友人は切腹している。罪状は判らない。

 島帰りの男 行沢が、介入し、奉行所の小者を辞め、増上寺界隈を縄張りにする香具師の元締・以蔵の所に身を寄せる三吉。以蔵にかなり重用されている三吉をよく思わない者がいるらしい。三吉を兄貴分と思っている六の字が裄沢に相談に来る。裄沢に恩を感じている三吉は、裄沢の調べの手伝いをする。六の字はそれを知っていた。
 元の元締が島から帰った。遠島になる時、以蔵は頼まれ香具師の元締になった。次の元締を狙う音二郎が元元締に、三吉の悪口を吹き込んでいるという。何があったというわけではないが、心配でたまらないという。
 裄沢は何も出来ないが、調べることはした。そんな時、露天商の争いから加賀鳶との争いになった。加賀鳶と話し合いをすることになっている。
 裄沢は元元締・達五郎を訪ねる。仲神道を救う手助けをして欲しいと頼む。達五郎と増上寺の高僧との関係、増上寺と前田藩・加賀鳶との関係を話、達五郎なら出来るだろうという。
 加賀鳶との話し合いに三吉と出掛けた以蔵。留守を預かった達五郎。達五郎は加賀鳶が頭をさげて終わったと帰ってきた。音二郎を連れて帰ると言う達五郎に、自分の後を継がせるつもりだから手元に置くと言った。達五郎は三吉に、いい人と巡り会えたようだね。大事にするんだぜと言い残す。三吉は裄沢が動いたことを知る。

 昔の罪 裄沢のところで働く茂助。茂助だけが残り、今は茂助の甥・重次が、食事の用意をする。重次の死んだ友人の息子の事で相談があった。
 兄は食器を扱う小間物屋に、弟・次助は太物問屋に奉公にあがった。次助がお金を落とした。相談された兄・初太は、持っていた金を弟に渡した。注文主が払ったはずと苦情を受け兄弟は奉公先に謝りに行った。二人の店は許したが、許さなかったのは苦情を言ってきた湊屋だった。小間物屋は庇ったが辞めさせないと得心しなかった。初太は店の助けもあって担い売りとして生活出来た。初太は、仕入れ先の店から娘の養子にと話しがきた。親戚が、店の金を盗んだ者を跡取りにするのかといわれていた。
 裄沢に頼まれ貫太が調べた。親戚の後ろに店を潰した湊屋がいた。
 親戚一同が集まった中で、昔の脅しまがいの湊屋の言葉を出しても、貫太の職業を言っても収まりがつかなかった。裄沢が出、どうにか収まった。初太はやはり婿になれないと言った。
 来合美也が懐妊した。
 裄沢が失踪した。
  

2024年7月8日月曜日

ビブリア古書堂の事件手帖Ⅳ

 ビブリア古書堂の事件手帖Ⅳ 三上延
 〜扉子たちと継がれる道〜

 プロローグ 篠川大輔は、よく知らない資産家のガーデンパーティーに招待され来てみると、大輔と一緒に来るはずだった栞子の他に、娘・扉子と友人でありもぐら堂の娘・戸山圭、栞子の母・智恵子もきていた。

 令和編「鵜籠」 樋口恭一郎は、高校の先輩・戸山圭から扉子に渡してと百万以上するかもしれないという夏目漱石の「鶉籠」の初版本を預けられた。扉子は、戸山から逃げているように見える。
 恭一郎は、扉子から祖母、篠原智恵子の屋敷の一番重要な部屋・古書を保管する書斎兼作業所で話を聞く。
 去年の七月、戸山圭から、一冊の本を見せられた。その本の持ち主だという圭ちゃんの大叔父・利平さんに会い、保存していたという土蔵を見に行った。八ミリフィルムとか読書券を見付けた。誰にも秘密のその本が、鎌倉文庫の物と判った時、扉子は利平に会い借りたまま返していないと指摘する。利平は転んで怪我をする。扉子は、横領した本を圭ちゃんに譲るという行為を許せなかった。が、圭ちゃんは、勝ってに利平さんに会い、強い指摘をした扉子を許せなくて。八ミリフィルムを見た。土蔵の中の鎌倉文庫の本の前にいる、圭ちゃんの祖父と利平さんが写っていた。そして圭ちゃんは、扉子にもう私に話しかけないでと言った。
 一年、扉子は圭ちゃんから逃げていた。圭ちゃんが、二人のいる部屋に来る。二人は謝り合った。三人でフィルムの続きを見る。土蔵の扉を開けた若い男性と、撮影しているセーラー服の少女が鏡に写っていた。扉子とそっくりな智恵子だった。1973年11月

 昭和編「道草」 1973年11月、篠川登 20才大学生 土曜日父親不在で店番中。
 常連客の女子高生・三浦智恵子が来ている時に、兼井と名乗る夫婦が来た。将来古本を集めた博物館を建てると言う。死ぬ時に全て燃やすことが夢だと言う。兼井健蔵は、久我山尚大が、鎌倉文庫の持ち主を見付け買わないかと打診された。久我山を信用できない兼井は、ビブリア書店の聖司に持ち主との交渉をしてもらいたかったと言う。会う日を早めてほしいと言ってきた。
 日曜日 昨日の話を聞いた智恵子とヒントから見付けたもぐら堂を訪ねる。前々から利平は、友達から鎌倉文庫を買ったと吹聴していたようだ。久我山の番頭・吉原と話していることで凡は判った。古書店の経営者は利平の弟・清和のようだ。利平は財産を全部失い弟の所に転がり込んだと言う。話を聞いても智恵子は納得しない。また、清和はビブリアさんに相談したいことがあると伝えて欲しいと言う。
 車で出発しようとしている利平に乗せてと頼んで智恵子と登は乗る。智恵子は利平と話し、売れ残っている土蔵に行く。窓が開いている。上手く話に乗せた智恵子は土蔵の中を見た。鎌倉文庫の本があった。利平が驚いている。清和が来た。突然手に入れたのは清和だった。良い買い手という兼井は最終的には本を燃やすと言う人だから、別人に売って欲しい。智恵子は私に任せてと言った。利平は八ミリの撮影を頼んだ。智恵子がカメラ、登は土蔵の扉を開けた。そして登と利平は除外された。後日、聖司も相談に乗ったようだ。本は別の人に買われたようだ。
 三浦智恵子は、久我山の隠し子だと言った。彼女は、取引を紹介した礼にもらった「道草」の初版本を登に預けた。

 平成編「吾輩は猫デアル」 篠川登 49才 
 家庭の事情から大学院をやめた智恵子はビブリア堂で働き始めた。結婚の申し込みをした時、いつか突然いなくなるかもしれない。それでもよければと条件が付いた。登と智恵子は結婚した。栞子と文香が生まれ、十数年の穏やかな日々の後、智恵子は姿を消した。二年前のこと。
 栞子が、オークションサイトで、鎌倉文庫の「道草」と「吾輩は猫デアル」が出ているのを見付ける。鎌倉文庫に興味を持つ。そんなところに兼井健蔵の妻・花子が来る。健蔵が相談があると言う。健蔵は命が短いと話す。1973年の出来事を栞子に話す。
 健蔵は、三十年前に手に入らなかった本が、一冊手に入った。持ち主を探し出して何冊か売って貰えるよう交渉して欲しいと言った。栞子が質問する。本を保管している本館を見る。もぐら堂で質問した栞子は、オークションの出品者も「吾輩は猫デアル」に何が起こり鎌倉文庫の本がどこにあるか全て判ったと言った。
 栞子は兼井花子を訪ねた。お金が欲しい娘が、父親の本を売った。慌てて母親が買った。今回のことはそういうことだった。
 三十年前、智恵子が、鎌倉文庫をまとめて買うように仕向けたのは兼井健蔵の妻だった。古書に興味なさそうに言う花子が、本当は好きなことを見抜いた智恵子は健蔵に内緒で買うことを勧め、今まで内緒にしてきた。
 栞子の助言通り、花子は手に入ったと「吾輩は猫デアル」の中と下を健蔵に見せた。健蔵は花子にそれを読んで、死んでから感想を聞かせてくれと言った。栞子と登は帰った。その後、花子が何を話したか知らない。

 エピローグ このパーティは花子が開いたものだった。生前葬だと言う。
 本館に呼ばれた篠川家と戸山家の者に、夫と私が集めた古書を孫・益代が、整理して並べた。有料の会員制図書館として営業すると話した。鎌倉文庫と名付ける。みんなは、名誉会員になった。利平は八ミリカメラで撮りたがった。圭と扉子が交替で撮った。


 

2024年7月6日土曜日

鎌倉署・小笠原亜澄の事件簿② 由比ヶ浜協奏曲

 鎌倉署・小笠原亜澄の事件簿② 由比ヶ浜協奏曲 鳴神響一

 七月下旬の土曜日、鎌倉海浜芸術ホールで、新日本管弦楽団の演奏会中に、第一バイオリンのコンサートマスター・三浦の頭上に鉄球が落下し死亡する事件が起こった。超小型ロボットアームが取り付けられスマホで捜査されたものだった。

 鎌倉署刑事課強行犯係の巡査部長・小笠原亜澄と神奈川県警捜査一課・吉川元哉巡査長は組み、鑑取りに回った。

 指揮者・里見は、36年前、チェコ響のバイオリンで駄目だしされ解任され失業し一年も経たないうちに病没した三浦倫安の12才の遺児のために多額の経済援助をした。遺児は楽団のコンマスになった。今回亡くなった三浦倫人だった。
 里見は、難聴だった。12年隠していた。
 里見が、楽団の事務局長の石川が、楽団の経費の着服をしていることを知った。石川に自首を進めた。
 三浦は、四か月前、父親の解任のきっかけが里見だという話を知り、敬愛が憎しみに変わったと、ピアノの椎名は言った。

 石川は、ライトの台にアームを取り付けケトルベルを付けたことを認めた。経費の着服を知られた里見を殺すために。スイッチを入れて亡くなったのは三浦だったので驚いた。三浦は殺していないと言う。石川は逮捕された。
 アラームが解除されたことに不信をもっている小笠原は、三浦を殺した犯人と思っている人に罠を仕掛けた。同じように上から物を落とした。ケトルベルとそっくりな素材が柔らかいもので出来ていた。椎名は自分がやったと自供した。石川が仕掛けるのを見た。敬愛する里見を憎むようになった三浦を殺そうと思ったと言った。それを聞いた里見の娘は、里見の難聴のことを暴露しようとした三浦を殺したのだと言った。里見の推薦で賞がとれる寸前だったから。

 

2024年7月1日月曜日

女系図でみる日本争乱史

女系図でみる日本争乱史 大塚ひかり

 みんな身内の争いだった。母親は誰か。に注目した女系図。丹念に読み解けば日本史のややこしい部分がクリアに見える。

 何故、中大兄皇子は長い間天皇に即位しなかったか。

 応仁の乱の本当の原因は何か。

 慶喜は何故戦わず降伏したか。彼は公家だった。 

2024年6月25日火曜日

吉屋信子全集9 女人平家(全)

 吉屋信子全集9 女人平家(全) 吉屋信子

滋子・(時子異母妹)後白河上皇 憲仁親王
郁子・(時子異母妹・宗盛の室)
 
昌子、盛子、徳子、寛子、典子、佑子(冷泉家)、

大江広元、三善康信
藤原信隆、信清、殖子、

 

2024年6月10日月曜日

浮世絵宗次日月抄上 蒼瞳の騎士

 浮世絵宗次日月抄上 蒼瞳の騎士 門田泰明

 命を賭した決闘で鉄砲玉を打ち込まれた宗次は、西洋人女性医師・アリシアに救われた。
その間に「井華塾」が爆発炎上、妻・美雪や菊乃らが犠牲になった。悲嘆する宗次が塾跡へ行く途中、覆面侍に襲われる。アリシアはサーベルで次々と刺客を倒す。

 宗次が襲った者の正体を探る中、アリシアが拉致された。宗次は東海道を下る。

 美雪の父・西條山城守と大目付彦坂壱岐守は、井華塾を爆破した者を見たと言う者に会いに行く。彼は殺されていた。二人は銃で狙われる。壱岐守は撃たれ、山城守は対戦するが巨漢の男に逃げられる。

2024年6月8日土曜日

風烈廻り与力・青柳剣一郎 妖刀

風烈廻り与力・青柳剣一郎 妖刀 小杉健治 

 腕の立つ武士ばかりを狙う辻斬りが出た。亡骸の状態から妖刀雲斬丸だと考えられた。ある旗本からから盗まれ密かに探索を命じられていた。

 盗んだ者、盗ませた者、使っている者、順に判って来た時、盗ませた商家の主がと店者が殺される。
 辻斬りに息子を殺された安本が、復讐しようとしている。安本は青柳の若い頃の道場仲間だった。安本は刀を持つ御家人を殺した。剣一郎は、辻斬りに殺されたように見せ、殺したのは父親安本だ。犯人を殺してしまえば判らないと考えたと思った。盗み出した者を調べ聞き出す。安本にぶつける。安本は、青柳が見逃してくれるものと思い込んでいた。それによって、清廉潔白の青柳に染みを付けられると思っていた。剣一郎は見逃さなかった。剣一郎は刀を抜かなかったが、安本も剣一郎を斬れなかった。安本家は廃絶になる。
 養子になった善一郎は、言い様がないほどの悪だった。そんな息子に安本家を渡せないと考えた行いだった。

2024年6月6日木曜日

あきない世傳金と銀特別巻下 幾世の鈴

あきない世傳金と銀特別巻下 幾世の鈴 高田郁

暖簾 明和九年 1772年 
 桔梗屋の番頭から五鈴屋高島店の支配人になり、今は五鈴屋八代目徳兵衛となって十八年になる周助。九代目を考える時期になった。 周助は、元桔梗屋の旦さん95才を看ている。
 六代目の智蔵の息子が、紙屋伊吹屋の息子・貫太として生きていることが判った。紙屋三つ峰で手代をしている。五鈴屋縁の者だけが持つ小風呂敷を持つ貫太だか、伊吹屋を継ぐ、自分の父親は伊吹屋文伍だという貫太。周助は、九代目は賢輔にと思うが、賢輔は、幸と一緒になると言ってきた。周助は、九代目に譲ったあと、桔梗屋の暖簾を揚げ、太物商いをしようと思っている。

 菊日和 行人坂の大火で、「菊栄」も五鈴屋江戸店も、惣次こと保晴の井筒屋も蔵だけを残して被災した。菊栄も井筒屋も再建した。蔵の中の物を売って売り上げた。菊栄は、惣次から助言を受けている。今の惣次には情があった。菊栄はまた新しい物を考え出す。五鈴屋も協力し、売り出す。
 五鈴屋の再建をせず、御救小屋の施しをする五鈴屋に、隣の商家から値引きされた土地を提供された。店は大きく再建された。
 幸と賢輔は大阪へ旅立った。菊栄の実家・大阪の紅屋が潰れた。

 行合の空 播磨の国、赤穂郡の東端、揖西との堺に、結と忠兵衛と、桂・姉・十、と茜・妹・七が、旅籠「千種屋」を営んでいた。忠兵衛が重追放になって十年。子宝に恵まれたため生き抜いた。忠兵衛は病気から立ち直った時、執着を手放していた。結は、姉・幸にそっくりな桂を見ながら姉への嫉妬や憎しみに捕らわれ続ける。
 桂は泊まり客にお守りを作る。桔梗屋の白地に藍の浴衣地の話が聞こえてくる。結は唯一の財産・型染の枠を持ち出し見せる。仲買人は一笑に。やってきた忠兵衛は、貶めた限りは制裁をと昔の顔を覗かせる。商いの息の根を止めることなぞ、案外、造作ないことだと言った。
 茜と桂が麻疹に掛かった。生き長らえるのは難しいと言われる桂。桂と茜を、自分に照らし合わせて考える。桂は助かった。結は姉さん幸せでと願う。

 幾世の鈴 天明五年 1785年
 三兄弟に嫁いだことを意に介さず幸を慈しむ賢輔。九代目徳兵衛。 開店から百年。
 御上からの御用金の話は無くなった。しかし、賢輔は、尼崎藩に五百両を貸し付けることにした。手代や番頭が集まった時、何故出すのかという話になった。一人が、色々な縁が結ばれ商いは成り立つ。人さんに手貸せる時は貸して、借りる時は借りる。「万里一空」と言った。
 背負い売りをしている者が、伊勢に行く賢輔と幸に、播磨で手に入れた泊まり客のために作られたお守りを出した。良く守ってくれると噂で泊まり客が絶えないと言う。ひとつ鈴がついた可愛いお守りだった。
 伊勢での旅で、賢輔は百年後の店のために百年の店の来し方を書き残そうと話す。
「商い世傳」
 

2024年6月4日火曜日

神田職人えにし譚 相槌

 神田職人えにし譚 相槌 知野みさき

 雪の果て 仕立屋の参太郎の妹の守り袋を作った。妹・朔が無くした守り袋を一緒に探した。岡っ引きに拾われ朔の手元に戻った。咲は、昔妹・雪のお守りのことを思い出した。咲は熱を出し倒れた。やってきた修次に寝床に運ばれたようだが咲の記憶にはない。修次を父親と勘違いし、夢の中で父親の亡くなってからのことを話す。
 咲の熱のために雪の祝言は日延べになった。雪は大工・小太郎と一緒になる。祝言は、小太郎の兄・源太郎と一緒にする。源太郎は大工。祝言と同時に独立する。

  友誼 咲はしろとましろを友達と紹介する。しろとましろは、人と人の縁を結ぶのが仕事か。知り合った駕籠かき、典馬を紹介して欲しいと歳永が亥太郎を連れてくる。亥太郎は、典馬の父親・典正の友達だった。昔の恩を返すという。典馬は、新しい仕事を始めるので借りることにした。
 咲は昔馴染み、素と駿と合った。素とは、話があった。駿は、気楽な生活をしていて、人の噂話をし廻っていた。

 相槌 咲は典馬を通じて壱と出合う。壱は寺子屋の師匠、吉原の師匠もしている。咲は、修次と一緒に吉原の秋海の小物を作ることになっていた。壱は、読み書きは勿論、算盤、詩歌、将棋、囲碁、算術、本草学を教える。
 咲は修業先の親方の頼みで仕事場に通い、「小鍛冶」の童子の能装束の縫箔をすることになった。意匠も自分で考える。しろとましろは、小鍛冶の話を修次にする。意匠も咲のですることになり最後までやり遂げた。啓吾の嫁・千紗は、咲の駕籠かきやら錺師やらとの付き合いをみだりがましい仲と吹聴する駿に、下品な世間話は、店やおかみさんの評判を貶めやしませんかと言ったと伝えた。
 壱と一緒に吉原へ行った咲は、秋海に会った。秋海のはなしを聞き、秋海の簪を頼んでいる杏輔にはなす。秋海には身請けの話があった。杏輔は身請けすることにした。簪の注文を櫛に変え、秋海堂のまま櫛と櫛入れを作ることになった。二人でどんどん話が進む。杏輔は、秋海を身請けし、祝言を挙げた。

2024年6月2日日曜日

新・秋山久蔵御用控〈十八〉 流人船

 新・秋山久蔵御用控〈十八〉 流人船 藤井邦夫 
 
 真似事 常磐津の師匠が殺された。出入りの小間物屋・巳之吉が疑われる。巳之吉が姿を消し疑いが濃くなるが、巳之吉は浪人に監禁されていた。犯人は小間物屋の主・吉五郎だった。吉五郎は小間物の行商をしていた頃、殺人犯にされかけ死罪になるところ秋山に助けられたことがあった。

 流人船 十年前、博打打ちの貸元や用心棒を斬ったため遠島になった高岡又四郎が、島で死んだことが伝えられた。秋山は、妻・そのの不穏な動きを見張る。水野が欲しがる「五石散」を手に入れたそのは、水野に逢う。十年前、貸元を殺すよう金を出したのは水野だった。そのは水野に突きつける。現れた秋山に捕まる。水野は切腹、そのは高岡が死んだ島に流される。

 由松命 女郎を経て、隠居の妾の後、自由になり料理屋の仲居をしているすみが殺された。すみの左腕に「由松命」と彫られた古い入れ墨があった。由松はすみの由松を探す。子供の頃年季奉公に出され小女として扱き使われていた頃、腹を空かせたすみに、近くの豆腐屋の小僧が、自分で握った塩結びを分けてくれた。小僧さんとは会えなくなったが、由松命と彫り、いつも一緒だと励ましていたと聞いた。由松は豆腐屋を逃げていた。由松命は由松自信だった。
 すみは、盗賊の万蔵から逃げた長吉が、昔の馴染すみの所に逃げ、追ってきた万蔵に殺されていた。秋山は夜桜の万蔵を捕まえた。
 由松はすみの遺体を引き取り、秋山のつてで墓を建てた。

 茶番劇 呉服屋の主人から若旦那を殺されたくなければ百両用意せよと書かれた手紙を見せられた。百両を持ち渡しにいく喜多八を憑ける。喜多八が殺されそうになる。最期に行き着いたのは、若旦那の遊び仲間のところだった。そこに若旦那が来る。
 呉服屋の主人は・重過料の刑。若旦那と仲間は遠島、犯人に仕立てられそうになり、命を取り止めた喜多八は放免された。

2024年5月31日金曜日

警察小説傑作選 相克

警察小説傑作選 相克 西上心太編

区立花園公園 大沢在昌
 鮫島33才、本庁公安外事二課から半年前に転任。公安部長にタテついてネタを握って渡さなかった。懲罰人事。警部のまま新宿にきた。 藤野組と繋がっている大森をつけている鮫島。嫌った大森は、鮫島を狙う。その前に入り込み鮫島を助ける死体といわれている課長。課長と鮫島は、移動がない。

新宿心中 藤原審爾
  無理心中にしてほしいと一千万の小切手を受け取る。返したことですっきりし、生活も穏やかになる。見てきたことを繋ぎ合わせ、競り市の場所が判る

日曜日の釣りは、身元不明 小路幸也
 駐在日記

月の雫 大倉崇裕
 月の雫製造の酒蔵の社長が、蔵を買収される酒蔵の社長を殺した。小柄な警補・福家が社長を追いつめ逮捕に至る。

オブリカード 今野敏
 警視庁捜査一課の刑事だった相楽は、東京湾岸臨海署の強行犯係、「相楽班」。もう一つ、「安積班」があり、安積にだけは負けまいと思っていた。安積班の追っている事件と相楽班の追っている事件が交わり、安積は、自分たちの情報を余すところ無く指し出した。二つの事件が解決した。オブリガードな関係。



2024年5月29日水曜日

明日は結婚式

明日は結婚式 小路幸也 

 パン大好きな信用金庫勤めの伊東春香26才が、実家がパン屋さんのグラフィックデザイナーイラストレーターの細井真平31才と結婚することになった。

2024年5月26日日曜日

荻窪シェアハウス小助川

 荻窪シェアハウス小助川 小路幸也

 沢方佳人、高校三年生、将来何をするか決められなくて酒店でアルバイト中。中学一年生の時、父を亡くし、忙しい母に代わり家事全般を完璧にこなす。母が心配し、巣立つために、近くに出来たシェアハウスに四月から入る契約をする。

 シェアハウス小助川は、元医院。タカ先生57才は、父親と母親を一遍に亡くし、二年前に医院を閉めた。和洋折衷のこの建物が好きな相良奈津子は、会社に持ちかけタカ先生に持ちかけ医院をリノベーションし、シェアハウスにした。タカ先生は元々の渡り廊下で繋がる母屋に住む。

 三月、引っ越しをした。
 三浦亜由22才 大学を卒業し近所の幼稚園の先生になる。
 細川今日子18才 高校を卒業し、荻窪の本屋に就職
 柳田茉莉子40才 近くの歯科医院で歯科衛生士をしている。
 橋本恵美里18才 四月から大学生。
 大場大吉37才 レストランのウエイター
六人の生活が始まった。

 ゴミの中からマッチの軸が箱一個分見付かり、亜由は何しているという話になる。亜由は、家族を顧みない画家の父との関係から自分に自信を持てなくなっていた。先生と話し、ゆっくり生きていけばいいと言われる。
 恵美里の先生に対する態度から、佳人が発した質問から、先生が気が付いた。恵美里は、先生の二十年前に離婚した妻の再婚後に生まれた娘だった。相良奈津子は、元妻の妹だった。相良は二年前に離婚した夫の苗字だった。
 大吉は、六月が苦手だという。商社マンだった十四年前、仕事で失敗し、自殺未遂をしたのが六月だった。弟は、北海道に帰らない兄を心配して東京で一緒に暮した。弟と彼女が薬を使っているところを見た。警察が入り弟を北海道に帰したのが六月だったという。
 みんなでバーベキューをした。
 九月、火事発生。外の物置が火元だった。放火の疑いで捜査する。おまわりさんも、消防士さんも元患者だった。親切だった。
 放火犯が捕まった。アパート擬のシェアハウスなどに住んでる連中が赤の他人同士なのに仲良くしているのを憎たらしく思って燃やしてしまえと思ったらしい。
 佳人と大吉は先生と母屋に住んでいる。
 建て直すために二か月が必要らしい。
 佳人は、一年で実家に帰るつもりだ。一年でお金を貯めるという。大吉は、ウエイターでなく厨房に入る。いつか自分の店を持つと考えた。
 先生が犬小屋を造り、犬を飼い始めた。
 十二月、工事が終わり、みんなが帰って来た。
 先生は、母屋を改装し、シェアハウスの食堂兼、レストランにしようと思っていると発表する。薬膳料理だけでなく、心も身体も健康にいい料理を出す。こつこつ一人で改装するので何年掛かるかわからない。大吉と佳人に任せたいと言う。一年後、三人で始める予定になる。
 佳人はフランスに行くことになった。南フランスのレストランで、食材の野菜を作り牛や鶏を飼っている。日本の家庭料理ができ、農作業を進んでやりたがる下働きを希望していた。給料は出る。農家に住み込み、家賃も食費もいらない。
 フランスに到着。恵美里に彼女を作らないことを約束させられた。二日目に〈お土産リスト全員分〉が届いた。プリントアウトして壁に貼る。リストを見ながら買い物する日を楽しみに頑張ろう。
 



2024年5月23日木曜日

ひとりみの日本史

ひとりみの日本史 大塚ひかり

 ひとりみを肯定的に描く大古典
 太古の日本の家族観 夫婦は家族の最小単位ではなかった。
 竹取物語は結婚拒否の話だった。
 源氏物語 結婚が権力の道具だった時代の結婚拒否の思想
 仏教思想とひとりみ。源氏物語で理想とするのはひとりみ 

2024年5月21日火曜日

最愛

 最愛 小杉健治

 鶴見京介は、同期の的場から強盗殺人容疑の栗林の弁護に付いて相談を受ける。
栗林は、闇バイトで強盗に入ったことは認めたが、殺人は否認。バイト仲間のイチローが殺したと主張するが、その男の存在が証明できない。
 一方、鶴見は撲殺事件の容疑者の弁護を引き受ける。半グレだった被害者を調べると、被害者の店の社長・今川が半年前にひき逃げに会い亡くなっている。まだ犯人は見付かっていない。社長のひき逃げ、今回の撲殺事件調べていると、もう一人の社員も殺される。
 今川の恋人、今川の妻、今川の妻が、今回の容疑者の愛人だった。そして依頼人でもある。
 調べていくと的場の事件と繋がっていく。

 今川の愛人・ちずえは、今川のひき逃げの理由と犯人が分るUSBメモリーを警察に届けるようにと、渡されていた。ちずえは、犯人への復讐に使った。
 今川をひき殺した犯人は、最期に殺された社員、殺す段取りを整えたのは、撲殺された社員・高井。容疑者になったのは今川の妻の愛人。憎しみから容疑が強くなるように、犯人から渡されたハンマーを彼のマンションの近くに捨てた。撲殺したのは、高井が強盗殺人のために雇ったイチローだった。今川がちずえに渡したのは、この事実の証拠だった。今川が、高井の闇バイトを知り警察に連絡しようとしたことで殺されたのだった。ちずえは、イチローを雇い高井と須田を殺させた。
 ちずえは、イチローを殺して自死を考えていたが、鶴見のところで自白し警察へ自首した。

 強盗殺人もひき逃げも撲殺事件もナイフで刺された事件も解決した。

 ちずえは今川を愛した。今川の妻は、今川を愛した彼女を支えようと思った。
 

2024年5月19日日曜日

芋洗河岸3 未だ謎 完

 芋洗河岸3 未だ謎  佐伯泰英

 小此木善次郎が一口長屋に住み始めて二年が過ぎた。

 神田明神で一年前から続く賽銭泥棒の捕縛に乗り出し捕まえた。シング神具誂えの高砂屋一門だった。賽銭箱を二つ用意し、小銭の入った賽銭箱と釣り上げて交換していた。
 賽銭泥棒を捕まえた礼金は、高砂屋一門の代わりに神具誂えをする、高砂屋分家の指導料に使われることになった。
 越後屋の要請で、松平邸に行く。次弟の継右衛門との立ち合いで小此木が勝てば借財の一部四千両を返済、継右衛門が勝てば、八千三百両の借用書を廃棄するという。継右衛門は亡くなった。越後屋は四千両を持ち帰り、松平家の借金を帳消しにした。
 善次郎は継右衛門を斬ってしまったことに後悔した。

 長屋の一室に半二階を作った八五郎たちは、越後屋に報告する。越後屋はこんな危ない物は駄目ということで大工を入れ正式な半二階を造作した。善次郎の長屋は、増築された。一階は台所土間と二部屋になり、二階ができた。二階は周回廊下で囲まれた床の間付きの六畳間だった。

 二階で、中秋の名月と不忍池に反射した光で愛刀・國重の抜き身が、神秘の光に彩られていた。今後自分の成すべきことを考える。

 生後一月の犬を長屋で飼うことになった。息子・芳之助に、もみじを家で飼いたいならば道場の稽古に行くと条件を付けた。

 善次郎は愛刀を封印した。越後屋の共で真田家に行く。善次郎は竹棒で対する。越前屋嘉兵衛は家老は向後百年を熟慮し、あえて惨敗という結果で、奮起させようとしたのではないかと思った。

2024年5月17日金曜日

書院番勘兵衛〈二〉 怨気の剣

 書院番勘兵衛〈二〉 怨気の剣 鈴木英治

 勘兵衛が、書院番になって一年。(前の話は、久岡家は書院番だったが、徒目付頭・飯沼麟蔵に引かれ徒目付になっていた。)
 亡き親友、妻・美音の兄、蔵之介の墓参りの帰路二人組に襲われる。相手にはまったく覚えがなかった。
 勘兵衛の前を行く四人組の武家が襲われた。主人・原田が斬られ、家臣も斬られる。中間二人が動けない状態だった。勘兵衛が声を掛け抜刀する。襲撃者は頭巾をしていた。襲撃者が目を見張った。勘兵衛の見覚えのある目だった。襲撃者は逃げた。飯沼に知らせた。
 原田家に養子に入って十六年、死んだ家臣は岡本。養子に入ってすぐ呼び寄せ用人が亡くなって用人にした。

 履物商の鈴野屋伊兵衛が勾引かされた。富裕な商家の勾引かしが五件起きていた。奉行所に知らせず金を払い助かった者、亡くなった者があった。鈴野屋に伊兵衛直筆の手紙が届き、三百両を払い、翌々日、伊兵衛は怪我もなく見付かった。
 稲葉七十郎は、隅田川神社近くの小川に顔を突っ込んで死んでいる男が見付かった。名前も住所も分らない。饅頭を十二個包み紙に入れて持ったままだった。
 田村屋が勾引かされた。二度目だった。半年前は千両払って助かっていた。今度は遺体で発見された。
 田村屋は半年前、勾引かされた時、犯人達と田村屋の息子・吉太郎と伊兵衛を殺すことを約束させ千両払っていた。吉太郎は五か月前、寺の階段から落ち死んでいた。事故死とされた。

 原田の前身が分った。丹波の大名の家臣、勘定方勝浦辰之介。三千両を横領し、姿をくらましていた。十年前、原田を襲った浪人は、上役の息子だった。上役は切腹していた。浪人は殺された。その息子が、原田家の中間になっていた。もう一人原田の追ってがいた。原田が逃げる時妻を奪われた、家中一の使い手・鈴木哲之進。その後、藩主の乱心で藩は取り潰しになった。麟蔵たちは、鈴野屋伊兵衛が、原田を殺したと考えたが、七十郎と会い、その時勾引かされていたことを知る。

 勘兵衛を狙った二人組は、一年前の事件を起こし改易になった植田家の女中・豊の息子兄弟だった。豊が亡くなりしがらみが無くなった。憎しみをぶつけていた。
 原田を殺した男にも狙われる。
 
 田村屋と伊豆見屋が組んでいたことが分る。伊兵衛が、伊豆見屋を狙いに来た時、麟蔵の要請で勘兵衛が一緒だった。伊兵衛と勘兵衛が戦っている最中、伊豆見屋が伊兵衛を刺した。二人は死んだ。
 伊兵衛は、勾引かされてすぐ、四人を殺した。買い物に出ていた男が帰ってきた。留めをさせないまま逃げた。原田を殺して、見付かる所にいた。
 伊兵衛との出会いを思い出した。十五年前、二人の浪人に集られていた行商人を見付けた勘兵衛は、「お役人、あそこです。早くはやく来て下さい」と叫んだ。浪人は逃げた。行商人は伊兵衛だった。

 勘兵衛を狙う者がいなくなったと思ったが、勘兵衛は、狙われた。
 勘兵衛の同僚に、小島三郎兵衛と近藤松左衛門がいる。二人は仲良しだ。三郎兵衛に命を狙われた。松左衛門は掏摸を働く。勘兵衛が感ずいたと考えた三郎兵衛は、勘兵衛を殺そうと考えた。強かった。松左衛門が現れ三郎兵衛を連れて行く。松左衛門は届けを出し切腹した。三郎兵衛も切腹。

 七か月経った。美音が女の子を産んだ。古谷の女中・多喜が取上げた。多喜が久岡の家に来ることになった。

 

 
 

2024年5月15日水曜日

隠密船頭〈十二〉 仇討ち

隠密船頭〈十二〉 仇討ち 稲葉稔

 南町奉行・筒井伊賀守の「隠密」沢村伝次郎は、過去の裁きの再探索を下知された。
 酒問屋仲間の行司役の徳兵衛が、肝煎り・矢野屋弥兵衛に斬りつけた事件だった。幸い傷は浅く、徳兵衛は捕らえられ「中追放」となった。徳兵衛は、後に自ら命を絶った。徳兵衛の仇討ちを企む者がいるらしい。徳兵衛は調べでも何も話していなかった。 

 伝次郎の調べで、仇討ちをしようとしているのは、息子の勘次郎、番頭の利兵衛、徳兵衛に助けられた浪人・丸橋金三郎の三人だった。
 徳兵衛は商売上手だった。問屋仲間に入りたい店があった。鹿島屋を仲間に入れるために松村屋が邪魔だった。鹿島屋を仲間にすれば、矢野屋に利が入った。行事役がうまく廻らないようにしたり、松村屋の内情を調べるために勘次郎の女房を呼び出し手込めにしたりした。辰は離縁され自殺した。問屋仲間の内にも不平不満が溜り、仲間が壊れそうになっていた。徳兵衛は決心し、弥兵衛に斬りつけた。

 徳兵衛の気持ちを知った三人は、弥兵衛が寮にいる時を狙う。利兵衛と金三郎は、近所の空家の柱に勘次郎を括り付け二人で行く。張り込んでいた伝次郎に止められる。利兵衛は、弥兵衛が勘次郎に謝ってくれれば、殺す気はなかったという。もし謝る気がなくて、殺してしまっても、勘次郎は、新しい店のためにもここにいない方がいいと考えていた。弥兵衛はやったことを暴かれ、連れてこられた勘次郎にも謝る。利兵衛は千両出し、肝煎りを下りると念書を書いた。伝次郎は引き上げた。
 矢野屋を潰す気はなかった。店には奉公人がいる。利兵衛はいった。
 肝煎りを下りた翌日、弥兵衛は卒中で死んだ。

2024年5月13日月曜日

上泉信綱伝 第一部 新陰の大河

 上泉信綱伝 第一部 新陰の大河 上田秀人

 上野国箕輪城主長野業政に仕える上泉信綱。関東管領・山内上杉家憲政と扇ガ谷上杉家朝定、関東公方・足利晴氏の連合軍を守るため獅子奮迅の活躍をするが、主君の嫡男・吉業を失った。憲当と名乗りを変えた憲政は、長尾景虎を頼り越後に逃げた。業政は関東管領を見限った。武田晴信の誘いも断り独自の勢力として西上野を死守することにした。1552年

 上杉景虎関東管領に任じられる。1560年
 北条討伐に加わった業政だったが、北条を小田原に押し返しただけで終わった。業政が亡くなる。1561年
 兵法を極めよという業政の言に従い上泉信綱は、家督を秀胤に譲り、弟子・疋田文五郎と神後宗治の二人を連れて廻国修業の旅に出た。
 信濃の国諏訪大社で奉納演武し、常陸の鹿島神社に詣でる。
 塚原卜伝に会う。話をし、三日滞在して鹿島を発つ。卜伝に京を目指せと言われ、言われた通り京を目指す。
 伊勢の北畠家に滞在し、具教から柳生里の柳生新左衛門に逢って欲しいと頼まれ大和柳生の郷へ行く。

2024年5月10日金曜日

ビブリア古書堂の事件手帳〈Ⅲ〉

ビブリア古書堂の事件手帳〈Ⅲ〉 三上延
 〜扉子と虚ろな夢〜

 プロローグ 五日前
 栞子は樋口という女性から、息子の父親が亡くなり、相続するはずの息子の本が、売られようとしている。どうにか止めてほしいと言われた。
 扉子は話を聞いた。マイブックに記録する。扉子がマイブックを持っていることを両親は知らない。

 初日 映画パンフレット「怪獣島の決戦 ゴジラの息子」
 樋口恭一郎は、実父の父親・杉尾正臣に、藤沢古本市での手伝いを頼まれる。大輔が相続したわけでもないのに売るのは拙い、というと、相続した者が売っていいと言っていると言い、恭一郎に返事を迫る。扉子も一緒にバイトする。
 ゴジラの息子とインターステラーの値札をすり替えられた。扉子の言う通り近くのコンビニで二人は捕まった。一人が廻りを混乱させ、もう一人が値札を替えて支払う。
 映画パンフは康明・恭一郎の亡くなった実父の蔵書だった。康明の幼少時、塗り絵をしたパンフだった。これらのパンフを杉尾・祖父が買った。

 二日目・樋口一葉「通俗書簡文」
 恭一郎は、父親が、十五、六年 前にいなくなり、五年後位に帰ってきたことを知った。母・樋口佳穂が訪れ、父のことを話した。いなくなっていた五年間、父は事故に遭い記憶を無くしていた。その間に父と母は離婚していた。帰って来た父は、記憶が戻らないままだった。
 樋口一葉の本に五千円札が挟まれているのが見付かった。お札番号の1から5まで5冊あるようだ。四冊は見付かった。挟まっているらしい本は売れていた。扉子は、今夜中に五千円が戻ると言う。
 本を買ったのは、恭一郎の母・佳穂だった。もともと佳穂は大学時代一葉の研究をし、康明の蔵書となった本は、佳穂のプレゼントだった。
 康明は、昔と同じ家に住んで、同じ仕事をしてでも記憶は戻らなかった。持っていた蔵書を読んで自分が何を好んで、何を考えていたかを学んでいった。自分が死んだら好きな本を持って行って欲しい。大切な人に自分の一部を持っていてほしい。という思い。

 半年前
 康明が九州にいるところを見付けたのは篠川智恵子・栞子の母親だった。
もうすぐ、入院するという康明に「ドグラ・マグラ」初版本を入院時に持って行って欲しいと本を渡した。

 最終日・夢野久作「ドグラ・マグラ」
 最終日が終わった後、杉尾の家にみんなが集まる。智恵子も来る。智恵子は杉尾に、売る売ると言いながら売ってしまったように見せて、康明の蔵書を自分の物にするつもりだったんだろうと言う。佳穂は智恵子と謀り、蔵書を持ち出し焼いてしまった。佳穂は、恭一郎が彼の蔵書を読み、同じようにならないか心配していた。康明の時は、恭一郎がいたから耐えられた。恭一郎が同じようになると耐えられないと思った。

 エピローグ1ヶ月後
 恭一郎は、佳穂と顔を合わせなたがらない。週の半分を祖父のところで過ごす。祖父は、佳穂が蔵書を処分しようとしていることを感じ、残しておきたいと考えていた。
智恵子の家に康明の蔵書の七割が揃った部屋がある。恭一郎に、好きに読んでいいよと言う。智恵子は、自分の後継者を探していた。娘夫婦を考えていたが、栞子は別の道に行った。恭一郎が候補だった。そして扉子。扉子をここに通うように仕向ける小道具は用意した。大輔の物よりもっと完全なビブリア古書堂の事件手帳。黒い本だ。

 


 

2024年5月8日水曜日

ビブリア古書堂の事件手帳

ビブリア古書堂の事件手帳 三上延 
 〜扉子と不思議な客人たち〜

 2018年秋 五浦大輔と栞子が結婚して七年。二人の間に生まれた娘・扉子六才。栞子にそっくり。
 七年前から、洋古書の売買を母・智恵子から学び、今は、夫婦交替で海外の智恵子の手伝いをする。
 青いブックカバーを付けた大輔の本を、どこかに置きっぱなしだから探して置いてほしいと大輔が栞子に頼んだ。

 与田準一編「からたちの花北原白秋童謡集」
 平尾由紀子の父の腹違いの弟・坂口昌志が四十年前に、銀行強盗をして捕まった。由紀子が幼稚園に入った頃、刑期を済ませた後、半年間由紀子の家にいた。由紀子が小学四年生の頃、法事で来た昌志は、由紀子の家に泊まった。その夜、叔父が由紀子の部屋へ入ったことを見咎められ叔父との行き来はなくなった。今、父が入院し、叔父に子供が出来たことで、由紀子は父に頼まれお祝いを持って行く。そして本を一冊。からたちの花を読んだ時、幼い頃寝る前に父が本を読んでくれたと思っていたが、あれは叔父だったということが分った。からたちの傍で泣いたよ・・・からたちの傍で笑うよ・・・。
 お父さんの本あった?と扉子が、大船の今は本置き場になっている大輔の実家に付いてくる。

 「俺と母さんの思いでの本」
 息子・秀実がなくなる数日前に電話で、母親が送った荷物の中に、「俺と母さんの思いでの本」が入っていた。今度プレゼントすると言っていた。母親も、妻もそれがどの本か分らない。栞子にその本を探してほしいということだった。
 秀実の妻から、少し前に友人・岩本が借りていた本を返し、貸していた本を引き取りに来たと聞き、岩本宅ヘ行く。古本屋・滝野から蓮杖が、岩本の売った本を持って来た。栞子が電話したものだった。
 栞子は、妻・きららも呼んで母親に話す。「ファイナルファンタジーⅤピアノコレクションズ」ピアノ用の楽譜だった。秀実が、あの頃は嫌でしかたなかったけど、好きなことだけやってたら学べないことがあった。結果的にはいい経験させてもらったと言っていたというきらら。母親はいそいそとピアノに向かう。きららは聞きたいと大はしゃぎ。
  
 佐々木丸美「雪の断章
 志田は、雪の断章が手に入る度に、人にプレゼントする。篠川文香も貰った。友人・小菅奈緒は志田のことを志田先生と呼ぶ。文香と奈緒は高三の受験生。
 志田が橋の下の住み処からいなくなった。紺野祐汰が話しかけてくる。預かったという本を持って。奈緒には二冊目の雪の「断章」。紺野は志田の所に訪れた女の人が、具合が悪くなって救急車を呼んだことを話した。紺野と奈緒は志田を探していたが見付からない。紺野は、古本屋に、奈緒が受験そっちのけで、志田を探している。受験は危ないというような話を流せば、志田は連絡してくるだろうと言った。本当に連絡してきた。元奥さんの腹に腫瘍が見付かり、志田は付添いのために東京に戻っていた。志田は、紺野を知らなかった。奈緒は紺野に訳を聞く。引きこもりの紺野は、自分の部屋の窓から、奇麗な女の子がホームレスと仲良くしているのを見て、高校認定取って、大学目指そう。塾で勉強してバイトして髪切って、話を合わせられるように本読んで。少しは自信もついてマシになったかなと言う時に家族を助け、雪の断章を貰って仲良くなれるかなと思った時、志田がいなくなった。声を掛け嘘を付いたと話した。奈緒は自分のことを話してくれてありがとう。私のことを聞いて。

 内田百聞「王様の背中」
 吉原孝二は、舞砂道具店の三代目店主だ。先月亡くなった山田家を訪れ、古い本はないかと尋ねた。老女は、息子がビブリア古書店に持って行ったと言った。古書店の前を通ると、若い娘が、山田の息子と間違えて呼び込んだ。扉子が、山田の持ち込んだ王様の背中を読んでいる。孝二は、娘が、山田と間違えていることを利用して、やっぱり売るのは止めて持ち帰ると言い風呂敷に包んで駅へ急いだ。ビブリア古書堂の連中を出し抜いて人気の稀覯本を手に入れ、込み上げる笑いを抑え切れない。電車に乗る寸前、扉子と娘が追いかけて来る。反対から帰ってきた夫婦に話しかける。大輔が電車に乗った。孝二は、王様の背中をビジネスバックに入れ、コートを着替え、車両を変わった。大輔が来た。王様の背中に挟まれていた版画を一枚持っている。ひらひらと落とす。あっと思った時、大輔が空中で挟み込む。吉原さんこっちに来て。何故、自分のことが分ったのか不思議だった。
 二人が追いかけたのは版画が落ちていたのを届けるため。吉原の名前が分ったのは、老女が、ビブリアに古書を売るのをやめ、吉原に売ろうと考えたため。警察に行かないで、二人に謝り穏便に済まそうかという大輔に、孝二は、警察に行くと言った。

 これらの話を、栞子は扉子に話しながら、大輔の本を探していた。大輔の本・マイブック二〇一〇年の記録。
 

 

2024年5月6日月曜日

江ノ島西浦写真館 

 江ノ島西浦写真館 三上延

 桂木繭は、2015年1月10日、江ノ島にある祖母の写真館の遺品整理に来た。母・作家・桂木奈々美。一緒に遺品整理をする予定だったが、母は来る気はなかったようだ。繭は、大学を卒業し、就職した。写真館の二階に滋田が住み、管理を任されている。整理は、自分が居ない、8時半から夜9時までにして欲しいと言った。

 余り話をしない繭に、祖母はカメラを貸してくれた。繭は写真が大好きだった。自分が撮った写真をかってに世に出し、唯一無二の友人を失った。繭は写真を辞めた。

 写真館に未渡しの写真があった。

 真島昌和。代々似た人がというぐらい時代は違うが似た人が写っていた。認知症気味の祖母と共にいる真島秋孝という孫に写真を渡す。秋孝の祖母は、祖母・富士子を富士子お姉さんと呼ぶ。孫・秋孝を夫・昌和さんと呼ぶ。
 秋孝が家の整理を手伝ってくれることになった。

 永野琉衣の写真が出てくる。撮ったのは高坂晶穂。琉衣は、繭の唯一の友人だった人で、晶穂は、四年前縁を切った大学の先輩だった。琉衣には、教主様が付いていた。繭が撮った写真を母が本の表紙に使い、琉衣は映画出演した。大学に入り琉衣の写真を撮った。その写真がネットにばらまかれ集団自殺カルテット教主様とかで炎上した。琉衣は繭を責め、芸能界を引退し、姿を消す。繭は誰も信じられなくなりカメラが怖くなり逃げた。琉衣は繭を拒絶した。誰がネットに揚げたか判らないまま放置された。
 写真を渡すために、晶穂の居所を探す。大学のサークルの先輩に電話する。
 晶穂と写真館で会う。晶穂は仕事がなくなり困った時、この写真館の従業員だった。同じ頃、琉衣もここにいた。
 話をしていて繭は、誰がネットに流したか分った。晶穂も分っていた。

 立川研司は、婚約指輪を、写真館の棚の中にあった銀の固まりで作った。祖母は気が付いていた。死ぬ前に婚約者・現奥さんに話していた。研司は謝った。
 研司は秋孝が、前に会った人と違うと言う。

 秋孝は、事故に遭い記憶を失った。顔を整形で祖父の顔に作られた。祖母が、昌和に昌和さんはどこ?と言うようになったから。また、秋孝の顔は今の方が良いだろうという祖父。
本物の写真が、袋に仕舞われていた。秋孝は、元に戻る機会を与えてくれた繭に。顔を変えられて何も出来ずにいた自分を記録しておきたい。今の僕を撮ってほしい。あなたが、写真に関わっても誰かの人生が簡単に狂ったりしない。狂った人生が戻ることもある。写真を撮った。
 
 二階にいる管理人は琉衣だった。琉衣久しぶり。ごめんなさい。久しぶり、繭ちゃん。

 

2024年5月3日金曜日

闇医者おゑん秘録帖② 碧空の音

闇医者おゑん秘録帖② 碧空の音 あさのあつこ

 臨月近い竹という女が、産みたいと駆け込んで来た。浮腫があり、頭痛や吐き気、眩暈があるという。十両をゑんに預ける。二日後、陣痛が始まる。赤ん坊・男の子は産まれたが、竹は死んだ。竹一と名付けられ近所の磯の乳で元気に育っている。里子に出す親を見付けなければならない。

 ここから里子に出した二人の子が亡くなっていた。花は病気で亡くなった。与一は何故なくなったのか分らない。与一は二年前に貰われて行った。八か月前は元気だった。四月前に子が産まれた。内儀が与吉を折檻すると噂がでる。真相は判らない。ゑんが知った時には葬儀は終わっていた。
 ゑんは仕組みを作ろうと思う。引き取り手をできる限り江戸府内にし、少なくとも二、三年は三月に一度程の割合で様子を見る。赤ん坊の世話を請け負う者、赤ん坊の引き受け手を新しい親として相応しいが詳しく調べる者。そんな仕組みを作りたいと思う。赤ん坊の部屋を整え、母親の部屋を増やす。与一の死を無駄にはできないと思う。

 吉原の首代・甲三郎が、惣名主・川口屋にお出で願いたいと伝えに来た。
 座敷持ちの女郎・桐葉が大店の主に内儀として身請けされることになっている。桐葉が懐妊した。備後屋主人・将吾郎の子で将吾郎は喜んだ。桐葉・喜多は、身請けされることは喜んだが、子を産むことを良しとしなかった。ゑんは子を流すにしても、喜多の今の体力では母体が持たないと考え、母体を元気にしている間に産むことを説得しようと思っていた。
 喜多と共に甲三郎も手伝いに寄越して貰う。備後屋の番頭が着た。甲三郎に尾行を頼むが、いなくなっていた。番頭でもなかった。番頭と名乗った者は殺された。
 ゑんは喜多の過去を調べる。将吾郎が養子に入る前が何も分らない。甲三郎の同僚・梅蔵に喜多を連れてきた女衒・丑松のことを聞いたり、備後屋の番頭に、将吾郎の亡くなった内儀のことや先代や先代の兄弟のことを聞く。
 喜多は、竹一の襁褓を縫ったり、竹一の世話をしているうちに、産みたくなる。ゑんは、呪縛に掛かり産んではいけないと思い込んでいるように思える喜多に、産んで良いんだよという。
 
 将吾郎とゑんが呼び出され現れたのは番頭と梅蔵だった。番頭は店のお金を使い込んでいた。もともと他所から先代に引き抜かれお嬢さんの婿になった将吾郎に嫉妬し妬み憎しみが募っていた所に吉原から身請けし内儀にしようとする、その上、使い込みを指摘され命を奪おうとした。吉原の首代と親しくなってお金で梅蔵を仲間にしていた。ゑんは二人が動くように罠を掛けた。二人の悪巧みを暴く。

 ゑんの祖父は異国人の医者だった。難破し辿り着いた村で病気を治し村人と助け合って暮していた。流行病は異国から来たものだと人々が、祖父を母を殺した。その中からゑんと末音は逃げ出し現在に至る。
 将吾郎は、四国の山の中で、十才の時、母子二人で暮す親子を生け贄にした村人側にいた。父親は、丑松に息子を託した。将吾郎は江戸に連れてこられた。一年余り前に、丑松は、死を前にして将吾郎に桐葉の見守りを願って来た。桐葉を見て、身請けしようと思ったと話す。丑松は喜多の姉と恋仲になっていた。村で立て続けに起こる災いが喜多の家族の所為だと言われ、家族が生け贄に選ばれた。家に火を付け殺される。喜多の姉が丑松に妹を託した。丑松は喜多を連れ江戸に出た。自分が喜多を育てるつもりだったが、喜多を見ると村人の残忍さを思い出す。どうしようもなく川口屋に渡した。今まで見守って来たが、自分ができなくなりそうで将吾郎に託した。将吾郎なら喜多の気持ちが分るだろうと。
 そんな過去を持つ二人だった。

 喜多は、竹一の具合が悪いと知らせるために、走った。喜多は出血した。出血が止まらなければ喜多も赤ちゃんも命が無くなる。下腹の痛みに耐えながら喜多は、この子を産みたい竹ちゃんと一緒に育てたいと言うようになった。

 喜多は身請けされたが、ゑんのところで働いている。子供が出来たら、竹一と子供を備後屋の子として届けるつもりのようだ。将吾郎は、待っているつもりのようだ。
 建物の建替えが始まった。備後屋と川口屋が費用を出してくれる。

2024年4月30日火曜日

新・酔いどれ小籐次〈二十六〉 恋か隠居か 

 新・酔いどれ小籐次〈二十六〉 恋か隠居か 佐伯泰英

 江戸・三十間堀の小さな町道場が、怪しい証文を盾にした兄弟から狙われている。道場主と孫娘の愛を救うため、十八才の駿太郎は、入門する。

  浪人たちに無体を仕掛けられていた旗本片桐家の姫様たちを助けた。翌朝、望外川荘近くに抱き屋敷がある片桐家の殿様と姫・麗衣子14才が、礼に来た。

 天保二年大晦日、雪が降る中、久慈屋の店先に三千両も頂戴しようかという押し込み強盗が現れる。駿太郎が相手をして事無きを得た。

 雪の正月、練習場がないため、駿太郎は、越後長岡藩牧野家抱き屋敷の道場で稽古させて貰う。 

 加古道場を乗っ取ろうとする夢想谷三兄弟が現れる。加古愛と駿太郎が相手をし、三兄弟破れる。

 天保三年秋、奉行所、火盗改が鼠小僧次郎吉の捕縛に力を注いでいた。本物の次郎吉は何年も前から盗人家業を停止して望外川荘で子次郎という本名で男衆をしていた。六人の自称鼠小僧が捕まった。五月に捕まった盗人を調べると武家屋敷で女中に悪さをし、商家で盗みをしていた。近ごろ鼠小僧と称した者だった。真の悪党、鼠小僧次郎吉は市中引き回し、本名知れずとしてさらし首になる。他の自称次郎吉は、江戸所払いと四人は遠島になった。
 不満に思うことがあるかも知れぬが、幕閣がこれを了承した。評定所が談義し、鼠小僧次郎吉の始末が決まった。次郎吉は下劣な悪党だ。子次郎、世間にいい顔を見せたいか。向後、子次郎がどう生きるかが大事なことだと小籐次は説いた。
 

2024年4月28日日曜日

うぽっぽ同心十手綴り⑥ 病み蛍 

うぽっぽ同心十手綴り⑥ 病み蛍 坂岡真 

 瓜二つ 妊婦が大八車に轢かれたという凶事を耳にし駆けつけた長尾勘兵衛。そこで自分と顔も姿も瓜二つの同心・占部と知り合う。瓜を買い占め御値をつり上げている悪党どもと憤慨す占部。息巻く占部を応援したくなる。
 大八車の持ち主・鳴子屋が大量の瓜を捨てている現場を見付けた。鳴子屋に協力する与力・須藤式部。同心・佐々木次郎。占部は鳴子屋から金を出させ全てを殺しに掛かった。勘兵衛と向かい合った時、自死した。占部は、娘の縁談をまとめるため金を出した。相手に心変わりされ、相手を殺した。縁談を得るため金が欲しかった。が・・・。

 病み蛍 芸子・小菊が殺される。殺したことに耐えられない小梅が自死した。小梅は七年前、岡っ引き源七に傷を負わせ逃げた伊佐三だった。小菊の贔屓近江屋の隠し金の在りかを聞き出した伊佐三は、小梅に小菊を殺すよう命令された。
 源七は岡っ引きをひいたが、伊佐三を追いかけていた。近江屋の妾宅に忍んだ伊佐三を捕まえようとして源七は殺された。やってきた勘兵衛は伊佐三を捕まえる。
 源七の娘に、閻魔長屋の木戸番の助の仕事が決まった。

 むくげの花 勘兵衛は、元秋田藩の砂留役の牛島と知り合った。牛島は秋田藩の次席家老の娘を嫁にしていたが、横領の科で秋田藩から追われていた。牛島は嫁は、養女で、息子・寅之介は家老の子、横領は家老のしていたことで、嫁は、牛島に申し訳ないと自死していた。秋田藩は、牛島と一緒にいた娘を勾引かした。勘兵衛は、二人を返して貰う談判をする。根岸のお墨付きがあれば返すという。勘兵衛は、お墨付きを貰い二人を返して貰った。牛島は、果し状を送る。気が付いた勘兵衛と鯉四郎は助太刀に行く。藩士三十人も連れて弓矢まで用意されていた。牛島は本懐を遂げた。根岸は牛島に砂防役を頼んだ。

 不動詣で 鯉四郎の祖母・志穂は、物忘れが酷くなっている。綾乃は、志穂の様子を見に度々出かけた。三日に一度、夜明け前に散歩に行く。通り道に男女の心中を装った殺しがあった。男は菊細工で優勝した男だった。
 志穂が襲われ助けた綾乃が斬られた。
 菊細工事件を調べていくとかんじょう勘定奉行・佐原式部正の名が出、蜜月の交わりの木曽屋が浮かぶ。鯉四郎の父親を罠に嵌めた人物たちだった。
 志穂の後を付け、木曽屋と川路の抜け荷を見付ける。
 鯉四郎は一人で乗り込む。勘兵衛は、川路の元道場へ、捕り方を要請し急ぐ。棺桶で運ばれた鯉四郎を助け、川路を捕まえた。
 翌朝、日本橋の晒し場に、奸賊なり、の捨札が立ち、棺桶に御禁制の人参と勘定奉行佐原と木曽屋が入れられていた。
 志穂は勘兵衛に礼を言い、息子の雑記帳を燃やした。勘兵衛は、綾乃を鯉四郎の嫁にすると約束した。
 


2024年4月24日水曜日

芋洗河岸〈2〉用心棒稼業

芋洗河岸〈2〉用心棒稼業 佐伯泰英 

 小此木善次郎は、初詣で賑わう神田明神で、宮司たちが千両を強請られるところに行き合う。乱暴な御成街道の忠造親分と浪人をやっつけた。神田明神の守護人に認められた。

 善次郎は、青柳道場の具足開で、陰流苗木と夢想流抜刀技を披露した。野中一之亟は、善次郎の父親を知っていた。

 善次郎は、一口長屋の女房五人と子供三人が、船宿で朝食を取り芝居見物後、食事を食して帰る猪牙船で往復する楽しみを用意した。芝居は団十郎の助六。善次郎は木戸札を取るために中村勘三郎頭取が、五百両を脅し取られることを阻止した。勘三郎は、斬った男を奉行所の同心が斬ったことにして納めるために百両だした。善次郎は五十両を貰った。越後屋の帳面に付けられた。
 この事件で、北町定町廻り同心・矢部内蔵助と、親仁橋の御用聞き三郎次を知った。
 矢野は、盗賊の残した文の中に一口長屋が出てくることに不信を覚え調べていた。調べを止めるよう脅されたり、最後には、奉行命令で止められたことを一口長屋に住む善次郎に伝えた。陰の御仁という言葉で表すこともあった。
 矢部が斬られて川に浮いた。

 越後屋の、定火消・松平五千七百石からの呼び出しに付き添う。新たな借財の要求と思われるが、返す気のない松平家にもう貸す気はない。聞いていた善次郎は、高飛車に出、馬に乗ろうとした采女が、ひっくり返って気絶している間に定火消の羽織を脱がし、持ち帰った。知れれば切腹の松平家に取りに来させた。返されたことの受け取り状を取り、もう貸さなくても大丈夫になった。

 善次郎は矢野の事件の根本の四条屋へ連れていってもらった。押し込み時に殺された呼び込み松五郎の殺された場所で、善次郎は、地下への入口を見付ける。地下一杯の水が少しずつ減り、一夜を明かした時、現れたのは金色の仏像とその前に並べられた慶長大判二千枚だった。善次郎は越後屋に知らせ、北町の内与力に知らせる。
 金は公儀勘定方と北町に割り当てられ、仏像は神田明神に寄付された。

2024年4月22日月曜日

情け深川恋女房④ お伊勢参り

情け深川恋女房④ お伊勢参り 小杉健治 

 以前深川に住んでいた九才の長太が姿を消した。元岡っ引きの千恵蔵が探索に乗り出す。長太の父親が二十五年前に勾引かされた。その時の犯人・鳥九郎を追う。どう考えても鳥九郎でないが、千恵蔵は、鳥九郎が犯人だと追いつめる。鳥九郎にはあまり表に出せない別の顔があった。板橋で長太は一人でいるところを見付かった
 七年前、長太の父・絹助は伊勢参りに出て江戸へ戻って来なかった。旗本・渋川家の畳替えをしていた絹助は、旗本の次男が、渋川を強請っているのを知り、注意しもみ合いになり男は石に頭を打ち死んだ。鳥九郎が死体の始末をした。次男の悪友が、絹助にも話を聞きに来たので江戸を離れた。学者仲間に頼んだ。御師になっている。
 長太は、こっそり見にきていた絹助に尾いて行った。父親かと思った人に尾いて行ったと言えなかった。

 小里は母親と同じ病気になった。千恵蔵は、小里が自分の子だということを隠している。母親が病気になった時、治すと言った医者に通わせなかったことを悔やんでいた。小里の薬代を出し、川路という医者に通うように言う。小里と与四郎は、千恵蔵がそこまで言う理由が分らない。川路という医者には通うようにする。
 足柄屋で働いている太助が剣を習うようになり、太助は上達する。先生に見込まれる。
 与四郎は、小里の養生のためにも、長太の母・筋と長太を足柄屋で雇う。

 絹助がこっそり帰って来た。畳職人として働く。
 鳥九郎は首を括って死んだ。
 怪しい男が一人、茂平次
 

2024年4月20日土曜日

マイ・ディア・ポリスマン③ 夏服を着た恋人たち 

マイ・ディア・ポリスマン③ 夏服を着た恋人たち 小路幸也

 JR奈々川駅向かい側の高層マンションの最上階に暴力団の出入りがあると通報があった。巡は、管理人に尋ね、カメラも見るが判らなかった。住んでいるのは若いイラストレーター北村紗英だった。
 紗英が住んでいる部屋にもう一人男性がいる。紗英の恋人杉山が紗英名義で部屋を買い、紗英が住んでいる。杉山が連れて来たのが男性だった。男性・脇田広巳。あおいの父・楢島明彦の大学時代の親友、震災で、妻と娘を亡くし、行方不明になっている。杉山も同じサークルで、知り合いだった。記憶をなくしているような脇田を杉山はこのマンションに連れてきた。二年前、杉山が交通事故で亡くなり、ふたりはそのまま住み続けていた。杉山が暴力団の一員だったため、オレオレ詐欺で手に入れた金をマンションの一室にプールし、溜まったら幹部が取りにきていた。
 紗英と脇田の協力を得られた巡は、彼らにどう対処するか考える。市長と暴力団の癒着、警察との関係を考え、巡は柳に連絡を取る。
 彼らがお金を取りに来た時、外からドローンでカメラ撮影する。その前に、不動産屋を間にいれて紗英から巡とあおい共同で部屋を買い取った。巡の住居でありあおいの仕事場になった。
 暴力団員は逮捕される。
 啓吾と勝也が知り合ったランちゃんは、縫製会社で働いている。話を聞くと、搾取され、住んでいるのも一部屋に六人という状態だという。巡に相談する。市役所勤務の楢嶋にも相談する。弁護士に相談することに決まったが、ランたちを働かせているのは同じ暴力団のようだ。マンションで逮捕されればこちらの様子も変わるだろう。

2024年4月17日水曜日

マイ・ディア・ポリスマン② 春は始まりのうた 

マイ・ディア・ポリスマン② 春は始まりのうた 小路幸也

 あおいと杏奈が高校を卒業した。宇田巡と大村行成は、これで堂々とデートできると喜んでいる。あおいは、お巡りさんが主人公のマンガ「コーバン!」で新人賞を受賞し、お祖母ちゃんと女の子が一緒に旅をする「お祖母ちゃんと神様」と言う短編マンガを書き上げた。漫画家になる。杏奈は東京の体育大学に進む。
 卒業式の後、巡を見張る男を見かけた。あおいは身元調べのためにポケットに手を入れ、警察手帳だと知る。杏奈は行成に相談し、あおいは、天野さくらに相談する。あおいは巡とデート中、廻りの写真を撮り、見張っている男の顔を撮る。天野さくらは、昔の知り合いの刑事だった浜本真一郎に、宇田源一郎の孫・巡に付いて知らないかと問う。浜本は野崎に尋ねる。
 宇田巡は警察学校時代に見取りで三人を検挙した。人を見れば背後に見えるらしい。警視正が刑事に引っ張った。巡は父親が本部の人間で今は警視正になっている癒着の噂がある男を見た。見なかったことに出来なかった巡は自分から交番勤務を申し出た。と噂されている。もし調べたら本部の上が吹っ飛ぶぐらいらしい。

 この頃、背の高い化け物が出ると訴えがある。あちこちで目撃され巡は調べることになった。飯島団地に住む浜本の部屋に居候している鈴木勝也と池田啓吾は、コンピューターとドローンを使う天才的な技術者だった。音がしないドローンを開発し、ドローンを使って飯島団地の人に配送サービスを考え実験していた。人を運ぶことも考え結果として人を驚かせてしまったと言う話だった。

 行成は直接巡に、交番勤務になった理由を聞く。巡を見張っている警察官がいることを話あおいの撮ったデジカメを見せる。巡と同期の柳だった。多分監察だろう。柳と話す。 
 久保警視正の暴力団との繋がり、武器や覚せい剤の密輸・売買を見逃す代わりに違法賭博の上がりを自分の口座にプールさせる。奇麗な金にし、繋がっている議員の手元に行くシステムを完全に構築している警視正の裏金は何億にもなっている。
 祖父が、あらゆる手段を使って、二十人位の組になって情報を集めた。録音、録画、金の流れの書類全部揃っている。それを巡が託された。USBはお寺の本尊のお尻の下、プリントアウトしたものは先祖の墓の中にあるという。持って行っていい。もうすぐあおいの新連載に、若いお巡りさんが過去に巻き込まれた汚職事件のことを書いている。廻りの人になにかあったらぶちまける。
 柳は、何もなかったと報告するつもりだ。
さくらさんが、柳に何もないことを議員さんに約束させてくれた。

2024年4月14日日曜日

ビブリア古書堂の事件手帳〈Ⅱ〉

 ビブリア古書堂の事件手帳〈Ⅱ〉 三上延
 〜扉子と空白の時〜

 プロローグ 篠川扉子は、祖母・篠川智恵子に頼まれて、父の日記のような本・「マイブックー2012年の記録ー」と「マイブックー2021年の記録ー」を持って和田塚駅近くのブックカフェに来た。このカフェは、扉子の少ない友人・戸山圭の家だった。

 横溝正史『雪割草』Ⅰ この世に存在しないはずの本が盗まれたという依頼だった。雪割草は、横溝正史の新聞に掲載された小説だった。上島笑子夫婦が新潟にいる頃の地方紙の新聞小説を切抜いて溜めたものを本に装丁したものだった。栞子は仲が悪い双子姉妹の協力で盗んだものと暴いた。二人はこの本を読む時間が欲しいくて盗んだ。二人の仲が良くなったように見えたが、本の付録、正史直筆の原稿が無くなっていた。その後二人は和解しなかった。
  
  この事件後 栞子の妊娠が判明する。

 横溝正史『獄門島』 学校の感想文コンクールに扉子は「獄門島』を選んだ。学校の先生から電話が入った。扉子は小学三年生。扉子はもぐら堂で『獄門島』を取り置きしていると言う。扉子が本を取りに行くと本が無くなっていた。大輔と扉子は話を聞き、買ったのは店主の妻だと分った。妻の置いた所に本は無かった。読んでいたのは娘・戸山圭だった。
 少年少女シリーズ、三千円ではなく三万円だが、戸山は言わなかった。
 圭が本を貸して欲しいとやってきた。扉子は感想文を書くので貸せないから、家で読んでと二人で部屋に行く。扉子に友達が出来た。

 横溝正史「雪割草」Ⅱ 雪割草が七十七年を経て単行本になった。
上島初子・仲が悪い双子姉妹の一人が亡くなった。遺言で蔵書はビブリア子書堂に売ってと。
双子の姉妹は二人とも亡くなっていた。蔵書整理をしていると直筆原稿と思えるものが七枚出てきた。全部偽物だった。
 九年前、直筆原稿を盗んだのは初子の孫の井浦創太だった。初子が、死ぬ前に創太は、初子が盗んでいたと乙彦に返していた。栞子ははっきり盗んだのは創太だと言った。興味がないという創太に、栞子は裏を見せる。裏には獄門島の文章があった。創太は乙彦のコレクションを相続したいため協力している。九年前のことは何も証拠がない。あの原稿が無くなったことで完全に家族、親戚関係が崩壊した。今は許せない。九年経てばまた変わるかもしれない。創太が変わっていれば連れて来てほしいと乙彦は言った。

 エピローグ 智恵子が現れた。読んでしまった?扉子は何かを気付いてほしいのでしょう。雪割草の自装丁の鑑定をして直筆原稿を売ったのはおばあちゃんでしょう。売ったのはお金ではなく雪割草を読ませて貰うこと。扉子は直筆原稿は本物かと聞いた。答えないまま帰った。

2024年4月12日金曜日

北の御番所反骨目録〈九〉 廓証文

北の御番所反骨目録〈九〉 廓証文 芝村凉也

 隠密探索ことはじめ  用部屋手付同心だった裄沢広二郎は、隠密廻り同心の御役を拝命した。先輩の鳴海に、江戸の町を知るために町中をうろつき廻るように言われる。浪人姿でうろつく広二郎は、小間物屋・千鳥屋の店番の娘・咲を脅し、店の奥に上がり込もうとしている大前屋を止めた。定町廻りの西田が、小間物の行商をしながら探索を手伝う千治郎を紹介してくれる。千鳥屋と大前屋のはなしを聞く。裄沢は、奉行所の小者頭の仁助に、風紀の良くない盛り場をうろついても目立たないが仕事の出来るものと注文を付けた。貫太に裄沢の指図で動いて貰う。
 大前屋が千鳥屋に乗り込んだ時、裄沢も入る。大前屋が咲が、昼間から男といちゃついているとか、お貰い手がない咲を貰ってやるとか言う。裄沢は、咲が入った出会い茶屋は、幼なじみの実家で、一緒に入った相手がその幼馴染だと言う。大前屋が、連三に咲を宿場女郎に売るはなしをしていたこと、隣の空き屋・元出合茶屋を買っていること、千鳥屋の婿になって千鳥屋を潰して出会い茶屋を大きくする計画があることを話した。全てを明らかにすれば闕所になり江戸所払いになるだろう。まだ計画で罪を犯す前だから、千鳥や咲に手を出さない約束をすること。これから悪事に手を出さぬことを約束させ捕まえなかった。
 貫太が何もかも完璧に調べてくれた。貫太も仁助も善三の事で、裄沢を知っていた。善三が裄沢に感謝していたことも。裄沢のためならしっかり調べる。

 廓証文 隠密廻りは、南北交代で吉原の面番所で見張りをする。顔合わせで、裄沢は二十五両を貰った。鳴海はもっと渡したいが、余り多くすると裄沢が突っ返すと判断し押さえてその額だろうと言った。
 裄沢は内与力になったばかりの鵜飼に仕事を教えるようにと言われていた。裄沢が隠密廻りになったことで鵜飼に何も教えられなくなった。水城に引き継いだが水城は知らん顔らしい。鵜飼が面番所にきた。
 裄沢は非番に浪人姿で吉原の中を彷徨いた。江戸一丁目の半籬・梶木屋の狭衣と知り合った。狭衣は、来年二十八才で年季明けを迎えるとうれしそうに話した。
 四か月が経った時、梶木屋に枕探しが入った。犯人に付いた遊女は、鈴音だったが、狭衣だったと言うことにされた。白州に呼び出される。狭衣も奉行所に行く。奉行所の吟味方与力・甲斐原は、楼主が吟味で嘘の証言をしていることに虚言を労すると言ってきた。違った者を相方として連れてきたのは何を企んでいるかと。狭衣に白州に掛かった金額を貸しにし、年季を延ばすために嘘の証言をしたという言質を取った。年季明けまで無理をいったりしないと約束させた。
 梶木屋の楼主は怒っていた。こんなことをやったのは裄沢だと思っていた。吉原に帰ると、清掻が鳴らされ松葉屋の藍染、丁子屋の菊之衣、扇屋の緋揚羽三名の花魁道中が始まった。三人は面番所の方へ会釈した。客たちはあの三人に挨拶させる町方はどんな人かと話は続いた。楼主たちは、遊女を代表する娘たちが面番所に感謝を示す挨拶に出向いた。どういう意味か判るかと梶木屋に問うた。吉原の娘は、年季があけて外に出るのが夢なんですよ。
 狭衣は吉原を出た。

 御馬先召捕り一件 鵜飼が、小石川で、火付け盗賊改方が捕縛中を邪魔したと申し立てられた。裄沢が会いに行くと鵜飼は切腹寸前だった。裄沢は何も判明していないのに逃げるなと言った。
 裄沢が小石川をうろつき、人に物を尋ねていると火盗改の同心が割って入り何も聞けない。
 良く効く薬が有名な薬屋・開健堂の主・彦次郎が殺され金が奪われた。薬屋は元主が亡くなり番頭が店を継いでいた。近所の薬屋が潰れ、手代が開健堂に拾われ番頭をしていた。息子は店を離れ長屋で一人暮し、時々息子は金の無心にくると噂されていた。息子・貞吉が犯人だと捕まった。
 火付け盗賊改方助役・奥野猛弘が、北町奉行所に来た。貞吉は捕まってから白状し殺したことを認めて口書きに爪印を捺した。捕縛中に鵜飼が邪魔をした。許されない。と奥野は言った。
 裄沢は貞吉をこちらに引き渡してくれという。裄沢はまず、開健堂の主人は貞吉。金を盗んだことにならない。火盗改の仕事ではない。貞吉は、養生所で薬の研究をしていた。彦次郎が殺された時刻も養生所にいたと医者が言っている。番頭の兼五郎が犯人だった。
 貞吉を責め問いで痛めつけ弱ったところを奥野の馬先に投げ出した。そして捕まえるつもりが、その場を見ていた鵜飼は、何か変だと思い、貞吉を助けようとしたのだった。
 奥野はにげるようにして帰った。

2024年4月10日水曜日

武士はつらいよ

 武士はつらいよ 稲葉稔

 郡奉行の下役だった夏目要之助は夏の人事異動で大目付配下の徒目付になった。要之助は美園藩藤田伊勢守氏鉄の家臣。先任の徒目付・沢村軍之助が要之助の世話役、同僚が、西島主馬、下目付・青木清兵衛。上役・目付・北村儀兵衛、大目付・加山助左衛門。

 殿の愛馬・流れ星が死んだ。死因を突き止める調べの中で、馬方の一人・内藤伊三郎が殺された。伊三郎の動きを調べているうちに流れ星の死因が毒だと判る。
 伊三郎が賭博の借金二十両を返済していた。要之助、主馬の命が狙われる。

 三人で調べた結果を発表するために、目付・大野善右衛門、武具奉行・馬方差配・山本芳右衛門、大目付・加山にも厩に集まって貰った。厩には馬方がいた。
 流れ星に毒を飲ませたのは伊三郎。頼んだのは山本、返金した二十両はその礼金。山本は家老への推挙があったが、殿が推挙を取り下げ家老になれなかった。殿を恨み、愛馬を殺した。
伊三郎の、城に忍び込むための手伝いをしたのが馬方・増田栄蔵だった。主馬と要之助を狙ったのも栄蔵。と要之助は言う。栄蔵は流れ星を殺すことを知らなかった。伊三郎に詰め寄り山本から三十両で頼まれ、その中から栄蔵に五両渡したと聞いた。栄蔵は伊三郎を殺したと白状した。
 軍之助が、自分で調べたように上役に話す。清兵衛は腹を立てるが要之助は、大声で一言悪態をついて憂さを晴らす。
 山本はお家取り潰し、切腹。増田栄蔵は斬首。

 調べ中に出会った菓子屋の娘・菊。好感を持ったが、菓子修業から帰った佐吉と結ばれることに手を貸した。

2024年4月8日月曜日

すべての神様の十月

すべての神様の十月 小路幸也 
 2022年10月14日 何も書いていないのでもう一度読んだ。

 幸せな死神 バー・キャリオットで、ウィスキーを頭から注がれ榎本帆奈に見えるようになった死神。彼女との契約が成り立ちアパートの彼女の部屋にも行けるようになった。死神の幸せは誕生に立ち会うことという死神。花井帆奈になり赤ちゃんの誕生の場に死神を招待する。生命の誕生は素晴らしい、うれしいこと、幸せですねと言いながら死神は消えて行く。名前がないと言う死神に、赤ちゃんと同じ名前を付けた。私が死ぬ瞬間に来てよ。久しぶりですねって会いに来て看取ってよ。

 貧乏神の災難 自分の家が貧乏だと話す池内雅人25才。国立大学卒、三年で三社を首になった。話す相手は、貧乏神。雅人はそんなことは知らない。大庭と名乗ってもう会うことも無いだろうと話す。雅人の両親はよい両親だ。雅人の強運が発揮されると彼の両親は堕落してしまう。そうならないように貧乏神は彼に取り憑き彼の強運人生を〈小吉人生〉に変えてきた。貧しくとも幸せな人生を歩んでもらうために。貧乏神は、福の神と話している。彼は強運で莫大な富を手に入れる。最愛の母を失い、得たものを報われない人のために使おうとすると。福の神はこのバーを教えてくれた死神が消えたと話した。
 
 疫病神が微笑む  叔父・森山晴行が開業している小児医院に勤め初めた、看護師千佳21才。森山先生29才、イケメンのためお母さんからのアプローチが激しく、困った先生は、お母さん達に対して事務的で冷たい対処をするようになっていた。そんな中で、千佳は、保護者のように患者に付いてくる和服の夫人を見付けた。千佳はお大事にと声を掛ける。先生に、和服美人が見えるのは自分だけだったと聞かされる。今度見えた時に尋ねることにした。ドアを閉めあなた何者ですか?診察時間後彼女は来た。疫病神・小百合さんだった。疫病神が子供を病気にするのは、母親に子供と向き合わせ生活を変えるよう警鐘を鳴らしていると知った。先生のお母さんに対する態度が変わった。お母さんに微笑みながらお母さんを元気付ける。現れた疫病神の小百合さんは、微笑んでいた。先生が明るくなった。彼女が出来て結婚が決まった。

 動かない道祖神 オレは、交通整理の仕事場で少女から拾った財布を預けられた。交番へ持って行ってと。オレは忙しくてナカさんに代わって行って貰った。落とし主が現れ、入れていた58万円がないと騒ぐ。ナカさんは一週間休まなければならなくなった。オレは、少女が母親の財布から抜き取って隠していた56万円をくちばしで挟み、表に出す。母親がホストに貢ぐ金を持って行かさないように抜き取っていた。今から親子はどう建て直すか?
 道祖神のなかさんと八咫烏の私は見守る。

 ひとりの九十九神 大学を出て就職浪人を一年し、地元の印刷会社にグラフィックデザイナーとして就職した。一人暮らしを始めた部屋に、おばあちゃんが使っていたお釜を持って来た。幼稚園の頃からこのお釜は放しかけてっくる。九十九神だと言うお釜。彼女が出来た。彼女の前で父親が、母親の病気のことを話した。二人で母親の病気の心配をしている時、お釜が話しかけてくる。大丈夫おかあさんは助ける。そう言ってお釜は笑った。そして割れた。母親は良くなった。一年半後結婚した。よう久しぶりと電気炊飯器がしゃべった。

 福の神の幸せ 

 御蒔け・迷う山の神 

2024年4月6日土曜日

鬼役伝〈五〉 武神 

 鬼役伝〈五〉 武神 坂岡真

 市川団十郎が舞台上で殺された。犯人は生島半六。その場で捕まった。団十郎は猿婆の命の恩人である。事件の真相を突き止めようとする、行き着いた先は弾左衛門だった。弾左衛門と会い、弾左衛門から事件の裏があると言われる。
 求馬は、御用之間で橘主水から密命を受ける。相手は五十崎玄蕃。今将門を名乗る無頼の頭だという。納得できないと密命を受けられない求馬は会いに行く。求馬は五十崎が悪だと思えなかった。中町奉行所内与力・荒尾に声を掛けられ五十両で乞胸頭に誘われていた。五十崎は乞胸頭になり、浪人を率いて謀反を企てた首謀者として斬首され、市中引き回し晒された。
 会津屋五兵衛の灯心造りの利権を得るために団十郎が殺され、五十崎が捕縛された。老中・阿部豊後の右腕となるべく奥右筆・速水数之進がいた。
 切腹を覚悟で城中厠で速水を殺した。

 矢背から酒呑が江戸に来た。東山天皇と近衛、霊元上皇と二つに分かれていた。公弁法親王・寛永寺貫首。右衛門佐局は近衛家と繋がりが深い。
求馬自身の近衛家との繋がりを示唆される。


2024年4月4日木曜日

口入屋用心棒51 五重塔の骸

口入屋用心棒51 五重塔の骸 鈴木英治 

 南町奉行所同心・樺山富士太郎らは、駒込追分の鹿右衛門の隠居所で珠吉の命を狙っていた鉄三を見付け出す。瀕死に鉄三は今際の際に珠吉殺しを依頼したと告白する。殺し屋の正体を明かさぬまま息を引き取る。富士太郎と珠吉は、男妾を殺して姿を消した鹿右衛門を追う。
 翌朝、湯瀬直之進の愛弟子・源六と鹿右衛門の心中事件が判明する。怒りに燃える直之進は、源六の行動から、富士太郎は、鹿右衛門から殺し屋を探す。
 直之進は、源六が勾引かされていた破れ寺と隠れ家として借りていた家を割り出す。死神の似顔絵も作った。隠れ家に行くがもう居なかった。

 珠吉が寝ているところを襲われ勾引かされる。富士太郎は直之進と破れ寺に行く。鉄三は、珠吉を殺すにあたり、浅草寺の五重塔に骸を吊るし、朝日に照らされる惨めな姿を参詣に来る者に晒してほしいと頼んだ。珠吉は生きたまま破れ寺に連れ込まれた。直之進と富士太郎は、間に合った。直之進は、縛ろうとした死神に首を絡まされ締められる。直之進は脇差で死神を突き殺す。

2024年4月2日火曜日

長兵衞天眼帳② ぼたん雪

長兵衞天眼帳② ぼたん雪 山本一力 

 蒼い月代 室町の大店米問屋の三男・岡三郎が、小網町の扇屋・吉野家の一人娘に惚れ、持参金付きで養子に入った。吉野家は、一家総掛かりで、岡三郎を虚仮にすることをたくらんでいた。持参金目当てだった。一緒に住むようになり廻りの岡三郎にたいする気持ちが変わってきていた。
 長兵衛は、四五六が作った鼈甲の眼鏡を渡す時、福徳神社で、宮司に吉野家に幸を運んだのは野島屋の守護神様だ。野島屋から迎え入れた婿殿を大事にするよう言わしめる。

 よりより 村田屋の跡取り・敬次郎は、二年前の地震の前に長崎へ行った。二年の長崎遊学を経て江戸に帰った。江戸に帰った政三郎は、何かにつけ長崎では、オランダではだった。長兵衛は、敬次郎を研ぎ常兄弟に半年預けることにした。
 研ぎ常近くのつきかげで顔合わせをした。敬次郎は、長崎で通っていた店がここの女将の叔母の店だと知った。長崎から帰る前日、女将は敬次郎に唐土から伝わったよりよりという菓子を作ってくれた。敬次郎は、何故女将がお菓子を作ったのか分らなかった。
 二十日間ただただ見ているだけだった。自分の仕事場をあてがわれた日、研ぎ常は、料理屋の小火で使い物にならなくなった包丁類の研ぎを頼まれる。店に行き、常治は取り急ぎの三種・十二本の包丁を粗研ぎから始めた。敬次郎は、板長を筆頭に板前たちが、安堵の色を顔に浮かべたことが分った。
 敬次郎は常治とのはなしの中で、疑問の答えがわかった。唐土から伝わった物が、土地の自前の菓子として大事にしている。異国の物に寄りかからず自前のものに育てることに汗を流せと女将は教えてくれたのだろう。

 秘伝 鰻屋・初傳の傳助52才が鰻場で船から落ちた。傳助は、三年前から息子・太一郎に鰻割きを教え始めた。傳助は太一郎に譲ることを決めた。店を屋台骨から改築することにした。村田屋の眼鏡のことを聞き、村田屋で眼鏡を作ることにした。
 薬問屋柏屋の光右衛門62才は、柏屋秘伝の三種薬・乙丸・丙丸・丁丸の調合をしていた。村田屋で目の検査をする。長兵衞は、光右衛門の目が悪くなりすぎ眼鏡を作れないと言う。光右衛門に、こんな目で調合していて何かあったらどうするのだと言う。光右衛門は、代替わりを決心した。はらを決めれば軽くなった。

 上は来ず 十年前、老舗飴屋の吉右衛門の提案で、室町暖簾組合の冬の間の夜回りを火消し人足に頼むことにした。請負は鳶宿・豊島亭の安次郎、百両だった。長兵衛も一緒に掛け合った。
 長兵衛は、贔屓の芸者・純弥が、金持ちではなくても遊べる茶屋を作る決心をした時、飴屋本舗の吉右衛門と一緒に奉加帳を作り、広目屋の段取りもした。でき上がって分った。あの建物の持ち主は、安次郎だった。上は来ず、中は朝来て昼帰る、下は夜来て朝帰る、下下はそのまま居続ける。

 湯豆腐牡丹雪 安政三年(1856年)十二月六日 長兵衛は新蔵に誘われ王子村飛鳥山の鷹ノ湯にいた。二日目湯豆腐を食べ、按摩を呼ぶ。豆腐のおいしさを褒め、村田屋の眼鏡を話をする。按摩が聞いていた。夜更けに自身番に連れて行かれる。新蔵が十手を見せる。
 豆腐屋の豆助が、事情を話す。室町の村田屋の手代頭・与四郎と名乗る者が、八百善の板長に豆助の豆腐を仕入れさせるため天眼鏡を貢げと言われ、端切れに九両二分を包んで渡したと言う。与四郎は、村田屋の手代の証しだと言って天眼鏡を置いていた。長兵衛は、村田屋の天眼鏡が騙りの種にされたとあっては放っては置けない。豆助を騙りに嵌めた一味が来たと勘違いされたのだった。お金を包んだ端切れと同じものを預かり帰る。
 与四郎が置いて行った天眼鏡に刻まれた番号から与四郎の住まいが分った。差配に、端切れを見せて与四郎のことを尋ねると、与四郎は、去年の地震の時、隣の怪我人を助けに行き、落ちてきた屋根の下敷きになって亡くなっていた。江戸の外れで作る豆腐を名の通った料理屋に卸す仕事が始められそうだと意気込んでいた矢先だった。同じ端切れに包んだ九両二分を出してくる。
 十二月八日、与四郎のことを話に行く。豆助は与四郎に預けた金で天眼鏡を作って欲しいと頼む。